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偽陽性と偽陰性のバランス-陽性の検診結果をどう見るべきか?:研究員の眼

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医療では、病気にかかっているかどうかをみるために、がん検診をはじめ、様々な検診が行われている。しかし、日本ではその受診率が、欧米の先進国よりも低いことが問題となっている。

検診を受けると、陽性または陰性との結果が出る。ここで、注意しておかなければいけない点は、検査の精度は100%正確な訳ではないということだ。

本当は病気にかかっていないのに、陽性の結果が出てしまうことがあり、これは「偽陽性」と言われる。逆に、本当は病気にかかっているのに、陰性の結果が出てしまう場合もあり、これは「偽陰性」と言われる。それぞれ、問題がある。

まず、偽陽性の場合。通常、陽性の結果が出た後に、精密検査が行われる。そこで、病気にかかっていなかったことが判明する。やれやれ、という話になるが、そう簡単なことではない。

陽性の結果を受けた人は、精密検査の結果が出るまで、精神的な負担を抱えることが一般的である。また、通常、精密検査は、費用が高く、人手もかかる。したがって、検診で偽陽性が多いことは、検査を受ける人の心理の面でも、検査にかかる費用や手間の面でも、負荷が大きい。

一方、偽陰性の場合。検診を受けたにも関わらず、病気が判明しない。従って、何も治療が開始されない。そして、後日、病気が悪化して、症状が表面化してから、ようやく診断や治療が始まることとなる。このように、診断や治療が後手に回った結果、生命の危険にさらされる場合もある。

偽陽性と偽陰性は、一方を低下させようとすると、もう一方が上昇してしまうという、相反する関係にある。例えば、偽陰性を低下させようとして、病気にかかっている場合には、かなり正確に陽性の結果が出るように、検診の感度を高めると、偽陽性の出現頻度も上昇してしまう。

がん検診を例に、モデルを使って、この様子を数字で見てみることにしよう。

(がん検診モデル)
10,000人の集団を考える。がんにかかっている人の割合を1%とする。この集団が、全員、がん検診を受ける。がんにかかっている人は、検診の結果99%の確率で、陽性の結果を受ける。一方、がんにかかっていない人は、95%の確率で、陰性の結果を受けるものとする。

モデルに、パーセント単位の数字が3つもあって、少し混乱してしまうかもしれない。そこで、割合ではなく、実際の人数に直して、このモデルの様子を、表の形で示すと、次のようになる。

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このモデルでは、陽性結果のうち、8割以上は偽陽性となった。陽性の結果が出ても、あまり気に病むべきではないと言えるだろう。ただ、これほど多くの偽陽性が出ると、そもそもこの検診には意味があったのか、という感じがするかもしれない。

しかし、がんにかかっている人の大半を、594人にまで絞り込むことに成功しており、検診の効果はあったと見ることができる。むしろ、気になるのは、1人とはいえ、偽陰性の人が出た点だ。

がん検診の目的は、健常者の中から、がんにかかっている集団を絞り込むことにあり、あまりやたらに偽陽性を増やさないことが求められる。

その結果、どうしてもこのように偽陰性が出てしまう。偽陰性は、検診を定期的に受けることで、減らすことができる。このため、実際のがん検診では、陰性の結果が出ても、定期的に検診を受けるよう勧めている。

同じ医療の検査でも、臨床検査は、がん検診とは異なる。臨床検査は、患者や、病気の疑いがある人を対象にして、がんにかかっている場合に、そのがんを検出することを目的としており、偽陰性を減らすことが求められる。即ち、検診の感度(陽性の判定)を高める必要がある。

(臨床検査モデル)
10,000人の集団を考える。がんにかかっている人の割合を1%とする。この集団が、全員、臨床検査を受ける。がんにかかっている人は、検査の結果99.9%の確率で、陽性の結果を受ける。一方、がんにかかっていない人は、90%の確率で、陰性の結果を受けるものとする。

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この臨床検査モデルでは、偽陰性は0人となったが、偽陽性の割合は、9割以上にまで上昇する。

このように、がん検診や臨床検査に完璧なものはなく、ある程度の偽陽性や偽陰性が出てしまう。このことを理解したうえで、まずは定期的に検診を受けるべきと思われるが、いかがだろうか。

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(2016年11月7日「研究員の眼」より転載)
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保険研究部 主任研究員
篠原 拓也