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待機児童問題解消の鍵 どうやって「潜在保育士」を掘り起こすか?

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猪谷千香
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多くの自治体で、来年4月に新しく子どもを認可保育所に入所させたいと希望している人たちへの入所申し込みの受付が始まり、厳しい「保活」の時期を迎えている。待機児童が多い首都圏の自治体では入所選考が「ポイント制」で行われていることが多いため、「保活」中の人たちはポイントを上げるのに必死だ。政府の「待機児童解消加速化プラン」などが次々打ち出されてはいるものの、なかなか待機児童は解消しない。

解決しない理由としては、補助金の付け方などにも問題があるのだが、最近、特にクローズアップされているのが、保育士不足の問題だ。筆者は全国の保育所の取材をしているが、昨年頃からどこにいっても「保育士さん、いませんか?」という言葉が、まるで挨拶代わりのように語られている。

しかし、「保育士」が本当にいないわけではない。現在、資格を持っているにもかかわらず、保育士として働いていない、いわゆる「潜在保育士」の数は、全国で60万人以上にものぼる、とも言われているのだ。そこで、どのような策を講じれば、そんな「潜在保育士」が現場に復帰できるのか考えようと、11月16日、東京で、「緊急シンポジウム 潜在保育士掘り起こしのための環境整備を考える」が開催された(主催:NPO法人福祉総合評価機構)。

■「東京で1000人が必要」「現場で保育士の人材を育てる余裕を」

まずは厚生労働省雇用均等・児童家庭局保育課課長補佐の鈴木義弘氏の「新制度の概要と保育士確保についての国の施策」という講演が行われ、新制度について、内閣府の子ども・子育て会議で決まっていることなどについて説明があった。続いて、シンポジウムが行われた。登壇者は、社会福祉法人で保育所の運営にあたっている黒石誠氏(社会福祉法人夢工房 専務理事)、株式会社の保育所の運営を行っている瀬木葉子氏(サクセスホールディング株式会社 執行役員)、幼稚園の園長である小林研介氏(学校法人呑竜愛育会 呑竜幼稚園 理事長)、そして、保育士養成校の教員である相馬靖明氏(和泉短期大学 准教授)の4人。それぞれの立場から、どのようにすれば保育士不足を解消することができるかという点についてそれぞれの意見を述べた。会場には保育関係者など140人ほどが集まり、約2時間近くにわたり、活発な意見交換が行われた。

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鈴木氏の講演は満席に。

全国に保育所を展開している黒石氏はこのシンポジウムの企画者。「来年4月に向けて、東京でも800人から1000人が必要になってくる」と指摘。その上で、「幼稚園教諭と、保育士とでいちばん違うのは、働く時間。保育士には書類を書いたり、研究に当てたりする時間がない。1日8時間働く中で、6時間は保育にあたり、2時間は業務に就くことを認めてほしい。それをできなければ、いつまで経っても、幼稚園教諭のほうが勉強している、ということになってしまう。保育士の処遇をあげるために上位資格を作ろうという動きもある。PDCAをきちんと回せるようなマネジャー的な存在を育てることができるように、研修体制をとっていくべき。それができるだけの時間を保育園の現場に与えてほしい」と述べた。

■「常勤1人分を非常勤3人分でシェア」「プライド持てる職場に」

サクセスホールディングスの瀬木氏は「来年度に向けて、新たに優秀な保育士をそろえなければならないが、限られたパイの中で取り合っていたのでは、社会的な部分での待機児童解消にはならない」と述べた。その上で「子育て中なので非常勤で働きたいという保育士や、夫の扶養範囲で働きたいという保育士も多い。常勤1人が必要なところを非常勤3人でシェアして、常勤1人分のお金が出る仕組みができれば、非常勤の人の時給も上げられるのではないか。他の園との連携をしておいて、緊急の時には他園との助け合いを地域の中でできるような仕組みを作れないだろうか」と述べた。

小林氏は「私の関心は保育士の“質”。ただ保育士資格を持っていればいいというわけではないのではないか。今は切迫してはいるけれども忘れてはいけない」と指摘した上で、「保育士や幼稚園教諭が、プライドや夢が持てるような職場でなければ、働こうという人はいないし、いても長続きしなくなってしまう。どうやって働く人に夢やプライドを持たせるかを考えなければ」と述べた。

相馬氏は自身も幼稚園教諭として働いたことがある経験から、「保育士や幼稚園教諭が長く働き続けている園と、辞めた人がもう一度復職したいと選ぶ園は共通している」と、職場の問題を指摘。さらに、「資格を持っている卒業生について調査したところ、25%くらいの人が仕事をしていない。保育士ではない仕事にうつった人もいる。辞めた理由としては、結婚、出産・育児、人間関係、方針への疑問、心身不調などがあげられるが、そういったライフイベントが原因で辞めている、という人の中にも、人間関係が本当は原因の人もいるはず。人間関係などの問題をサポートしていく必要がある」と述べた。

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シンポジウム登壇者。左から黒石氏、瀬木氏、小林氏、相馬氏。

■「滅私奉公求める経営者の意識も問題」

シンポジウムのコーディネーターを務めた、保育システム研究所代表の吉田正幸氏は「かつて、バブル時には保育士資格を持っていても給与が良い他の仕事に就いていた時期があった。しかし、今回の保育士不足はより構造的な問題。少子化で18歳が以上減り、保育士の卵の絶対数が減っていく。一方で保育新制度の導入でさらなる保育需要が喚起される。働く母が増えて3歳未満を預ける人が増えるが、この年代はもっとも保育士の配置人数が多く必要な層だ。一方で、経営者の意識や、スタンスにも問題がある場合がある。滅私奉公的な働き方を求められ、サービス残業も当然というようなところもある。重ねて、職員側の意識の問題もあるのではないかと思う。幼稚園は学級担任制だが、昔は担任を持ちたいという人が多かったが、いまは責任を持ちたくない、という人が増えた。保育園でも、非正規でいいから時間が決まっている働き方を求める人が増えてきている。それらをトータルに総合的に解決していく必要があるはずだ」と述べた。

次回はぜひ、保育所で働く保育士や、子どもを預ける親の立場の意見も交えてシンポジウムをきいてみたい。さまざまなステークホルダーが前向きな意見を述べ、話し合っていくことで意見の食い違いもあるだろう。しかし、出来る限り「三方よし」となることを目指して、待機児童解消の問題を考えていきたい。

【ジャーナリスト、東京都市大学客員准教授 猪熊弘子】

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