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WELQの問題で改めて考える、信頼できるネットの医療情報とは? 朽木誠一郎さんに聞く

2016年12月08日 18時47分 JST | 更新 2016年12月09日 00時28分 JST

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「まとめサイト」の運営について陳謝するDeNA(ディー・エヌ・エー)の南場智子会長(手前)、守安功社長(中央)ら=7日、東京都渋谷区

DeNAが運営していた健康情報サイト「WELQ」を、内容に問題のある記事が多いとして非公開にした問題は、「MERY」などDeNAの投稿型情報サイトもすべて非公開となり、サイバーエージェントやLINEなど大手ネット企業が相次いで対策を発表するなど、業界に波紋が広がっている。ただ、ネットに詳しい人以外にはわかりにくい。

WELQの問題の特徴は、人の生命を左右しうる医療情報が粗製濫造され、ネットの検索上位を占め続けていたことだった。その結果、ネット情報の信頼性は大きく揺らいだ。

群馬大医学部を卒業したライターの朽木誠一郎さんは、こうした観点から最初にこの問題を指摘していた。何が問題だったのか、ユーザーはどの情報を信じればいいのか、改めて解説してもらった。

――朽木さんは2016年9月に、初めてWELQの問題を提起しました。

正確に言うと、今年の夏ぐらいにはソーシャルメディア上で話題になっていました。主にアフィリエイトやSEOの関係者が、WELQを含む「DeNAパレット」のメディア群について「SEOが強すぎる」と懸念を示していたんです。医療情報について、記事として発信したのは、知る限りでは私が初めてだったかもしれません。

その過程で医療情報のキュレーションメディアであるWELQの存在を知り、改めて見て、「これはよくない」と思いました。とはいえ、個人的には「パクリや、パクリに近いリライトはよくないけど、複数のサイトの情報を正確に引用した上で、分かりやすくまとめる“キュレーション”という仕組み自体は悪いものではない」という立場です。どちらかというと、記事にいい加減な内容が含まれるために、インターネット上の医療情報の信頼性が揺らいでしまうのは、社会のためにならないという気持ちで発信を始めました。

注:SEO 検索エンジン対策(Search Engine Optimization)のこと。自分のサイトを、Googleなどの検索エンジンで上位に表示されるために様々な対策を講じること。
注:アフィリエイト ネット広告のうち、クリック・コンバージョンを誘導した数に応じて誘導元に報酬が支払われる仕組みのこと。

――医療情報という観点から、WELQは何が問題なのですか?

まず、ネット上の発信者は、医療情報であれば特にですが、文責を担保するために、名前や所属・連絡先などのプロフィールを明らかにすべきです。そこをはっきりさせないまま、人の命に関わる情報を流していたことがまず問題だと感じました。

さらに、医療に関する情報、それも「がん」などのシビアな病気についての情報を発信しているのに、発信者は専門家でない人で、発信される情報はどうやら精査されていない。それがSEO対策の結果、検索上位に来てしまっているのが問題だな、と。そもそも医療情報は、専門教育を受けた人が発信するか、そのような人に取材をしたり、監修してもらったりして発信するべきです。

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WELQ側は投稿された記事に責任を持たないと宣言していました。たしかに、1日100本以上の記事を配信していた時期もあるようですから、おそらくは運営担当者も、全てを細かくチェックできないでしょう。発信者が専門家ではなく、それを掲載するメディアがその内容の信頼性を保証しない、これでは誰が責任を持つのでしょうか。たとえば月間10万ページビュー(PV)の記事があれば、1カ月で10万回見られているということになりますよね。このように、不確かな情報が大量に、人の目に触れやすい状態になっていながら、誰も責任を取れない状況は異常だったと感じます。

専門家による記事をリライトした記事にSEO対策をすることで、専門家が発信する情報よりも検索結果において上に上がってしまい、相対的にいいもの、正しいものが見られなくなってしまう。

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肩こりは幽霊のせい?

それから、そもそも明らかに眉唾と思われる情報もありました。ブラックシード、水素水、「肩が重いのは幽霊のせいだ」などの記事が報道でも話題になりましたよね。強引にアフィリエイトが登場し、メディア運営上問題であるような記事についても報道されています。

総じて、医療情報が特別な領域である、という感覚がなかったのではないでしょうか。専門家の間でさえ、見解が正反対に分かれることもある。医療情報を発信している医師は、万が一、発信した情報に誤りがあれば自分の信頼だけでなく、医療への信頼まで傷ついてしまうため、様々なリスクを覚悟した上で、かなり気を使いながら発信しています。それが専門家のあるべき姿勢であり、社会への責任ではないでしょうか。そんな医療情報の領域において、コンテンツのローコスト・大量生産をしてしまったこと。それがいちばんの問題だと思っています。

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どこまでが記事で、どこまでが宣伝?

医療情報が人の命に関わるという意識、例えば「がん」というキーワードであれば、がんで苦しんでいる患者さんが病気について必死で検索しているという意識ではなく、「数十万PVが放っておいても入ってくるキーワード」という意識だったのではないでしょうか。メディアとしての成長目標を達成したいあまり、たくさんのキーワードを獲得しようとして、このように深く考えることができなかったのかもしれません。

――ただ、そもそもネットの情報は玉石混淆です。

検索順位の下の方であれば、そもそも人の目に触れることも少なかったかも知れません。しかし、そこで上位になってしまっていた。上位を独占しているような病名もありました。インターネットは今や社会のインフラです。方法次第で、いくらでも人を集めることができてしまうんですよね。そして、それは必ずしも、倫理的に正しい方法とは限らないのです。

これだけネットが普及しても、どうすればユーザーが信頼性の高い情報を手に入れられるかは、あまり知られていないように思います。例えば、ネットの情報を見るときに、発信者や運営会社の情報を確認しているでしょうか。それをせずに、情報を気軽にシェアしてしまう現実があると思います。

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キュレーションの本来の役目として、読者のためにさまざまな創意工夫をして、難しい情報を分かりやすくすることがあると思います。しかし、報道にあるようにGoogleの検索順位を上げるために、あちこちからコピペをすることで長文の記事を制作していたのだとすれば、これはキュレーションとも言えないのではないでしょうか。もちろん、専門家が情報発信をするサイトがそもそも読みにくいというのはあるので、比較すればデザインなどは良くなっていると思います。しかし、医療情報の信頼性という意味では、悪貨が良貨を駆逐してしまった状態だったと言えますね。

――そもそもリスクの高い分野でもあるから、そう簡単に参入できないはずでした。

人の命を左右する責任を、気軽に負うことは誰もできないですよね。本来はそれくらい信頼性が重要な分野なので、キュレーションという手法自体がそぐわないとは思います。とはいえ、医療情報の取り扱いについては現状、明確なルールはないので、事業者の倫理感に委ねられていました。結果、グレーゾーンに踏み込む事業者が現れ、この問題が顕在化したような気がします。

――「命に関わるような情報をネットに頼るな、ネットの情報なんか信用するな」という声も聞こえてきそうですが。

まったく情報に触れないというのは、それはそれで現実的ではないでしょう。今の社会において、情報収集のメインになっているのはネットですから、無視できないと思います。物心ついたときから既にスマホが手元にある世代にとっては、ネットも本も関係ない。また、そもそもネットが便利だからここまで問題が大きくなったともいえます。

だからこそ、何がよくて何が悪いかを判別するリテラシーを上げるしかありません。というのも、信頼性が高くない情報が混じっているというのは、雑誌や本でも同じですよね。それを出版社や著者など、一定の基準で見分けるすべが身についている。それをネットに適用するんです。

また、無視はできないが、信じ込まない、という姿勢も重要です。アメリカには「HONコード」という、医療情報をネットで掲載するためのガイドラインがあります。その一節では「ネットの医療情報は、現実の医者と患者の関係をサポートするもの」と位置づけられています。なぜかと言えば、治療や診断ができるのは医療者だけだからです。ネットの情報だけで自己判断で病院を受診せず、結果として症状が悪化してしまったとしたら、それは残念ながら自己責任ということになってしまいます。本であれネットであれ、あくまでサポートとして、参考程度にとどめるという意識は必要でしょう。

――では、どのような情報の信頼性が高いのでしょうか。

まず、名前や所属・連絡先などのプロフィールが明らかになっている専門家の情報は、信頼性が比較的高いと言えるでしょう。とはいえ、専門家にもいろんな意見があります。そのことを知った上で、プロフィールなどの情報をさらに精査し、その情報が本当に信用できるかをさらに判断する、というプロセスが大事になります。また、国立の研究機関や大学医学部、厚生労働省など、非営利の公的機関が発信した情報の方が信頼性は上がると思います。

より具体的には、がん情報なら国立がん研究センターの「がん情報サービス」、難病のガイドラインを検索するなら厚生労働省の「Minds医療情報サービス」。民間でも大企業であれば公共性や信頼性を担保していると判断できるサイトとしては、ファイザーの「がんを学ぶ」や「Yahoo!ヘルスケア」などがあります。大手新聞社が運営している医療情報サイトも同様です。

これはWELQだけの問題ではありません。怪しい広告に誘導するアフィリエイトサイトや、「がんはカウンセリングで治る」と謳うサイト、ホメオパシーなどの代替医療の情報はネットにあふれています。今後、第2、第3のWELQが出てこないとも限りません。「信頼性の低い医療情報の発信を許さない」「ネットの医療情報の信頼性を高めよう」という動きにしなければいけない。何が正しくて、何が間違っているのかの目を、一緒に養っていきましょう。