「男性が産休を取る」フランスでは当たり前だった。仕事は大丈夫?利用者に聞いてみた

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「『男の産休』の取得を、推奨していきます」

2016年12月に開かれた国際シンポジウムでの安倍総理の発言で、注目ワードとなった「男の産休」。

産後の回復のためにある女性の産休とは異なり、こちらは「子供の誕生直後から、夫が育児に取り組めるようにするための休暇」だ。まずは国家公務員から100%の取得を目指すと、意欲的だ。

日本に先駆けて、2002年から「男の産休」を制度化している国がある。それは、過去10年、合計特殊出生率を2.0付近で維持しているフランスだ。

フランスでは「男性を家庭に戻す」を旗印に、約2週間の男の産休「父親休暇」を実施している。2013年には対象者の約7割がこの父親休暇を取得した。フランスでは、育児参加を促す切り札となっている。(出典:Drees、Etudes & Resultats No957)

父親となった人が約2週間仕事場から消えた時、その不在は職場でどのように調整され、どう受け止められているのだろう? パリ在住の「男の産休」利用者に、話を聞いた。


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ダミアンさん(左)とジュリーさんカップル

■絶対に必要。2週間でも足りない

話を聞かせてくれたのはパリ在住のカップル、ダミアンさん(31)とジュリーさん(35)。今年3歳になる長女と、昨年8月に生まれた0歳の次女がいる。2人とも保育園児だ。

ダミアンさんとジュリーさんは結婚はしておらず、長女の出産を機にいわゆる「パートナー契約」であるPACS(連帯市民協約、通称パクス)を結んだ。

結婚よりも手続きが簡略だが、税制や家族手当の面でほぼ同等の扱いを受けられる制度で、現在20代から40代の間ではかなり一般化している。子供が生まれたらまずPACSを結び、その後お互いが合意すれば結婚、というカップルも多い。

ダミアンさんは正社員の金融コンサルタントで、現在の会社での勤続歴は1年半。ジュリーさんは自宅勤務のフリーライター。「父親休暇?もちろん、長女の時も次女の時も取りましたよ!」と言う。父親休暇は当然取るもの、と受け止められているようだ。

ふたりは、1人目の時は以下のように組みわせて約1ヶ月の休暇を取得した。

・子の誕生休暇 3日間:
労働法で定められ、会社から従業員に与えられる有給休暇

・父親休暇 11日間:
サラリーマン・自営業問わず国から与えられる休暇(この11日間は土日込みなので、平日休暇は9日間となる)

・家族行事休暇 4日間:
PACS締結に伴う休暇

・有給休暇 7日間

これに土日の週末定休8日間をあわせて、8月をまるまる31日間休んだ。
 
2人目の際は、子の誕生休暇3日間と父親休暇11日間の、合計2週間を取得。その期間中1日だけ、仕事を切りのいいところでまとめるために出社したという。

父親休暇の必要性を問うと、ダミアンさん・ジュリーさんは声を揃えて「絶対に必要ですね」と答えた。

しかしダミアンさんは「一人目と二人目では、意味合いが違う」と言う。

「僕の場合、一人目は完全に『父親になるための期間』。子供の世話の仕方や父親としての時間の使い方、母親となったパートナーとどう暮らしていくかを学びました。父親休暇がなければ、それを学べるタイミングを逃していたと思います。

二人目の時は、一人目の時とは違って、新生児の父親であることを100%楽しめる、貴重な時間でした。上の子のフォローをするためにも、僕がいる必要があったと思います」

一方、ジュリーさんの方は違う見方をしていて、「書類対応」の重要性を強調する。

「フランスは出生直後の届け出が多いから、父親が仕事を休んでそのために動かないといけないんです。まず市役所での出生届。それが受理されると、出生証明書を社会保険や家族手当金庫に提出します。

産後のフラフラの体で、新生児を抱えている母親にはとてもできないことです!上の子がいたらその世話もあるし、毎日の家事は減りませんから、父親休暇は2週間では足りないくらい。1ヶ月は欲しいなと感じます」


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ジュリーさん&ダミアンさんの家族4人。笑顔の弾ける写真に、家族の明るい雰囲気がにじみ出ている

■職場には1カ月前から申請。仕事は前倒し・後ろ倒しで調整する

しかし日本の感覚からすると、同僚が2週間不在にして職場が回るのか、という疑念を持ってしまう。そう聞くと、ダミアンさんからはこんな答えが返ってきた。

「もちろん、事前の準備は大切です。ただ、フランス人は休み慣れてますからね。みんな夏に2、3週間のバカンスを取ることが当たり前だから。

父親休暇は出産予定日の1ヶ月前に申請しなくちゃなりませんが、休み前後の調整は通常の長期休暇と同じなんです。できることは前倒しで進めて、後回しにできることは休暇明けにする。理由はなんであれ、休むのはみんなお互い様ですからね」

フランスでは父親休暇に限らず、長期休暇を前提とした働き方が定着しているのだ。その方法の一つが「ビノム」という、2人体制での取り組み。どの案件にも担当が二人つき、一人が休んでも、必ずもう一人が進行をフォローできるようにする。今では多くの企業で一般的な人員配置だそうだ。

「加えて僕の職場では、チームごとに『月間業務・出勤プラン』を可視化して共有しています。今月はこれだけの業務があって、課内の誰がどれだけ出勤する予定で、だからこうして進める必要がある、と、みんなが毎日見える場所で掲示している。

長期休暇がある場合はそれに合わせて、早め早めにチーム内で調整します。その上で進行に不具合が出てきたら、それは上司のマネジメントの問題です。人員配置とか、仕事量の分担とか。そこに責任を持ってもらうからこそ、上層部は僕たちより高い給料をもらってるわけですからね」

■父親休暇は個人の選択。他人がとやかく言うことではない

休暇に対する考え方の違いに思わずため息をつくと、ジュリーさんから「日本だったら、長い休みでどれくらい?」と尋ねられる。

平日の5日間を有給にし、土日を挟んで9日間が最大か…と答えると、「なら、父親休暇もそのくらいは取れるってことでしょう」と論理的に返された。確かに「男の産休」と特別視すると違和感があるかもしれないが、フラットに「休暇の一種」と考えれば、今の日本でも、物理的には取得可能なはずだ。

しかし問題は「男の産休が特別に見えること」でもある。

子を持たない人が職場にも多くいる中で、なぜ父親だけに、別の休暇が与えられるのか? その反応は、やはり現実に存在する。フランスではそのあたりはどうなのだろう。不平等感からくるネガティブな反応は、ないのだろうか。

ここでもまた、ジュリーさん、ダミアンさんとも、口を揃えて「ない」と答えた。

「父親休暇に対するネガティブな意見は聞いたことがないですね。そこは、個人の選択ですから。父親休暇が欲しければ、その人も父親になればいい。自分でそうしないことを選んでるんだから、他人をとやかく言うことはしませんね。心では思ってるかもしれませんよ。でも子供が生まれることは、社会には必要なことですから」

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フランス政府と家族手当金庫が作成・配布している「親手帳」

■「親になることを支援する」という考え方

「男の産休」が他の休暇と同じくフラットに受け入れられている背景には、まず長期休暇を前提とした労働文化がある。それに加えて、フランスが国を挙げて行っている「親育成支援策」の影響も見過ごせないだろう。

フランス政府は「親というのは、学んでなるもの」と定義し、そのための時間を「産休」として与えることを、親支援の一環と考えているのだ。

この「親になることを支援する」考え方の好例として、2016年4月より配布が始まった「親手帳」を紹介したい。

第1子誕生を控えたカップルの妊娠4~5ヶ月期に家族手当金庫から配布されるもので、以下の「親となるための基本のキ」が記されている。親となることのハードルの高さに理解を示す、温かな目が通底する小冊子だ。

―親になること:未知の世界への第一歩。喜びと戸惑い、疑問が入り混じるのは、親としてごく自然な状態である。

―妊娠中の親学級案内:妊娠初期に1回の「親になる準備面談」、7回の親学級が無料で受けられる。

―現代社会で「親になる」ということ:赤ちゃんはなぜ泣くか、愛着形成の過程、体罰の無意味さ、など、発達心理学的な見地の最新情報を掲載

―親の法的義務に関する情報:共同親権、教育を受けさせる義務、成人まで保護する義務などの法令文を掲載

―産休・育休に関する情報

―子どもの権利に関する情報

―カップルの別離の考え方:親の別離が子どもの権利を阻害してはならない

―子育て支援機関リスト

フランスは学費無料や子ども手当など「親であること」への支援策が充実しており、それは拙著『フランスはどう少子化を克服したか』(新潮新書)で詳述した。それに加えてこの国では、「親になること」への支援も重視されている。その社会環境があるからこそ、「男の産休」も、必要な休暇と認められているのだ。
 
後編では、雇用側である企業がそのような国の方針に従い、どう職場改革を進めているかに迫る。

・ 後編「10年かけて「男の産休」を取り入れたフランス大企業。どうやって実現したの?」

(取材・文 髙崎順子

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