あの人のことば

政治家が「希望」を語る日本 まだそんなモノはあるのだろうか

「希望の党」を設立した小池都知事。希望の本質とは?

2017年09月26日 17時21分 JST | 更新 2017年09月26日 19時19分 JST

「日本には様々なものがあふれているけれども、希望がちょっと足りないんじゃないですか」

そう語ったのは、小池百合子東京都知事。9月25日に「希望の党」の設立を発表した。

確かにみんな不安だ。給料が上がらず、自分の会社がどうなるか分からない。世界では北朝鮮のミサイルやテロの問題も続いている。

だから政治家は「希望」を語るが、その実態はよく分からない。私たち自身はどうすれば「希望」を持てるのか。

東大の社会科学研究所で「希望学」プロジェクトを手がけてきた玄田有史教授(労働経済学)は「とにかく行動すること。行動して、失敗して、それをユーモアで笑いに変えていく。そこに希望があります」と言い切る。話を聞いた。

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Ryuichiro Takeshita
東大の研究室で取材に応じた玄田有史教授

——労働問題の研究者がどうして希望を語るのですか。

働き方やニートについて研究を進めていると、満足する働き方ができていない原因は、年齢のミスマッチやスキルのミスマッチよりも、希望する仕事が見つからないという"希望のミスマッチ"が多い。

希望とは何かがわからない、という根本的な悩みを持っている人もいる。「希望」に向き合わない訳にはいかないと思いました。

——「希望」とは何ですか。

「Wish for something to come true by action(行動によって何かを実現させようとする気持ち)」と定義しています。「気持ち」、「具体的な何か」、「実現」、「行動」が4つの柱です。

中でも行動(アクション)が大事です。「希望」は内面的なものだと意識されがちですが、実際は社会や世間といった、自分以外の存在との関わりの中で生まれたり実現したりするもの。待ってるだけじゃなくて、自分から関わりを作っていく、自分から半歩でも1歩でも動いてみないと希望は希望にならないんです。

Marie Minami/HuffPost Japan
玄田有史先生の研究チームが作成したというステッカー。インタビューの最後に渡してくださいました。

——日本の景気は回復基調にありますが、賃金がどんどん上昇する循環に入っているとはいえません。給料が増えないと、そもそも「希望」が生まれないのでは。

「今後、所得はあがっていきますか?」という質問をよく受けますが、予言はできません。

1つのポイントは2019年。団塊の世代が70代になるタイミングですね。高齢者が大量に労働市場に新規参入していた状況が一旦止まる上、2020年のオリンピックに向けて、ご祝儀的な雰囲気が高まって所得が上がるかもしれないですよね。

非正規雇用の採用が一段落して、市場に人材が出にくくなれば、いよいよ賃金を上げざるを得ないでしょうね。

——朗報ですね。賃金があがれば、希望が広がっていくはずですね。

いえ、たとえみんなの賃金が1万円上がったからといって、その1万円分の希望が増えるかというと、必ずしもそうではない。

短期的に給料が増えたかどうかではなく「未来が見える」ことが大事になります。上がった所得を中長期的に維持できる見通しがたてば、希望は増えるのかもしれませんが、そうでない限り、給料が増えたら希望が広がるという単純な話でもない。

給料が下がるのが嫌だから上がらなくてもいいや、つまり「失望するのが嫌だから希望はいらない」という考えも今の日本には蔓延していますよね。

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——少子高齢化で、高齢者の社会サービスが手厚くなる一方、20〜30代は年金や将来への不安があります。若い世代に希望はないと思います。

高齢者は、たくさんの失敗を積み重ねて、ある意味「笑えるネタ」をたくさん持っている人たちです。そういう人たちの「生の声」って学びが多いんです。

一番悲惨だったことは、太平洋戦争で負けたことですよ。爆弾がいっぱい落とされたし、たくさんの人が核で死んだ。餓死して死んだ。生き抜いてきた人がいる。

そういう体験をした人の言葉を直接聞くことができる最後のチャンスなんだって思った方がいいんじゃないかな。

生きるのが大変なのは今の僕たちだけじゃなくて、昔の人たちもそうだったんですよ。水俣病などの公害を生き抜いてきた人たちがいる。自分たちだけが地獄を見ているなんて考えていたらおこがましいですよね。

会いにいけばいいんですよ。本当の絶望の淵を経験した人たちが、その経験を、ユーモアを交えながら真剣に一つ一つ語るその言葉の中から、自分の希望の作り方を見つけていけばいいんじゃないのかな。

——"希望の定義"の中で触れた「行動(アクション)」ですね。

そうですね。先ほどの賃金の話もそうです。くれってちゃんと言わないと上がらないですよ。「給料あげてくれ、あげないなら辞めるぞ」と捨て身の主張をすれば給料水準はあがるかもしれない。

今はみんな、組合には入らないし、闘争もしないし、ストライキもしないという風潮です。経営者からしたら怖くないですよね。

Marie Minami/HuffPost Japan
アクションの「A」のポーズをとってくれた玄田有史先生

——「給料上げないと辞める」と言って、ダチョウ倶楽部みたいに、「どうぞ、どうぞ。辞めてください」と会社側に返されたらいやです。

確かに、今は、働くことはただでさえ大変です。メンタルが壊れたらどうしよう、過労死したらどうしよう、不安を持っている人も多い中、給料の交渉も大変です。

だから本当に、できるところから。希望は、与えられるものじゃなくて、自分で作っていくしかないものだから。

日本はそんなに悪い国じゃないですよ。社会や今の若い人って悪くなってない。むしろ随分いいなぁと思う。社会貢献に関心がある子も、優しい子も多いし、外見や肩書きよりも中身でちゃんとモテたりするし。

お金がなくなるとか、人が減るとか、将来に対して悪く言う人たくさんいますけど、何とかなりますよ。将来を悲観する声をまともに聞きすぎない方がいい。僕は「まんざらじゃない」っていう言葉がすごく好きでね。「まんざらじゃない」ってどちらかというと敗者の言葉ですよね。うまくいかなかったけど、まんざらじゃないなって。僕は、そういうのがすごく素敵だと思う。

とにかく行動すること。行動して、失敗して、それをユーモアで笑いに変えていく。一番怖い社会は、「この人についていけば希望を与えてくれる」みたいな人が出てきて、わーっとみんながその人についていこうとしてしまった時。ナチスの歴史みたいなことを繰り返すかもしれない。誰が何と言おうと、「希望は自分で作りますからお構いなく」って言えればいいよね。

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——ところで、著書『希望のつくり方』の中で、日本人は他国と比較しても「仕事」に大きな希望を持つ傾向にあると書かれていました。66.3%の人が仕事について希望があると回答したそうです。

日本社会では、仕事が自己実現の要でした。仕事で地道に一生懸命頑張っていけば、そこそこ出世して給料をもらえるようになって、定年まで働くことができて、孫に囲まれて...。職場で結婚相手を見つけたり、一生の友に出会ったり。

ただ、2005年に「希望学」の研究を始めて以来、変わってきた面もあります。リーマンショックと東日本大震災の2つを経験して「仕事」を疑問に思う人が増えてきた。

「結局どんなに働いたって、何か大きなことが起きたら急に全てダメになっちゃう」「どんなに働いたって家族がいなきゃ意味ないじゃん」という価値観の人が多くなってきました。

——希望にアクションが必要なことは分かりました。ただ、失敗は怖いです。

でも、失敗って"おいしい"じゃないですか。自分がヘマをして、みんなが笑ってリラックスできれば、「次いってみようか」ってなるじゃない。

明日北朝鮮からミサイルが飛んで来るかもしれない、震度7の地震が起きるかもしれない。絶望ってものすごく近くまで来ているのかもしれないし、防ぎようがないのかもしれない。長い目で見れば人口減少や財政赤字などがボディーブローのように迫っているかもしれない。

そんな中で、絶望を全部避けないと生きていけないんだとしたら、生きるのは苦しいよね。それでも生きていくんだっていうところに希望はある。「こんな状況でも笑ってるね私たち」、「笑いながらまだ諦めてないよね」っていう。僕はそういうのが希望だと思う。

Ryuichiro Takeshita

——希望を持つため「仲間」は必要ですか。

「ウィークタイズ」という、社会学者・グラノヴェターが提唱した言葉があります。毎日顔をあわせるような強固な結びつきではなくて、たまにしか会わないような友人や知人との人間関係を言います。

いつも自分の近くにいてくれるストロングタイズは、安心感をもたらしてくれる関係性なんですね。自分と似ているから驚きはあまりない。たとえばFacebookなどのSNSは、一部の"うまく使っている人"は別として、逆にストロングタイズを形成する手段になってないでしょうか。同じ人と同じ情報をいつまでもぐるぐる共有しているだけで、そんなに揺さぶられている感じはしない。

一方、ウィークタイズは、自分と違う世界で自分と違う経験をして、自分と違う情報を持っている人だから、気づきを与える。同質化しているストロングタイズの関係からは得られないヒントがあります。

だから必ずメリットがあるかどうかさえもわからないウィークタイズを維持しようとすることが、希望にむかう「アクション」のうえで、すごく大事なんです。

——ウィークタイズを築けるのも一部の「余裕がある人」ではないですか。

僕はそんなことは思いません。ちょっとした手間暇、それが一番大事だと思う。毎年出している年賀状。手書き1行、「去年やれなかったアレ、今年はやりましょうよ」って書いてあるだけで全然違いますよね。案外そういうのが続くことが、いざという時に「よし、あの人と一緒にやってみるか」になるんですよね。

先ほど、「Wish for something to come true by action(行動によって何かを実現させようとする気持ち)」という希望の「四つの柱」を示しました。それを自分なりに言葉にしてみる。

Wishは叶えたいことですよね。とにかく何でもいいから決めてみる。それからSomethingを1つに絞って決めてみる。Come trueの部分を、どうやったら実現するかをアホみたいに真剣に考えるとか。そしてやはりActionですよね。

何か気になることがあったらそのままにしておかないで、実際に行ってみるとか、ウィークタイズを築いた誰かに聞いてみるとか。ちょっとした時間、ちょっとした手間暇。

チャレンジという言葉は本来「異議申し立て」という意味だけれども、日常を自分の手で変えていきたいっていう、自分の中の小さな意義申し立てを習慣づけることだと思うんです。うまくいくかはわかりません。でもちゃんと決めて、ちゃんと言葉にして、ちゃんと行動する。そうすればまだまだ日本には、多くの希望は生まれるんじゃないかな。僕は思っています。

■玄田有史氏プロフィール

東京大学社会科学研究所教授。労働経済学の研究者でニートや雇用問題などを研究する。2015年から「希望学」のプロジェクトを始める。著書に『仕事のなかの曖昧な不安(中央公論新社/2001年)』『希望のつくり方(岩波新書/2010年)』など。