「一人じゃないから寂しくない」高齢者と若者の暮らし シングルマザーが始めた"異世代ホームシェア"

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「子どもたちが独立して、家を出た」、「伴侶に先立たれて、いまは一人暮らし」……。さまざまな理由から、高齢者が住む自宅で空き部屋が生まれることがある。その一方で、アルバイトや奨学金によって一人で暮らす大学生や、高い家賃に悩まされている若者もいる。

両者をつなげるべく活動しているのが、NPO法人「ハートウォーミング・ハウス」だ。東京・世田谷区を中心に、空き部屋のある高齢者の自宅と、部屋を探している若者を仲介している。若者にとっては手頃な家賃で住めて、オーナーは一人ではないという安心感が持てる暮らしかたである。

一つの住まいを複数でシェアする「シェアハウス」という形態は、日本では比較的新しいものの、徐々に広まってきている。しかし高齢者が自宅の一室を貸す「(異世代)ホームシェア」は、まだまだ認識されていないだろう。

世代の異なる人たちとの共同生活は? 実際の状況を知りたいと、「ハートウォーミング・ハウス」が仲介している住宅にお邪魔し、オーナーとシェアメイト(賃借人)の両者に話を聞いた。


共同のリビングで一緒にテレビを見るシェアメイトたち (c)Yuki Kubota

■安心感を得られ、若者を応援できるホームシェア

訪問したのは、世田谷区の下北沢にある木造一戸建てのお宅。80代になった西川さんと70代の夫人の住まいである。1階と2階のそれぞれに玄関とキッチンを備えた二世帯住宅の造りになっており、2階に西川さんご夫妻が住み、1階にシェアメイトである女性4人が暮らしている。

2階にあるご夫妻専用の玄関は外階段から直接入れる構造で、1階に住むシェアメイトたちと直接顔を合わせることはない。ふだんは道で会ったら挨拶する程度で、賄いもなく生活は別々。何か特別なことがない限りは干渉しないという。しかし月1回程度、シェアメイトたちを2階に招待して夫人の手料理をふるまったりするなど、ほどよい距離感でコミュニケーションを取っている。

ご夫妻は1年前から1階部分をシェアハウスとして貸しはじめたが、それ以前には外国人に貸していたそうで、シェアという形態には馴染みがあった。その外国人が退去し、ご夫妻だけで住んでいたときに夫人が入院したことがあり、一人暮らしに不安を覚えたという。

そんなときに「ハートウォーミング・ハウス」を主宰している園原一代さんと出会い、ホームシェアとして1階を貸し出すことに決めた。

「老人ホームにでも入ろうかなんて思っていたところにホームシェアを知って、貸すことにしたんです。私たちが家を留守にするときも、下に人がいるという安心感がありますね。空き家が増えていると聞きますが、こうした形態がもっと広まればいいんじゃないでしょうか」と西川さん。

西川さん宅では、シェアメイトを女性限定にしている。部屋をきれいに使ってくれそうだからというのが理由の一つだが、「手頃な家賃で部屋を貸すことで、若い女性を応援したいんです」という西川さんご夫人の思いもある。

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NPO法人「ハートウォーミング・ハウス」代表の園原一代さん(左)と、住宅オーナーの西川さんご夫妻

■NPOがコミュニケーションの調整役に

異なる世代が住まいをシェアするのは、お互いの感覚の違いなどから難しくはないのだろうか。そこで重要な役割を果たすのが、仲介役である「ハートウォーミング・ハウス」である。

「ハートウォーミング・ハウス」は、代表を務める建築家の園原一代さんが2006年からはじめたNPO団体だ。当時母娘二人暮らしだった園原さんだが「いずれ娘は独立して、自分は一人になる」と気づき、それなら先手を打とうと自宅のシェアをはじめたのがきっかけだった。

園原さんは異世代ホームシェアを成功させるために、住まい仲介時にいくつかのプロセスを経て、オーナーとシェアメイト両者に約束事を課しているという。

ホームシェアの流れは、まず空き部屋を所有するオーナーが「ハートウォーミング・ハウス」に相談するところからはじまる。園原さんがホームシェアのプランを説明し、実際にオーナー宅を訪問。間取りや設備を確認したうえで、予算に合わせたリフォームを提案することもある。

たとえば西川さん宅では、以前は1階部分を1世帯が使用していたため、4名分の個室にする簡単なリフォームを園原さんが設計して行った。

シェアメイトの募集は、シェアハウス専用不動産サイトを通じて行われる。この時点で応募者は、物件が一般の「シェアハウス」ではなく、「ホームシェア」であることを知らない。応募者に対して「ハートウォーミング・ハウス」はメールを送り、ホームシェアに関する説明と応募者への質問を行う。この時点で返事が来ないことも多いそうだ。

その後園原さんが、応募者の中からシェアメイト候補を選ぶ。メールのやり取りで基本的な挨拶ができなかったり、入居を焦っていたりする人は経験上トラブルが起きやすいという。

シェアメイト候補者は園原さんとともにオーナー宅を見学。シェアメイトを決めるポイントとなるのは、明確な目標などがあり、オーナーが応援したくなるような人だそうだ。正式にシェアメイトとして決まった人には、ホームシェアでの決まりごとをまとめた「お約束シート」を渡して契約を結ぶ。

このように一般的な賃貸契約に比べて、事前のやり取りは多い。だからこそ、オーナーとシェアメイトの相性もチェックしやすく、入居後のトラブル防止に役立っている。

何か問題が起きても、「ハートウォーミング・ハウス」が間に入るので安心感がある。園原さんは上手なコミュニケーションの取り方も両者にサポートしている。

ちょっとしたことなら、オーナーがシェアメイトに直接注意することもある。西川さんご夫妻は「たとえば光熱費が多いときは、シェアメイトたちに『節約しましょうね』と、メールでやんわり伝えています」というように工夫をしている。

■一人じゃないから寂しくない

西川さんご夫妻を訪ねた後は、1階の玄関からシェアメイトが暮らす部屋を訪問した。1階部分は個室4部屋と居間、キッチン、バスルームという構造で、個室以外は共同で使用する。部屋は家具付きだ。


シェアメイト共同のキッチン。共同スペースの掃除は当番制 (c)Yuki Kubota

キッチンは共同だが、料理は各自が作るというように、シェアメイトたちはそれぞれのリズムで暮らしている。

現在シェアメイトは女性4名。うち2名は、ワーキングホリデーで滞在している外国人女性だ。ふたりとも日本語が流暢なので、コミュニケーションにはまったく支障がない。

この物件に応募をしたときはホームシェアだと知らなかったシェアメイトたちだが、説明を聞いて「悪くない」「かえって安心」「なんだか新鮮」と思ったという。

入居時に「ハートウォーミング・ハウス」から生活での決まりごとを説明されているので、異世代オーナーとのホームシェアにも戸惑うことはないそうだ。

「たまにお風呂に入るのが夜遅くなると、オーナーさんに音が響きそうで悪いと思います」というように、互いが気配りをしている様子がうかがえた。

台湾と韓国からやってきた2人は「オーナー夫妻がお雛様会や忘年会などの季節行事をしてくれるので、日本の文化が学べてうれしい」と話す。

4人で暮らすことで「みんながいるから、精神的に支えられていると思います。一人じゃないから寂しくないですね」「一人暮らしだとだらけちゃいそうだけど、シェアメイトがいるから自分を高めていける」といったよさも感じている。


シェアメイトの調理・食事は、各自バラバラに行う (c)Yuki Kubota

■異世代ホームシェアの可能性

高齢者オーナー、シェアメイトともにメリットがあるホームシェアが今後広がるには、いくつかのポイントが挙げられる。

まずは住まいをシェアすることへの人々の意識だろう。実際のところ、高齢者がホームシェアに興味を示しても、同居していない子どもから反対されてシェアをあきらめるケースも珍しくないという。

そして行政との連携である。NPO団体「ハートウォーミング・ハウス」は、安価な家賃で部屋を提供するため、一般の不動産業のような利益は見込めない。そのため代表の園原さんはNPO活動の傍ら、建築家としてフルタイムで働いている。

一個人の熱意だけで持続的活動を行うには限界がある。ホームシェアが盛んなヨーロッパでは、行政が活動費用を一部負担している国もあるという。行政のサポートが今後の鍵になりそうだ。

ヨーロッパ各国では、ホームシェア団体が活発な活動を行っている。イギリスでは1999年に「ホームシェア・インターナショナル」が設立され、現在は公益法人としてホームシェア活動に取り組み、世界各国のホームシェア団体と連携を図っている。

「ホームシェア・インターナショナル」は2年ごとに世界ホームシェア会議も開催しており、今年(2017年)は5月25〜26日にスペインのマドリッドで行われる。

私の住むドイツは日本と同様に少子高齢化が進む国だが、ホームシェア団体「ヴォーネン・フュア・ヒルフェ・イン・ドイチュラント」があり、国内34カ所に拠点を持っている。ドイツでは学生の頃から住まいをシェアする文化が根付いているため、ホームシェアに対する人々の抵抗も少ないと思われる。「ヴォーネン・フュア・ヒルフェ・イン・ドイチュラント」は、「ホームシェア・インターナショナル」とも提携している。

高齢者と若者がともに安心して暮らせるホームシェアは、活気あるまちづくりと個々人の幸福につながるだろう。少子高齢化の日本で、新たな選択肢の一つとして、もっと認識されてよいのではないだろうか。多様な世代がゆるやかにつながる西川さん夫婦たちの生活には、これからの生きかたのヒントが詰まっていた。

(ベルリン在住ライター:久保田由希

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