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水平と垂直を極めた旅人、石川直樹さん。20年間の旅のすべてを個展で振り返る

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北極点から南極点までを人力で踏破。

23歳でエベレスト含む七大陸最高峰を史上最年少(当時)で登頂。

熱気球で太平洋横断にチャレンジし、ニュージーランドの原生林に分け入り、ポリネシアの島々を巡る。

写真家・石川直樹さんがこれまで歩んできた数々の「旅」を振り返ったとき、「この星の光の地図を写す」という個展名は決して大げさなものではないとわかる。

水平に、垂直に。地球という星をこんなにも縦横無尽に歩き回り、写真に収めてきた人は他に類を見ないだろう。

だが、39歳の現在、北米大陸最高峰デナリの単独行成功によって、石川さんは「肉体を酷使する旅の終着点」にたどり着いた。過去の旅を振り返り、次のステージに向かって動き出した今、何を思うのか。石川さんに話を聞いた。

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石川直樹さん

■30代最後の年、これまでの旅の記録をすべて出す

――2016年12月17日から17年2月26日まで水戸芸術館現代美術ギャラリーで開催中の「この星の光の地図を写す」は初の最大規模の個展と聞いています。

1年以上前、K2遠征直前に水戸芸術館現代美術センターの学芸員の方から「展覧会をやりませんか」とお話をいただいたのが始まりです。水戸芸術館は部屋が7つ、8つあるような大きな美術館ですから、そこでやるとなると当然大規模な展示になる。そんな機会は滅多にないので、嬉しかったですね。

――北極、南極、エベレスト含む七大陸最高峰、原生林からポリネシアの島々まで。地球を縦横無尽に旅してきたこれまでの歩みを振り返るような展示になるのでしょうか。

今まで歩いてきた各地の写真はもちろん展示しますが、新作もあります。写真集で編んだものを展示という形にすると、また別の作品として自分の前に立ち上がってくるから面白いですね。過去に出していなかった南極の写真や、ずっと撮り続けているシリーズ「ARCHIPELAGO(アーキペラゴ/群島)」の撮り下ろし、一昨年のK2や去年6月に2度目の登頂を終えたデナリまで、そういうものをすべて出しています。自分の中でも、ちょうどいい区切りのタイミングなので。

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シリーズ「ARCHIPELAGO」(2009)より

――どのような意味での「区切り」なのでしょう。

ぼくは今39歳で、今年40歳になります。まず(展覧会がスタートした2016年が)30代の最後の年だということがひとつ。ふたつめは、一昨年のK2遠征が、登頂は叶わなかったけれども、ヒマラヤをはじめとする高所登山の集大成のような旅になったことです。去年6月に18年ぶりに自分の原点となるアラスカのデナリに単独で登れたことも大きかった。デナリとK2が、肉体を酷使する旅の区切りかな、という実感を持てたので。

去年と一昨年の遠征によって、厳しい場所にカメラを携えて全身を使って歩いていくという旅の、ある種の終着点に行けた気がしています。そういう意味で、ここで一区切りしてもいいんじゃないか、と思っていて、そんな時期にこの個展が重なりました。だからぼくとしてもタイミングがよかったな、と。

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シリーズ「K2」(2015)より

■冒険家・植村直己が命を落としたデナリを単独で登る

――デナリ(6194m)は北米大陸の最高峰。標高は8000mにおよびませんが、高緯度にあるために気候条件はヒマラヤ並み、と語る人もいる過酷な山だと聞きます。

デナリはかつて「マッキンリー」と呼ばれていて、冒険家の植村直己さんが行方不明になった山でもあります。世界中にいろんな山脈がありますが、ヒマラヤ山脈と並んでアラスカ山脈はとりわけ厳しい登山を要求される地域。ぼくが以前に隊の一員としてデナリに登ったのは1998年、20歳のときでしたが、あの山に一人で登れるとは思っていませんでした。

――石川さんは2度のエベレスト登頂にも成功されていますが、具体的にどんな違いがありましたか。

エベレストを登るときはシェルパ族(現地に暮らす山岳民族で、ヒマラヤ登山のガイドや荷運びとして活躍する)の青年たちが固定ロープを張るのを手伝ってくれて、自分の体をそのロープで確保しながら登れるので、滑落などのリスクはだいぶ減ります。でもデナリはそういうことはありません。当然固定ロープは使わないですし、単独で登るということは、誰ともロープを結べないということです。危険な場所でバランスを崩したら一発でアウトですよね。クレバス(雪面や氷の裂け目)に落ちたり、急斜面で滑落したら、助かる可能性は高くない。植村さんはクレバスに落下しても引っかかるように、物干し竿を体の側面にくくりつけていました。それくらいリスクについてはシビアに考えなければいけない山です。

エベレスト登山では、ポーターやヤクがベースキャンプまで荷物を運んでくれますが、デナリではそういうこともできません。さらに単独だと荷物はすべて自分ひとりで、ソリなどを使って運ばなければならない。余分な食糧を持っていくと重さは苦しさになって返ってくるし、軽さを追求し食糧を減らすと登り続けられなくなる。そうした食料の計算や天候の判断まで、すべてを自分でコントロールしなければいけないわけです。登山家でもない自分にそんな登山が本当にできるのか、と不安でした。

でも、2010年から毎年ヒマラヤに通い、一年に一度は、高所に数カ月間滞在してきたので、このあたりで一度原点に戻ろうかな、と思いました。初めて高所登山を体験したデナリを一人で登ることで自分をもう一度試してみよう、という思いが湧いてきたんです。19年間の旅の経験に支えられて、ようやくデナリを一人で登れた、と思っています。最後まで緊張しましたが、今までにない自由な旅となり、自分にとっては大きな節目になりました。

■水平に、垂直に。世界中見渡してもこんなに動いている人はいない

――山、海、空。北極点から南極点を渡り、大陸最高峰の山々に登り、カヌーでポリネシアの島々を巡る。石川さんの「旅」は標高も範囲もバリエーションも、前人未到の領域では。

いえいえ、前人未踏というにはほど遠いです。でも、一人の人間でここまで四方八方に絶えず歩いている人は、そんなに多くないかもしれません。おっしゃるように、垂直軸と水平軸の両方を旅するのは多少の技術も必要になってくるし、単に気持ちだけがあっても難しい。

ぼくがこれまで全速力で突っ走りすぎてきたせいか、自分でも振り返りきれない部分があります。そのあたりも今回の水戸芸の展示で少しでも見通せれば、と思っています。17歳から今日までの20年間以上の軌跡が詰まっている個展になっているんじゃないかな、と。

※後編「就職せず、旅を生業にして生きる。写真家・石川直樹さんが選んだ『誰もやってこなかったこと』」はこちら

(取材・文 阿部花恵

展覧会情報:
石川直樹 この星の光の地図を映す
開催日時/2016年12月17日(土)-2017年2月26日(日)
休館日/月曜日、12月26日~2017年1月3日(火)、1月10日(火)※1月9日(月・祝)開館
会場/水戸芸術館現代美術ギャラリー 
入場料/一般800円
その他、関連企画などの詳細は水戸芸術館公式サイトを参照

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