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郷原信郎 Headshot

三菱自動車の「第三者委員会」が担う役割と今後の課題

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4月26日、三菱自動車は、燃費試験に関する不正について国土交通省に報告し、その内容について、相川社長らが、記者会見で説明を行った。そして、同日、不正事実について調査するため、元東京高検検事長の渡辺恵一弁護士を委員長とし、いずれも検事経験者の弁護士3名で構成される「特別調査委員会」の設置も公表した。

同社の国土交通省への報告内容には、以下の事実が含まれている。

(1)14型『eKワゴン』『デイズ』(2013年2月申請)に設定されている4つの類別(燃費訴求車、標準車、ターボ付車、4WD車)のうち、燃費訴求車の開発において、2011年2月時点の目標燃費は26.4km/lであったが、その後の社内会議で繰り返し上方修正し、最終的(2013月2月)には29.2km/lまで引き上げていたこと

(2)同燃費訴求車につき、燃費を良く見せるため、走行抵抗を実測したデータの中から小さい値を選別し、走行抵抗を設定していたこと

(3)走行抵抗の実測に当たって、法規で定められた惰行法と異なる方法「高速惰行法」を用いていたこと

(4)14型および15型『eKスペース』『デイズルークス』などの車種の燃費について、上記14型『eKワゴン』『デイズ』のデータを基に、実測ではなく、目標燃費に合わせて机上算出し、申請していたこと

4月21日の最初の会見の公表事実には含まれていなかった「データを実測ではなく机上で算出していた事実」が新たに問題行為に加わった。そして、上記問題行為のうち、(3)は、1990年代前半から継続して行われていたものであることも、記者会見で明らかにされた。不祥事の重大性、深刻さのレベルは、当初の公表の段階よりさらに高まったと言える。

前回の【三菱自動車の生死を分ける"第三者委員会"】では、今回の不祥事再発で、社会の信頼を完全に失った三菱自動車が、自動車メーカーとして存続することは極めて困難であり、唯一、自動車メーカーとして存続する余地があるとすれば、鍵となるのは、様々な専門分野の知見を集めた「第三者委員会」による中立かつ独立の立場からの調査によって、今回の問題をめぐる事実経過の真相と問題の本質を明かにし、本当の意味で組織を抜本的に変革する具体的な方針を打ち出せるかどうかだと述べた。

そこでは、「事実調査を行う体制が十分に整うことに加えて、委員会の構成が、専門性と、社会的視点、とりわけユーザーの立場等にも配慮したバランスのとれたものでなければならない」と述べたが、今回設置された「特別調査委員会」が、そのような「第三者委員会」とは異なるものであることは明らかだ。検事長経験者を含む検察OB弁護士3名でメンバーを固めたもので、「委員会」というより、むしろ、渡辺弁護士中心の「調査チーム」というのが実態に近いように思える。

しかし、今回の三菱自動車の不祥事をめぐる状況を踏まえて考えると、現時点で上記のような委員構成の「特別調査委員会」が設置されたことには、相応の理由があるように思える。

何と言っても、不正の内容はあまりに重大であり、現時点の社会の最大の関心事である「不正の客観的事実と、経営幹部も含む不正への関与者の範囲」について事実解明を行わなければ、三菱自動車という企業を、日本の社会において、引き続き自動車メーカーとして存続させることができるのかどうかの判断がつかない。組織のコンプライアンスを根本から問い直し、組織の抜本改革を行うことが現実的に可能なのかどうかは、不正の客観的事実が明らかにならなければ判断できないと言える。

そのような理由から、まずは、不正事実の解明を主眼としていく必要がある。そして、今回の不正は長期間にわたって、様々な形態で行われていたもので、冒頭の国交省への報告事項の(1)から組織ぐるみの不正が強く疑われることからすれば、その調査は、相当にタフなメンバーで行われる必要がある。

そういった意味で、単なる検察No2経験者というだけではなく、検察官としての実務能力が高く評価されている渡辺恵一弁護士と、相応の検察官の実務経験を持つ中堅クラスの弁護士2名の組合せという調査体制は、今回の不正調査に関しては合理的なものと言える。

しかし、【前のブログ】でも述べたように、今回の不祥事再発で三菱自動車という企業に対する社会の信頼が著しく損なわれている状況において、「第三者委員会」に求められることは、不正調査の徹底による真相解明だけではない。

委員会の調査が、会社から独立して客観的な立場から行われることへの信頼を確保し、調査の範囲・調査事項等が明らかにされ、それが自動車の専門家や、ユーザーの立場からも納得が得られるものであることが必要であり、それらについて、委員会側から、情報開示や説明を行っていくことも必要となる。

しかし、今回設置が公表された「特別調査委員会」に関しては、不正調査の体制の整備が優先されたという事情があったにせよ、委員会に関する情報開示と説明という重要な要素が、現時点では、十分に意識されているようには思えない。

特に、委員会設置について、書面によるプレスリリースをしただけで、委員会側の記者会見どころか、社長等の記者会見でも、具体的な言及を行わなかったことは、不祥事に対する危機対応として問題があると言わざるを得ない。

特別調査委員会の設置に関しては、コンプライアンスの専門弁護士で、第三者委員会の在り方にも詳しい山口利昭弁護士が、【三菱自動車特別調査委員会に期待する「真の原因究明」】と題する最新のブログで、三菱自動車の「特別調査委員会」のメンバーの選定プロセスに関する疑問を指摘し、「第三者委員会の選定経過を開示すべき」との意見を述べている。

山口弁護士は、

関係者によると、三菱自動車は、当初、約3カ月間の調査委員会による調査が終わるまで発表を先送りすることを検討したが、日産などの反対を受けて発表に踏み切った

という毎日新聞の記事(4月27日)が、燃費偽装問題の公表前から(社内調査を目的とした)特別調査委員会が設置されていたようにも読めるということを根拠に、

今回選任された委員の方々は、不祥事公表前の三菱自動車さんの危機対応を支援していたことも憶測される。

と述べているものだが、上記毎日新聞の記事は、文面からすると、今回「特別調査委員会」を設置したことについて、設置の段階で公表するか、3か月後に調査結果がまとまった段階で公表するかということに関する意見の相違を取り上げたものに過ぎず、それ自体が、今回選任された委員が不祥事公表前の危機対応を支援していたことを疑う根拠になるのかは、疑問である。

とは言え、仮に誤解によるものだったとしても、新聞記事に基づいて、委員会の独立性・公正性に関して疑念を持たれるというのは、三菱自動車側からの「特別調査委員会」の設置に関する情報開示・説明が不十分だからに他ならない。仮に、設置の段階で、委員会側の記者会見を行って設置の経緯について説明を行っていれば、そのような誤解が生じることはあり得なかったはずだ。

また、特別調査委員会の調査期間は3か月とされているが、その間、調査の対象事項に関して、会社側も委員会側も一切コメントしないという対応で済ますことができるのかも今後の問題となるであろう。

今回の不正の規模や期間等からすれば、3か月という調査期間を要するのはやむを得ないものと思われる。しかし、今回の不祥事が、三菱自動車のユーザー、軽自動車のOEM供給先の日産など、多くのステークホルダーに影響を与えていること、国交省の燃費試験の実施方法やデータの取扱いにも影響することなどからすると、今回の不正に関する様々な疑問に対して、「特別調査委員会の調査結果を待つ」ということで3ヶ月間、何の情報開示も説明もしない、ということでは済まされないであろう。

さりとて、会社側が、特別調査委員会の調査が行われている間に、調査対象となっている事項について独自にコメントすることは、その内容が、委員会の最終的な調査結果と齟齬していた場合には会社側への一層の不信と混乱を生じさせる恐れがあり、一致していた場合には、委員会の調査が、会社側の意向に影響されたのではないかとの疑念を生じさせることになりかねない。

委員会の側においても、調査の途中の時点で、中間報告書を取りまとめて公表することが必要になることも考えられるほか、会社側が早期に情報開示を行わざるを得ない事項がある場合には、委員会側が何らかの形で関与することを検討する必要がある。

また、山口弁護士も、前記ブログ記事で、日弁連第三者委員会ガイドラインで「第三者委員会は、調査の過程において必要と考えられる場合には、捜査機関、監督官庁、 自主規制機関などの公的機関と、適切なコミュニケーションを行うことができる」とされていることに言及している。

国土交通省も立入検査を行うなどして調査を進めており、正規の燃費試験を行わず、データも不正に抽出した三菱自動車に対して、国交省側が厳しい対応を行うことは必至と考えられる中で、特別調査委員会としても、国交省側とのコミュニケーションを行い、可能な範囲での情報交換や調整を図っていくことも重要な課題となる。

そういう意味では、今回の三菱自動車の不祥事に関する「第三者委員会」にとっては、粛々と不正調査を行うだけではなく、委員会独自の様々な対応を行っていくことは避けられないように思われる。

不正事実に関する調査という面でも、その不正は、単発的な個人的不正とは異なり、大企業の組織内で長期間にわたって継続されてきたものであって、試験方法の問題・データの抽出の問題などレベルの違う様々な問題が複雑に交錯しており、それらが、過去の「リコール隠し」等の不祥事を受けて構築・強化されてきたコンプライアンス体制をかいくぐって行われてきたものであることなどからすると、不正をめぐる事実関係は、複雑かつ膨大である。

しかも、組織を背景に、組織の論理で行われた不正行為の事実解明が求められるのであり、少なくとも、検察の主戦場の刑事司法の場における「個人の行為中心の証拠収集・事実認定」とは性格が異なる面がある。このような事案の全体像を明らかにして問題の本質に迫ることは決して容易なことではない。

今回設置された特別調査委員会が、不正調査のコアとしての役割を果たすためには、十分な調査体制を整えることがまず必要となるが、それに加えて、「第三者委員会」として、前記のような様々な役割を果たし得るよう、様々な知見を活用するなどして、委員会をさらに充実させていくことも考えていくべきであろう。

私個人にとっても、2004年に桐蔭横浜大学コンプライアンス研究センターを設立し、組織のコンプライアンスに関する活動を始めた頃、ちょうど「リコール隠し」の再発と重大事故の発生で、三菱自動車が社会から厳しい批判・非難を受けていた。センター設置の契機の一つとなったのが三菱自動車の不祥事だった。

私は、「社会の要請に応える」という独自のコンプライアンス論の観点から、教条的な「法令遵守」に偏り過ぎていた三菱自動車のコンプライアンスの誤りを指摘し、コンプライアンスの再構築に関して様々な角度から検討した。三菱自動車問題は、2004年秋に公刊したコンプライアンス研究センターの機関誌「季刊コーポレートコンプライアンス」創刊号で取り上げ、私のコンプライアンスに関する最初の著書【コンプライアンス革命】(2005年 文芸社)でも詳しく取り上げており、検事時代の大先輩であった松田昇氏が委員長に就任した同社の企業倫理委員会でも、私の「三菱自動車のコンプライアンスに関する指摘」は、参考にされたはずだ。

私にとっては、三菱自動車の問題は、自らのコンプライアンス論の原点とも言えるものであり、今また重大な不祥事が再発し、同社が存亡の危機とも言える状況に追い込まれていることは大変残念である。

今回の不祥事は、過去の「リコール隠し」のような「安全」に関する問題ではなく、自動車ユーザーからの「低燃費」自動車の需要に応えるという、事業の主軸に関わる問題である。「自動車メーカーのコンプライアンス」の基本的な視点から、改めて問題を整理してみる必要がありそうだ。

今後も、特別調査委員会の活動や調査結果に注目しつつ、引き続き、当ブログで、三菱自動車の問題を取り上げていきたい。

(2016年5月7日「郷原信郎が斬る」より転載)