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シリア攻撃をめぐり、過去の軍事介入という亡霊が世界の強国を悩ませる

2013年08月29日 22時08分 JST | 更新 2013年09月02日 23時58分 JST

多国籍軍によるシリア攻撃の可能性が高まっている。一方、世界中の政府や市民が、エスカレートし続ける中東の衝突に、足を踏み入れなくてすむ方法が他にないかどうか、慎重に議論を重ねている。

先週、反政府勢力が支配しているダマスカス郊外で化学兵器を使用され、数百人の死者と数千人のけが人が発生し、その多くが子どもであった。それが実際にはシリアのアサド政権が関与しているという見方はおおむね一致している。

しかし、世界各国の反応の中にそうした見方を裏付けられそうなものはなく、しかもアサド政権の仕業であるということを示すべき決定的な手がかりすらない。国連安保理の決議なしで軍事行動に踏み切るのが妥当なのか、そして正当性はあるのかという点で意見の一致を見てない。そもそも国連安保理決議自体、アサド政権を支持しているロシアと中国の反対により不可能に思われる。

中東において過去に軍事行動が失敗に終わった例は枚挙にいとまがない。イラクがいい例だ。そうした過去の記憶が、シリアへの軍事介入へのスイッチを押すことに多くの懸念を生み出す。

■イギリス

イギリスでは、かつて保守党内閣でウェールズ相をつとめたシェリル・ギラン氏が、シリア攻撃は「壊滅的な事態」を引き起こすと警告している

ギラン氏はハフィントン・ポストUK版に対し、「私はトニー・ブレア元首相の演説を聞いてイラク戦争介入に賛成票を投じました。しかし彼は我々全員に嘘をついたことがわかりました。もう同じ過ちを繰り返したくないのです」と語った。

そうした見方はイギリスの世論の多くで共有されている。タブロイド紙「サン」によると、イギリスのインターネット世論調査サイトYouGovの最新調査では、2対1の割合がつくほどの大差で空爆に反対する意見が多数を占めた。

イギリス国内の雰囲気は、アメリカのブッシュ前大統領とブレア首相によって主導されたイラク戦争へと突き進んだ10年前と同じことになるのではないかという懸念が広がっている。

ブレア首相はかつてイラクのフセイン大統領に対する軍事介入を主張したように、今回もシリアへ介入すべきだとしている。そして現在、イギリスのヘイグ外相は国連安保理の決議の有無にかかわらず、大量破壊兵器に反対する姿勢を明確にするよう求めている

イギリス議会は再び、イギリス軍をシリア軍事介入の多国籍軍に派遣するかどうかの投票を行う。国連調査団が現地調査を行い、化学兵器使用の根拠を公表する前に行われる。

しかし、10年前に同じような多国籍軍を形成し、イラク戦争では壊滅的な事態を招いてしまったが、今回とは一つ大きな点に違いがある。それは軍事介入を推進している人物である。保守党のディヴィッド・キャメロン首相だ。保守党内の多くが、労働党の多数の議員同様、介入に懐疑的な見方を示している(しかしブレア元首相はイラク戦争へと導いた誇張された演説を思い起こさせるような発言を「タイムス」紙でしている。それは、軍事介入は今「エジプトとシリアの自由と民主主義を支持するために」必要だ、というものだ)。

火曜日には、保守党内からの圧力の結果、キャメロン首相は議会を招集し、ツイッターで「化学兵器攻撃に対し、議会の行動と投票によるイギリスの反応を明確に」する意向を表明した。

キャメロン首相は当初火曜夜の下院議会での投票で賛成多数となる見込みを示していたが、ハフィントン・ポストUK版によると、労働党は反対の意向に傾いている

しかし、いわゆる国王大権による宣戦布告を行うのは、憲法を構成する慣習法により議会および世論によらず、首相および内閣で行使することができる。そして「ブレアの後継者」を自認するキャメロン首相の眼差しは、救世主的な光を帯びているように見える。

■アメリカ

アメリカ合衆国では、バラク・オバマ大統領が、早ければ今週末にも避けられない攻撃開始に、国民を備えさせようとしてきた。しかし、介入への支持は誠に希薄である。

化学兵器の使用が報じられた週に行われたロイターとIpsosの調査では、アメリカの軍事介入にはわずか9%しか賛成していない。そして、もしアサド大統領に化学兵器使用の責任があるとしたらどうか、との問いかけにも、その数値は25%までしか増えなかった。

同時に、政権内でのコンセンサスは、少なくともシリア政府に対する限定的空爆へと固まりつつあるようだ。アサド大統領が化学兵器を使ったのか否かという議論が影響しているようだ。ジョン・ケリー国務長官は、攻撃反対の意見をする者は「良心は正常なのかチェックしたらどうか」と言っている。

にもかかわらず、オバマ大統領にとって、シリアへの軍事攻撃は危険と明らかな不安をもたらすものだ。ある意味、オバマ氏が大統領でいられるのは、かつて執拗にイラク戦争に反対していたからである。アフガニスタンでの戦争を激化させた後、今や彼はその出口戦略を描いた大統領である。

オバマ大統領を中東での戦いに弱腰と称するのは過小評価である。しかも、オバマ大統領はこの対立を避けるための余地を、自分自身ほとんど残していないように見える。シリアでの化学兵器使用は、越えてはならない一線であり、もし越えれば罰せられる、と公に宣言してしまっているからだ。この脅しが、化学兵器攻撃に対しては何らかの軍事的行動が必要である、と言わんばかりで、アメリカの攻撃命令に現実味を与えている。

しかし、オバマ氏をはじめ各国首脳はその対応に苦慮しており、今のところその戦略はまるで明確になっていない。もし攻撃が、化学兵器を使うかもしれない次期リーダーを阻止するためだけに絞られた、狭い範囲のものだったらどうか。それには、化学兵器を貯蔵していると思われる施設を狙った、ミサイル攻撃が考えられる。または、もっと広範囲に、アサド大統領と戦っている反政府勢力を支援するようにするべきか?対シリア行動の動機は基本的に一致しておらず、それが攻撃の可能性への政治的、国民的反応を混沌としたものにしている。

■フランス

今年の初め、フランスがマリのイスラム過激派掃討のために侵攻した際には、フランスの政治家のほとんどがそれを支持した。しかし、シリアは話が別であり、そのようなコンセンサスは不可能ではないにしても難しいであろう。

フランソワ・オランド大統領は「罪のない人々に毒ガスを撒くという決断をした者を罰する」行動を支持してきた。社会党が多数派を占める政権の、他の閣僚も大方がこの姿勢である。しかし、フランス政界の他の党派からは、その見方に警鐘を鳴らす声も多い。

急進左派は断固として軍事行動に反対している。共産党党首ピエール・ローラン氏は、「シリア爆撃は、すでにある戦争の火に油を注ぐことであり、その地域全体に未曾有の厄災をもたらす危険がある」と主張している。ローランの支持者である前フランス大統領候補、ジャン・リュック・メランション氏はもっとはっきり「この戦争は行ってはいけない。それはとんでもない間違いだ。」とBFMテレビのインタビューで語っている。

それに賛成する急進野党のニコラ・デュポン=エニャン氏は軍事侵攻を「完全なる愚行」と呼んでいる。

極右国民戦線はもっぱら、侵攻が国内に及ぼす影響に注目してきた。副党首フロリアン・フィリポ氏は、アサド大統領転覆を狙う反乱軍の中の「イスラム過激派」の存在を指摘している。同党のマリーヌ・ル・ペン党首はオランド大統領に対し、アサド大統領への攻撃を「イスラム教徒を選んだものだ」とまで非難しする。さらに、「アメリカやフランスが軍事介入に踏み切った場合、シリア国民にとっては、『キリスト教徒の迫害』が待ち構えていることと同じだ」と彼女はその声明で嘆いている。

欧州議会のフランス代表メンバー ラチダ・ダティ氏はシリアへの軍事攻撃は「混沌に次ぐ混沌をもたらす」と警鐘を鳴らす。

対照的に、前保守派政権の人々は国の結束を強調する。前住宅長官ベノワ・アパリュ氏は侵攻の「必要性」を擁護している。ニースの副市長クリスチアン・エストロシ氏は、ツイッターでオランド大統領の戦闘呼びかけを支持している。曰く、「オランド大統領とその国内政治においては意見の相違があるが、シリアに関する彼の声明は完全に支持するものである。」

しかし、中道の民主行動党党首フランソワ・バイル氏は、やんわりと「注意を呼びかけ」ている。

■カナダ

アフガニスタンへの駐留が10年を越えたカナダでは、各国間の対立への関心が低い。それでも、現在準備が進められているシリアへの軍事行動に対する支持の姿勢は、注意深く進めている。カナダ政府は、シリア政権が自国民に対して化学兵器を使用したことを「実に忌まわしいこと」と非難している。ジョン・ベアード外相が月曜日の発言で、事態は「危険な新しい局面」を迎えており、「カナダは国連と協力して真実を究明する。」と述べている。

新民主党党首トマス・マルケア氏は、同日、「カナダは注意深く国際法に則って一歩ずつ進めるべきだ。」と述べた。しかし、軍事侵攻への支持を排除していない。

カナダのスティーブン・ハーパー首相は火曜日にオバマ大統領と会談し、スポークスマンによれば「両首脳は、大量の化学兵器の使用は国際社会からの断固たる反撃を、効果的かつ適時に受けるに値する、という点で合意した」とのことである。

■チュニジア

欧州と北アメリカ各国が比較的"安全”な位置から軍事介入について議論している間、チュニジアでは、(既にほとんどのアラブ世界ではシリアの血みどろの内戦と広範囲にわたる惨禍に巻き込まれていたが)不安と混乱の交じり合った反応を見せている。

約2,000のチュニジア人が、ジハードのためにシリアの紛争に参戦している。また、国家はマリでの争いから逃れてきたイスラム教戦士を、既にかなりの数受け入れている。近隣のリビアのおかげで武器密輸が盛況という状態である。エジプトのムスリム同胞団に対する弾圧は、サヘル砂漠で活発に活動するイスラム過激派の地下組織メンバーを生んでいる。

チュニジアの主な懸念は、シリアにおける暴力が、連鎖的にエジプトや北アフリカ全体へ広がることである。無秩序なリビアと無法化したサヘルの間に位置するチュニジアは、戦闘員の移住先として矢面に立つ事となる。

このような背景があり、チュニジア政府、西側諸国の軍事介入の可能性について、沈黙を守った。アンナハダ党が多数を占める連立政権与党も、野党第一党も、見解を示していない。

この沈黙は、広大なアラブの春を凝縮した革命への目覚めのなかで、チュニジアが取り組み続けてきた国内事情を反映している。

憲法の起草という仕事が課された国立憲法制定会議は、政治的混乱に直面して1カ月以上保留とされた。約70人の委員が、トロイカ体制の貧弱なガバナンスを非難して辞任した。残りのメンバーは政府に退陣を要求している。ある議員は、議会に面した広大なバルドー広場に座り込み、またそれを再現する抗議では、何万人も動員した。一方、有刺鉄線で囲まれた反対側では、政府支持者によって、アンナハダ党支持を訴えるスローガンが唱えられた。

7月25日、チュニジアの野党議員のムハンマド・ブラヒミ氏が殺害された。これは、2月に野党党首のショクリ・ベライド氏が殺害されてからこの半年で2件目の事件であった。軍は、アルジェリア国境沿いの山中で、疑わしいテロリストのグループとも戦っている。

これらのことを考えると、シリアで多国籍による攻撃の可能性は、あまりにも近すぎて、しかし、遠いものとなっている。

■スペイン

NATO(北大西洋条約機構)に参加しているスペインでは兵力を提供することが常となっているが、このシリアの問題は国内に懸念とそれに相反する感情の両方を生んできた。この国では、手痛いイラク戦争の記憶がまだ鮮明に残っている。2003年当時の大統領ホセ・マリア・アスナール氏は、スペイン社会の反対にもかかわらず、米国主導の活動を支持してきた。現在のマリアーノ・ラホイ首相も、当時戦争を支援していた。

しかし、今日のラホイ政権は、国内問題で手一杯のようだ。国民の関心が集まっている汚職事件、果てしない経済危機、ジブラルタル上でのイギリスとの対立などひっきりなしだ。このような内部の問題に直面している状況では、スペインが軍事攻撃に参加するかどうかは、まだ審議中の状態である。

ホセ・マヌエル・ガルシア=マルガージョ外務大臣は、火曜日のプレスリリースのなかで、「シリアにおける化学兵器の使用に対しては、国際社会が断固とした反応を示すべき」と主張した。スペイン政権は国連安全保障理事会に信頼感を示し、また、“国際法が尊重されるような”決定を行うよう求めた。

しかし、ラホイ首相も外務大臣も、自身の立場についてを明示していない。しかし政府のナンバー3、カルロス・フロリアノ氏の発言が、政府の意見に最も近いと思われる。

「私が受けた印象では、我々は同盟国と行動を共にしていると思う。その意味で、我々は適切な場所にいると信じている。」

野党の社会労動党の女性党首 エレナ・バレンシアノ氏は、フロリアノ氏の発言について「満場一致で、強引で、もちろん、現政権に対して予想できる反応」と声明で指摘した。

■イタリア

イタリアは、NATOの一員ではあるが、政府は国連安保理決議抜きの対シリア軍事作戦に参加しない方針を明らかにしている。

イタリアの外務大臣 エマ・ボニーノ氏は、国連安保理決議なしの一方的な軍事行動は、不適切で説得力がなく、望ましくないと主張した。また、中道左派のロマーノ・プローディ元首相は、一方的な介入は「国連の恥」と繰り返し発言し、介入では解決にならないと述べた。

しかし、ボニーノ外相は、国連の決議がなされたからといって、「自動的に参加するわけではない」と外交委員との会議で宣言した。

■そして、日本

日本では、安倍晋三首相が、アサド政権退陣を要求した。カタールを訪問中の安倍首相は、「シリア情勢の悪化の責任は、暴力に訴え、無辜(むこ)の人命を奪い、人道状況の悪化を顧みないアサド政権にある。アサド政権は道を譲るべきだ」と述べた。

しかし、残忍な戦争という手段を取った場合、軍事介入によるアサド政権の排除は失敗すると考えられ、確実にアサド政権の退陣は達成しないように見える。そして、シリアに対する軍事介入の可能性が強まっている国々では、軍事介入の目的やその手続きをめぐる意見の不一致により、さらに混乱が続く結果になる。

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With contributions from Mehdi Hasan in London, Michael Bolen in Toronto, Alexandre Boudet in Paris, Antonia Laterza in Rome, Daniel Basteiro in Madrid, Sandro Lutyens in Tunis, Daichi Ito in Tokyo, and Emily Swanson and Ryan Grim in Washington.

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