スマトラ島で確認された「第三」の新種オランウータン

新種として確認されるまでの道のり

2017年11月2日、インドネシア・スマトラ島で新種のオランウータンが確認されたことが発表されました。「タパヌリオランウータン」と名付けられたこの新種のオランウータンは、これまでスマトラオランウータンの一個体群とされてきましたが、他種と比較すると、頭蓋骨の大きさや犬歯に特徴があり、体毛の色や質、遺伝子配列も異なることから新種と判定されました。しかし既に残されている個体数は800以下と推測され、現時点で地球上に生存する大型類人猿の中で、最も深刻な絶滅の危機に瀕していると考えられています。

タパヌリオランウータンとは

アジアの森に生息する大型類人猿、オランウータン。 スマトラ島とボルネオ島にのみ分布するオランウータンは、長い間、1種とされてきました。

しかし2001年以降は、スマトラとボルネオの個体群をそれぞれ別種とする分類が主流となり、「ボルネオオランウータン」と「スマトラオランウータン」の2種が知られるようになりました。

そして今回、3種類目となるオランウータンが、スマトラ島の中北部で新たに確認されました。

タパヌリオランウータン(Pongo tapanuliensis)と名付けられたこの「第三」のオランウータンは、1997年に初めて生息が確認されて以来、久しくスマトラオランウータン(Pongo abelii)の一個体群とされてきました。

しかし、近年の調査で、他の種とは遺伝的にも形態的にも違いがあることが判明。

タパヌリオランウータンの細長い体格が、スマトラオランウータンに近い一方で、体毛は細かく縮れていたり、ボルネオオランウータンと比べて、濃いシナモン色の毛を持つなど、外見的にも特徴を持つことがわかってきました。

また、社会的に優位なオスであることを示すほほの肉ひだである「フランジ」の部分が柔らかな毛で覆われている点、またメスも口ひげを持つといった点も、このオランウータンの特徴です。

新種として確認されるまでの道のり

実は、タパヌリオランウータンは初めて1997年に個体群が確認されて以来、独立種である可能性が考えられ、研究が行なわれてきました。

この個体群は、スマトラ島の北スマトラ州中西部にあるバタン・トゥル地域の森で、他のオランウータン個体群と孤立した形で生息していたためです。

以来10年をかけてスマトラ・オランウータン保全プログラムと他のNGO、大学、またインドネシア当局が集中的な調査を実施。

2006年にはオランウータンの行動学や遺伝学を研究する為の研究機関も設立されました。

そして2013年、人との軋轢によりバタン・トゥルで殺された雄のオランウータンの頭骨や歯の形態を詳しく調査した結果、その頭蓋骨が他のオランウータンと比較しても著しく小さいことや、上あごの犬歯の幅が大きいことなどが判明。

この発見をきっかけに、スマトラ島をはじめ、海をまたいだボルネオ島からもオランウータンのゲノムデータが収集され、野生のオランウータンに関する、過去最大の遺伝子研究が実施されることになりました。

その結果、新種である事が判明し、オランウータンの中で3つの異なる進化系統が存在することが判明したのです。

新種の確認が鳴らす警鐘

国際研究チームによると、タパヌリオランウータンはスマトラ島のバタン・トゥルにのみに生息する固有種で、同じくスマトラに生息するスマトラオランウータンとは、地理的に1万年~2万年ほどの間、隔離されてきたと考えられています。

しかし、その推定個体数はわずかに800頭あまり。

他の2種のオランウータン同様、タパヌリオランウータンも深刻な絶滅の危機にさらされています。

実際、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストではボルネオオランウータンとスマトラオランウータンは、その生息数が過去100年間で80%減少したと見られ、絶滅の危機に最も近い近絶滅種(CR)に指定されていますが、タパヌリオランウータンもまた、同じ状況に置かれています。

そうした中で、今回の新種タパヌリオランウータンの確認は、地球上の生物多様性について、人類が未知であるということを示唆すると共に、このオランウータンのような希少な野生生物のすみかが、更なる森林の転換によって脅かされている問題に、警鐘を鳴らすものといえます。

とりわけ、最大の脅威となっているのは、生息地である熱帯林の激減。

スマトラ島では過去30年間で森が半分以上消失し、低地林はほぼ残されていません。多くの地域でオランウータンも姿を消してきました。

その大きな原因は、農業や鉱業の拡大、違法な森林伐採などです。また大規模な水力発電用ダムの建設も生息地を減少させる脅威として心配されています。

ボルネオ島では、ボルネオオランウータンの生息地が東北部と西南部に分断。スマトラオランウータンの生息地も北西部アチェ州にあるグヌン・ルスル国立公園を中心に限られた地域に残るのみなのです。

日常生活から、オランウータンのためにできること

WWFは現在、スマトラのバタン・トゥル一帯を、タパヌリオランウータン保護のため優先的に保全すべき地域の一つとしています。

しかし、現地の森を保護区などに指定するだけでは、野生の動植物を守ることはできません。

実際、スマトラやボルネオのオランウータンのすむ熱帯林では、保護区に指定されている地域でも、違法な伐採が行なわれたり、紙を作るための植林地や、主に日本でも加工食品に使用されるパーム油をつくるためのアブラヤシ農園へ大規模に転換されてしまうケースが見られています。

違法に伐採された木材をはじめ、森を無秩序に破壊するような形で生産された紙やパーム油が、日本の国内で流通しています。

そこでWWFでは国境を越えた熱帯林保全の取り組みの一環として、環境や社会に配慮し生産されたFSCやRSPOの認証制度を推進してきました。

FSCでは紙製品や木材製品に、またRSPOではパーム油を含む製品に、持続可能に生産されたことを証明するラベルが付されます。

生産地から遠く離れたお店での買い物は、未来にどんな地球を残したいか、一人一人が意思表示できる機会です。

信頼できる認証製品を選び、使うことで、消費者の立場からも森とそこにすむ絶滅危惧種の保全に貢献することができます。また見つからないときは、メーカーに対して要望の声をあげることが大切です。消費者からの需要が増えてゆくことで、生産地でも森を守る取り組みが推進されていくことが目的です。

WWFは、今後もスマトラ島の現場で森林と絶滅危惧種の保全に取り組むと同時に、日本の企業や消費者に対して、環境に配慮して生産された原材料の購買・調達を働きかけていきます。

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