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「ネット炎上→削除」の先にあるもの。小島慶子さんらと「メディアと表現」考えてみた

2017年05月24日 01時41分 JST | 更新 2017年05月25日 15時09分 JST
Kaori Sasagawa

母親の育児を描いたおむつのCMは、なぜ炎上したのか。養殖ウナギを少女に擬人化した「ふるさと納税」のPR動画は、なぜ削除されたのか——。

「第1回メディアと表現について考えるシンポジウム」が5月20日、東京大学・福武ホールで開催され、エッセイストの小島慶子さんらメディア関係者や有識者が登壇、ネット炎上事例をもとに、これからのメディアや受け手のありかたについてディスカッションした。

ネット炎上事例の分析、女性やLGBTなど多様性への理解、“笑い”といじめの関係、受け手の声の上げかたなど、白熱した議論の様子をレポートする。

ネット時代、私たちはみな表現者になる

最初に、呼びかけ人の一人でシンポジウムを主催した東京大学の林香里教授は「ネット時代、私たちはみな表現者になる」として、メディアの表現に関する議論や、制作者と受け手の対話を呼びかけた。

東京大学の林香里教授

テレビの言葉は、翌日学校で再生産される

呼びかけ人でエッセイストの小島慶子さんは、テレビ収録のエピソードを紹介し、「『顔こわい顔こわい!』って言われる。顔こわいのよ(笑)。私は受け流せる。でも中年の女性なら容姿を茶化していいのか。明日、職場で女性に『顔こわい』と言っていいメッセージになっていないだろうか」と疑問を投げかけた。

mskeikokojima

小島慶子さん

また、小島さんが共働き家庭だった頃、子どもはクラブや宿題でほとんどテレビを見る時間がなくても、流行ギャグは学校で見聞きして全部知っていたという。

「テレビを離れて、違う文脈でも、学校や職場で会話は再生産される。ときにその笑いは、いじめやハラスメントにつながる」と指摘。「今までは、“表現やエンターテインメントで、受け手はわかってくれる”で通用していたかもしれないが、これからはどうか。みんなで話し合いたい。同じ言葉は、使う場所によって信頼の表現にも暴力にもなる。メディアは今以上に意識する習慣を」などと呼びかけた。

ただ批判するだけでなく、会話すること

ハフポスト日本版の竹下隆一郎編集長

ハフポスト日本版の竹下隆一郎編集長は、「今まではなんとなくテレビを見ていたが、今はスマホで問題のあるシーンを何度も見られるようになった」と視聴者の環境の変化を挙げ、「受け手は敏感で賢くなっているが、私たちメディアが変化についていけていないのでは」と問題提起した。

具体的な炎上事例として、鹿児島県志布志市がふるさと納税のPRのため制作した養殖ウナギを水着姿の少女に擬人化した「うな子」の動画を紹介。

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この動画は、特産品の養殖ウナギをアピールする意図だったが、男性がスクール水着姿の少女を学校のプールで養うという内容に、ネット上で批判の声が上がり、後に削除された。地域を盛り上げようと、自治体が広告代理店に依頼してネットで話題になる動画を制作したケースだ。

2つ目に、テレビ番組での「オネエ」問題を指摘したブログ記事を紹介した。バラエティやお笑い番組のなかで、LGBT(性的マイノリティの総称)のうち、ゲイの男性やMtFのトランスジェンダーなどを「オネエ」と呼んで笑いにするシーンを見て、「日本ではなぜオネエが笑いの対象になるのか」と疑問を投げかける内容だ。

3つ目は、お母さんの育児の大変さを描いた、おむつのムーニーのCM。見る人によっては感動的な内容に映るかもしれないが、ネット上では「ワンオペ育児を賛美しないで」「夫は何をやっているんだ」などと批判の声が上がった

ユニ・チャームのおむつブランド「ムーニー」の動画広告

このCMを制作したユニ・チャームは、「本来の意図はリアルな日常を描き、応援したいという思いだった」として動画の取り下げは予定していないという。

最近のネット炎上を受けて、竹下は、「表現の幅が狭まってる」「昔はもっと自由にできた」と感じている制作者と、不快な表現に批判的な声を上げるようになった受け手の間で、「分断」が起きていると指摘した。

その上で竹下は、ユニ・チャームのエピソードを紹介し、「反省されていたが、何がいけなかいと感じたか教えてほしい、と逆に取材された。男性版も作って同時に流したら面白いCMになりますね、と言ったら、それは面白いですねと会話が生まれた」として、批判するだけでなく会話することが分断を突破する糸口になると語った。

男の人だけが働くの? 子育ては母子だけなの?

白河桃子さん

ジャーナリストの白河桃子さんは、税金で作られている地方自治体の制作物やイベントの炎上事例を挙げた。少子化対策や婚活、移住イベントなどでも問題がある表現がよくみられるという。

三重県志摩市の公認キャラクターとなった「碧志摩(あおしま)メグ」は、人気はあったが、「性的すぎる」などと炎上し、現役の海女を含む反対署名が集まり、後に公認が撤回された。

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「海女萌えキャラ "碧志摩 メグ" 」の当時の公式サイトより(現在は非公認)

広告代理店が、民間のCMや女性誌を作るように、悪気なく作ってしまったものも、税金をかけて自治体から発信するものとしては受け入れがたい内容になることもある。ある県の婚活ブックでは、「女性は受け身の性」という表現をして回収騒動に発展した、という事例や、別の県では「三つの性を考えましょう。生殖の性は頂点にあります」と記載して多くの批判が集まったこともあったという。

働く人が男性だけで、女性が働いている絵がなかったりする自治体の制作物もよくあるそうだ。結婚のコマで女性だけが描かれるなど、昔ながらの男女の性別役割分担が表現されていることがまだまだ多い。白河さんは、「子育てという時点で母子のイラストが描かれ、その代わりどこでもイクメンイベントは花盛り。ここにもひとつの分断がある」と指摘した。

白河さんは「自治体が発信するものは、男女共同参画の担当課と共同作業をしたらどうか」と提案、イベントや動画を作る広告代理店やメディアのチェック機能についても議論を促した。

学校で、“笑い”がいじめの発端になっている

『日経DUAL』の羽生祥子編集長

『日経DUAL』の羽生祥子編集長は、ママパパと子どものためのメディアを作る立場から、“笑い”といじめの関係や、アダルトコンテンツが氾濫するネット環境の問題を語った。

羽生さんは、4月に一番読まれた有料会員限定の記事「女の子は友達を奪う、男の子はウケを狙い貶める」という、いじめの傾向を解説した記事を紹介し、「最近はいわゆるいじめが少ない。何が発端になっているかというと、残念なことに“笑い”なんです」と指摘した。今年YouTubeに投稿されたいじめの動画では、手を加えない子どもたちが「おもしれえ」「だははは」と笑っていたという。

『日経DUAL』の有料会員限定のいじめに関する記事

「子供は悪気なくコピーしちゃう。人気者になりたい。笑いとれればボスになれるんだったら、やっちゃうかもしれない。すぐそこにテレビがある。制作者側も本当に気をつけていかないといけない。笑いがとれるなら、言ってもいい、という空気が醸成されていないか。子供に見せたくないものを、私たちも作っていないか」と羽生さんは投げかける。

Webマガジンを立ち上げた5年前は、数クリックすればすぐにアダルトコンテンツが表示される環境で、デジタル開発の会議に女性1人で参加するのも大変だったという。男性のルールで作られたアダルト広告や出会い系の広告があふれるネット環境に慣れてしまっていないか、と作り手の意識も指摘した。

誤った認識で炎上コンテンツを作らないために、「いったん男性と女性を置き換えてみませんか。マジョリティとマイノリティを一回置き換えてみませんか。 自治体のキャラクターの男の子がボタンを開けて、ピチっとした服をきて、性器を強調していたら……嫌ですよね。誰でもわかる。数秒間、考えてみたらおかしいとわかる」と提案した。

日本もウーマノミクスで、性差からくる差別に敏感になっている

国連UN Womenアジア太平洋地域部長・事務所長の加藤美和さん

国連UN Womenアジア太平洋地域部長・事務所長の加藤美和さんは、UNwomenが誕生した経緯を説明。UNwomenは、国連が近年すべての人に関わるがために結果がでていないという課題意識から、男女平等を推進し、女性をエンパワーメントする機関として2010年に設立された。2000年以降に唯一できた国連機関だという。

翌年の2011年には、国連人権委員会が初めてLGBTに関する決議も採択され、多様なセクシュアリティの人権に関する取り組みが進められている。

加藤さんは「国連の決議が、各国の人々の生活に直接的な影響が与えるのは長期的な視点が必要になる」としながらも、「今までマジョリティにとってそれが当たり前だと思っていたことが、マジョリティと思わない人にとって、差別であり抑圧になってしまう。無意識の差別を見直していきましょう」と語った。

「日本もウーマノミクスで、性差からくる差別による活躍の差に敏感になっている」と前向きに捉え、会話につながる社会について「権利も大事ですが、エンパワーメントすること。みんながものを言いやすい社会を作り、これ“が”がいいではなく、これ“も”いい。よりオープンな社会を作っていくこと。そのなかでメディア、大企業、中小企業、公共機関がどういうメッセージを出していくかが注目される」と語った。

被害の再生産、メディアの影響はものすごく大きい

「ちゃぶ台返し女子アクション」の共同発起人の大澤祥子さん

女性自身が変化を起こすキャンペーン団体「ちゃぶ台返し女子アクション」の共同発起人・大澤祥子さんは、進めている性暴力に関するキャンペーンを例に、アクションを起こす側の「声の上げかた」を紹介した。

刑法改正のために啓発活動や、議員に会いにいくロビー活動、性暴力を理解するワークショップなどを行っている。社会の性暴力に関する刷り込みは根深く、「セクハラを受け流すのが当たり前でしょ」「男性がアクションを起こす側」などの声が寄せられることもあるという。

大澤さんは「学校の性教育は十分ではなく、メディアからの情報がその穴を埋めている」として、コンビニのアダルト雑誌、アダルト広告、女性の容姿がいじられるテレビ番組。「愛されヘア、愛されメイク」という言葉が並ぶ女性誌。壁ドンや無理やりキスされるシーンが描かれる漫画……などが世の中に溢れる現状を指摘でした。

「期待に応えるのがいいこと」という母親の言葉や、「女性には押してナンボ」という先輩のアドバイスなど、ジェンダーに関するゆがんだ考えが、上司や部下、友達同士で再生産されている。被害の再生産の問題も深刻だ。「2次被害、3次被害を考えると、メディアの影響はものすごく大きい。黙っていたり仕方ないと受け流したりすることで、仕組みに加担することになる。違和感を声にすることが重要」と大澤さんは呼びかける。

声を上げるためには、「当事者自身が経験を伝えること」「なぜ間違っているか伝えること」「具体的な変化を求めていくこと」、そして「共感の輪を広げて周りの人と価値観を共有して一緒に動いていくこと」が大切だという。SNSは一気に拡散するいい面もあるが、リアルな関係性のなかで何を望んでいるかをお互いに理解した上で多くの人とアクションすることが大事だと語った。

SNS、一瞬のうちに燃え上がり、一瞬のうちに忘れ去られる

大妻女子大学の田中東子・准教授

大妻女子大学の田中東子・准教授は、女性とメディアについて研究者が議論していることや、SNSでの議論の問題点を紹介した。

資生堂の化粧品や、ルミネの女性応援CM、味の素、おむつのムーニーなど、女性のCMが度々炎上することについて、「作り手側としては、働く女性の姿を美化・賞賛したつもりだが、受け手の女性の側にとっては、日々のディストピア(理想郷の反対で、地獄のような状態)的な現実を肯定・保持するためのイデオロギーとして機能している」と分析。イデオロギーに抗う女性たちの無意識が可視化されているものであり、「炎上を好意的に評価していい」と語った。

一方で、田中さんはSNSの言説の大きな問題点として、「言論空間の瞬殺」を挙げ、「メディアが時間を圧縮してスピードを要求するほど、そこで形成された言論空間が一瞬のうちに消えていってしまう」ことを挙げた。つまり、SNSでの議論は、一瞬のうちに燃え上がり、一瞬のうちに忘れ去られるのだ。

「言論空間の瞬殺」を紹介する会場資料

この点が、(1970年代の)「私作る人、僕食べる人」CMの批判と異なる点だという。かつては様々な媒体を巻き込み、ゆっくり議論して、ジェンダーと広告、ジェンダーとメディア文化について大きな論争を巻き起こったが、今日のSNSでは次々と炎上事例が起きるため、すぐに忘却されてしまう。田中さんは、時間をかけた議論の必要性を投げかけた。

表現の自由は、私たちが一人一人が持っている

弁護士の緑川由香さん

弁護士の緑川由香さんは、司法の観点から「表現の自由」「言論の自由」や、テレビ番組の差別表現の問題を整理した。

緑川さんは、憲法21条が保障する『表現の自由』について、「メディアだけの特権ではなくて私たちが一人一人が持っていることなんだということが大前提」であることを、あらためて共有した。

メディアのセクハラや差別表現は、「制作現場での、出演者同士の問題になる」とした。一般の企業ではセクハラ・パワハラになりそうなものが、お笑い番組では放送されていることについては、「出演している人は権利侵害と言えるのかもしれない。ただバラエティ番組の演出、お互いわかっていることなんだ、ということで声を上げられない状況なのかもしれない」と語った。

受け手の側が「面白くない」「不快だ」と感じるのは、具体的な権利侵害ではないが、「表現するメディア側と受け手、それぞれが表現できる主体として、互いに表現の自由を行使しあって議論してくことが大切」などとコメントした。

変化をうまく取り組んで、新しい表現を

後半のディスカッションでは、「どうやってこのテーマを社会に広げていくか」「人を巻き込んでいくか」が議論された。

ディスカッションする登壇者ら

——林教授:笑いと暴力が近い関係にあるのは問題。いじめや性暴力に発展したりする。表現の自由、言論の自由をどう考えていけばいいのか。

竹下は、「表現の自由は、私たちメディアにとっては本当に大事にしている価値観。多様性に気をつける、偏見に気をつけるというのは、一見対立する概念のように聞こえるが、私は制限があるからこそ、面白いものが生まれるんじゃないかと思う」と語った。

ディズニー映画「美女と野獣」では、女性が洗濯機を発明し家事を効率化するシーンや、同性愛者とみられる男性が描かれており、「変化をうまく取り組んで、新しい表現をして大きなチャレンジをする。むしろそこに自由を感じた。対立するものじゃなくて、クリエイティブの腕の見せ所なんじゃないか」と語った。

——林教授:東京大学も女性の教授職は5%。だいたい会議では女性1人。以前はなかなか言えないこともあった。巻き込んで声を上げていうという話もあったが、何か突破する方法は?

白河さんは、「女性が会議の場にいても発言できなかったり、会議に受容性がないこともある。女性のなかにも多様性がある」として、地方自治体や企業も「女性がいればいいわけじゃない」と語った。

小島さんも、「男性だって女性に共感していることもある。男性にも言いづらいと感じている人もいる。女性のなかにも「女なんかセクハラされてナンボだよ」というセクハラ親父と同じ発想の人もいる。男性であるか女性であるかは関係ない」と付け加えた。

笑いは、糊のようなもの

最後に、呼びかけ人の小島さんは、シンポジウムを振り返りこう語った。笑いの持つ本来の意味に目を向ける言葉だった。

「笑いは、本当はいろんなものをつなげるためにあると思います。それは娯楽としての笑いだけでなく、安心感を感じる笑いとか、ひとりでないという笑いとか、いろんなかたちの笑いがあると思います。あらゆるものをつなぐ、笑いは、糊のようなもの。みなさんのお話を伺って、メディアの側も受け手の側も一緒になって考えられるといいなと思います」

ネット炎上は「言論の自由」を強くする

「ネット炎上」は関係性の終わりか、会話の始まりか