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「思い描く理想は、相手の意見をちゃんと聞くことができる社会」NPO法人こども哲学・おとな哲学アーダコーダ 代表理事 川辺洋平

2015年10月11日 00時53分 JST | 更新 2016年10月10日 18時12分 JST

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川辺 洋平 (かわべ ようへい)

特定非営利活動法人こども哲学・おとな哲学 アーダコーダ 代表理事。東京学芸大学教育学部卒。前職の広告代理店で働きながら、イラストレーターとして書籍、雑誌、WEB、等で活動。高校時代からの哲学対話好き。電通退社後、「アーダコーダ」の活動を構想。HUB TOKYO のアントレプレナープログラムを経て、NPO法人こども哲学・おとな哲学 アーダコーダ(以下アーダコーダと略記)を設立。小学校教員、幼稚園教諭、保育士の資格保持。世界経済フォーラムが選出する33歳以下の若手リーダー Global Shapers Community 東京ハブの2015年度代表に選出されている。 http://ardacoda.com/

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21世紀に入って、知識を詰め込む従来の日本の教育が変わりつつあります。正解のない問いについてグループで考え、意見を伝え合うプログラムをいち早く提供してきたNPOがアーダコーダです。幼稚園に通う子供たちから年配の方まで、人々の主体性や思考力、コミュニケーション能力を養うプログラムを提供するアーダコーダの代表理事、川辺洋平さんにお話を伺いました。

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OYAZINE(以下Oと略記):アーダコーダとはどのような活動をしている団体ですか?

川辺洋平(以下、川辺と略):「こども哲学」という4歳児から中高・社会人以上を対象にした哲学対話と、高齢者を含む成人を対象とした「おとな哲学」という哲学対話の大きく2つのプログラムを普及させるための活動をしている非営利活動法人です。

O:いつ頃から活動しているのでしょうか?

川辺:2014年6月に団体が設立されました。実際にはそれ以前から活躍していた方たちが集まって活動しているので、何年も前からやっているものになります。

O:この活動に参加しよう、哲学に向き合おうと思われたきっかけはありますか?

川辺:2010年に公開された「ちいさな哲学者たち」という、フランスの幼稚園に通う子供たちが哲学対話で活動しているところを紹介するドキュメンタリー映画を観たのが最初のきっかけです。それまで勤めていた会社を2012年に退職したときに、自分のクリエイティブのスキルを子どもたちのために使えないかと活動を模索していました。そんな中で映画のことを思い出し、自分でもやってみようと2013年に哲学対話の勉強を始めました。すでに活躍している市民の方や大学の先生方にお話を伺い、勉強を重ねているうちに、子どもの哲学対話をやりたいので進行役をやってくれないかという相談がすごく多いことや、少ない人数で対応していけないので誰もができる仕組み作りが急務であることを知りました。誰もが哲学対話の開催方法が分かるような書籍や番組を作るところは僕も手伝えるのではと考え、現在の活動に至ります。

O:それ以前に子供たちのために何かしたという経験があったのですか?

川辺:大学時代に自分たちでお金を集めて途上国に学校や孤児院を建てるといった途上国の教育支援はしていたのですが、具体的に子どもと接して何かをしたということはありません。大学生の頃は、子どもたちよりもむしろ大人に対して何かインパクトを与えるようなことがしたいと思っていました。大学生でもここまでできるんだ、というチャレンジを発信することで、大人じゃないとできないことではないと同世代や年上の人に知ってもらうという活動に興味がありました。

O:子どもたちと直接関わりたいという思いは社会人になってから芽生えたのですか?

川辺:子どもたちの役に立つような活動がしたいとは高校生の頃から思っていましたが、就職活動を経てたまたま選んで頂いた会社がモノを作ったりそれを表現する会社だったので、そこで培ったスキルを子供たちのために使えないかということは社会人になってから思うようになりました。

O:哲学講座をやっていて、現段階でイメージ通りの影響を与えられていますか?

川辺:自分が想像していた以上の活動に発展していると感じています。現在、NHK教育テレビで放送されている「Q-こどものための哲学-」という番組づくりに関わっていますが、そのようなことを活動初年度からできると思っていませんでした。また、当初お客さんが集まるか不安だった大人向けの講座も、募集開始から数日で30人ぐらい埋まってしまうような人気講座になっています。

O:「おとな哲学」は人気を博しているのですね。子ども向けの講座はどうでしょうか?

川辺:地元のアウトドアスクールで子供向けの講座を実施したところ、スクールの先生からは「やんちゃだった子供たちに、じっくり相手の話を聞くという姿勢が身についている」という声をいただきました。今ではうちの地域で開催してくれないかという話を全国からたくさん頂いています。メンバーが忙しく全てはやっていけない状態で、現在ファシリテーターを募集しています。

O:ファシリテーターにはどうすればなれるのか、教えて頂けますか?

川辺:アーダコーダが主催となって、哲学対話の進行方向について学ぶファシリテーター養成講座を開講しています。特に免許が必要なわけではないので、そこで学んだことをそのまま地域でやって頂くこともできますし、その講座の入門編と実践編の2つを受講された方のために、実践のチャンスを紹介するナンダカンダというボランティアチームも用意しています。ナンダカンダでは、メーリングリストやFacebookグループを通じて、ファシリテーターとして活躍できる場所の情報を流すようにしています。

O:お話を伺っていると、社会全体で哲学対話に対するニーズが高まってきている様に感じます。

川辺:確かにそういう感触があります。その要因は2つあるのではないかと思っています。1つは学びのあり方が変わってきていること。世界中の大学受験に使えるバカロレア試験には哲学という科目があります。日本政府もバカロレア認定の学校を増やしていくという方針を打ち出しています。日本全体の学びの仕方が今までの知識重視から、自分の意見が言える、書けるという主体性や思考力重視に変わってきています。

O:なるほど、そのような社会的な側面もあるのですね。

川辺:はい。そしてもう1つはこども哲学で大事にする5つのことが関係しています。相手の話をしっかり聞くこと、自分の意見をしっかり言うこと、相手の考えているときはその空白の時間を待ってあげること、という「聞く」「話す」「待つ」の3つの基本に加えて、「相手が嫌がることは言わない」こと、「無理に意見を言わなくてもいいこと」の5つです。英語でIntelectual Virtue(知的な態度)といい、大人のコミュニケーションでもそういうことが求められている。会社や社会の中には多様な人間がいて、昔ほどみんなが共通に考えられる常識とか日本人ならこういう風に行動するというのがないのが現代です。これからますます色々な国の多種多様な人々がこの国で働くことになっていく中で、そういう態度で人と接しないとトラブルになるということを感じています。

O:哲学対話をもっと広げていくために講座とは別に活動していることはありますか?

川辺:子どもたちが対話する様子をドキュメンタリー映画にして残そうというプロジェクトを行っています。映像を通して海外ではなくて日本の子どもたちが哲学対話をやっているという様子を観て、うちでもやってみようとか、アーダコーダの講座に行かなくても同じようなことをやってみようと思う人が増えたらいいと思っています。学校でも、普段の生活の中でちょっと時間が空いたから先生が哲学対話をやってみようと思ってくれたらいいと思っています。そのために学校の先生がこんな風にやったらいんだということがわかるすごく短い映像も制作中です、誰でも閲覧できるようにしたいということで今動いています。

O:学校のカリキュラムの一部にしたいという考えはありますか?

川辺:哲学対話というのは正解のない問いに対して色んな意見があってよくて、その話を聞こうという手法のひとつです。国語の授業の中で選択肢の中から選ぶのではなく、他にどんな意見があるかと検討する際に哲学対話を使ってやっている先生もいたり、あるいは歴史の授業の中でもしかしたらこうだったんじゃないかという風に思いを馳せることは悪いことではありません。その様に哲学対話が一つの授業の手法として使われ始めているというのが現実としてあります。道徳の代わりに哲学を入れようと考える人もいますが、そういう倫理観だけを話す場所ではないので、どんな科目にも使える1つの授業の仕方として広がっていくといいなと思っています。

O:今後活動をこういう風に進めていきたいというイメージはありますか?

川辺:設立から3年後には海外に展開していきたいと思っています。というのも特にアジアの国々では日本と同じかそれ以上に過去にあった虐殺や戦争について話しにくいという文化が根強い。そういった国ではおかしいと子供が思ってもお父さんお母さんにはそれは言っちゃダメだよと教えられると友人からきいています。日本にとどまらず他の国でも展開していけたらという思いはあります。

O:その中には同じ歴史的事象が国によって認識が違うことで起きる対立も解決していきたいという思いもあるのでしょうか?

川辺:哲学対話はフランスやハワイでも盛んですが、両エリアはもともとそこに住んでいた人と、そこに移り住んできた人が肌の色も体格も違うという中で、「同じことに対する意見が違う」ことを知るきっかけが哲学対話だったんです。違うことを認めないといじめであったり喧嘩につながってしまう。今、特にアジアの国々では色んな人が入ってきて対立も起こっています。哲学対話を使って意見の相違をお互いに認めることができるようになればいいなと思っています。

O:哲学対話が浸透した世界や社会をどのように描いていますか?

川辺:10代20代の時は自分の考えが正しくて、自分が思い描いている世界があって、自分が思うことに共感してくれる人を増やすのが平和だと思っていました。哲学対話を勉強し始めてからは、自分の考え方がいつも正しいわけではなく、世界が一つになり平和になるということはみんなが同じ考え方をすることとは違うと思うようになりました。悪いことを考えている人もいるし、自分と全く違う社会を作ろうとしている人もいる。その中で相手の意見をちゃんと聞くことができる社会を誰もが理想として描けると、イデオロギーの対立とか、考え方の違いによるいじめとか、そういうものはなくなっていのではないかと思っています。それが僕の目指す社会です。

O:アーダコーダの活動はどのように支援できますか?

川辺:活動自体は活発ですが、活動に対する寄付金は常に必要としています。特に現在はドキュメンタリーの製作に力を入れているので手伝ってくださる方、制作費を支援してくださる方を募集しています!

O:活動に共感してくれる方がもっと増えるといいですね。今日はありがとうございました。

川辺:ありがとうございました。

(この記事は2015年10月のインタビューを元に構成されています。)

インタビュアー/撮影 光井達彦

編集/ライター 後藤優作