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右側通行?左側通行?(3)-鉄道・船舶・航空機の通行ルールはどうなっているのか:研究員の眼

2016年12月05日 23時58分 JST | 更新 2016年12月05日 23時58分 JST

はじめに

前回と前々回の2回の「研究員の眼」で、歩行者と自動車の通行ルールについて述べてきた。

右側通行?左側通行?(1)-「車は左、人は右」と言われている歩行者の通行ルールは本当はどうなっているのか-

右側通行?左側通行?(2)-世界的には歩行者や自動車の通行ルールはどうなっているのか-

今回は、世界における鉄道、船舶、航空機の通行ルールについて見てみるとともに、世界におけるルール設定について考えてみたい。

鉄道の通行ルール

日本の鉄道では、左側通行が原則となっている。

これは、当時の日本の鉄道建設において技術支援を受けた英国の鉄道が左側通行だったから、ということによる。結果として、自動車と同じ通行ルールになっていることになる。

英国の鉄道が左側通行なのは、前回の「研究員の眼」で述べたように、荷馬車が左側通行だったから、と言われている。

説明を繰り返せば、「御者(馬を操り馬車を走らせる人)が荷馬車を扱うときには長い鞭を使うが、後ろの客(や積荷や幌)に影響を与えないために、一頭立ての馬車の場合、(右利きの)御者は右側の席に座ることになり、よって対向車との関係では左側通行が望ましかった」という理由による。

米国における鉄道は、自動車と同様に右側通行である。

ところが、フランスは、自動車は右側通行だが、鉄道については、日本と同様に英国の影響を受けて、左側通行となっている。イタリアやスイス等も、鉄道は左側通行となっている。

一方で、ドイツ、オーストリア、スペイン等は、鉄道も右側通行となっている。

このように、鉄道の通行ルールは、必ずしも自動車の通行ルールと同一というわけではない。

韓国や台湾も、日本の影響を受けて、自動車とは異なり、鉄道は左側通行となっている。

こうしたことを聞くと、例えば、欧州の大陸諸国間で鉄道の通行ルールが異なっていて問題が無いのだろうかとも思うが、国境駅等で方向転換が行われる等の仕組みが導入されているようである。

因みに、路面電車については、さすがに道路を走ることから、殆どの国で自動車と同じ通行ルールとなっている。

船舶の通行(航行)ルール

船舶の通行ルールについては、海上交通において(大陸では河川交通においても)、国境を越えて運行が行われることから、国に関わらず「右側通行」ということで、世界的に統一されている。

これは、「スターボード艇優先の原則」に基づいている。

「スターボード艇優先の原則」とは、海上衝突予防法12条1項1号に規定されている「二隻の帆船が互いに接近し、衝突するおそれがあり、二隻の帆船の風を受ける舷が異なるとき、左舷に風を受ける帆船は、右舷に風を受ける帆船の進路を避けなければならない」とする原則である。

これは、右舷にスターボード(ステアリングボード)を装備している時代に、左舷に風を受ける帆船の方が、より衝突を回避する能力が高い状況にあったことによるものである、とされている。

2つの船舶が海上で相対した場合には、お互いに右によけるのが国際的な決まりとなっている。

なお、同じく右舷にスターボードを装備していることから、それを傷つけないように、船舶は左舷を岸壁につける形になる。このため、船舶は「左側」から乗船するルールとなっている。

航空機の通行(航行)ルール

航空機の通行ルールについても、船舶と同様で、「右側通行」ということで、世界的に統一されている。

かつて、水上飛行機(*1)と船が交差して運航するようになった時代に、先の海上衝突予防法での「右側通行」が航空機でも使われるようになったことによるものだと言われている。

上空で、同じ高度で対抗してきた場合、お互いが右に旋回して衝突を回避することになる。さらには、同じ高度で右に航空機が見える場合、右側優先で、左側の飛行機が相手に道を譲ることになる。速度の遅い航空機を追い抜くときは、右側から追い抜くことになる。

なお、航空機も「左側」から乗り降りするルールで、船舶に倣っている。

そもそも、こうしたルールだけでなく、「キャプテン」「クルー」「ピア」のように、航空機の用語は船舶の用語に準じているものが多い。

また、機長は左席、副操縦士が右席に着席するのが一般的だが、これも、船舶は必ず左舷で接岸するため、船長席が見通しの良いブリッジの左寄りにあった時代の名残によるものだと言われている。

通行ルールのまとめ

以上、これまで、公共交通インフラの基礎となっている自動車、鉄道、船舶、航空機の通行ルールについて述べてきた。

さすがに、「船舶や航空機の通行ルールについては右側通行」ということで、世界で統一されているが、自動車や鉄道の通行ルールについては、世界全体ではもちろんのこと、EU(欧州連合)さらには欧州大陸諸国の中でさえ、統一されているわけではない。

以上の通行ルールについて、主要国の状況をまとめると、図表の通りとなる。

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このように見てみると、世界的には、交通機関は「右側通行」が主流、ということになる。

その中で、主として、日本と英国のような地理的に孤立した国々だけが、陸上交通の自動車や鉄道において「左側通行」を維持した形になっている。

ただし、日本や英国でも、国内の河川等における水上交通や空の交通は「右側通行」である。従って、水陸両用車は、陸上と海上で通行ルールが異なってくることになる。

先に述べたように、水上飛行機の場合には、空と海上で通行ルールが統一されているが、今後、水陸両用車だけでなく、陸空両用車も一般的になってくるような時代が来れば、こうした交通車両の通行ルールのあり方について、さらなる明確化等が必要になってくるかもしれない。

さらには、将来的には、陸上において現行の「左側通行」を維持していくことに伴う大きな課題が発生してくる時代がやってくるかもしれない。

通行ルールの今後

そもそも、右側通行か左側通行かという点については、例えば、どちらがより安全性等の観点から適切といえるのか、という観点から決定されるべきかもしれない。

過去においては、右利きの人が大多数の中で、「左側通行」がより安全であるとの考え方から、「左側通行」が主流となっていた。それが、フランスにおいて「右側通行」に変更されたことを契機に、「右側通行」が世界に拡がって、現在に至っている。

船舶や航空機の「右側通行」については、自動車とは異なる、スターボードが右舷にあったからということが起原であるが、これも右利きの考え方がベースにあるように思われる。

個人的には、馬車が自動車になり、「右側通行」に適した「左ハンドル」になったとしても、引き続き、右利きの人にとっては、「左側通行」の方が安全性を感じられるように思うのだが、左利きの人は異なる感じ方をしていることになる。

その意味では万人に最適なルールや絶対的な正解はなく、まさにこれまでがそうであったように、各種の状況や背景に基づいて、今後もルールの決定がなされていくことになるのだろう。

おわりに

現在は、各種の分野において、グローバルベースでのルールの共通化・標準化を目指した取組みが行われている。

利用者の利便性という観点からは、世界共通のルールが設定されていくことが望まれるが、それぞれの国におけるルール設定の歴史的・科学的背景等もあることから、その変更がなかなか難しいものがあることは止むを得ない。

一旦各国において定着しているルールを変更する場合には、ソフトの面では、いかなる考え方にせよ、最終的には心の持ち様で解決される部分もあるのかもしれないが、ハードの面では、各種の施設や設備が既存のルールにフィットした形で構築されていることから、その変更に多大なコスト負担等が発生することになる。

ただし、グローバル化が避けられないのであれば、今後とも、ルールの統一化に向けて、引き続き努力していくことが大事になってくる。

なお、既存のルールの改訂は困難を伴う一方で、これから新しいルールを構築していく場合は、別の意味での生みの苦しみはあるものの、ルール統一実現の可能性は高くなるものと思われる、その意味で、例えば、今後の世界最先端の技術開発等において、いかに基本的なルールや基準設定において、リーダーシップを発揮できるのかということが、極めて重要な意味を有してくることになる。

今回、世界の通行ルールのあり方やその現在に至るまでの経緯を調べてみて、この点を改めて認識させられた次第である。

(*1) 海上衝突予防法では、「水上航空機」と称されている。

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(2016年11月21日「研究員の眼」より転載)

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