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「働く女性は、飢餓状態にある」ミス・ユニバース・ジャパンの栄養指導をした女性が訴えたいこと

忙しく働く女性の体は、聞こえない悲鳴を上げている。

2017年10月20日 11時05分 JST | 更新 2017年10月24日 18時34分 JST

忙しく働く女性の体は、聞こえない悲鳴を上げている。

遅くまで働き、朝ごはんを食べないで、痩せ気味の女性たち。働きざかりの彼女たちの身体は、栄養不足のまま走り続けている。

「今20、30代女性が適切な手を打って、健康な人生を歩み始めることが重要だと痛感しています」と語るのは、予防医療コンサルタントの細川モモさんだ。

アメリカで「予防医療」分野の知識を学び、現在はエビデンスのある確かな健康情報を発信する細川さんは、女性ならではの身体の悩み"をアドバイスする大人の保健室「まるのうち保健室」を運営している。

いま働く女性たちの身体はどうなっているのか。将来の妊娠・出産のリスクや、母子健康に与える影響について、細川さんに聞いた。

Kenji Ando

◯働く女性は痩せすぎている

——働く女性のための「まるのうち保健室」とはどんな活動ですか?

"測って・知って・学ぶ"をコンセプトとした働く女性のための街の保健室です。普段測ることのできない骨密度測定や個別の食事相談などのプログラムをワンコイン(500円)で受けることができます。働く女性の増加を受けて2014年に三菱地所と立ち上げました。20~30代の働く女性1000名以上の体のデータをまとめ、毎年「働き女子白書」として最新の調査結果を公開しています。

——「働き女子白書」から、どんなことがわかりましたか?

私たちの調査では、栄養状態が深刻なのは働いている女性だということが分かりました。

働く女性が1日に必要とするエネルギーは、約1800〜2000kcal(20〜30代女性の場合)であるのに対して、1479kcalでした。食糧難だった終戦直後を下回ります。平均値ですから、大幅に足りていない人がいるということです。ビタミンやミネラルなど、必要な栄養素が十分に摂れていないことも分かりました。

働いている女性たちが、忙しさのあまり朝食を食べていなかったり、カロリーや栄養素を十分に摂れていなかったり、慢性的な睡眠負債を抱えていることで、不健康になっている実態が見えてきました。それらの乱れが頭痛や冷え性、疲れなどを悪化させていることがわかっています。

私自身も女性起業家として仕事に集中して健康がおろそかになる状態はわかりますが、栄養失調による貧血や骨密度の低下、月経の乱れなどを改善するのには時間がかかります。まずは体内時計を整える役割のある朝食をしっかり食べて、バランスよく栄養を摂っていただきたいですね。

三菱地所株式会社・一般社団法人ラブテリ
2016年度 第3期まるのうち保健室報告書より

——なぜ、働く女性には不健康な人が多いのでしょうか。

働く女性は、栄養・運動・睡眠が不足する三重苦になりやすい。長時間労働ををしていて、忙しくてランチが食べられないこともあります。夜も帰りが遅くて、ご飯を食べるのが遅くなったり、飲み会があれば居酒屋の油っぽい食事で済ませることもあります。それが翌朝に響き、食欲不振から欠食につながり、体内時計の乱れが起きるという負のスパイラルに陥りやすい現状があります。飢餓状態にあるといえる人が少なくありません。

栄養不足で体が細くなっているのに、日本にはスリムであること、痩せていることが良しとされる風潮があるので、本人が問題意識を持っていないことが多いのです。

——日本の女性の美意識も関係してるんですね。

私たちは人生100年時代を生きています。今20、30代女性が適切な手を打って、健康な人生を歩み始めることが重要だと痛感しています。栄養状態や体格が影響する不妊症になって初めて不健康を意識して生活習慣を振り返るのは、ご本人もつらいですし、社会にとっても損失だと思うからです。

WHO Global Database on Body Mass Index / 三菱地所株式会社・一般社団法人ラブテリ
2014年度まるのうち保健室報告書より

◯低出生体重児の割合が異常に高い日本

——不妊症といわれましたが、妊娠・出産にも影響しているのでしょうか。

私は20代で予防医学に関心をもち、アメリカで公衆衛生という分野に出会い、感銘を受けたのですが、ある教授の講義に参加した際に、「病気のリスクは胎児環境下でプログラミングされる」と聞いたんです。すでに世界各国で、とくに出生体重と成人後の生活習慣病リスクが裏付けられていることには大変な衝撃を受けました。

でも、私はそのとき「低出生体重児は母親の痩せや栄養失調がリスクなわけだから、胎児環境下へのアプローチが必要なのは、発展途上国の話だろうな」なんて思って聞いていたんです。そうしたら「OECD加盟国の中で低出生体重児(の割合)が高いのは、日本だ。」と聞いて、新興国(インド、南アフリカ、インドネシア)並みの数値に愕然としました。

低出生体重児が生まれる確率は北欧諸国や韓国だと5%未満ですが、日本は約9%を超えていたんです。およそ10人に1人の赤ちゃんが2500g以下の低出生体重児ということになります。

——そんなに違うんですか...

「異常に多いのはなぜだろう」と調べたら、なんと母親世代の痩せ増加や栄養失調が主な背景因子だと分かりました。驚いたことに妊婦さえも必要エネルギーが大幅に不足している実態があったんです。

——深刻ですね。

母体の健康状態は3世代先まで影響します。これを放置していたら、母子はおろか孫の代まで巻き込んだ悲劇になってしまう。これだけ深刻な現状があっても、日本には予防医学や母子健康にかける予算が1%もないので、研究が進んでおらず、施策を進めるにあたり必要なデータもないのが現状です。

今や日本は世界トップクラスの超少子高齢化大国です。子どもの数は減っているのに、その子どもたちの健康状態が胎児レベルで悪化している。女性と子どもの健康を誰が管理して明るい未来をつくっていくのか——。いても立ってもいられなかったのが今の活動につながっています。

Dmytro Buianskyi via Getty Images

◯健康意識の高い両親がなぜがんになったのか

——女性や子どもの健康について熱心に活動されていますが、細川さんが「予防医療」に着目したきっかけは何だったのでしょうか。

私は18歳のときに、父が胃がんに、19歳のときに母が悪性リンパ腫(血液のがん)になりました。実は、父は鍼灸師をしていて母は玄米菜食を取り入れていました。私や妹も玄米や雑穀米を食べて育ったんです。両親ともに健康への意識が高く、体にいい食事をしていたはずでした。

だからこそ、がんが生活習慣に起因するという定義に納得がいかなかったのです。「こんなに頑張っている両親ががんになるなら、私たち姉妹もがんになるだろう。なぜがんになったのだろう」と思ったんです。

——ご両親は、健康的な生活を送られていたのにがんになった。

両親が小康状態になったとき、これからどうやって暮らせば再発しないのか、自分たちもがんにならないのか、新しい健康習慣の構築の仕方がわかりませんでした。

医師にその疑問をぶつけたら「君の関心がある分野は予防医療だ。日本には国民医療保険制度によって病気になっても安価で医療を受けることができる環境があって、予防医療は栄えない。でも、アメリカにはその制度がないから、予防医療に力を入れている」と教えてくれたのです。

——「予防医療」の分野に出会ったんですね。

それがきっかけで、20歳の頃からアメリカに通い、栄養アドバイザーの資格を習得したり、先進的な健康施策が多いニューヨーク市の取り組みを保険精神衛生局で学んだり、各種学会や大学で開催される公開講座に積極的に参加して、最新の知識を毎年アップデートしていきました。予防医学と一口にいっても、母子健康や遺伝栄養学など多岐に渡り、学びたい分野がありすぎて、どれかを専門にしようと夢中で学びました。

その結果、専業主婦だった母は健診を受ける機会と、科学的な裏付けのある知識が足りなかったのだと気づきました。

健康のためには、機会と情報の提供が重要だと感じたんです。

Kenji Ando

◯超少子化大国の日本

——アメリカで学んだ知識には、他にどんなことがありますか。

アメリカには日本のような国民医療保険制度がないため、多くの人が代替医療を受けており、その幅の広さに驚きました。自然療法から食事療法まで、予防医療は幅広い言葉で、アメリカでは細分化されています。

私は"国民が得るべき知識と機会を損なうことによって増える病気を予防する"「公衆衛生学」と、例に挙げると世界40カ国が実施している葉酸を主食である小麦に添加することで二分脊椎症を劇的に減らしている「栄養疫学」のふたつにインスパイアされました。

——病気予防と栄養という2つ視点ですね。

どちらも国民の健康増進には欠かせません。また、アメリカにはWICという機関があり、教育を受けていない女性に妊娠を機に食事や栄養について教えているのですが、日本の場合は母親学級でも「5大栄養素とは〜」から始められますが、アメリカでは「トマト」が読めないほどの教育格差があることを身を以て知り、愕然としました。

このような教育格差を埋めるために、ビジュアル重視の教育ツールを開発することや、様々な人種及び宗教に配慮し、誰もが理解できる内容に落とし込んで伝えるプレゼン力などは本当に勉強になりました。今の活動のお手本です。

このような体験を通じて、危機的状況にある日本において母子健康発展に尽力し、とくに低出生体重児や不妊症の予防に注力したいと考えるようになりました。

——不妊治療や妊娠・出産などには補助制度もありますが、その前からもっとサポートが必要だと。

今、日本では20代の4人に1人が痩せ型です。こうした女性が妊娠後に体重を増やしても、赤ちゃんの体重増加にはつながりにくく、やはり低出生体重児のリスクが高まります。また、近年ハーバード大学により食生活・栄養状態が妊娠力に大きな影響力があることもわかっています。仕事を優先するあまり不健康になっていく女性たちに、どうしたら健康な赤ちゃんを産むための情報を伝えられるのか。女性と子どもの健康を誰が管理して明るい未来をつくっていくのか——。

熟考した末に、まず日本女性を対象にした研究で、「痩せていることにおける健康被害を立証しよう!」と考えました。

◯女性たちに正しい健康意識をもってほしい

細川モモ

——日本では、どんなことから始めたのですか?

私が日本の異常事態に気づいたとき、日本の母子健康は待ったなしの状況でした。痩せによる不妊症や低出生体重児出生以外にも、赤ちゃんの二分脊椎症(葉酸欠乏)やくる病(ビタミンD欠乏)も増加の一途を辿っており、目立った施策がない状況でした。

アメリカで公衆衛生と栄養士の単位をとろうと思ったら10年かかってしまう。その間に事態が悪化してしまうだろうと考え、進路に悩みました。

そのとき、日本にもアメリカにも専門家はいるので、専門家を機能させるコーディネーターになろうと思いました。

——なるほど。専門家をつないでチームを作ろうと。

具体的には、必要な予算、被験者、フィールドを提供して予防医療に関する研究を進められるインフラを整える役割です。これも、アメリカで実例を見たことがきっかけです。

そうして25歳くらいのとき、日米の栄養士やドクターなどに声をかけてチームを結成し、予防医療を普及するための活動を始めました。今では13のライセンスホルダーが所属しています。

——どのような普及活動をされているのでしょうか?

複数名の研究者も在籍をしていて、世界的に信頼のおける論文を親しみやすく、おしゃれなデザインで編集した妊娠や出産に関するシリーズ本『LUVTELLI(ラブテリ)BABY BOOK』や、基礎栄養学本を自費出版で発行しました。

おかげさまで、好評で累計30万部以上売れ、研究予算が自前で確保できてしまいました(笑)。患者への指導ツールとしても評判で、お産を扱う産科での導入も増えています。

——自費出版で予算を確保、すごいですね。

2011年から5年間は、ミス・ユニバース・ジャパンの栄養指導をしました。食事から理想の体型や美肌などを叶えるお手伝いに加え、出場者の女性たちの美と健康の関係について、株式会社タニタとともに体組成計測定や血液検査を通じて調査しました。

私個人としても、栄養学を中心に最新の知識のアップデートも欠かしていません。そのために、民間資格以外に米国臨床栄養士のドクターの個人レッスンなどを受けたり、日本では特殊なやり方をしていると思います。

また、未来のための研究を複数進めるためには、多くの資金や協力者・被験者が必要であり、それらを必要なだけ揃えるためには私自身に価値が必要であるため、メディアに積極的に出るなどしています。昨年は大きな成果として、女子栄養大学との共同研究を国際学会で発表することができました。

Getty Images

——日本の女性に、健康的な美しさを伝えるために。

私にとって美しさとは、人を幸福にするものです。

美しく咲く花、見事な風景、人を魅了するアート、愛らしい赤ちゃん、それらを見るとき、人は自然と笑顔になりますよね。私は5年間、世界一の美女を目指す女性たちに一貫して、美しさとは人の心を豊かにするもので、細すぎる身体への心配や畏怖を呼び起こすものではないと伝え続けてきました。

外から日本を見て感じることは、私たち女性は、知識がなくては健康と女性としての機能を守れないということです。

——女性自身が、自分の体を大切にしなければいけない。

女性の社会進出が進むとともに、摂取カロリーの低下だけでなく、妊婦も含めて喫煙率や飲酒率が高まる傾向にあります。結果的に何を失うことになるのか、落ち着いて冷静に考える必要があります。そして、仕事で健康を犠牲にせず、自分の人生を守るための知識を積極的に習得するべきだと思います。

「まるのうち保健室」では、普段なかなか測れない骨密度を測定する機会や、女性の健康と生活習慣について学んだ認定カウンセラーが個別に指導する機会を提供しています。今後は企業単位で女性社員の健康を高めるための様々な取り組みを開始しますし、保健室は全国に拡大させていく準備を進めています。これからも女性たちへ正しい健康知識をお届けしたり、母子にとってやさしい職場環境・まちづくりへの啓蒙を続けていきたいと思っています。

lbo

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