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老舗百貨店Neiman Marcusはどのようにして「ネット売上比率26%」を実現したのか?

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先月、Mary Meekerの今年のインターネット業界トレンドレポートに関するポストを書きました。

どのページ(全213ページ)も面白いデータや情報が満載なのですが、その中でどうしても気になるスライドが一つありました。

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第3章の小売、広告について書かれたページなのですが、左側には米国の有名老舗百貨店 Neiman Marcus(以下、NM)の2015年のネット売上が、「前年比24%」も伸びて、「全体の26%」になったという記述があります。

現在「約8%程度」と、米国は日本と比較すると小売に占めるEC化率は相対的に高いです。それでも非常にトラディショナルなビジネスモデルの百貨店で、ターゲットとする年齢層がやや高めの印象のNMで、売上の四分の一がオンラインに移行しているというのは注目に値します。

その裏側には何があるのでしょうか?というのが今回のポストのテーマです。

ZOZO TOWNの「2倍以上」のオンライン売上


NMは、1907年にテキサス州ダラスで創業された老舗百貨店です。いわゆる「高級」百貨店で、全米に42店舗を展開しています。

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NMの2015年度の全体の売上は前年比5.3%増の$5.1Bでした。日本の大手百貨店三越伊勢丹(1.29兆円)、Jフロント(大丸松坂屋 / 1.16兆円)のちょうど半分くらいの規模になります。

そして、そのうちオンライン売上高は、$1.3Bとなっています。これは冒頭にあるように、全体の売り上げの26%という大きな割合となっています。

三越伊勢丹やJフロントの決算資料からはネット売上比率は読み取れませんでしたが、いずれもウェブサイトやアプリを見る限りほとんどの商品の販売はしていないため、全体の売上に占めるオンラインの割合はかなり小さいと想像されます。

また、国内最大規模のECサイト ZOZO TOWNを運営するスタートトゥデイの2015年の売上高が544億円ですので、そのはるか2倍を超えるオンライン売上を、老舗の百貨店があげていることになります。

それでは、この非常に高いオンライン売上高比率をどのように実現しているのかを見ていきたいと思います。

① 雑誌やメディア出身者による「ソーシャルメディア戦略」


NMのたたき上げの女性CEO Karen Katzインタビューでこう言っています。

"We believe that aspects of our digital strategy have strong appeal to a more modern customer, and by that I mean one who is very open to sharing and shopping experiences and preferences through social media,"

(我々のデジタル戦略は、新しい消費者を惹きつけるための重要な役割を担っています。彼らは、ソーシャルメディアにおいて買い物の体験や好みなどをどんどんシェアするという特徴があります。)

と、デジタル戦略特にソーシャルメディア戦略に力を入れている様子が伺えます。

実際に、ジャーナリストやファッション雑誌出身者を新たに採用し、社内にソーシャルメディア専門チームを抱えているようです。

元Reuterの記者で、Director of Social MediaのJean Scheidnes (今はNMを離れているようです)は、こう言っています。

"We really want to establish Neiman Marcus as a credible authority in fashion and lifestyle ... we really wanted our content to reflect that,"

(我々は、NMをファッションとライフタイルの信頼できる権威にまで押し上げたい。それを体現するようなコンテンツ作りをしている。)

どうしても店舗からスタートしているビジネスだと、お店の延長線上の情報発信になりがちです。ただ、「お店に来てもらわなくても幅広いお客さんにリーチできる」ツールとしてネットやソーシャルメディアを捉えれば、このような積極的な戦略も可能となるのだと思います。

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特にPinterestには力を入れているようで、現在フォロワーが14万人、59万ピンされています。デパートの宣伝という雰囲気は全くなく、洋服、靴、家具、デザートなどの綺麗な写真が並んでいいます。

また、「Pinterestからのコマース」にも力を入れいているということで、実際に直接購入できる商品も結構あります。

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このようにPinterestから直接購入が可能になっています(このように結構高価な商品も1500件もPinされています。どの程度購入に結びついているのか興味ありますね。)また、デザイナーが新製品を発表すると、専用のページを作り、お店よりも先にオンラインで発売するという取り組みも始めているようです。

② 週3プッシュ通知「積極モバイル戦略」


そして、モバイル。今回NMのアプリを初めてダウンロードしてみて、正直驚きました。よくできています。

冒頭にもいくつかスクリーンショットを貼りましたが、ファッション誌のような綺麗な写真が並んでおり、そして機能も充実しています。主な特徴は以下のような感じです。

  • コマース重視
    • アパレルからバッグまでほとんどすべての商品がモバイルで決済まで完結して購入することができます。単なるオムニチャネルで店舗誘導ということではなく、アプリで売れればOKという作りになっています。100万円くらいするバッグも売っているのですが、どのくらい売れるのか非常に気になりますね。
  • エンゲージメント重視
    • 頻繁にコンテンツの更新を行い、プッシュ通知を行っているようです。週に1-3回ほど通知を行い、エンゲージすることに重点を置いているようです。
  • 多彩な機能
    • かなり盛りだくさんです。Flip To Find (TinderのようなUIでいろんなアイテムを見ていける)、SnapFindShop(AIで見かけた商品とにたものを探せる)、Memory Mirror(店頭にあるコネクテッドミラーで撮影した自分の映像を見れる)などユニークな機能も多く、雑誌のようにずっと眺めていても飽きなそうです。

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Flip to Find機能

モバイル単体ですでに売上が$154Mあるそうです。小さくない数字です。iPhoneのみでこの数字ということで、Androidも始めたらさらに大きな数字になりそうです。

リアル店舗を持つ事業者にとってモバイルというと、すぐに「Showroomingが」となりネガティブなイメージもあると思います。しかしながらスマホの普及は誰の目から見ても明らかなことであり、過去にとらわれず、消費者の嗜好や行動の変化に迅速に対応することで、こうした結果が生み出されているということだと思います。

③ 新技術専門部署「Innovation Lab」


TargetがTechStarsと組んで小売に特化したアクセラレータを始めたり、WestfieldがRG/Aと組んでコマースに特化したアクセラレータを始めたりと、小売業界の新技術に関しての取り組みは非常に活発ですが、NMも例外ではないようです。

2014年にTexasにInnovation Labという専門の組織を立ち上げ、店舗やアプリに対して積極的に新しい技術を提案、導入しているようです。

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「Memory Mirror」。店舗で試着した自分の映像があとでアプリで見れる。

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靴売り場に置かれているテーブル型のデジタルサイネージ。

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AIを活用した画像に似た商品を検索する機能

かなりいろいろと新しいものを導入しているようですが、単に導入をするだけでなく、数字を追いかけながら、オンライン / オフラインそれぞれに適した技術、商材を追いかけ続けているということです。

最近では、店員全員へのiPhoneの導入、モバイルPOS導入、さらには3Dプリンターの導入(何に使うのでしょう。)などの実績があるということです。

結論:変わったことは何もやっていない。


今回、老舗百貨店Nieman Marcusのオンライン売上高が、$1.3Bもあり、全体の26%にもなっているということで、いろいろと調べてみました。

結果として言えるのは、今の時代に当たり前の施策をちゃんとやっているだけで、何か特別な秘策や変わったことは全くやっていないということです。日々スマホ、ソーシャルメディアと向き合っているネット事業者の方々からすると、「なんだ何も新しいことやってないじゃない」となるでしょう。

ただ、一方で、日本の既存小売業態の方々からすると「進んでいる」ように見えるのでないでしょうか。

今回、合わせて日本の既存事業者の方々のアプリや様々な取り組みについて調べましたが、「ちゃんとしたアプリすらない」ところもあり、ましてや「アプリで商品を買えるというところはほとんどない」という状態でしたがので、大きな隔たりがありそうです。

もちろんアメリカと日本の状況は大きく異なりますので、そのまま鵜呑みにはできませんが、参考にできる部分はあるのではないでしょうか。