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出国税:「シンガポールなど資産益非課税国の永住者2.6倍増」は財務省の印象操作

2015年02月25日 16時02分 JST | 更新 2015年04月26日 18時12分 JST

きっかけは出国税

2015年7月から開始が予定されている出国税"キャンペーン"が行われています。資産を合計1億円以上保有している者が出国する時、資産への含み益に課税されるようになります。この税の正当化を主張するニュースを見る機会が増えてきました。財務省を震源とする日本経済新聞記事(2014年12月1日付)です。

株式の売却益に課税しないニュージーランドや香港など4カ国・地域の日本人永住者が1996年に比べ2.6倍に増えたことが財務省のまとめで分かった。富裕層が節税のために永住権を得て、移り住んでいる例が多いという。

違うでしょ、とツイッターではコメントをいれたのですが、2015年2月12日にブルームバーグからも財務省発の同じ論旨を使った記事が。

財務省によると、シンガポールや香港、スイス、ニュージーランドの4カ国・地域への永住者数は1996年の約6700人から13年には約1万7000人と2.6倍に膨らんだ。同省はこの中に租税回避目的の移住が含まれているとみている。


外務省: 海外在留邦人数調査統計

一紙だけならまだしも、複数に引用されたので、解説します。

財務省が主張するデータは、「海外在留邦人数調査統計」で、外務省がインターネットでも公開しています。「財務省が集計した」というと高度な処理に聞こえますが、財務省はこの最新の2013年の数値を最古のデータ1996年で、割り算しただけです。

永住者増加率: グループ別

では、数値を見てみましょう。確かに、財務省が選んだ4ヶ国(ニュージーランド・シンガポール・香港・スイス)では、永住者は2.6倍(255%増)になっています。2.6倍と聞くと多そうですが、17年間で2.6倍は年平均成長率だと6%弱。これが多いか少ないかは、他国のグループと比べないとわかりません。

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まずはグループにG7をとります。1.9倍です。確かに2.6倍よりかは小さいですが、それほどの差はありません。

次に、ASEAN(東南アジア諸国連合)。世界の成長センターで、距離的文化的にも近い日本は、ここに多大な投資をしており強い結びつきがあります。つまり日本からの移住者が多くいる国々です。ASEANでの永住者伸び率は2.1倍。4ヶ国と差が縮まりました。

ASEAN以上に日本が力を入れている貿易相手国、中国・韓国・台湾を、ASEANに加えてみましょう。ここでの永住者伸び率は3.3倍で、財務省が言う株売却益非課税国を抜いてしまいました。

そして、中国・韓国・台湾の3ヶ国のみですと、7.2倍になり、差が圧倒的になっています。

永住者増加率: 国別

グループに加えて、個別の国で見てみましょう。2013年に永住者が多い上位10ヶ国と、日本と結びつきが強い国を幾つかピックアップしてみました。赤棒が、財務省が提言した株売却益非課税国です。

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2013年に永住者が多い上位十ヶ国: 1.米国(16.4万人)、2.ブラジル(5.3万人)、3.オーストラリア(4.6万人)、4.カナダ(3.8万人)、5.英国(1.7万人)、6.アルゼンチン(1.1万人)、7.ドイツ(0.9万人)、8.ニュージーランド(0.8万人)、9.フランス(0.7万人)、10韓国(0.7万人)

財務省が指定した4ヶ国より増加率が低いのは米国、アルゼンチン、ブラジルです。アルゼンチンとブラジルは、戦前と戦後の一時期の歴史的な日本人移民によるもので、財務省の指摘の経済事情からは外して考えるのが妥当でしょう。米国が増加率が低いのは、1996年時点で既に永住者が9.9万人おり、この時には既に日本から多くの永住者がいたため、ここ17年間では伸びが緩やかになっているのが理由と推測できます。

つまり、財務省の『富裕層、株売却益非課税国へ 日本人永住者2.6倍に』という記事は、「グローバル化の進展で、日本と結びつきが強い国は永住者が増えた」という当たり前のことを、わざわざ資産益非課税国のみを抜き出して2.6倍という数字で言っただけです。


シンガポール永住権保持者の実態: シンガポール人と結婚した人、現地採用者

『富裕層が節税のために永住権を得て、移り住んでいる例が多いという』(日経)との財務省主張ですが、これも不正確です。確かに、富裕層は増えてはいますが、シンガポール永住者のごく一部です。

シンガポールを例に取り解説します。

富裕層の中で増えている移住者は、相続税節税目当ての資産家などのストック(資産)を貯めている富裕層よりも、現役でフロー(所得)を稼ぎ続けている起業家や一部金融職です。

フローの富裕層は、所得税節税やキャピタルゲイン非課税が移住の狙いです。フローを稼ぐ日本人富裕層の大半は永住権ではなく、労働ビザで移住します。理由は、シンガポールの富裕層向け永住権GIPを満たすには、S$5,000万(40億円強)の年商が所有企業に必要で、これをクリアできないプチ富裕層がシンガポール移住の中心だからです。

ストックの富裕層については、日本の税制上、移住で非居住者となり相続税対象外となるには、5年以上の海外在住が親と子に必要になり、これに耐えられる親は滅多にいません。外国語、専門医療、介護、食事、文化、友人親戚と隔離した海外生活を、税金"ごとき"のために失うことを許容できる日本人年輩者はまれです。

シンガポール永住者グループの特徴は、男女比が1:2であることです。女性が男性の倍います。これは、シンガポール人と結婚した女性、(日本に在籍する駐在でない)現地採用で職を持つ長期滞在女性が中心な層の特徴です。

ここでは結果のみを示しますが、分析や詳細に興味があれば下記を参照下さい。

「利益を上げた国の税制で納税」があるべき姿と私は捉えています。例えば、日本で利益を上げているのにシンガポールで納税はオカシイと思っているので、出国税の趣旨に私は同意しています。しかし、今回のような財務省のミスリーディングする情報開示は、本論ではない方向に議論が向くので止めるべきです。大半の海外在住者は節税とは異なる動機で住んでいるのに、十把一絡げで海外永住者にとばっちりをくらわせるのはいかがなものでしょうか、財務省さん。

※本記事は下記リンクの要約です。今後、訂正・改訂が発生した際には下記で対応します。

出国税:「シンガポールなど資産益非課税国の永住者2.6倍増」は財務省の印象操作