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北朝鮮、国連人権決議に激しく反発 「収容所生まれ」脱北者を映像で非難

2014年11月24日 19時40分 JST | 更新 2014年11月24日 19時41分 JST
Taichiro Yoshino / Youtube

国連総会第3委員会(人権)が11月18日、北朝鮮での組織的な人権侵害を「人道に対する罪」に該当するとして、責任者を国際法廷に起訴することも検討するよう求める決議を採択した

同様の決議は2005年以降毎年採択されてきたが、今回は、国連安保理に対して国際刑事裁判所(ICC)への付託を検討するよう求めるなど、例年より重い内容となった。北朝鮮は反論の記者会見を開くなど激しく反発し、採択後も強硬な態度をとっている。

外交戦の裏で、決議採択に役割を果たした脱北者と、それを非難する北朝鮮政府との、もう一つの攻防戦があった。

■「強姦された女性」も登場

決議の基礎になったのが、2月17日に公表された国連人権理事会の最終報告書。強制収容所や拉致問題などの人権問題を包括的に記述し、「人道に対する罪」に該当すると断定した。

この人権理事会で証言するなどの役割を果たしたのが、強制収容所で生まれ育ったという脱北者のシン・ドンヒョク氏。母と兄の脱走を密告して2人の公開処刑に立ち会うなどの衝撃的な体験を語りながら、北朝鮮の人権状況改善を国際的に訴えていた。

シン氏は2014年1月、ハフィントンポスト日本版とのインタビューにも応じている。インタビューや著書をもとにした記事で、シン氏の生い立ちを次のように紹介していた。

シン氏が生まれたのは北朝鮮・平壌の北東部にある強制収容所「第14号管理所」。両親も収容者で、強制労働などの報奨として結婚を許された。生まれた子はやはり政治犯としての扱いを受け、6歳の小学校入学と同時に農場や炭坑での労働にかり出される。

そこから出ることは基本的に生涯許されない区域だ。脱走や男女の私的な接触は一切禁止され、小学生は「破ったら即銃殺」という収容所の掟をたたき込まれる。(中略)

最も衝撃的な場面は14歳のとき、母と兄の脱走計画を盗み聞きしたシン氏が看守に密告するところだろう。自身も捕らえられて拷問を受けたあと、縄を解かれた場所では、大勢の前で母が絞首台に立たされ、兄が木の棒に縛られていた。

北朝鮮の強制収容所に生まれた男性 「人間には自由というDNAがある」より 2014/01/28 07:49)

国連の最終報告書に対し北朝鮮は10月7日に記者会見を開いて人権問題の存在を否定、「噓と真実 シン・ドンヒョクは誰か」というタイトルのDVDを配布した。YouTubeでも見ることができる。(前半後半

映像は計約19分にわたって、全編でシン氏を批判する内容になっている。シン氏の本名を紹介し、実父と継母と名乗る人物が幼少時の写真を見せる場面が登場する。その中で実父は、「強制収容所などいたことはない」と否定し、拷問でできたとする傷も「炭坑での事故だ」と説明した。「彼が北朝鮮にいたとき、私は心臓病を患っていた。私がまだ生きているとは思っていないのだろう」と語っている。

「母と兄が公開処刑された」というシン氏の主張に、一家の隣人だったという女性が登場し、「金目当てに2人が別の女性を殺害し、死体を倉庫に隠した。シン氏と父親が発見して通報したたため訴追され、裁判を受けた」と反論している。

「強制労働の懲罰で指を切断された」というシン氏の主張に対しては、炭坑の寮で同室だった元同僚という人物が、「暗闇の中、ボタ山を歩いていて転び、落ちてきた石で指をけがした。その後、彼には下着やズボンや靴を盗まれた」と証言する。

13歳のときにシン氏に強姦されたという女性と、その母親も登場する。最後に、今は平壌近郊に住んでいるという父親が「帰って来なければ後悔する。かならず母国に帰ってこい」と呼びかける。

北朝鮮は、脱北して海外で北朝鮮の人権改善を訴える人を再び北朝鮮に帰国させ、記者会見を開いて「悪い人間にだまされた」と訴えることがしばしばある。日本人妻として北朝鮮に渡り脱北し、再び北朝鮮に戻った平島筆子さんら、いくつかのケースがある。

■実父の登場に動揺

実の父親が生きていたことは、シン氏にとって大きな衝撃だったようだ。Facebookに以下のようにコメントしている。

これは僕の父だ。父は生きていた。苦しませて申し訳ない。一度たりとも、父を愛せなくて申し訳ない。(中略)父を愛している。父に許しを請いたい。独裁者は父を人質に取っている。独裁者が父に何をしようとも、私の耳や口を封じることはできない。

北朝鮮の独裁体制は私の父を利用して、私を揺さぶり、私の証言の信用を落とそうとしている。父は間違いなく独裁体制を恐れているから、息子である私を罵り、父への指令に従わせようとしている。私は言葉では言い表せないくらい傷ついており、その意味では彼らは成功したと言える。(中略)彼らが「北朝鮮に人権問題は存在しない」と主張して真実を覆い隠そうとするなら、もしそれが事実なら、父は出国して私に自由に会いに来たり、私と第三国で面会したりできるはずだ。それもだめなら私が直接、北朝鮮に行くしかない。これ以上、私のせいで父を苦しませたくない。(後略)

シン氏の証言を100%真実と受け取ることへの疑問の声もある。韓国大手紙「東亜日報」の論説委員はコラムで、脱北者から聞き取った結果を以下のように記している。

北朝鮮の収容所で警備員だった安明哲(アン・ミョンチョル)氏は「シン・ドンヒョクを試してみた結果、収容所出身で間違いない。北朝鮮が噓をついている」と話した。しかし、金日成総合大学出身の脱北者で東亜日報記者のチュ・ソンハ氏は「脱北者に対する北朝鮮の人身攻撃は誇張されているが、そこで公開される学歴や経歴は事実の場合が多い」と言う。姜哲煥(カン・チョルファン)氏は家族とともに9歳まで耀徳(ヨドク)収容所に10年間囚われ、釈放後5年後に脱北した。北朝鮮は姜氏を「試験に落ちた石頭」と攻撃するが、耀徳収容所出身ではないと反論することはない。シン氏が、警備が厳重な政治犯収容所からすぐに脱出して1カ月あまりで豆満江を渉って脱北できたと証言することに、疑問を呈する見方もある。

北朝鮮は、シン氏を破壊して国際社会に知られた北朝鮮の人権条項を捏造だと宣伝に利用したいとみられる。たとえシン氏の証言内容に誇張や噓が判明したとして、北朝鮮の国際的なイメージが改善するわけではない。北朝鮮は国全体が収容所だと言っても過言ではない。

「14号収容所脱出」シン・ドンヒョクは「捏造」なのか:東亜日報より 2014/11/19 03:00)

国連総会の委員会決議採択の日、シン氏は以下のように記した。

(前略)独裁者と北朝鮮の高官は、決議案を却下させようと数多の努力を払った。私の父をメディアに引きずり出し、私の証言は完全に噓だと宣伝し、徹底的に私と家族を脅した。しかし、私たちは勝った。今まさに終わりが来ようとしている。協力してくれたすべての人々に感謝したい。

北朝鮮は11月20日に、さらなる核実験も辞さないとする外務省声明を出したほか、23日には国権の最高機関にあたる国防委員会が「極悪非道な対朝鮮『人権』狂乱劇を無慈悲に粉砕するための未曾有の超強硬対応戦に進入する」と声明を発表するなど、激しく反発している。

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