安倍首相「子供の貧困は大きく改善した」→ネットから疑問の声「使ったデータは?」

安倍晋三首相が講演で、安倍政権になって「相対的貧困率が大きく改善した」などと語った。これに対して「どのデータを使った発言なのか?」などの声が多数上がっている。
首相官邸 公式サイトより

安倍晋三首相は12月8日、都内で開催された「年末エコノミスト懇親会」の講演で、安倍政権になって「相対的貧困率が大きく改善した」などと語った

これに対してTwitterでは、「どのデータを使った発言なのか?」などの声が多数上がっている。政府が「子供の貧困対策に関する大綱」で示した指標や、経済協力開発機構(OECD)などで使われるデータとは、異なる手法で調査されたデータについて言及したのではないかというのだ。安倍首相が使ったデータについて調べてみた。

■安倍首相はなんと発言した?

安倍首相はこの日、「ヨーロッパで起こっていること、あるいはアメリカで起こっていること、政治が不安定化するのは、やはりこれ、格差が広がっていくことによって、それに起因する結果であろうと思います」などとコメント。一方で、この日の日経平均株価が、終値としては年初来高値となる1万8765円を付けたことに言及し、「おかげさまで日本は、政治も経済も安定していることによって、市場も底堅い」などと世界と日本を比較。子供の相対的貧困率を挙げ、次のように語った。

「先般、相対的貧困率が発表されました。15年前に、この数値をとり始めたわけでありますが、15年間、5年ごとに出ているわけでありますが、初めて相対的貧困率が改善したわけであります。

随分、私も国会において、安倍政権で相対的貧困率が悪くなっているのではないか、とこういう批判を受けてきたわけですが、安倍政権の間はまだどうなっているのかという指標がこれ、出なかったんですね。出ないにも関わらず、どういうわけか安倍政権は批判をされていた状況が続いていたわけですが、幸い私たちが進めている政策によって改善した。

特に、子供の相対的貧困率が、大きく改善をしました。(指標を)とり始めた15年前は、9.2。そして次が、9.7。そしてその次の5年後が、9.9。ずっと上げてきて、いよいよ2桁に入るかとこう思われたんですね。7.9に下がった。安倍政権で下がった。これは拍手をする場所ですから、さっそく世耕経済産業大臣が大きく拍手をしていただきました。

これはですね。私たちの政策によってしっかりと賃金が上がっていることの証左であろうと。一部の、ここにいる皆さんのような、収入の高い人たちの収入が上がるというだけではなく、ボーダーでいた世帯の収入が上がったことによって、子供の相対的貧困率が大きく改善をした。我々が進めている政策の方向性は間違っていないと、このように思いますが、まだまだ道半ばでありますので、さらに力を入れていきたいと、このように思っております」

■安倍首相が語った相対的貧困率はどのデータ?

相対的貧困率とは、所得の中央値のさらに半分(貧困線)を下回っている人の割合。子供の相対的貧困率は、18歳未満の子供全体に対してどれぐらいの割合が貧困線以下で暮らしているかを示す。

政府が発表する子供の相対貧困率のデータとしては、厚生労働省の「国民生活基礎調査」と総務省の「全国消費実態調査」があるが、安倍首相がこの日の講演で語った子供の相対的貧困率は、総務省が10月31日に発表した「2014年全国消費実態調査」によるもので、貧困線は132万円に設定されている。こちらのデータでは、前回調査の2009年に比べて子供の相対的貧困率が低下した。

厚生労働省「平成25年国民生活基礎調査」より

内閣府などが2015年12年、「国民生活基礎調査」と「全国消費実態調査」の相対貧困率の違いを調査分析したところ、

・全国消費実態調査は、相対的に4 歳未満の世帯や単身世帯が多く、国民生活基礎調査は、高齢者世帯や郡部・町村居住者が多い

・全国消費実態調査で収入の低いサンプルが少なく、国民生活基礎調査で収入が低いサンプルが多い

などの違いが見られた。

厚生労働省「平成25年国民生活基礎調査」と総務省「平成26年全国消費実態調査」よりハフィントンポスト作成

首都大学東京の阿部彩教授ら貧困問題を扱う研究者のグループの提言資料によると、「全国消費実態調査」には次のような懸念があるという。

「全国消費実態調査」の所得データは、全消の消費データ、また、物質的剥奪変数ともかい離しており用いることに疑問が残る。また、全消の消費データは、住宅費や医療費、学資保険の扱いなどにおいても、まだ課題が多く、また国際比較のための他国との整合性も困難である。(中略)

物質的剥奪は、「3食の食事を食べることができた」、「自転車を持っているか」など、その人が享受している生活の質を直接測る方法であり、所得データの短所を補完する指標として有効な測定方法である。EU、OECD などの国際機関に加え、EU 加盟国の大多数が公的貧困指標として採用している。

(「子どもの貧困指標ー研究者からの提案ー」より。)

なお、OECDなどが各国の相対貧困率を比較する時に用いるのは、「国民生活基礎調査」のほうで、政府が2014年8月に発表した「子供の貧困対策に関する大綱」でも、子供の貧困に関する指標としては、「国民生活基礎調査」のデータを用いて検証・評価するとしている。「国民生活基礎調査」で次回子供の相対貧困率のデータ(2018年分)が掲載されるのは2017年7月の予定

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