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"幸せ"の自己アイデンティティ-ストップ! 「キレる高齢者」:研究員の眼

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近年、「キレる高齢者」という言葉をよく聞くように、高齢者の反社会的行為が増えている。例えば、鉄道の駅員等に対する暴力行為だ。

日本民営鉄道協会の公表資料によると、大手私鉄16社とJR6社など計33鉄道事業者における2015年度の暴力行為は792件発生している。

22時以降の深夜時間帯、金・土・日の週末に多く発生し、加害者の6割ほどは飲酒しているという。年代別では60代以上が全体の23.8%を占め、高齢者が事件の加害者になるケースが最も多いのだ。

高齢者による万引き犯罪も増加しており、未成年の犯罪件数を大幅に上回っている。また、企業のコールセンターにクレーム連絡をしてくるのも60代以上が多いという。

顧客サービスの改善のためにコールセンターを活用することは重要な消費者保護策だが、中には欲求不満のはけ口を求めて延々と長電話をかけ、業務妨害をすることもあるようだ。

『お客様は神様です!』という言葉があるが、顧客至上主義を曲解した消費者が、コンビニ店員に対して土下座を強要する事件なども起きている。

このような行為は高齢者に限るわけではないが、本来、分別をわきまえているはずの高齢者による自己中心的行動や反社会的行動がなぜ起こるのだろう。多くの高齢者は現役時代に企業従業者として働くか自営業を営み生活のための収入を得ていた。

しかし、年金暮らしになると雇用主や顧客という存在がなくなり、自己抑制になる人間関係が減少し、社会性が希薄になるからではないだろうか。

また、現役時代は帰属する組織があり、そこに自己アイデンティティを求めることが可能だった。

しかし、定年退職後は「自らが何者なのか」、社会の居場所が定まらないために名刺に替わる他者承認が必要なのだ。高齢者のさまざまな迷惑行為は、その存在感を示す示威行為でもあるのだろう。

高齢期には、体力、知力、記憶力が衰え、体は硬くなり、それ以上に頭の柔軟性は奪われてゆく。家族や友人などとの親密な人間関係も徐々に薄らぎ、生きることや社会に存在する意味、生きがいやプライドを見失う。

多くの情報があふれる一方、一人暮らしが増えて社会的孤立の中で疎外感を抱くといった、これまでの社会の枠組みから外れた状況に陥りかねない高齢者も少なくないだろう。

高齢者が幸せな長寿を全うし、尊厳のある最期を迎えるためには、高齢期を自尊心を持って生きられることが必要だ。かつての高齢者には社会や地域における自らの居場所、即ち社会的役割があった。

「キレる高齢者」の暴走を抑止し、高齢者一人ひとりが穏やかな「幸齢期」を迎えるには、生涯にわたる社会参加と実存的価値がもたらす"幸せ"の自己アイデンティティが必要ではないだろうか。

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(2016年7月5日「研究員の眼」より転載)
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土堤内 昭雄