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移住後、初めて解体したイノシシのお腹には赤ちゃんがいた。

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私が移住した島根県邑智郡美郷町(おおちぐん・みさとちょう)では、毎年5月ごろからイノシシの駆除活動が始まり、農家さんや猟師さんが、自宅の裏庭や畑に罠を仕掛けだす。

引っ越してきた2014年春も例外ではなく「イノシシ好き」を謳っていた私のもとには、移住早々、猟師さんからの「イノシシ獲れたからやるぞ!」の声がたくさん届いていた。

この時期に猟師さんが言う「獲れたからやるぞ!」の本意は「お肉を分けてあげる」ではなく「消費しきれないから引き取ってくれ」であることが多く、亡骸をそのままゴロンと渡されたり、片足を一本まるまる置いていかれたりする。

タケノコやワラビをもらうみたいに軽々しく「いただきます!」と言うと、20〜50kgあるイノシシの亡骸の前で途方に暮れることになるので注意が必要だ。

2012年から狩猟を始め、野生動物が好きで島根に移り住んだ私には、そんなサプライズプレゼントも嬉しく、ある日、猟師さんから「イノシシが罠にかかったから一緒に取りにいくか?」という誘いを受けたときも、喜んでついて行った。

裏山で罠にかかったイノシシを血抜きし、谷に下ろして川に浸け、腹部にナイフを入れる。

すると、イノシシのお腹の中から、見たことのない袋状の内臓がドロンと出てきた。

胃でも腸でもないその袋を触ってみると、ゴロゴロとした固いものが3つ、中に入っていることが分かった。

その袋は胎嚢で、3つのかたまりは、イノシシの赤ちゃんだった。

生まれて初めて見る「胎児」に一瞬、息が止まり、自分の心臓の音が大きく聞こえたのを覚えている。

体長15cmほどの、小さくて透明感のある胎児を見て、何も感じない人がいるだろうか。女性ならなおさら、心を痛めないはずがないと思った。

しかし、駆除捕獲の目的は生息頭数の適正化であり、メスを捕獲することが生息頭数の減少に最も効果的であることは理解していた。

イノシシの生息頭数は、メス1頭につき、毎年2、3頭ずつ増えていくので、メスを捕獲しない限り増え続けてしまう。

シカやイノシシの増加率には、環境省も頭を悩ませていて、2013年4月には「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律」という法律を「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」に改正した。

シカやイノシシのように生命力と繁殖力が凄まじい野生動物に関しては、盲目的な保護ではなく、適切な頭数管理が必要だと判断したためだ。

また、イノシシの妊娠・出産・授乳期にあたる5〜9月は、メスイノシシが餌を求めて最も活動的になる時期なので、罠にもかかりやすく、捕獲効率がいい。

春から夏にかけて、繁殖期中のメスをどれだけ捕獲できるかで、翌年以降の生息頭数に影響があるのだから、里山に住む人々も必死なのだ。

そんな理屈が頭をよぎり、それでもやっぱり胎児を目の前にすると、楽観的な気持ちにはなれなかった。

自然の中で、命と向き合う生活をしていると、綺麗事ではどうにも消化できない葛藤と遭遇することがある。

現状を知らなければ、非道な行いに見えることもあるかもしれない。
非難したくなる光景が転がっているかもしれない。

それでも、自然の中で生きている限り、誰も私たち生き物を甘やかしてはくれないのだ。

(2015年5月30日「senalog」より転載)

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