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Technology to the Future : お金は再発明されるのか

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取材場所として指定されたのは、都心のオフィスビルに入っている、アメリカンスタイルのカフェだった。 シャツにジャケット、ノーネクタイというカジュアルスタイルの2人の男性。 笑顔で話す彼らは、"未来の銀行"を起業したばかりだ。

 Bitcoinサービス『coincheck(コインチェック)』は国内トップレベルの実績を持つ仮想通貨Bitcoinの取引所を提供している。「Bitcoinを最短10分で購入」という小気味のよいキャッチコピーにマッチした操作性のWeb サイトや、入金から支払いまでをスマートにこなすユーザーフレンドリーなUIデザインを持つアプリが人気だ。

 2014年8月にスタートしたcoincheckは、2015年3月に月間取引額1億円を突破する。現在、Bitcoinへのお金の流入は静かに拡大しているのだ。

 最近では、楽天が決済にBitcoinを導入することを決定し、Facebookがメッセンジャーアプリ内で支払い機能を提供するといったニュースが記憶に新しい。 少なくとも1年前にBitcoinを覆っていた暗いイメージはなくなり、さらに、インターネット上で行き来するお金に、今、話題が集まっている。未来の銀行を目指す彼らに、Bitcoinのこれからと、未来のお金の風景について聞いた。

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coincheckの操作画面

coincheckはBitcoinの取引所、ウォレット(ネット上でBitcoinの管理をする、いわば財布)、決済サービスを提供する。Facebookなどで簡単な手続きを済ませるだけで、すぐにBitcoinの購入・売買・送金・支払いを行うことが可能だ。

Bitcoinが進化させる、「未来のお金」

 仮想通貨Bitcoinは、銀行などの中央集権的な仕組みを介さずに、インターネット上における個人間のお金のやりとりを可能にする。そのため、従来のクレジットカードやネットバンクに比べて手数料を格段に低く抑えられ、24時間365日の取引にも対応している。インターネットさえあればeメールのように世界中で利用でき、アフリカからカナダに10分以内で送金できるほどに高速な決済が可能だ――という説明は、今やGoogleの検索窓でも教えてくれるが、本当にBitcoinに未来はあるのだろうか?

 coincheckを運営する株式会社レジュプレス代表取締役社長の和田 晃一良氏と取締役の大塚 雄介氏に共通する見解は「Bitcoinの利用拡大は、インターネットの大きなうねりの中のいち現象」だというものだ。

大塚氏:最近、金融業界で「フィンテック(Fintech)」という言葉が使われるようになりました。金融(Finance)とテクノロジー(Technology)を合わせた造語であり、この交差点を考えることが業界内で盛んに行われています。 世界に知られる決済システムの「PayPal(ペイパル)」、中国の若者に広く普及するアリババが提供するモバイル決済システム「Alipay(アリペイ)」に見られるように、今の金融はテクノロジーとの融合によって引き起こされるイノベーションへ向けた大きなうねりの中にあります。Bitcoinもこのうねりの中にあり、多くのお金が流入してきています。この大きなうねりはもう誰にも止められないものです。

Bitcoinは今、アメリカとヨーロッパをメインに、中国でも多く流通している。

 こうしたエピソードから連想されるのは、音楽業界がインターネットと同化しはじめた頃のことだ。音楽はCDショップに行って買うものだと思われていた当時、これほどまでに多くの人がYouTubeなどで音楽を耳にして、自然とiTunesやAmazonの配信データをダウンロードするようになることを想像するのは困難だった。現在、海外では、『Spotify』などの定額制ストリーミングで音楽を楽しむトレンドが拡大しており、日本にも遅からず到達するだろう。
 「大きなうねり」の中にあるお金にも、こうしたパラダイム・シフトが起こるというのか? だとすれば今、お金はどんなものに変わってゆく流れの中にあるのだろうか?

和田氏:インターネット上のお金の移動に着目すると、日本の状況は、ユーザーにとって非常にムダが多いと考えられます。銀行振込にしろ、クレジットカード決済にしろ、多くの手数料が発生した上に、できることも制限されています。
1990年台にインターネットが誕生し、2015年になってもこのムダが解消されていないのは、少し奇妙です。インターネットは常にユーザビリティを最適化して進化してきているのに、お金の移動だけは長い間変わってきていない。全てがBitcoinに置き換わるかは分かりませんが、この先の10年でお金の「省かれるべきムダ」に対して何も起こらないというのは想像するのが難しいですね。
そしてBitcoinはP2Pでやりとりされるため、規制がしにくいシステムです。Bitcoinと金融は、既にインターネットと音楽業界が通った道を歩んでいるのです。

たとえば、インターネット上でハイヤーを簡単に調達できる配車サービス『uber』は今、世界中の都市でタクシーと乗客の間にあったムダを再整理し、タクシーというサービスを別の次元へと進化させている。
 coincheckの仕組みをつくったエンジニアである和田氏の視点からすれば、省かれるべきムダが省かれることで、未来において「お金は進化する」ようだ。そしてその進化を実現するためのひとつの可能性として、彼らはBitcoinの銀行を起業している。彼らの理念については、和田氏のTwitterでのツイートを引用しよう。

"...僕自身はあんまりBitcoinが流行るかどうかの議論に興味はないんですよね。結局Bitcoinが使われなければcoincheckの価値は完全にゼロだし、そのときのことを考えても意味が無い。時代が来たときに圧倒的にNo.1になる準備だけを全力でしてます"

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株式会社レジュプレス代表取締役社長 和田 晃一良氏(左)と取締役 大塚 雄介氏(右)

信頼は、1BTCも、失われていなかった

お金というものは、使用者みなが価値尺度、流通手段、価値貯蔵の機能において信頼して使い続けなくては価値が出ない。目の前の1万円札は、誰もが「1万円の価値があり、日本国内であればどこでも使えて、貯めておいても価値が目減りしない」と信じているから、1万円として成立している。お金の設計には、高度な「信頼のデザイン」が必要なのだ。Bitcoinに、それは可能なのか?

 2009年にBitcoinが誕生し、最初に交換されたものはピザだったとされている。そして当時の信頼度では、1万BTCで1枚のピザが、交換できる程度だった。しかし今では、1BTCは約3万円で取引されている。これはBitcoinが信頼され、使い続けられた結果だと言えるだろう。

 しかし「Bitcoinの信頼」と聞いてすぐに想起されるのは、2014年2月に起こったBitcoin取引所「MTGOX(マウントゴックス)」の倒産である。当時の報道によると、MTGOXのマルク・カルプレス社長は記者会見で、失われたBitcoinは「114億円程度」と発表したとされる。 誰しも未来へ回って物事を見ることはできない。当時はBitcoinの仕組みに対する信頼も失われたかに見えた。しかし、事件から1年近く経った今、coincheckのような新しい取引所でも、世界中のユーザーが約1億円を取引している。貨幣としてのBitcoinの信頼は、失われてはいないのだ。

 では失われたと報じられた「114億円程度」のBitcoin によって、本当に失われたものとは何だったのだろうか。
 事件の真相はまだ捜査中だが、多くのBitcoinを擁護する論客の言葉を借りれば、この事件でBitcoinが失われた原因は、MTGOXの、いわば「不適切な運営」にあり、Bitcoinの機能不全による紛失ではなかったということだ。約100億円は消え、MTGOXの信頼は地に落ちたが、Bitcoinの仕組み自体の信頼は1BTCも、失われていなかったと考えることもできる。
 このBitcoinの信頼を形成するコア技術が「ブロックチェーン」である。

和田氏:そもそもインターネット上で、「誰が何を本当に持っているのか」を把握することは非常に難しいのです。デジタルデータは基本的に「コピー&ペースト」で増やすことができる性質を持っているからです。これはインターネット上でお金の価値を定義する上で大きな障壁でした。そこに解を出すことができたのがBitcoinのブロックチェーンなのです。
Bitcoinの管理体制をリアルマネーのそれに置き換えると「常に通し番号と所有者が完全に管理されている状態」にあると言えるでしょう。Bitcoinはインターネット上における全ての送金の記録を、ブロックチェーンに保存し、共有しています。全てのBitcoin所有者の財布、お金の移動情報を、プライバシーを保護した上で共有することで偽造を防止し、P2Pの非中央集権型でお金を管理しているのです。こうした管理主体が倒産することによる価値の消失リスクとも無縁の仕組みをつくったことが、Bitcoinのブレイクスルーだったのです。

 実際に、MTGOXから何者かが流出させたBitcoinも、ブロックチェーンの中にアドレスだけは残されているため、現在、犯人探しが行われているという。
 Bitcoinの信頼が失われなかったのは、このブロックチェーンの仕組みが、信頼のデザインをする上で画期的な技術であったからにほかならない。しかし、他の可能性はなかったのであろうか? また、未来においてはいろんな仮想通貨が発明され得るのだろうか?

大塚氏:実際、いろんな通貨やペイメントの仕組みは生まれているのですが、ユーザーの期待値と信頼が追いついてこなかった結果として、Bitcoinだけがたまたま仮想通貨として支持され続けることになったのです。さらに、2013年3月には「キプロス危機」で資金がBitcoinに流入するといった偶然も味方し、いわば歴史がBitcoinを仮想通貨として選んだのです。
もちろんBitcoinを超える新規性のあるテクノロジーはデザインできるかもしれません。しかし歴史の偶然は設計不可能である点から、Bitcoinに代わる仮想通貨の誕生を的確に予測するのは今のところ難しいのかもしれません。

大塚氏は現在、多くのメガバンクの社員や、Bitcoinの政策策定を行う金融庁の関係者、議員らと未来の金融のあり方について議論を重ねているという。

大塚氏:僕たちはIT企業ですが、業務のほとんどは金融業です。僕たちの持っているテクノロジーの特性について、金融業界の方々に説明してゆくとともに、僕たちにとっては別畑でもある金融業の商習慣を学ばせていただいています。
バックグラウンドが違う業界人同士が理解しながら消費者に使いやすいサービスを提供していくことが、これからの金融サービスだと思っています。


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Coincheckの月間取引額推移

coincheckの月間取引額の約1億円は、Bitcoinの未来への期待と信頼を示す数字でもある。メインの利用者は20代~30代の男性。その多くが日本円で5万円以下の少額購入者だという。

「お金の再発明」後の世界

 実際にcoincheckを使って支払いをしてみると、その操作の簡単さに驚かされる。まずスマートフォンアプリの「QRコードで送金」をタップする。店舗レジの支払い画面に表示されたQRコードを読み取り、フィードバックされた金額を確認すると、瞬時に支払いは終わる。盗み見される可能性のある暗証番号入力や、面倒なサインも必要なく、堂々と番号が書かれたクレジットカードとは違い、スキミングされるリスクも少ない。手数料は平均0.0002 BTC、日本円にして6円だ。ムダを探す方が難しい。
 もっともBitcoin決済 coincheck 導入社数は、2015年3月時点で219社であり、Bitcoinを使う風景が一般化するには、まだまだ課題の残る数字ではある。

大塚氏:僕たちの当面のゴールは、普通の人が、Bitcoinの支払いを気軽に選べるようにすることです。今のcoincheckでは、銀行口座からお金を振り込まないとBitcoinを購入できないため、興味のある人しか購入していないのが現状です。まだまだサービス全体をデザインし続けなければなりません。
また、Bitcoinを使うための機会を創り出す必要性も感じています。たとえば「とあるショッピングモールでは、家電をBitcoinで買った方がお得だ」という状況があったときに初めて、多くの人がBitcoinを手に入れて買い物をすると思うのです。そうした機会が創出できたときに、安心に買い物ができて、使いやすいサービスにしていきたいと思っていますね。

 Bitcoinが一般的なお金と同じように流通する10年後の未来が到来するとしたとき、そのときの風景はどんなものになっているのだろうか?

大塚氏:仮にBitcoinが20%、日本円が80%というお金の持ち方をする10年後の未来を想像すると、Bitcoinによる新しい経済圏が生まれてゆく可能性があります。たとえば誰かに貸し出すためのBitcoin金融業や、Bitcoin立ての保険、Bitcoinのクラウドファンディングなども考えられるでしょう。未開拓の大きな経済圏が生まれるのです。僕たちもそうした新しい経済圏でいち早くビジネスに乗り出す可能性もあります。
そのためのひとつの取り組みとして今、coincheck上で信用取引を始めています。Bitcoinを他のユーザーから借りて取引をして利益を出し、再び持ち主に返すというものです。ユーザーがBitcoinの経済圏に触れられる仕組みのひとつとして提供しています。

また、Bitcoinは、既存の金融サービスを受け難い人ほど恩恵を受けることのできるテクノロジーでもあります。たとえば日本に出稼ぎに来た途上国の労働者がいたとして、毎月50万円分の労働をしていたとします。しかし、母国へ送金したいとき、手数料として10万円が銀行に取られるという状況があるかもしれません。こうしたときにBitcoinを使って送金すれば、手数料をぐっと抑え、新しい可能性へと投資することができます。

どうやら近い未来にインターネット上で起こる「お金の再発明」は、今のお金を駆逐するようなものではなさそうだ。現実の通貨と仮想通貨は、それぞれの利便性をユーザーが選んでゆくことで、共生するのだろう。
 そして未来のお金の風景は、Bitcoinのような新しい通貨による新しい経済圏の誕生と、インターネット上の資産のやりとりが超高効率化されることでもたらされる世界規模の恩恵として、私たちの目の前に広がるようだ。

ライター:森 旭彦

(WISDOM 2015年04月14日の掲載記事「Technology to the Future 第1回:お金は再発明されるのか」より転載しました)

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