【ナッツリターン】韓国「財閥3世」という時限爆弾

大韓航空の趙顕娥(チョ・ヒョナ)前副社長が、乗務員のナッツの出し方に怒って飛行機を引き返させた「ナッツリターン」問題は、韓国の巨大財閥系企業で進む世襲の問題を浮き彫りにした。

大韓航空の趙顕娥(チョ・ヒョナ)前副社長が、乗務員のナッツの出し方に怒って飛行機を引き返させた「ナッツリターン」問題は、韓国の巨大財閥系企業で進む世襲の問題を浮き彫りにした。

ハフィントンポスト韓国版に掲載された韓国紙「ハンギョレ」の記事を紹介する。

12月12日、報道陣の前で一連の騒動を謝罪する趙顕娥(チョ・ヒョナ)大韓航空前副社長

■平均28.1歳で入社、31.2歳で役員

韓国経済の主流をなす財閥企業で、創業者3世の経営参画はすでに大幅に進んでいる。国内1位のサムスングループでは創業者3世の李在鎔(イ・ジェヨン)サムスン電子副会長ら、子弟への経営権委譲が進行中で、現代自動車、LG、斗山(ドゥサン)、韓進(ハンジン)など、主要財閥で創業者の孫が役員の座に就いている。

3世たちは正式な入社や昇進のルートから大きく外れている。「ハンギョレ」が調査した結果、国内主要15グループ28人の財閥3世は、平均28.1歳で入社し、31.2歳に役員になっていることが分かった。入社から役員選出までにかかった時間は平均わずか3.1年。韓国経営者総協会(経総)が2014年11月、国内219社を対象に調べたところ、大卒の新入社員が役員に昇進するまでにかかった期間は22.1年だ。

さらに、彼らが経営権を譲り受けるために必要な富を築いたのも、ほとんどが仕事の独占的発注などを通じてだ。大韓航空の趙顕娥(チョ・ヒョナ)前副社長をはじめ、趙ウォンテ副社長、趙顕旼(チョ・ヒョンミン)専務は、韓進グループ系列のオンライン免税店を経営する「サイバースカイ」と情報通信会社「ユニコンバース」などの大株主だ。きょうだい3人でそれぞれ100%、85%の株式を保有しており、2013年の内部取引の売上高は、売上げ全体の83%、66%に上る。また、李在鎔サムスン電子副会長をはじめサムスンオーナー一家のきょうだい3人も、系列内取引で成長した三星SDSと第一毛織(旧エバーランド)の上場で数兆ウォンの差益となり、元金の200~300倍にのぼる投資収益を得た。

これらの現象は、大半の財閥でほぼ共通している。SK系列のSK C&C、韓化(ハンファ)系列のハンファS&Cなど情報通信会社や、現代自動車グループのイノーション、ロッテのテホン企画など広告会社の大株主は財閥3世たちで、経営資源はグループ内から出ており、売上や営業利益はグループ平均よりはるかに高い。

財閥3世は、道徳面や経営能力を十分検証されていないと評価されるケースが多い。問題は、彼らの過失が単に個人にとどまらず、企業、さらには社会にまで悪影響を及ぼしかねないことだ。大韓航空の場合、毎年500億ウォン前後を広告費として支出しているが、趙前副社長によるブランドイメージの損失は、これをはるかに上回ると推定される。

■「楽で華やかな広告・情報通信ばかり」

イギリスの週刊誌「エコノミスト」は2011年、サムスン電子の李在鎔副会長の昇進をめぐって「ビジネス感覚を身につけていれば大丈夫。もし違ったら韓国全体が苦痛を味わうかもしれない」と伝えた。これはサムスンだけでなく、国内の財閥も同じだ。暁星(ヒョソン)グループの場合、趙錫来(チョ・ソンネ)会長は粉飾会計による法人税脱税などの疑いで、長男の趙顕俊(チョ・ヒョンジュン)社長は海外の偽名口座を使った脱税の疑いで起訴され、企業ブランドと経営を傷つけている。

ある大手財閥グループの幹部役員は「苦労した創業者、その過程を見守ってきた2世と違い、1970~80年代の高度成長期に生まれた財閥3世は経験で劣る。幼い頃から好景気の恩恵にあずかり、周囲の人を助けることを知らず、企業経営も楽で華やかな広告・情報通信にばかり集中する傾向がある」と話した。

「ナッツリターン」に見られるように、経営者一族、特に経験と力量が足りない3世たちは誤った行動で企業に甚大な打撃を与えかねない時限爆弾だ。このため、オーナー一家の専横を食い止められるような制度を設け、企業内の経営権継承のために独自のプログラムをつくるべきだと指摘する人もいる。市民団体「経済改革連帯」のチェ・イベ会計士は「経営陣の提案に賛成するだけの社外役員制度を、その趣旨に合うように情報と権限を与え、経営の透明性を高めなければならない。企業自ら経経営権継承のためのプログラムで、競争力を備えた後継者を養成しなければならない」と話した。

根本的には、オーナー一家の子供が例外なしに株はもちろん、経営権も受け継ぐ慣行から脱しなければならないという指摘もある。ソン・ウォングン慶南科学技術大学教授(産業経済学)は「オーナー一家の子供だからといって、無条件に経営に参加して経営権を受け継ぐ時代はすでに過ぎた。海外の大企業のように、大株主の子女たちが所有権を受け取るのではなく、企業所有と経営の分離や、数十年にわたって経営能力を検証された人物だけが経営に参加できる方式に変わるべきだ」と話した。

オーナー一家の意識を変えるべきだという指摘は、財界内部からも出ている.財閥グループの系列研修機関の役員は「オーナー一家として帝王的なリーダーシップを維持しようとすると、(企業が)生き残れない。社会が発展したのだから、財閥のリーダーシップも変わらなければならない」と話した。

サムスンの後継者と目される創業者3世の李在鎔(イ・ジェヨン)氏

■「継承問題はグループ内でも一種の『聖域』」

財閥3世は20代半ばや後半に父親の会社に入社し、さしたる検証もなしに30代前半から半ばで役員に昇進し、40歳前に社長など最高経営者の地位に就く。ロッテのように他の会社で修行するケースは例外的だ。ロッテのある役員は「辛東彬(シン・ドンビン)会長(ロッテの創業者2世)は若いころ、日本の野村証券で8年間働き、辛会長の長男(ロッテ3世)は、その伝統に沿って2年前に野村証券に入社した」と話す。

実績が不振でも責任を取らずにすむ役職だけを受け持ちながら、最高経営者に昇進する場合が多い。サムスンのオーナー3世の李在鎔副会長も、この指摘を免れない。李副会長は33歳で初めて役員に昇進後、42歳で系列企業の社長となり、44歳で副会長になった。それでも韓国の財閥では相対的に遅い方だ。

趙顕娥(チョ・ヒョナ)・大韓航空副社長の父、趙亮鎬(チョ・ヤンホ)韓進グループ会長は、娘の過ちを直接謝罪し、すべての役職から退かせると発表した。しかし、いずれ趙前副社長は復帰するとの見方が多い。トップが背任、横領、脱税などで処罰され、経営から退いても、やがて経営に復帰するのが今までの慣行だ。今回の件を契機に、世襲経営でも経営能力のある人物を厳選する必要性が提起されている。しかし、財界でこれを正面から指摘する人はほとんどいない。大手財閥系列のある建設会社の役員は「継承問題はグループ内でも一種の『聖域』だ。会長の耳に入ったらすぐにクビになるから、誰も言い出さない」と打ち明けた。

財閥が韓国経済に占める大きな割合を考えれば、財閥3世の「リスク」をこれ以上放置してはならない時期にさしかかっている。複数の財閥系企業で働いた経験のある専門経営者は「大多数の財閥3世は幼い頃から王族のようにもてなされ、会社に入っても超高速で昇進するため、傍若無人になりやすい。3世は一般市民との交流がほとんどなく、似た境遇同士の狭い人間関係の中だけで暮らしているから、国民が何を考えているかよく知らない」と批判する。

暁星グループの3世で、王座を自ら降りた趙顕文(チョ・ヒョンムン)元暁星副社長は「多くの財閥3世は、創業者や2世に比べて起業家精神が足りず、企業の金と自分の金を区別せず、金を手にしたら法律違反もあまり意に介さない。こいう3世が淘汰されない限り、財閥の未来はない」と指摘した。

この記事はハフポスト韓国版に掲載されたものを翻訳、要約しました。(前編後編

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