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イラクの反政府勢力、いずれは仲間割れも スンニ派武装集団内に温度差

2014年06月29日 16時27分 JST | 更新 2014年06月29日 16時27分 JST
Reuters

[バグダッド/ドバイ 26日 ロイター] - イラク北部では複数の武装勢力が国境地帯を不安定化させ、地域戦争の危険性を高めているが、一枚岩とは到底言えない状況にある。そこには、狂信的なイスラム教強硬派と実用主義的なスンニ派武装組織との「政略結婚」とも言える共闘態勢が存在する。

今のところ、各武装勢力は共通の敵としてシーア派のマリキ首相を掲げている。イラクでは少数派であるスンニ派は、同首相が自分たちを過小評価し、虐げていると非難する。

しかし、反政府武装勢力はいずれ、イラク国内のスンニ派支配地域の将来像をめぐり、対立するとの声も出ている。

イラクの反政府武装勢力には、国際武装組織アルカイダから分派した「イラク・レバントのイスラム国(ISIL)」のほか、部族や軍事、宗教などのつながりで共闘する多数のスンニ派武装集団があるが、問題は誰が勝利を収めるのかということだ。

専門家や西側当局者の多くは、ISILが組織のまとまりや高性能の武器、資金力でスンニ派のライバル組織を圧倒するとみている。

こうした専門家らは、3年にわたるシリアの内戦がその例になると指摘。シリアではISILが他の組織を抑え込み、同国西部で無視できない勢力としての地位を固めた。

ISILとスンニ派武装勢力との共闘態勢にはすでに亀裂が見え始めており、イスラム教のために戦う聖戦士と他の組織の間に存在する摩擦が今後、いや応なく増大することも予想される。

北部キルクーク近郊のハウィジャでは先週、フセイン元大統領が率いたバース党に関連し、元イラク軍兵士などで構成される組織が、ISILと交戦。地元住民によると、ISIL側が傘下に入るよう求めたことで衝突し、少なくとも15人が死亡したという。

<高まる摩擦>

スンニ派組織間のこうした危機は、ISILが約2週間前にモスルを制圧し、その後北部一帯を掌握したことで顕著化した。こうした事態に政治的な解決が迅速に行われなければ、対立は同派の新たな現実となりかねない。

イラク軍が大挙して退却したISILの進軍により、ISILと他の反政府組織との力関係が明確になっている。

スンニ派の武装組織を専門にするイラク治安当局高官によると、ISILには外国人も含め約2300人の戦闘員がいる。モスルからハウィジャや油田都市キルクーク西方のバイジ、最大の製油施設であるティクリートなど北部都市への速攻は外国人兵が率いたという。

この高官はロイターに対し、ISILが北部の大都市に進軍するのに合わせ、他のスンニ派組織がISIL勢力が手薄になった地方で新たな支配地を広げたという。

こうした組織は、ISILが掌握したティクリートやバイジなど大都市ではISILに従っているようだという。

しかし、スンニ派が支配する北部で新たな秩序が定着する中、この高官は、「彼らは間もなく戦い合うことになるだろう」と予測する。

アラブ諸国政府とも強いパイプを持つイラクの治安専門家ムスタファ・アラニ氏も、摩擦が高まると予想。「こんな蜜月関係がいつまで続き得るのか。ISILは社会的にも政治的にも受け入れられていない」と話す。

この反政府同盟が壊れた場合、イラクのスンニ派地域は恒久的な内紛に陥る可能性もある。

スンニ派政治家のムハンナド・ハッサム氏は先行きについて、「ISILはイスラム法を支持する立場を明確にし、地域の人々は自らの権利を守ろうとそれを拒否するだろう」と語る。

<勝者のいない戦い>

そのハッサム氏は「スンニ派地域のことが心配だ。焼き消され、そして誰も勝者がいなくなる」と危惧した。

また同氏は、他の反政府組織がISILを倒すことができなくても、やがてゲリラ戦術を取り、装備に勝るISILに損害を与えるようになるだろうと予想する。

イラク情勢を協議するため湾岸アラブ諸国を歴訪したフィリップ・ハモンド英国防相は25日、訪問先のカタールで記者団に対し、「反政府組織はその土地に根差しているが、ISILはそうではない」と指摘。地域住民が現在ISILに提供する暗黙の支援を撤回するよう促された場合、ISILはスンニ派地域の支配力を失うかもしれない。

ハモンド国防相は、一部の湾岸アラブ諸国がイラク国内の穏健なスンニ派指導者に、政治的解決についてのメッセージを送っていると明かしたが、詳細は明らかにしなかった。

今のところ、前線には2つの強力な拠り所がある。イラクでは少数派のスンニ派という立場と同派がマリキ首相に過小評価され、迫害されているという信念だ。

これらはともに、ISILが戦争に疲れたスンニ派社会の心とは言わないまでも、彼らの協力を得るのに役立ってきた。ISILの現パートナーの多くは当初、その親組織であるアルカイダと協力していたが、その後、強硬な方針に嫌気が指し、2006─08年にアルカイダに反旗を翻した。

スンニ派組織は米国の武力に支援を受けてアルカイダへの反乱運動を進め、マリキ首相とシーア派政府との関係修復の約束を取り付けた。しかし、マリキ氏はこうした約束を果たさず、治安部隊による大量逮捕も続いた。

そして、暴力が急増したこの2年で、ISILはスンニ派社会に広がる怒りに付け込んだ。

<イランへの挑発>

武装勢力がイラク最大の製油施設を包囲しているティクリートやバイジでは、同じような力関係が進行している。

イラクの治安関係者によると、バイジの製油所では最も優れた武器をISILが持ち、イラク・イスラム軍など部族の戦闘員はISILの攻撃を数で支えているという。

IHSリスク・コンサルタンシーのアルカイダ専門家、アンナ・ボイド氏は、ここ何年かでISILが他組織と協力しようと決めたことは、指導者アブ・バクル・アル・バグダディ氏が派閥争いの落とし穴を意識していることを示している。

付き合いにくいとの自らの評判を自覚し、ISILはシリアで「ソフトパワー」による取り組みを通じ、人々が受け入れやすい姿をPRしている。慈善イベントを開いたり、食料や医療品を提供したり、時には町の広場で綱引き大会を行ったりもしている。

しかし、ISILは内輪もめの前歴もある。かつてシリアでは、ISILが他の反政府組織と便宜上の同盟関係にあったが、2013年末までに十分に力を付けたと見るや、複数のライバル組織に攻撃を仕掛けた。

今、イラクにおいてバグダディ氏の目指す解法は、シーア派への暴力を強化し続け、同じシーア派であるイランに介入を迫り、他のスンニ派組織には同氏に付かざるを得ない状況を作ることかもしれない。

前出のボイド氏は「リスクは、ISILが他のスンニ派組織と敵対しがちなのにもかかわらず、その軍事的収穫が大きく、イラクやシリアという垣根を超えて支援を引き寄せている点だ」と語る。

21日にティクリート近郊のアラムを制圧した際には、あるISILの指導者が、スンニ派の町をわざわざ掌握するのはなぜかと尋ねられた。

この指導者は、町がISILにとって戦略的地域にあり、他の武装組織が権勢を振るっていたと説明。その上で、「われわれは、自分たちの仕事を1つにまとめ、これらの組織を統合しようと取り組んでいる」と述べた。

(Ned Parker、William Maclean記者)

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