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重力波探索は新たな段階に

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「重力波検出」という2014年3月の衝撃的な発表は、衛星観測データを踏まえた分析により白紙に戻った。しかし、宇宙の始まりに生じたさざ波の探索競争は一層激しさを増している。

米国を中心とした国際共同研究グループが2014年3月、南極点近くに設置した電波望遠鏡「BICEP2」を使って、宇宙からやって来る電波の中から、宇宙が誕生直後に急速に膨張したために生じた重力波の痕跡を発見した、と発表した(Natureダイジェスト 2014年5月号「宇宙急速膨張の証拠、検出される」および「重力波に関するQ&A」参照)。BICEP2チームの一員である、ハーバード・スミソニアン宇宙物理学センター(米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)の宇宙論研究者Colin Bischoffは、「重力波の痕跡は、見つかるとしても極端にかすかなはずで、その検出は長い時間をかけて取り組まなければ成し遂げられないと私たちも考えていました」と振り返る。しかし、この観測に限っては、自然は研究者たちに優しくあろうとしているかのようだった。

BICEP2チームは、重力波検出レースの勝者になることが確実であるように思われた。けれども、現実はそう甘くなかった。大きな注目を集めた発表から間もなく、疑問の声が上がり始めたのだ。

宇宙論研究者は、宇宙はその誕生直後、極めて短時間にすさまじい膨張(インフレーション)を起こしたと考えている。しかし、それを裏付ける証拠はまだ得られていない。インフレーションに伴って空間と時間の波である原始重力波が生じ、その原始重力波がビッグバンの残光である宇宙マイクロ波背景放射の偏光(電磁波の振動方向の偏り)にBモードと呼ばれるねじれたパターンを作ったと考えられている。BICEP2の観測は、このBモード偏光を検出しようというものだった。しかし、宇宙空間に存在する固体微粒子である宇宙塵も、偏光した光を放つ。2014年9月、欧州宇宙機関(ESA)の宇宙背景放射観測衛星プランクの観測結果が発表され、BICEP2が捉えたBモード偏光は、銀河系内の宇宙塵から放射された光(電波)である可能性が示された。

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BICEP2の観測領域。この図の色は、銀河系(天の川銀河)に充満する宇宙塵の放射の強さの観測結果を示している。茶色の場所は放射が強く、青色の場所は弱い。観測衛星プランクがマイクロ波で観測した。図の上方に銀河面があり、そこでは放射が強い。白い点線で囲った領域が、BICEP2とケックアレイが観測した空の領域。縞模様は銀河系の磁場の方向で、これは宇宙塵の放射の偏光方向から得られた。この画像の1辺は60度。
ESA/Planck Collab. M.-A. Miville-Deschenes, CNRS, Univ. Paris-XI

そして2015年1月30日、BICEP2とプランクの両研究チームが共同で行った分析結果がついに発表され、BICEP2が捉えたBモード偏光は、やはり銀河系内の宇宙塵によるものだったことが明らかになった(go.nature.com/muyr3zを参照)。両チームの研究者は、BICEP2が記録した観測データと、プランクが空の同じ部分をより高い周波数で観測したデータとを比較した。この高い周波数で観測されるBモード偏光は、ほとんどが宇宙塵由来であることが分かっている。BICEP2が観測したBモード偏光から、プランクの高い周波数での観測結果から計算で求めた宇宙塵由来分を差し引くと、わずかな超過分しか残らないことが分かった。この超過分の統計的信頼性は重要な発見に必要なレベルに比べてはるかに低い。BICEP2が宇宙塵以外の何かを捉えたと考える理由はもはやなくなった。

それでも、既存の超過分をさらに詳細に調べたり、空をさまざまな周波数で観測したりすることで、宇宙マイクロ波背景放射の中に重力波の証拠を見つけることは可能なはずだ。BICEP2チームは、彼ら自身の観測結果とプランクの観測結果から多くを学んでおり、その知見を新たな検出器群に生かそうとしている。

BICEP2チームがプランクチームとの共同研究論文を仕上げていた2014年12月のある晴れた日、Bischoffは、ハーバード・スミソニアン宇宙物理学センター内の巨大でほとんど何も置かれていない格納庫にいた。彼は、ケックアレイと呼ばれる望遠鏡群を構成する5基の望遠鏡の1つを改良中で、その仕上げを行っていたのだ。ケックアレイも南極点に設置されており、2011年に観測を始めた。その観測結果は、プランクチームとの共同分析にも取り入れられている。また、重力波探索の次の段階でも不可欠なものになるだろう。

ケックアレイの5基の望遠鏡は、それぞれがBICEP2と同じくらい高感度で、温度のわずかな違いという形で捉えられるかすかな偏光を、BICEP2よりも高精度に測定できる。ケックアレイの新たな役割は、宇宙塵の寄与を詳細に調べることだ。5基のうちの2基は、偏光した光をBICEP2よりも高い周波数で検出するよう調整された。宇宙塵由来の偏光は、この高い周波数ではさらに強いと考えられるからだ。BICEP2のデータに残る小さな超過分が原始重力波によるものならば、宇宙塵による偏光をプランクよりもさらに正確に測定することで、超過分の統計学的重率が得られる可能性がある。

さらに、BICEP2の後継機であるBICEP3もBモード偏光の測定に加わる。BICEP3は、1基でケックアレイと同じ感度を持つ望遠鏡で、試験的な観測をすでに始めており、南極の夏が終わる2015年2月末には本格的な観測の準備が整う予定だ。BICEP3も、BICEP2同様、原始重力波によって引き起こされたBモード偏光を探すが、その精度と感度はBICEP2よりも優れており、宇宙マイクロ波背景放射の中のさらにかすかな痕跡でも見つけることができるはずだ。

またBICEP3は、BICEP2よりも低い周波数である95ギガヘルツ(GHz)で空を探索する。これについてBischoffは、「プランクは、最高857GHzまでのさまざまな周波数で空を走査しました。プランクチームとの共同分析の結果、宇宙塵の影響は95GHzでは小さいことが分かりました。95GHzは原始重力波によるBモード偏光を見いだすために最適な周波数なのです」と説明する。

南極大陸は、宇宙マイクロ波背景放射の中の小さなねじれを探すには最適な場所だ。晴天に比較的恵まれている上、乾燥していて大気中にマイクロ波を吸収する水が少ない。Bischoffらは今、BICEP3の準備のため、残り少ない南極の夏の間、大急ぎで作業を進めている。Bischoffは、「南極は世間から隔離されていることさえも好都合で、仕事を成し遂げるにはいいところです。しかもとても美しい」と話す。

それでも、BICEP3とケックアレイがライバルに出し抜かれる可能性もある。ライバルたちも、BICEP2と同じ空の領域を狙っている。しかし、その領域はかつて考えられていたよりも宇宙塵で汚染されていることが明らかになった。サセックス大学(英国)の宇宙論研究者Peter Colesは、「南極点望遠鏡(SPT)あるいは望遠鏡『POLARBEAR』が先んじる可能性もあります。ただ、私は勝者になりそうな研究チームを選びたくはありません」と話す。南極点望遠鏡は、感度は低いが、空のより広い範囲をより高い分解能で走査する。一方POLARBEARは、2012年にチリのジェームズ・アックス天文台に設置された望遠鏡だ。BICEPチームは、南極点望遠鏡の研究チームとも共同で分析を行っている。もし原始重力波によるBモード偏光が極めて弱いなら、重力レンズ効果と呼ばれる別のBモード源との区別が難しくなるが、南極点望遠鏡は重力レンズ効果の観測に最適化されているからだ。

ケンブリッジ大学(英国)の宇宙論研究者Anthony Challinorは、BICEPチームが最初に重力波を見いだす可能性は高いとみている。BICEPチームは、宇宙マイクロ波背景放射の分析に関して経験を積んでいる上、さまざまな周波数で得られた観測結果がBICEPチームの役に立っている。「これは競争の非常に激しい研究分野です。他の研究チームはBICEPチームに追いつこうとしていますが、BICEPはまだ先んじています」とChallinorは話す。

2014年3月の重力波検出の発表をめぐる騒動は、BICEPチームに影響していないのだろうか。Bischoffは、「2014年にはいろいろあった」と認めつつ、肩をすくめる。「振り返れば、私たちはもっと慎重であることもできました。しかし、たとえ控えめに発表していたとしても、どのみち大きな反響があったはずです。私たちは、おおむね着実にやってきたと思っています」と彼は話す。

Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 5 | doi : 10.1038/ndigest.2015.150510
原文:Nature (2015-02-05) | doi: 10.1038/518016a | Gravitational-wave hunt enters next phase
Elizabeth Gibney

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