妻が妊娠して、家事を手伝えなかった夫は、家事代行サービスを起業した。

「自分が家事をやるよ」と張り切ったものの…

加茂雄一さん(34)は大きな監査法人に勤める公認会計士だった。仕事は主に、ベンチャー企業の株式公開を準備すること。社長たちの熱意に心も体も動かされる日々だったが、平日は毎日、終電かタクシーでの帰宅。土日の出勤も珍しくなかった。

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そんなある日、共働きだった妻が妊娠した。「自分が家事をやるよ」と張り切ったものの、それまでは完全に妻任せ。悪戦苦闘して作った料理に妻は一口も手をつけず、掃除をすれば「隅がきれいになっていない」と不機嫌になった。

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では家事代行業を使ってみようと思ったが、電話すると「見積もりの営業マンを派遣します」と言われた。値段も2時間で1万円近く、しかもすぐには来てくれない。「共働きや忙しい人には使いにくいサービスだなあ」と不満が募った。

「営業マンが行かなきゃいけないのか。システムで置き換えられないか」と、仕事の傍ら通っていた経営大学院のクラスメート、池田裕樹さん(38)と意気投合した。ともに子育て世代。大手当時注目を集め始めたタクシー配車のUberや宿泊予約のAirbnbのシステムが参考になった。

「CaSy」CEOの加茂雄一さん(左)と池田裕樹さん

加茂さんは子供が産まれる2カ月前に退社し、池田さんら3人で起業。2014年6月から新しく立ち上げた会社に専念した。年収半減に妻は猛反対したが「そもそもこういうサービスを考えついたのは、あなたをサポートするためなんだから」と説き伏せた。

「CaSy」のオフィスには台所も浴室もある。というよりもともと住居で、スタッフの研修にも使われている

営業スタッフの人件費が浮く分は利用料金を抑えたほか、家事スタッフの時給も「実はとても高いスキルが要求される仕事だから」と、他社の約1.5倍程度にした。研修マニュアルも、お客さんに評価が高いスタッフを表彰して時給に反映させるシステムも、スタッフと一緒に作り上げてきた。

将来は6000億円の市場規模になると見込まれる家事代行サービスには、ネットのシステムを活用した大手の新規参入も相次ぐ。終電帰宅が当たり前の長時間労働からは解放されたが、人手不足のベンチャー企業、社長自らスタッフに直接電話をかけて「シフトに入ってよ」と頼むことも。「コンビニの店長みたいな気分です。僕は『社長』って思われてないのかも」

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2016年のドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」のヒットで、家事は専門スキルを持つ仕事として認識され始めた。今は自宅の風呂掃除は毎日やり、トイレや床の掃除も得意になった。「家事がこんなに大変なことだった、なんて創業前は思っていなかった。誰もほめてくれないし、家で黙々とやっている主婦って偉い」と、加茂さんは思い直したという。

楽しそうに子育てするパパたち

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