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セルフパブリッシングを「誰もがやっていること」へ。個人が作る冊子、ZINEの世界

新しい情報発信ツールとして、じわじわと広がっている。

2017年10月26日 18時06分 JST | 更新 2017年10月26日 18時06分 JST

吉田瞳

個人が自由なテーマで作る小冊子「ZINE」。いわゆる「セルフパブリッシング」や「自費出版」だ。

MagazineやFanzine(同人誌)の"ZINE"がその名前の由来だといわれている。内容は、写真・イラスト・小説となんでもOK。新しい情報発信ツールとして、じわじわと広がっている。

このZINEを募集し、WebやショップでZINEを展示・販売しているのが、MOUNT ZINE。

ZINEでどんなことができるのか。今回は、ZINEのお店 MOUNT ZINE Shopにお伺いし、代表の櫻井史樹さんにお話を伺った。


何が飛び出るんだろうというワクワク感。個性を発揮できるZINE

吉田瞳

MOUNT ZINE Shopの店内には、ZINEがびっしりと壁一面に展示されている。

吉田瞳

吉田瞳

吉田瞳

「あえてキャプションをつけたり、ジャンルわけをしたりしていないんですよ」と語るのはマウント代表の櫻井史樹さん。

写真、イラスト、小説......Shopの中では全ての分野のZINEが並列に並べられている。普通の書店などのようにジャンルごとの分類がされていたり、ポップがつけられていたりすることはない。レイアウトに込められた考えを櫻井さんに伺った。

吉田瞳

「こうして、並列に全て並べることによって、ひとりひとりの個性をきちんと出せるようにしているんです。読み手の方にもある程度探す労力を払っていただければな、と。探そうとすることで、自分でZINEそれぞれの違いを感じてもらったり、『ZINEってなんだろう』と考えてもらえるようにしています」

櫻井さんにとっては、一冊一冊が印象的だ。

「ジャンルも絞っていないし、みんな自由に作っているので、いい意味で自由でバラバラなんですよね。本当にどれも面白いので、自分にとって一番のZINEというのは決められません」

例えば、こちらは特殊なミウラ折りという折り方で作られたZINE。

吉田瞳
キャプション:広げると一枚の紙になる

こちらはポップアップで、開くと飛び出るZINE。

吉田瞳

一般の書籍や雑誌のようにフォーマットが決まっていないため、それぞれが自分の個性を最大限に発揮できる。それがZINEというメディアの特徴だ。

「個性を生かせるというところが魅力となって、多くの作り手さんにエントリーしていただけているのではないかなと思っています。作り手さんのオリジナリティを楽しんでほしいですね」

ZINEの魅力は、作り手だけではなく読み手にとっても魅力となる。

「読み手にとっても魅力だと思いますね。何が飛び出るんだろうというワクワクがあります。本屋さんに並べてある本は、基本的にはフォーマットは全部統一されていますよね。ZINEの場合は、紙も本当にいろんな種類の紙が使われているんです。その紙の手触りとかを楽しむだけでも楽しいし。いろんな楽しみ方ができると思います」

自分たちの環境は自分たちで作りたい

櫻井さん自身、写真作品の作り手でもある。アーティストとしての活動の中で、周囲にもZINEを作っている人が多く、ZINEは身近なものだった。作品を広めていく上で、軽くて大量に作って配ることができるZINEは有効な媒体だと感じていた。しかし、ZINEを発表する場は多くなかった。

「ZINEを発表する場を作りたい。自分たちの環境は自分たちで作りたい」という思いがMOUNT ZINEにつながっている。

吉田瞳

「媒体としての可能性をZINEに感じました。多くの人に広めて、流通手段を作ることが、クリエイターとして活動している人たちに有効なんじゃないか。そんな思いがあったんです」

櫻井さん自身もアーティストだが、自身の作品はMOUNT ZINE Shopには置いていないという。「自分の作品を広めるための活動ではないから」という理由がある。

「クリエイティブやアートの世界では、メディアや媒体を育てて行くことが圧倒的に足りないし、そういうことをやろうという人も少ないんです。でも、ただ作品を作るだけではなくて、自分たちで環境を整えていくのも必要だと思っています」

そんな思いからMOUNT ZINEのイベントを初めて開催したのが2011年の春のことだった。

現在は、海外でもイベントを開催している。取材時もアメリカ・サンフランシスコのイベントから戻った直後だった。

「イベントに出すと、その時にしか見られないようなものということもあって、よい反応をたくさんいただきます。特に今回のように海外に出すと、日本からわざわざ来ることがあまりないということもあり、関心を持っていただけますね。日本の作品はクオリティーも高いので、よく売れています」

吉田瞳

2012年の春にはリアル店舗も立ち上げた。設立当初はクリエイターの作り手が多かったが、最近は一般の会社員の方の応募も多い。それを櫻井さんは「いい流れ」だと語る。

「自分の思いをダイレクトに発信することが時代の流れとしてあると思います。SNSもその一つですよね。出版も同じで、出版社を通すのではなく、自分の思いや考え、作品を自分でダイレクトに世界に発信していけることはすごく大事なのではないでしょうか。でも、まだまだセルフパブリッシング(自費出版)はメインストリームではありません。少しでも理解を深めてもらえればいいですね。」

誰もが受信も発信もできる未来へ

「ZINEをクリエイターだけではなく、多くの層に広げる」という思いを持っていたころ、各地域で発行されている「ローカルZINE」の存在に気づく。地方の情報が掲載されているもの、地域で暮らす人々の姿を伝えるもの......。

そんな知られざる存在の魅力を伝えるべく、MOUNT ZINEでは日本各地の「ローカルZINE」の無料配布を始めた。

「クリエイターの作品を集めるだけだと、狭いじゃないですか。セルフパブリッシングを広めていきたいという思いから、いろんな日本各地で面白い地方の情報が載ったような冊子を紹介しています。こういうものを作っている人たちのお手伝いもしたかったんです」

吉田瞳

例えば、鶴と亀。「地方にいるイケてるじいちゃん、イケてるばあちゃんをスタイリッシュに発信」するという、長野のローカルZINEだ。

吉田瞳

吉田瞳

「これはめちゃくちゃ人気なので、そう手に入らないです。うちでもすぐなくなっちゃう」(櫻井さん)

「どんなにいいものでも地方にあるとなかなか知られないんですよ。配布のお手伝いをすることで、ローカルZINEが少しでも知られるお手伝いができればよいですね」

最近は、Shopを訪れる層にも変化がある。若い人だけではなく、年輩の方や近所の方が定期的に訪れるようになったのだ。時間の経過と共に変化を感じるという。

「受け手側として、ただ出版社から出される本を本屋さんで買って読むというだけではなく、誰でも受信もするし発信もするという。それが普通になるのが出版の新しい未来なんじゃないかなという気がしています。この活動を通してセルフパブリッシングを『特別なことじゃなくて普通のことだよね』と多くの方に受けとめていただけようにするのが一つの使命かなとは思ってますね」


【編集後記】

想像以上に多種多様なZINEが存在することに驚きました。「個性を尊重する」というのは、言葉にするのは簡単ですが、全てのZINEを並列に扱い、そのオリジナリティを潰さないで扱うのは大変な作業だと思います。一冊一冊のZINEに対して、丁寧に向き合っていらっしゃる櫻井さんの姿勢が印象的でした。

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(この記事は、"ハートに火をつける"Webメディア「70seeds」から転載しました)