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「現実を暴露しただけだ」黒人エリック・ガーナーが警察に絞殺される瞬間を撮影した男、4年間刑務所に入る

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ラスベガス ー ラムジー・オルタは時々泣きながら目を覚ますことがあるという。しかし、何で泣いていたかは、自分ではわからない。

何日か経って、突然その夢を思い出す。7月なのに肌寒かったあの日、スタテン・アイランドのあの通りで友人のエリック・ガーナーが警察官に背後から腕を回され、チョークホールドで首を締められている様子を撮影している、あの夢だ。

ただ、この夢では自分の首に誰かの腕が巻き付けられ、きつくきつく首を絞めつけられる。息ができなくなるまで。

「そして全てが真っ暗になるんだ」と、オルタは言った。

彼はこんな夢も見るという。警察に追われ逃走している夢、公園でフードを被った何者かが彼に歩み寄り、銃で撃たれる夢。

「俺が見る夢のほとんどは、ひどい夢ばかりさ。最後にいい夢を見たのがいつだったかも覚えてないさ」


ラスベガスでのラムジー・オルタ。CHRISTOPHER MATHIAS HUFFINGTON POST

2014年7月17日、オルタは自分の携帯電話でアメリカ史上最も忌まわしい動画を撮影した。その2年後、彼はスタテン・アイランドから遠く離れた、ラスベガスの狭いアパートのエアコンの側に置かれたソファーに座っている。

この夏、ニューヨークの裁判官はオルタに、彼の妻が住んでいるネバダ州で10月まで滞在する許可を与えた。その後はニューヨークに戻り 、2014年にさかのぼる銃と麻薬の不法所持容疑で司法取引に応じた結果として4年間服役する。

波乱に満ちた恋人付き合いを経て、2015年12月に結婚した彼の妻ジェシカ・ホリー(彼女は活動家で、別名ベラ・エイコー) は今、彼と一緒に色々な段取りをつけている。だから彼は今、太陽の降り注ぐベガスのチャイナタウンに近い妻の友人の低層アパートに泊めてもらっている。

時折、彼はニューポートというタバコを吸うために43度の暑さの中、屋外に出て行く。そのタバコは、あの日、ガーナーが警察官たちにタバコの密売の容疑をかけられた時に売っていたものと同じブランドだ。現在24歳のオルタはかなり痩せていて(逮捕記録によると彼の体重は115ポンド 、 52キロ)、くっきりしたあご骨が目立つ。

「ベガスは落ち着いたところだよ。びくびくする必要もないしね。ただこの暑さには参るよ。だからほとんど家の中かエアコンのある屋内で過ごすしかないんだ」と、彼は言った。

しかし、ニューヨークにいるよりはずっとましだと彼は言う。ニューヨークでは誰かに狙われていないかアパートのドアを監視したり、窓から外の様子をうかがったりと絶えずピリピリしているし、それこそ被害妄想に陥ってしまうという。

「俺が外出すればみんなに見られるし、俺が何者か誰もが知っているよ。どこに行くにしてもジロジロ見られる。特に電車の中ではね」

彼の人生を永遠に変えてしまったあの動画。友人の殺人現場を世界中に広め、彼を活動家への道に追いやり、彼の犯罪歴がタブロイド新聞のネタになり、新しい法律制定への取り組みのきっかけとなり、そして彼曰く「警察が俺を報復の標的にした」動画。この動画はアパートの片隅に置いてある小さなUSBドライブに収められている。

その動画には、当時43歳だったガーナーが課税対象外の"安い不法タバコ"を販売した容疑で逮捕される際に、警官に押さえつけられ、ニューヨーク市警では禁じられているチョークホールドをかけられている様子が映しだされている。地面に突き倒されたガーナーの上に数人の警官たちが馬乗りになる。ガーナーは何度も「息ができない!」と叫ぶ。そして彼の体から力が抜け、ぐったりした。

ニューヨーク・デイリー・ニュースは、この動画をネットに投稿し。その日のうちに動画は拡散され、抗議行動がアメリカ国内で急速に広がっていった。「息ができない」というフレーズは、勢いを増して拡大していった黒人の命の尊さを訴える『黒人の命だって大切だ(ブラック・ライブズ・マター)」運動のスローガンとなった。そしてエリック・ガーナーの名は、黒人やラテン系アメリカ人が犯罪事件の標的にされてきた刑事司法制度の矛盾を示す象徴となった。

オルタはあの動画を毎日観ると言う。ガーナーについて書かれた記事には、たいてい動画も一緒に載せられる。あの日携帯を取り出し、録画ボタンを押したことを彼は後悔していない。


ASSOCIATED PRESS

「俺は、今まで長い間存在していたある現実を世の中に暴露しただけなんだ。あれを撮ったことで、俺はみんなが自分のカメラで世界中の警察の残虐行為を撮るきっかけを作った思う」と、オルタは言った。

彼の映像は警察と黒人やラテン系アメリカ人の間での起きている暴力や、時には死をも招く警察による暴力の現場を撮影した、動画のきっかけとなった。犠牲になったのは、ジョン・クロフォード3世タミール・ライスアントニオ・ザンブラーノ・モンテスチャーリー"アフリカ" ケナングウォルター・スコットフレディ・グレイエリック・ハリストニー・ロビンソンルベン・ガルシア・ビリャルパンドテキサス州の丸腰だった15歳の少女サンドラ・ブランドサミュエル・ドゥボースクリスチャン・テイラーサウスカロライナ州の高校生ザカリー・ハモンドナターシャ・マッケナラクアン・マクドナルドアルトン・スターリングフィランド・カスティーリャ

ハフポストUS版が7月にインタビューしたとき、オルタはカスティーリャの射殺事件の動画を初めて見た。

「これはひどすぎるよ」と、オルタは言った。

「怒り以外の何ものでもないよ。とんでもないよ。だから俺は警察官があんなことになったとき、気の毒には思えなかったんだ」

「あんなこと」とは、7月にルイジアナ州バトンルージュ、そしてダラスで警察官8人が射殺された事件を指している。

ダラスでの警察官銃撃事件の後、オルタは「大泣きしろよ、いい気味だ」とツイートしている。「警察が殺されたって!俺は嬉しいよ、心から。今年だけで559人の市民が警察に殺害されているんだ?? 死んだ警官も警察自体もクソ食らえだ??」

このツイートや、彼がTwitterやFacebookで反警察的なメッセージを投稿していることについて聞かれた彼は、「俺は過激なアクティビスト(活動家)だからね。俺はエリック・ガーナーの殺害事件より前から、この問題に関わってきてるんだ。そして今、俺は声を上げた。そして俺に支持者が集まったきたんだ。あのコメントで俺はフォロワーを失うことはなかったし、むしろフォロワーが増えているよ」

彼は以前から警察に嫌悪感を持っていたし、警察を信頼することもなかった。彼のニューヨーク市警との最初の記憶は彼が8歳の時にさかのぼる。彼と彼の母親がマンハッタンのベンチに座っていたときだった。警察官が近づいてきて母親に話しかけてきた。

「その警官が俺の母親をビッチと呼んだんだ。俺は警官に近づいて、奴の拳銃に手を伸ばした」

「そいつは飛び上がって、銃を取り出し俺に向けた。母親は驚いてベンチから飛び上がり悲鳴をあげた。そしたら奴らは母親を逮捕したんだ」と、オルタは言った。


母、エミリー・メルカドに抱っこされている赤ちゃんだった頃のラムジー・オルタ COURTESY EMILY MERCADO

オルタは自分の過去2年間の一連の逮捕歴を見れば、ニューヨーク市警がいかに彼を目の敵にしているかわかると言った。

2014年8月、ガーナーの殺害事件を撮った数週間後、オルタは銃違法所持の罪で逮捕された。ニューヨーク市警によるとオルタは17歳の少女のウエストバンドに銃を隠そうとしていたという。

しかしオルタと彼の支援者たちは、彼は銃を所持したことは一度もなく、この逮捕は警察による報復以外何ものでもないと主張している。

「どんなバカな犯罪者だって、野外でそんなことしちゃいけないって分かるはず。だから、この逮捕に関しては全て辻褄が合わないんです」。当時のオルタのガールフレンド、クリッシー・オルティスは地元メディア「スタテン・アイランド・アドバンス」に語った。

「月にでも引っ越さなければ、私たちは安心して生活なんて出来ない」と彼女は付け加えた。

ニューヨーク市内最大の警察組合、巡視の慈善協会の会長を務めるパット・リンチ氏は、オルタの逮捕に関して異なる見解を示した。「警察官たちを悪の根源と決め付けることで一番恩恵を受けるのは、違法に銃を所持しているオルタ氏のような犯罪者なんです」と、彼は述べた。

2015年2月、警察はオルタの家族の家を強制捜査し、ヘロイン、覚醒剤、コカインと大麻を販売していたとの罪で、彼と母親、そして兄弟を逮捕した。警察はその密売現場を撮影していたという。

「オルタは例の動画を撮影した。だから今度は我々も動画に撮ったのさ」と、匿名の警察官がデイリー・ニュースに冗談ぽく語った。

オルタはその年の6月、他の麻薬関連の罪でも逮捕された。7日間刑務所に拘留されたが、後に容疑は取り下げられた。2016年の夏、彼はこうした逮捕は彼に対する警察の報復行為だと主張し「警察の蛮行に抗議する基本的人権の行使」として市を相手取り1000万ドル(約10億円)の訴訟を起こした。

訴状には、「オルタ氏は、警察による非人道的な暴力行為や犠牲者を助ける立場にいる救急隊員の過失を世に知らしめたことに、彼のプロフェッショナルなジャーナリズムが賞賛され、メディアから高く評価された。その代わりに、ニューヨーク市警による誹謗と中傷を受け、虚偽と捏造による容疑を幾度となくかけられ、逮捕された」と、書かれている。

オルタはライカーズ島刑務所の刑務官が彼の食事に殺鼠剤を混入したという申し立てをし、2015年に、別の訴訟を提起した(他に19人の受刑者も個別に同じ訴訟を起こしている)。彼はまた2016年の3月に受け取った召喚状に関しても告訴する意向を市に通告した。オルタは、総額3000万ドル(約30億円)の損害賠償を市に求めている。

ニューヨーク市警は、オルタの申し立てについてコメントしなかった。オルタは最終的に銃と麻薬の不法所持容疑で司法取引に応じた。


2015年7月1日にマンハッタン刑事裁判所に出頭したオルタ。NEW YORK DAILY NEWS VIA GETTY IMAGES

「自分たちの部署内でも内部告発者を懲戒解雇するような警察ですよ。『警察がラムジーを報復の標的にすることなんてない』と思うなら、よっぽど考えが甘いとしか言いようがない」と、ニューヨークの人権活動家でオルタの友人ジョスマー・トルヒーヨはハフポストUS版に語った。

彼は「フランク・セルピコやエイドリアン・スクールクラフトのケースを考えてみてください」と、部署の汚職を告発懲戒処分を受けた2人の元ニューヨーク市警察官の名前を挙げた。「合法的なマフィアとも言えるニューヨーク市警が、ラムジーのような人間を自由にさせておくなんて考える人が果たしているでしょうか。彼の撮った動画は警察だけでなく刑事司法制度の正当性を大きく揺るがしたことは確かです。彼はマークされている男です。ですから彼をサポートする運動がもっと起きるべきなのです」

それでもオルタ自身の犯罪歴を見ると、警察による嫌がらせや監視を受けたとする彼の主張をそのまま受け入れることは容易ではない。別の匿名の警察官が、2014年の逮捕後、オルタには「強姦、暴行やカッターナイフでの強盗を含む24件の逮捕歴がある」と、ニューヨーク・ポストに語った。オルタの弁護士は、彼の実際の逮捕件数はそれよりももっと少なく、オルタは強姦で起訴されたことは一度もなく、このように彼の犯罪歴を漏洩することはニューヨーク市警の彼に対する中傷以外の何ものでもないと主張する。

「俺は今までに一度たりとも強姦で捕まったことはないさ」と、オルタはハフポストに語った。彼は2016年の初め自分のFacebookに逮捕記録のコピーを掲載した。それによると2010年に18歳になってから今まで15回逮捕されと記されているが、その中に強姦罪は含まれていなかった。

しかし、デイリー・ニュースによると、検察官は彼が18歳のとき、12歳の少女と性的関係を持ち児童福祉を危険にさらしたとのことで軽犯罪に問われ罪状を認めていると語った。それは青少年犯罪者判決とみなされたため逮捕記録には掲載されていない可能性もある。

オルタの弁護士の一人、ケン・ペリー氏はその有罪判決に異議を唱えなかったが、マスコミにそのような情報を公開することは検察の不正行為だという。


黒人活動家アル・シャープトン牧師は2014年7月23日ニューヨークのブルックリンで行われたエリック・ガーナーの葬儀の際オルタを紹介した。

オルタは、「今にして思えば、あのとき警察が俺を捕らえようとしていたことを知るべきだった」と振り返る。ガーナーが死んだ日の夜、警察が彼のアパートにやって来たと彼は語る。

「俺はあの夜、一晩中Xboxをやっていたんだ」とオルタは語った。自分がまだショック状態であり、「朝の4時か5時ごろまで眠れなかったんだ。そしてそのときだった。警察が俺の窓にスポットライトを当てて、部屋の中を照らしたんだ」

ニューヨーク市警に対するオルタの申し立てを立証することは難しいが、一方でそのような警察の行動は警官を撮影した人に対し警察が頻繁に用いる嫌がらせの方法と一致している。

8月初め、8人のオスカー受賞者を含む40人のドキュメンタリー映画制作者のグループが、警察による暴力を映像に収める市民ジャーナリストに警察が嫌がらせし、標的にしている実態を調査するよう求める公開書簡を司法省に提出した

書簡にはスターリング、カスティーリャ、グレーとガーナーの死を撮影した人たちが、後に逮捕されたことを指摘している。

「大手メディアは、こうした市民ジャーナリストが撮影した画像は取り上げる。しかし、その映像が記録され、公開される方法について、そしてこうした関係者に罰則が課されていることに関しては全く関心を寄せない」と指摘している。

市民ジャーナリストの仕事は極めて重要だと、書簡には書かれている。なぜなら、こうした動画により「我々のリーダーたちが何世紀もかけて隠し続けてきた真実、つまり『黒人の命だって大切だ』という真実を白人のアメリカ人はもはや無視できなくなったからだ」


2014年12月5日、デイリー・ニュースは、 第一面にオルタの特集記事を載せた。NEW YORK DAILY NEWS VIA GETTY IMAGES

オルタの法的なトラブルを追う中で、警察改革を求める活動家のなかに明確な事実が浮かび上がってきた。ガーナー殺害現場にいた中で投獄されるのは、現場を撮影した彼一人だけだ。

検察医はガーナーの死を殺人と結論付けたが、2014年、大陪審は事件に関係したニューヨーク市の警官に不起訴の決定を下した(オルタは大陪審で証言したが、実際証人席に立ったのは10分間だけで、陪審員の誰一人として彼の証言には真剣に耳を傾けたものはいなかった、と彼は言う)。ガーナーの死に関する調査はまだ進行中だ。ガーナーにチョークホールドをかけた警官のダニエル・パンタレオは、ニューヨーク市警の懲戒裁判にかけられるが、その結果が公開されないこともあり得る。

「俺は今、自分がもっと若かった頃とは違う考え方をしている」と、オルタは服役前の心境を語った。「以前は俺は刑務所を剣闘士養成所みたいに思っていた。でも今は違う。俺は学ぶために、そして高校の卒業証書や大学の単位を取るためにあそこに行くんだ」

オルタは自分の残りの人生を活動家として送るつもりだという。警察に対処する方法、そして彼らを撮影する方法を人々に教える。しかし、他にも人生プランがあるという。自分の2人のまだ幼い娘たちを養っていくために造園業を始めるかもしれない。

また、妻が所有しているミシシッピ州の40エーカーの土地に建てる家の設計図をすでに描き上げているという。

彼は絵をたくさん描く。自分のタトゥーの多くもオリジナルなデザインだという。

彼の母親や祖母の名前、ニューヨーク市の様々なコラージュなどもある。エンパイア・ステート・ビル、自由の女神、彼が育ったバルークの住宅プロジェクト、地下鉄、理髪店、そして、誰かが撃たれている絵。

タトゥーの一つに「魔が差した」とある。オルタが言うには、これは「ニューヨークで育ち、トラブルを起こす」ことが一体どういうことかを説明しているという。もう一つのタトゥーには、「神様でさえ我を裁くことはできない」とある。

「俺は信心深い人間なんかじゃない。だからいつも問題を起こしていた。そしてそんなときよくみんなに言われたよ、教会に行けとか祈りを捧げろとか神を信じろとか、そうすれば助かるよってね。でも実際それが助けになったって感じたことは一度もなかったよ」と、オルタは言った。「だって見てみろよ、今俺たちが生きている世の中を。それこそ何百万人の人が彼らの信じる神に祈っている。でも現実はこれだよ。だから誰も俺を裁くことはできないのさ、たとえ神と呼ばれるものでさえもね」

ハフポストUS版より翻訳しました。

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