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百年に一度、ご開帳する秘仏〜祈りの島、五島列島・明星院を訪ねる

2013年08月26日 19時24分 JST | 更新 2014年02月17日 18時25分 JST
松尾順造

長崎の西方、100キロに浮かぶ五島列島。大陸を目指す遣唐使たちは、国内最後の停泊地であるこの島で、大海原を渡るための風を待ったという。唐から帰国した遣唐使の留学僧、弘法大師空海が立ち寄ったのも、この島だ。航海の安全を願い、無事の帰国を感謝する。五島は古来より人々が神仏に祈りを捧げた島だった。その島で今、ほとんど人の目にふれることのなかった秘仏がご開帳されている。“百年に一度”の僥倖を求め、五島列島を訪ねた。

■壮麗な晋山式と秘仏の特別御開帳

東シナ海の海上、140あまりの島々から成る五島列島は現在、注目を集めている。文化審議会の特別委員会が8月23日、世界文化遺産登録を目指す文化庁の推薦候補として「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」を決定。隠れキリシタンがひそかに暮らしていた五島列島も含まれている。

キリスト教徒の島として知られる五島列島だが、大陸との架け橋として仏教徒や遣唐使の足跡も多く残されている。五島で最も大きな島、福江島にある明星院(長崎県五島市)は五島最古の寺で、大同元(806)年に空海が訪れ、唐で修めた密教が国家や人々のために役立つよう祈願した。その翌朝、暁の明星を見つけて瑞兆(良いことがある前触れ)と思った空海は、寺を明星院と名づけたと伝承されている。

6月のある日、静かな田園の中に建つ明星院は、大勢の人たちでにぎわっていた。新たな住職が就任する「晋山式」が執り行われるのだ。式には全国から明星院にゆかりのある僧侶たちも参列、散華しながら壮麗に進む。僧侶たちの列は、花鳥画が極彩色に描かれた天井が美しい本堂へのぼっていった。

人々が迎えようとしていたのは、新しい住職だけではない。百年に一度しか拝観できない秘仏の特別御開帳を、今か今かと心待ちにしていた。厳かな読経とともに、普段は固く閉じられた厨司から「本尊虚空蔵菩薩」(ほんぞんこくぞうぼさつ)がお姿を現した。人々がそっと手を合わせる。

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この仏さまは、百年に一度ご開帳されるはずだったが、公式の記録が残されておらず、前回は三百年前とも四百年前ともと伝えられている。秘仏のため、調査がされていないことから、作られた時期など詳しいことも謎に包まれている。

また、あわせて国指定重要文化財である「銅造薬師如来立像」(どうぞうやくしにょらいりゅうぞう)もご開帳された。こちらは高さ30センチほどで、飛鳥時代に作られた九州最古級の仏像。五十年に一度ご開帳されることになっており、今回の特別御開帳で27年ぶりのお目見えとなった。

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この日、僧侶たちは万民の安泰を祈願して護摩焚きを行った。読経とともに火柱が高く上がると、炎の中に仏さまが見えてくるよう。秘仏を参拝した人たちは、熱心に護摩焚きを見守っていた。

■東日本大震災の被災者の思いが特別御開帳を決断

秘仏には、秘められてきた理由がある。「あまりにも霊験あらたかな仏さまは、毒になってしまうことがある。みなさんが旦那さんや奥さんと喧嘩した時にお参りして、あんな奴いなくなればいいのにと勢いにまかせて思ってしまったら、仏さまに聞かれてしまう。それが『障り』になってしまうという考え方が、昔からあります。戸板一枚ぐらいで、やましい気持ちを緩和する必要があったのだと思います」と明星院の新住職、野口瑞晃さんは話す。

明星院は藩主五島家代々の祈願寺である古刹。「昔、病気平癒が祈願され、叶わなかった場合は武家と同じように住職の首を切られたこともあったそうです。そういう流れのお寺でございます」

長らく五島の地で守られてきた秘仏の特別御開帳にあたり、野口さんは悩んだ。3年前に次の住職にと先代に請われて明星院へ入ったが、先代が亡くなり、引き継ぎの晋山式ができないうちに東日本大震災も発生した。

「もう法要は控えようと思っていたのですが、明星院に参られる方たちから、和尚さんそうじゃないよ、こんな時だから仏さまを開けてほしいんだよと言われました。仏さんから、そう言われているような気がしました」

地元の方々の厚意、そして遠く離れた東日本大震災の被災地から訪れた人たちの思いも、野口さんの背中を押した。「ここでゆっくりさせてくださいといって、お祈りしてゆく被災地の方たちがみえるようになりました。亡くなった方に思いをはせていらっしゃるようで。西の果ての小さなお寺ですが、ここで仏さまと巡り会えたとおっしゃいます。そういう方たちに、どうして仏さまを開けないのでしょうか?と言われることがございました」

特別御開帳は2013年末まで行われ、誰でも拝観することができる。いったん閉じられれば、銅造薬師如来立像の御開帳は23年後のお目見え。百年に一度の御開帳である本尊虚空蔵菩薩は73年後と遠い未来、子供や孫の代となる。

「五島は1年間に1000人減っているといわれています。お寺を継続していくのも難しいと思っていますができる限りお寺を、というか、五島を守っていけたらいいなと思っています」

祈りの島、五島列島の旅は続く。

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