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「断然、ひとりの方が勉強しやすい」生徒が自由すぎるN高の挑戦

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「ネット時代の理想の高校」を旗印に2016年4月に開校した通信制高校の「N高等学校(N高)」は、いまや生徒数が約4000人にも及ぶ“マンモス校”だ。インターネットを通じて好きな時に、好きな場所で学べるカリキュラムは、集団生活が苦手な子だけでなく、プログラミングやゲーム制作、デザイナーやパティシエなど、やりたいことが明確な子たちからも支持を受けている。

一方で、「ニコニコ動画」を運営するドワンゴが中核となっていることや、授業や学校生活でスマートフォンやネットを自由に用いる先進的な姿勢には、どうしても毀誉褒貶がつきまとう。奥平博一校長は「N高はある種の社会的挑戦」としつつ、「挑戦的ゆえに叩かれることも多いですけどね(笑)」と語る

では、実績がなく開校から間もない「N高」に、なぜ4000人もの学生が集まったのだろうか。

「自分のライフスタイルに合った学校生活が送れる」「ネットを通じてひとりで勉強した方が、むしろ捗る」――2016年に入学した「第1期生」から聞いた学校生活の感想に耳を傾けると、従来の高校が抱える課題や、ひとりひとりの生徒が何を求めているのかを見極めようとするN高の姿勢が見えてきた。

「断然、ひとりの方が勉強しやすいですよ」



村上利光さん

中学卒業後、都立高校に1年通った後、N高に入学した村上利光さん(16)は、「N高を最初から選んだというより、今の環境とは違う環境に飛び込みたいっていうのが強かった」と語る。

「別に勉強が嫌いだったわけではないんです。でも、元々はそれほど高校には行きたくなかった。学校の先生や親、塾の先生は『学校は行かなきゃダメなんだ』『みんなが行ってるから、行かないといけない』と言ってくる。これがずっと続くと思うと耐えられなかった」

「中学までは義務教育だし、行かなきゃいけないというのは理解していました。でもある時、学校の先生に『なぜ勉強しないといけないのでしょうか?』と真剣に聞いてみたら、先生からは「そういうものだからだ」と。適当に返事をされたような気がして」

「みんなやっているからやりなさい」「あなたの将来のためになるから」――そんな周りの大人たちからの圧力を、村上さんは「栄養剤を無理やり飲まされてるような感覚でした」と、はにかみながら話す。

「与えられたものを無条件に飲み込んで、進路が決まっていく。主体的に学べない。その価値観や尺度だけで、これからの将来を決めていくのかと思うと窮屈で。それで、学校が嫌いになりました。」

高校2年に進もうとしていた時、「N高」が取り上げられたニュースを目にした。普通の学校ではなさそうだと興味が湧いた。でも当初は、「ネットが好きなオタクの人だけの学校なんじゃないか」と、訝しく思ったという。


「アニメや漫画、ライトノベルとかは全然知らなかったんです。ニュースでも『不登校の子がN高へ』と報じられていて。はじめはマイナスイメージもありました。でも実際に入ってみると、そんなことはなかった。基礎から勉強できるし、受験生向けの課外授業(N予備校)でレベルの高い勉強もできます」

通常の学校の集団授業と、インターネットを通じて学べるN高の授業のどちらが好きか。村上さんは「断然、ひとりの方が勉強しやすいですよ」と語る。

「普通の学校だと『この先生が嫌い』とか『このクラスのメンバーが嫌いだ』とか。中には授業を邪魔する人がいたりする。でも、ネットだと、そういうストレスがない。勉強が嫌にならないんですよね。パソコンを使って動画で授業を受けられるし、結構楽しいんですよ」

「やるときは1日12時間とか勉強しています。時間に融通がきくし、わからないことがあると担任の先生にSlackでメッセージを送れば答えてくれるので。勉強する上で困ることはないですね」

「自分の体調に合わせて、万全な状態で授業に臨めるのは嬉しい」



小泉透生さん

「中学の時は、毎朝登校するのがものすごく苦痛で…」――。こう語るのは、小泉透生さん(16)だ。頭が起きてない状態で朝食を摂り、通学し、学校についてからも体調を崩すことも多かったという。

「中学校は楽しくなかったです。学校自体が荒れていて、環境が悪かった。誰かが問題を起こして授業が中止になることもよくありました。その度に学級会議をやって。遅れを取り戻すため、数日後に授業を一気にまとめてやるみたいな感じでした。授業自体も面白くないし。中学の時は、高校も卒業資格をとるため、ぐらいの感じでした」

もともと県立の高校に進学しようとしていた小泉さん。ある日、「こんな学校があるんだけどどうかな?」と両親に言われたのが、N高を知ったきっかけだったという。

「その時、直感的に『この高校に行ったら面白そうだ』って思いましたね。もともとニコニコ動画をよく見ていたので。『あのドワンゴがやっている学校とか絶対面白そうじゃん!』って思って」

N高に入ってから、「学校のイメージが変わった」と小泉さんは話す。

「N高の授業だと、そもそも通学する必要がないので。自分の体調に合わせて、万全な状態で授業に臨めるのは嬉しいです。あとは、街で制服姿だと人からの目線が気になるのですが、自宅とかでできるので人目を気にしなくていいので(笑)」

「今はプログラミングを勉強しています。Java Scriptとかも。将来は何か資格をとろうと思い、座学をやっています。週5日でプログラミングの特別コース(N高の提携スクール「バンタン プログラマーズ・ハイレベル・ハイスクール」)にも通っています」

もともとニコニコ動画のユーザーだったという小泉さん。5月に開かれたドワンゴのイベント「ニコニコ超会議」内で開かれたN高の文化祭では、ステージにも登場。大好きな漫画『ジョジョの奇妙な冒険』の登場人物が見せる独特なポーズ「ジョジョ立ち」を披露した。


キレッキレの「ジョジョ立ち」を披露してくれた小泉さん

「特技自慢のステージで『ジョジョ立ち』を取り入れたダンスをやりました。みんなめっちゃ笑ってましたね(笑)」

好きなものを「好きだ」と言え、それが受け入れられる。N高は、そんな人たちの居場所にもなっているようだ。

「友達と過ごすのは楽しい。でも、ひとりで行動することが成長に繋がる」



冨樫真凜さん

中学時代、学校の授業に疑問を持っていた冨樫真凜さん(17)は当時を振り返り、こう語る。

「友達は好きだったんですけど、授業が好きじゃなかったんです。授業内容を理解するしないは関係なく、とりあえず黒板に書かれた全てを決められた通り、ノートに全て書かなきゃいけなかった。『なんで全部書かなきゃいけないんだろう?』と疑問だった。必要なところだけ書いてても、黒板の通りに書いてなかったら提出物の評価が0点。納得がいかなかった」

納得がいかないことは、学校生活におけるフラストレーションの原因になった。

「黒板をそのまま写したり、覚えたことをそのままテストで書くといったことばかり。暗記はできても、その意味が見出せず。なぜ勉強しなきゃいけないのか、見えなくなりました」

中学2年の終わり頃から進路調査が始まった。志望校を第3志望まで調査票に書くよう求められたが、気に入るところが1つもなし。白紙で出したら先生は「何か書け」。そこで放ったのが「だったら、留学したい」という言葉だった。中学3年の6月からニュージーランドに短期留学した。

「2016年の3月に帰国して、いざ日本の高校に行こうと思っても、自分がやりたいことを伸ばしてくれる環境があまりないなと思いました。そんな頃、N高の開校を知りました。調べてみたらスタンフォード大学に行けるプログラムや、職業体験で色々な場所にいける課外活動があった」

N高に入学してからは、課外活動で積極的に地方を訪れた。

「課外活動では高齢化率日本一の群馬県の南牧村(なんもくむら)に行って、地方創生のための政策立案ツアーに参加しました。他にも、鹿児島県の長島町ではヒラメの養殖をしている生産者さんのもとで、1週間泊まりながらヒラメ養殖の宣伝のためのWebページ作りなどをやりました。こういう体験、なかなかできないですよね。今まで知らなかった、その土地ならではの魅力に気付きました」


そんな冨樫さん、いまは幼児教育に興味があるという。ネットで授業を受けて、空いた時間には興味のある教育分野などで活躍する人たちとの人脈を広げているという。

「『子供を育てやすい場所ってどこだろう?』って考えています。最近では、渋谷区で開催してる子育て世代向けのイベントの運営メンバーになりました。平日も日中の会議に参加しています」

「全日制の学校に通っていたら、こういう経験できないですよね。同年代の友達といると、確かに楽しい。でも、そこで終わっちゃうんですよ。ワーっとはしゃいで、恋バナ(恋愛話)して、キュンキュンして、ハイ終わりみたいな(笑)。でも、ひとりで考えて行動すると、自分の興味があることや、自分を見てくれてる人と出会える。自分にしかできないことを発見できる。興味があることだったら、もっと吸収したいとか、学んだことを次にどう活かすか考える。自分の成長に繋がる。だから、ひとりは好きですね」

「ゲーム会社のインターンと、プログラマーのアルバイトを掛け持ち」



足立素音さん

N高では2017年度から、ネットの授業だけではなく、N高の拠点教室での学習を組み合わせた「通学コース」設けた。こちらも時間の自由が利きやすいことが利点だ。

中学生からプログラミングを勉強している足立素音さん(16)はN高の通学コースに在籍しながら、プログラマーのアルバイトとゲーム会社のインターンを掛け持ちしている。

「代々木キャンパスに週3日ほど通いながら、Webゲームを作っているメーカーさんでインターンをしています。同時並行で、プログラマーのアルバイトもやっています。eコマースのサイトや旅行情報を掲載するサイトの開発や補修を手伝っています」

「普通の高校に通っていると、インターンやプログラムのバイトはできないですよね。アルバイトですから、実務経験にもなるし、お給料も出ます。学費を稼ぎながら、卒業までに3年の実務経験が積めるのは嬉しいです」

そんな足立さん。将来は大学に進学し、さらにプログラミング技術に磨きをかけたいと語る。

「僕に伸び代があるかはわかりませんが、プログラミングをもっと磨きたいです。偏差値のランキングが高いところよりも、しっかりと学生を育ててくれる大学に興味があります」

「ひとりで勉強できる環境は、すごく集中できますよね。でも、集中できる時間って限られてくる。人間としての限界は、どうしてもあると思うんです。独学で勉強できることにも限りがある。ひとりで集中して学びながらも、困った時には豊富な知識をもつ人が導いてくれる、そんな教育環境が理想ですね」

「ひとりひとりが充実することで、きっと社会は強くなる」


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N高の奥平博一校長

しがらみがリセットされた仮想空間の学び舎で、N高生たちは「集団」に埋もれず、自分という「ひとり」の存在と真摯に向き合っている――4人の話を聞いて、そう感じた。

奥平校長もハフポスト日本版のインタビューに対し、こう語る。

「N高では生徒ひとりひとりを尊重しますし、ひとりひとりの生徒を集団の中に埋没させません。ハフポストの今回の企画「#だからひとりが好き」にも通じると思いますが、ひとりひとりのライフスタイルが充実することで、世の中は成り立っていると思います」

「かつて高度成長の時代は、画一的に人材を作り出して、大きな工場に行って、みんなで同じ作業をして…。もちろん、これが日本経済を発展させた背景の一つではありますが、今は時代が変わってきた。そうすると『ひとり』の力が大事になってくる。ひとりひとりが充実することが社会を強くすることになると思います。だから『ひとり』というのは、これからの日本において非常に重要なキーワードです。『ひとり』を重んじる教育が、今後は大切になってくると思います」


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ハフポスト日本版は、自立した個人の生きかたを特集する企画『#だからひとりが好き』を始めました。

学校や職場などでみんなと一緒でなければいけないという同調圧力に悩んだり、過度にみんなとつながろうとして疲弊したり...。繋がることが奨励され、ひとりで過ごす人は「ぼっち」「非リア」などという言葉とともに、否定的なイメージで語られる風潮もあります。

企画ではみんなと過ごすことと同様に、ひとりで過ごす大切さ(と楽しさ)を伝えていきます。

読者との双方向コミュニケーションを通して「ひとりを肯定する社会」について、みなさんと一緒に考えていきたいと思います。

『だからひとりが好き』Facebookページも開設しました。最新記事や動画をお知らせします。

ハッシュタグ #だからひとりが好き も用意しました。みなさんの体験や思いを聞かせてください。

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