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移民、入国政策にみるアメリカの今

2017年05月14日 00時51分 JST | 更新 2017年05月14日 15時46分 JST
Yuri Gripas / Reuters
U.S. President Donald Trump gestures after delivering keynote address at commencement in Lynchburg, Virginia, U.S., May 13, 2017. REUTERS/Yuri Gripas

トランプ大統領就任直後の今年一月、突如として「中東・アフリカ7か国の入国禁止」の大統領令が発令され巡回裁判所が差し戻したが、当初の7か国からイラクを除いた6か国に変更され新しい大統領令が出された。憲法に反するとして連邦裁判所が差し止めるとみられているが、政府側は「大統領令は合法だ」と強気の姿勢を見せている。

三権分立が正常に機能する法治国家アメリカにおいて、正しい選択がなされると私は信じているが、一方で、憲法が定めている人種や宗教の自由に、一般市民が懸念を抱く日常は無視できることではない。アメリカ・ファーストを謳うトランプ大統領の政策は、本当に国力を増強させることができるのか。移民、入国政策に垣間見るアメリカの今を考える。

 

■入国制限の大統領令があぶりだした差別に対する不安

南部貧困法律センターの報告書によると、トランプ氏が大統領選当選してわずか10日間で、アメリカ国内で人種差別や偏見に基づく嫌がらせや脅迫行為は867件以上。こうした事件は公共施設や学校などあらゆる場所で起きており、半数以上は黒人や移民が標的にされているという。

 

私は、昨年からニュース番組のコメンテーターを務めていることもあり、アメリカ大統領選には今まで以上に注意深く見守ってきた。

そんな経緯もあり、取材を兼ねて選挙期間中、私が籍をおく法律事務所の拠点であるロサンゼルスをはじめ、全米に散らばる仕事仲間や友人を通じてトランプ氏の支持者をしらみつぶしに探したが、見つけられたのはたった一人だった。

母校であるダートマス大学やハーバード・ロースクールでも彼の支持者を見つけるのに非常に苦労した。 これほどまでにトランプ氏の支持者の姿を確認できなかったにもかかわらず、投票の結果はトランプ氏の勝利だった。

 

トランプ氏は、選挙期間中に人種差別や宗教差別発言を繰り返してきた。こうした彼の発言から差別問題は深刻になるのではないかと懸念した人や、彼の考えに嫌悪感を抱いている人の存在を連日の報道で目にした人も、アメリカ国内のみならず、日本でも報道されてきたことは語るまでもない。

そんな彼が大統領に就任した直後、私と私の周辺には大きな驚きと同時ににわかに不安が広がった。

 

私はユダヤ系アメリカ人である。ユダヤは過去に差別を受けてきた民族であるし、私自身も宗教の自由や人種差別撤廃を謳うアメリカにおいて、差別的な発言をされたこともある。しかも、子供の頃から、「ユダヤ系である限り、大統領にはなれないよ」と両親から自嘲ともとれる発言を聞いたこともある。ことさら差別問題に対して、私が敏感であることもご理解いただけるだろう。

 

選挙期間中に繰り返された人種差別についての彼の主張を耳にするたび、祖父の代から語り継がれてきた差別のような悲しい歴史が繰り返されるのではないかと、私は胸騒ぎがしていた。  

そして、彼は早々に、大統領令によってイスラム圏の入国制限を執行しようとしている。私の周囲にはグリーンカードを持っていても不安だとこぼす外国籍の友人もいれば、母校、ダートマス大学で学ぶ留学生は、このまま勉強を続けられるのか不安に駆られているようだった。たとえ、大統領令による入国制限が宗教差別に基づくものではないとしても、合法的にアメリカに住む人が、人種のるつぼ、自由の国、そして移民の国において、不安を抱くような状況は喜べる状況ではない。

 

 

■世論が正確に反映されているのかという疑念

連邦裁判所が下した大統領令の執行停止は次のことが理由となった。まず、入国を禁止した理由をその国の危険性であるとしたが、危険性と関連付けることができなかった。そして、大統領は入国を禁止した理由を「イスラム教」(宗教)とはしなかったが、選挙活動中に多く見られたトランプ大統領の「イスラム」(宗教)を差別する発言を引用され、入国禁止は「差別」の証拠とされた。入国禁止の理由について、危険性に関しては認められても、「宗教」はアメリカの憲法上認められない。 現在、争われている新しい大統領令についても、大統領令が宗教差別に相当すると主張するとされている。

 

ちなみに、今回の大統領令が宗教的差別を孕んでいることからセンセーショナルに取り上げられているが、オバマ前大統領は移民や不法入国者に対して厳しく、国外退去、強制送還を執行していた。そのため、Deportation President(強制退去大統領)などと呼ばれていた。 このことから、ある意味では入国制限に関する政策は前大統領時代の習慣の名残ともいえる部分もあるが、トランプ大統領はさらに厳しく臨んでいる。

 

ところで、選挙期間中に展開された世論調査や報道では、トランプ大統領を支持する人は少ないとされてきたにもかかわらず、トランプ大統領は勝利した。そして、入国禁止令に関するある世論調査では大統領令支持が5割を超えたり、不支持が6割を占めたりと調査機関によって差がある。調査の母数がどんなものであるのかを詳しく調べれば、出された数字の意味することを読み解くことはたやすいことではあるだろうが、時間や文字数を制限された報道では十分に表現できていないのではないだろうか。また、それを受け止めるアメリカ国民それぞれにも生い立ちをはじめとしたバックグラウンドの違いがあることから、各自自分の都合の良いように数字を受け止めていることもあるだろう。

 

しかし、大統領選の結果は報道されていた世論とかけ離れていた。そして、世論調査や報道では人種差別発言やトランプ不支持と大きく報道されていたにも関わらず、黒人と警察官の対立事件をはじめ、各種人種差別が原因とみられる事件が発生しているのを見ていると、私の周囲では入国禁止令反対が多いが、現実的には、アメリカ国民の総意は報道されている世論とはちがうのではないだろうか。ひょっとしたら、世論調査に積極的に答えている革新的な NY や LA等の都市部の意見を色濃く反映しているだけで、 アメリカ中部や南部の保守的な意見が反映されていないのではないかとも思わされる。

 

 

■入国制限や移民政策に対するジレンマ

例えば、アメリカ南部などの農業が盛んな地域における農業従事者には不法移民が多く存在するといわれている。オレンジやレタスいったアメリカの代表する農作物を育てる作業はきつい仕事だと考えられていること、そして、不法就労者を採用することで賃金を低く抑えることができることから、雇用者がどちらかというと不法就労者を雇用しているという現実があるからだ。

彼らの立場に立って考えれば、雇用保険も払わずに安く使える不法移民がいなければ、働き手がいなくなり商売ができなくなってしまうかもしれない。農業従事者を合法的に移民として認めたら、人件費は上がることになり、今までのように安く野菜を販売することはできなくなるかもしれない。こうしたジレンマから農業に従事する不法移民は黙認されているのだろう。不法入国者は決して肯定できないが、一部の雇用者であるアメリカの企業も、きつい仕事だからと農業を避けている労働者もアメリカ国民である。彼らにとって、トランプ大統領が掲げる移民政策はどのように映っているのだろうか。

 

また、入国政策の一環として、トランプ大統領は4月、就労ビザ(H1B)の見直しに関する大統領令を発令した。現在、H1Bビザ取得は抽選で決められているが、新しい大統領令では、高度な技術を持っていて収入の高い申請者に割り当てるとされている。現在、このビザを持つ約6パーセントは最高の技術水準を持つ技術者に与えられているが、80パーセントは各分野において賃金水準の低いものに与えられており、アメリカ人の職が外国人に奪われていると非難されていた。このため、本来アメリカ国民に与えられるべき職業をアメリカ国民のもとへ戻そうという考えだ。ターゲットとされるIT業界のトップは、優秀な人材を失いかねないと発言する等、この政策に疑問を呈していることなどから、アメリカの国力を高めるためとされているこの政策は果たしてうまく機能するだろうか。

 

国力を高めたいアメリカ国民は、ビジネスマンであるトランプ氏を大統領に選出した。アメリカ国民は、トランプ大統領にビジネスマンとしての手腕を国政で存分に発揮することを期待する一方で、世界の警察を辞めると言いながらシリアに軍事介入する等、彼の言動に対する信ぴょう性に疑問を抱いている。

そして、アメリカ自身もまた、移民の国としての自負を抱きつつ、各人種の対立が勃発する現実にジレンマも抱えている。

 

世界的にも多様性が肯定される昨今、多様性を認める国として世界をリードしてきたアメリカが今後どのようにこの現状を受け止め、乗り越えていくのか世界中の注目が集まっている。