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地方は"複業"の先進地だった。牧貴士さんに聞いた、いくつもの仕事をすることの魅力

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滋賀県彦根市にある『VOID A PART』。

一つではなく複数の仕事を持つ、という新しい働きかたが注目されている。

一般的な「本業・副業」という考えかたとは少し異なり、どの仕事がメインであるかを定めずに複数の仕事を持つ「複業」や、仕事の他に別の仕事や社会活動などを行う「パラレルキャリア」という自由な発想が誕生している。こうした働きかたは、分業が進み切っている都心よりも、個人がさまざまなスキルを求められる地方のほうが先進地。副収入を得ることだけが目的ではない、さまざまな働きかたが生まれているのだ。

話を聞いたのは、そうした働きかたを実践し、京都府と滋賀県で活動する牧貴士さん。京都にあるクリエイティブ・エージェンシーに在籍してクリエイティブディレクターとして働いているが、同社が他の仕事をすることを認めているため、個人でも仕事をしている。

滋賀県彦根市にあるアトリエ・キッチン・ワークスペース『VOID A PART(ボイド ア パート)』を共同代表として運営したり、一般社団法人『防災ガール』の理事を務めたり、滋賀県内での地域創生事業にも行政と一緒に取り組んだりと、その内容は幅広い。

現在の働きかたやそのメリットについて、牧さんに話を聞いた。

■重要なのはモチベーションよりシミュレーション

――牧さんは24歳である2005年に独立して、事業を始めたと聞きました。

大学卒業後、営業の会社に入社したのですが、独立しました。はじめにやっていたのは、競馬に関するビジネスです。競馬はギャンブルだと認知されています。だけど、好きなものを好きと言えないのが嫌だったので「家族で楽しめるレジャー・スポーツにしたい」という思いから起業しました。

競馬場のある東京・府中に住んでいたこともあり、独学で競馬をするようになったら、競馬新聞を一切見ないで勝てるようになってしまいました。競馬新聞だと、レースに出る馬の比較でしか予想ができないんですよ。

僕の場合は、ほぼすべての馬の全レースをチェックして、「この馬はこういう走り方をするから、このコースのこれくらいの距離が得意だ」と分析していました。そして、その馬が僕が思う好条件で出るときにだけ買うスタイルにしたら、勝てるようになったんです。

その予想技術のノウハウを提供し、好評をいただいていました。その後、競馬の会員制サイトを立ち上げたら、たった3カ月で月商100万円という成果が出ました。

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牧貴士さん。滋賀県長浜市にある、湖北の暮らし案内所『どんどん』にて。

――若くして、ビジネスでお金を稼がれたのですね。

そうするうち、馬から学んだことがあったんです。僕は馬の個性を把握して、「その馬の力が最も発揮されるのはどこか」と分析しました。そしてそれが当たっていたので、「人間も同じなのではないかな」と(笑)。

そこで、本人が気づいていないような持ち味を発揮して、その人が最適な場所にいくお手伝いができるよう、お話を聞いてアドバイスをする事業も始めました。2時間で3万円いただく形で、これまで約500人のお話を聞いてアドバイスをさせていただきました。

大切なのは、その環境において自分のストレスがたまらずに過ごせるかどうか、“自分の導き方”をわかっているかどうかだと思うんです。実は、何かをやるのにモチベーションはまったく必要ないと考えています。重要なのは、モチベーションよりシミュレーションです。

「今の環境で自分をどうエスコートしていくか」を考えて、その方向に進めるようにする。モチベーションはやる気の感情的な問題として、楽しくやるためには必要かもしれませんけど、やりたいことをやるには必要ないんです。日々決めたことを淡々とやれば、目標には近づいていきますから。淡々と続けていく「継続」が一番大事ですよね。

■自分に足りないスキルを身につけるための就職

――その考えかたが、現在の「複業」につながっていったのですか。

そういうことにこだわったわけではないですが、やりたいことが多すぎて、やっているうちに、いろいろやっていたという感じです。他にはセミナーの講師やWeb制作、若い起業家のための起業スクール、学生のインターン支援、スマートフォンのアプリケーション開発などの事業を行っていました。

いろいろな事業に携わってみると、うまくいくものとうまくいかないものがあるんですよね。その原因を考えたとき、自分に足りないものは、プロジェクトをマネジメントしてディレクションするスキルだと分かりました。

やるからには成功させたいので、それを学びたい。自分にはそのスキルが必要だと。それが学べるところが、今勤めている会社だったんです。修業しようと思い、2015年に入社しました。地元への想いがあって、その前の2011年に東京から出身地の滋賀に戻っていたんです。

――クリエイティブ・エージェンシーでは、牧さんはどんなお仕事をしているのですか。

主にWeb制作です。クライアントの予算やスケジュールに合わせて、クリエイターと制作を進めていきます。実は、以前はそういう段取りが全然できなかったんですよ。今でもすごく苦手でわりとつらいことも多いのですが、この歳で成長できるのって貴重ですし、放っておいたら僕は好きなことしかしないので(笑)、すごく楽しいです。自分のレベルアップになっています。平日は10時から19時まで働いています。

平日の夜や土日の時間は、それ以外の仕事や活動をしています。他の活動とのバランスを取るのは大変なんですけど、勤めるメリットがたくさんあるので、今のところ辞める気はありません。幅広い事業を行っているので、ここに勤めていないと出会えないような人に出会えるんです。

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■おもしろくないからこそ、おもしろくできる

――社外での仕事として、2016年4月に滋賀県彦根市に『VOID A PART』をオープンさせましたね。

はい。僕は生まれは大分なんですが、育ったのが滋賀県で、自分が育った町がおもしろくないのがいやなんですよね。Uターンして「滋賀はいいところだな」と改めて感じて、せっかくなら滋賀をおもしろくしたいと。でも、関西には京都や大阪など個性の強い府県があるせいか、滋賀の人の多くは「滋賀には何もない」と思っているんです(笑)。実は自然も食も豊かだし、都会への交通も便利で、何でもあるんですけどね。

そういう場だからこそやりがいがあるし、うまくいけば目立てると考えていました。具体的なプロジェクトではなかったけれど、「滋賀でこうしたらよさそうだな」というイメージが思い浮かんだんです。

そこで2015年春、Twitterで「滋賀でやりたいことがわかった気がする」とつぶやいたら、滋賀で生花を使ったものづくりをしている『ハコミドリ』の周防苑子から突然「相談があるんです」と連絡がきました。


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廃材からつくるハコと植物をあわせた『ハコミドリ』の商品。

『ハコミドリ』は既に人気が出ていて、アトリエの空間を持ちたがっていたのですが、彼女は当時滋賀を出ていくかどうかで悩んでいました。僕は「今出ていくのはもったいない。おもしろくないからこそ、おもしろくできる。僕も場所を持ちたいので、一緒に責任を持ってやるから、動いたほうがいい」と話したんです。彼女は行動力があって、僕がそう話した翌日くらいに物件を見つけてきました。すぐに「決まり。やるよ!」と伝えましたね。

『ハコミドリ』のアトリエをメインに、キッチンやワークスペースを付けてオープンしました。一般の人に出入りしてもらって、おもしろい出来事やプロジェクトが生まれていったらいいなと。マルシェなど、イベントも積極的に行っています。滋賀を全国的にアピールして、外からいろいろな人に来てもらって交流人口を増やしていきたいです。共同代表ではありますが、会社員でもある僕は基本的に裏方で、店舗には周防が立っています。

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『VOID A PART』の外観。琵琶湖のほとりにあり県外からの客も多い。


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イベントを積極的に行い、発信や交流の場になっている。


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古本を購入できたり、食事も楽しめるなど、さまざまな使い方ができる空間だ。

■「複業」は相乗効果があり、多様性が身につく

――牧さんは柔軟に環境を変えて働き、複数の仕事をいい意味で活用しているのですね。「複業」の魅力やメリットは何でしょうか。

前提として、複数の仕事をマネジメントできる力が重要です。そのうえで、一方の仕事をしているときにもう一方の仕事のアイデアが浮かんだり、一方で経験したことをもう一方に活かしたりすることはよくあります。

仕事が好きであれば、いろいろな出来事をすべて生かすような考えかたになるので、多様性が身につきやすくなるのではないでしょうか。一緒にしたほうがおもしろくなりそうだと感じたときには、2つの仕事でそれぞれ出会った人を積極的につなげようとします。だから、いろいろな物事をつなげていく訓練にもなっていますね。

また、リフレッシュにもなりますよ。例えば、一方の仕事で失敗したときには、もう一方の仕事が気分転換になることもあります。

僕の基本的な考えかたは、「どうすれば夢に少しでも近づけるか?」です。手持ちのカードでどれがいいかを決めていて、夢が叶うのならやりかたは何でもいいんです。だから過去の栄光や実績にすがることはないし、変化もまったく怖くないので、ゼロから何かを始めることも問題ないんです。繋がりがないように見えるところにこそ、イノベーションが潜んでいるかもしれませんし。

――牧さんの夢とは何ですか?

実は僕が小6のとき、小4の弟が白血病で亡くなったんです。母は弟のことを思い出して毎日泣いていて、高2くらいまでそれが続きました。一番見て欲しい母にあまり好かれていないように感じてしまって、僕にとっても孤独でつらい時期でした。

「愛されたい」「注目されたい」という願望が強く、分野はなんでもいいから「世界一になりたい」と思いました。それで中1のときから「社長になりたい」という夢を持ったんです。夢があるからこそ頑張れました。未来に希望があれば、今を踏ん張ることができるんですよね。人は安心できる・守られる“場”がないと、頑張りづらいと思うんです。

僕が守れる“場”になって、誰もがやりたいことをやれる世界をつくるのが夢ですね。世界中を対象にしているので、死ぬまで叶わないくらいの規模だと思います(笑)。でも、死ぬまで追い続けられるから幸せです。

東京で起業したとき、お金がなくてできなかったことがたくさんありました。お金がないからできないなんてことも他の人には経験して欲しくないので、いずれはベンチャーキャピタルを滋賀でやりたいと考えています。僕は今の仕事を通じて、自分が目指す社会の土壌づくりをしています。

(取材・文:小久保よしの 写真提供:VOID A PART)

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