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水素自動車に未来はない

2015年05月01日 00時32分 JST | 更新 2015年06月30日 18時12分 JST

 水素社会は到来するのだろうか?

 去年、トヨタは水素自動車として燃料電池を搭載したミライを発売した。その売れ行きは上々で、役所や企業の注文が重なり納車まで3年掛かるという。燃料電池は今のところ無公害と考えられ、将来的にも熱機関よりも高効率になる可能性もある。

 だが、燃料入手は容易ではない。ミライは圧縮した気体水素をそのままタンクに積み込む。このため水素スタンドが必要となるが、今年1月の段階では日本全国で4ヶ所しかない。

 今後、自動車は順調に燃料電池化するのだろうか?

 その見込は薄い。気体水素は自動車燃料として不効率であり、不適なためだ。機体水素が自動車に向かない理由としては、具体的に次の3つの問題を挙げられるだろう。

・1 容積あたりのカロリー低いため効率が悪いこと
・2 水素タンクは制約が多いこと
・3 スタンドでのチャージが難しいこと

そして、これらの問題は水素吸蔵合金を採用しても解決しないのである。

 水素は自動車燃料にするよりも、人工石油の原料に使ったほうがよい。合成石油は従来の燃料と全く同等であり、従来のガソリン・ディーゼル・ジェットエンジン※※の何れにも使用できる。輸送も貯蔵も小売も、従来のインフラをそのまま利用できる点で気体水素よりも有利である。

■ 1 水素はカロリーが低い

 まず、水素にはカロリーでの非効率がある。このため、実用上では石油に太刀打ちできない。

 気体水素は実用カロリーが低い。ハイカロリーと言われるのは重量ベースの話であり、容積あたりでは案外にローカロリーであるためだ。このため、燃料タンク容積が限定される乗り物には向かない。

 たしかに、水素は重量あたりではハイカロリーである。同じ重量であれば、軽油やガソリンの3倍の熱量を持っている。

 だが、容積あたりで計算すると状況は逆転する。気体水素は1立米(1気圧)でたった100gでしかない。

 つまり、容積が小さな自動車タンクでは大したカロリーを運べない。

 50リットルタンクを考えても、水素は700気圧(ミライ)で圧縮しても3.5kgしか入らない。対してガソリン(比重0.7)は35kgを貯蔵できる。

 容積あたりのカロリーはガソリンの3割でしかならない。重量あたりのカロリーが3倍あっても、タンクに入る重量はガソリンの1/10である。つまり容積あたりで0.3倍でしかない。燃料電池やエンジンの効率もあるが、ガソリンに対して走れる距離も3割でしかない。カロリーも比重も大きく、高効率のディーゼルで使う軽油と比較すれば、水素はさらに不利になる。

 カロリー面で見ると、水素は石油に較べ不便なのである。

■ 2 燃料タンクも面倒くさい

 また、燃料タンクを作るにしても水素は不都合が多い。容器重量やコスト、レイアウトでも、水素タンクは石油タンクに対して一方的に不利である。

 水素タンクは厄介者である。

 まず、圧力容器にしなければならない、基本は円筒であり、隙間に合わせた形にはできない。材料も分厚い鋼鉄で丈夫に作らなければならない。

 また、水素タンクは高温場所に配置できない。高温場所に積むとタンク内が高圧化し破裂の危険がある。安全弁をつけるにしても、タンクは安全放出できる場所に置かなければならない。

 自動車に積むには、水素タンクは面倒なシロモノであるということだ。

 対して、ガソリン・軽油タンクには制約がない。今日では自動車用も樹脂成形なので軽く、安く、自在な形状にできる。圧力が掛からないため、破裂の危険もない。床下等に配置できるため、空間効率も良好である長所もある。

 タンクの面でも、水素は石油に対して不利でなのである。

■ 3 水素チャージも手間が掛かる

 そして、水素には積み込む上での面倒である。水素には、自動車へのチャージにも容易ではない。

 高圧水素タンクへのチャージも面倒かつ危険である。ミライは700気圧である。そこに充填するためには、700気圧以上の加圧が必要になる。これは相当の高圧であり、事故発生時の危険性も高い。ちなみに殺傷能力がある競技・狩猟用空気銃の圧縮タンクでも200気圧もない。

 対して、石油の給油は容易である。ガソリンや軽油はスタンドの地中タンクからの給油にしても、空気圧で押し引きすれば容易に汲み出せる。最悪で隣の車からサイフォンで吸いだし、柄杓で給油もできる。

 また、チャージでは水素は間違いなく漏出する。このため火気厳禁も高度にしなければならない。ガソリンはともかく、裸火さえなければ極端に危険はない軽油とは大違いである。

 そして断熱も必要になる。高圧水素が漏れた場合、漏出場所は断熱膨張で超低温となる。肌に直接触った場合には、金属部への皮膚の貼り付きや凍傷といった危険性を伴う。チャージ作業では断熱手袋や簡易な断熱服着用といった面倒も必要になるのである。これらの点で、セルフ給油可能な石油にも劣るのである。

 燃料搭載でも、水素は石油に対して不利なのである。

■ 吸蔵合金でも解決しない

 そして、これらの問題は水素吸蔵合金でも解決しない。

 確かに水素吸蔵合金は、1気圧の環境で安全に貯蔵・輸送できる。だが、容積カロリー率や、タンク重量、チャージ等では圧縮タンクよりも更に不便になる。

 水素吸蔵合金は現状で20気圧タンク程度の能力しかない。合金1リットルに吸蔵できる水素の量は20g程度である。50リットルの合金タンクを作っても、積めるのは水素1kgでしなない、これはガソリン4リットル程度に過ぎない。

 そして、合金は重すぎて自動車搭載には向かない。合金は空隙容積で比重2であり、50リットルタンクだけで重量で100kgになる。大重量は、加減速性能や燃費を悪くする要因となる。

 さらに、充填や放出にも時間がかかる。水素の吸蔵も一瞬ではない、スタンドでの大量チャージには気体水素以上に時間が掛かる。また、合金からの水素放出も緩慢なため、運転中の最大出力も上限が生まれる。例えば、荷物を大量に積んだ上り坂ではイライラすることになる。

■ 人工石油に使ったほうがよい

 これらを考慮すれば、水素は乗り物用燃料として使わず、人工石油の原料としたほうがよい。

 水素があれば、石油は比較的簡単に作れる。現在、FT法によるXTL(ガス液化GTL、石炭液化CTL、バイオマス液化BTLの総称)での高コストは、水素が安価に入手できないことに起因している。裏返していえば、水素があれば合成は高コストでないということだ。

 また、水素があればHRJ製造も容易になる。これは動植物脂肪に水素を付加した燃料であり、ジェット燃料としても使用できるレベルにある。ディーゼルエンジンでの使用には全く問題ではない。

 水素が安価になれば、燃料改質も安価にできる。これは重油や超重質ワックスを分解し、水素を化合させ高品質のガソリンや軽油を作り出す方法である。

 液体の石油にできれば、あとは既存インフラでそのまま使える。XTLや改質石油は店頭のガソリンや軽油にも既に混和されているが、何の不都合もない。自動車も飛行機も発電機も、暖房器具や動力冷凍機械も問題なく動作する。

 少なくとも乗り物では、気体水素を無理して使うべきではない。専用供給・貯蔵・消費機材を作るなら、山元プラントの隣で人工石油にしたほうが手っ取り早い。それでガソリン・ハイブリッドやディーゼルを動かしたほうが確実である。

 水素社会云々で、水素と小型燃料電池を組み合わせるにしても、パイプラインでつないだ住宅での発電で使うあたりがいいところである。自動車等の乗り物には向かないということだ。

※ 熱機関には効率の上限がある。カルノーサイクルやオットーサイクルといった理想上限を超えられない。

※※ 民間機の基準を決めるICAO(国際民間航空機関)は、FT法による合成石油は50%ブレンドまでしか認めていない。合成石油は高純度であり、不純物の芳香族を全く含まないが、その芳香族には配管からの漏出防止の役割を果たしている可能性があるための安全策である。

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