これからの経済
2017年12月11日 16時40分 JST | 更新 2017年12月19日 15時17分 JST

日本の働きすぎは「管理職がマネジメントをしていなかった」から

「生産性って言葉が、実は大嫌い」とユニリーバの島田由香さんは語った

Kaori Sasagawa

「生産性って言葉が、実は大嫌い」

働く時間・場所を社員が自由に選べる新人事制度「WAA」を2016年にスタートさせた、ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社取締役 、人事総務本部長の島田由香さんはそう語る。

政府が働き方改革を掲げ、働き方は大きな転換期を迎えている。果たして、「WAA」でユニリーバの社員の生産性や労働時間はどう変わったのだろうか。

島田さんと、働き方改革実現会議の民間議員で「御社の働き方改革、ここが間違ってます!」を出版したジャーナリストの白河桃子さんに、ハフポスト日本版の竹下隆一郎編集長が、生産性とこれから働き方について聞いてみた。

Kaori Sasagawa
(左)島田由香さん(右)白河桃子さん

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会社で「安心・安全な場」をつくるのは、マネージャーの責任。

ユニリーバ社員の生産性はどう変わったのか

竹下:「WAA」の制度を取り入れて、例えば社員がこう変わったといった具体例はありますか?

島田:始めてから1、3、6、10カ月で社員にアンケートを実施しました。例えば、最新のアンケートでは、92%以上の人が、「1回はWAAを実施した」と回答しています。その中で、67%の社員が「毎日の生活にポジティブな変化があった」と思っている。68%の社員が「毎日の生活が良くなった」と感じています。

生産性という点では、「導入前と導入後で自分の生産性がどのくらい変わったか?」という質問をしたところ、平均で30%上がっていることがわかりました。このあたりの数値は、3カ月目以降は大きく変わっていません。

Kaori Sasagawa

生産性ってどうやって判断するのか

島田:どうやって生産性を計るのか、ものすごく考えましたが、今は「感覚値でいいです」と確信しています。

島田:具体的には、社員アンケートでは「導入前のあなたの生産性を50としたとき、導入後、今のあなたの生産性は0~100のどこですか? 数字を入れてください」と言ってるんです。

51と入れる人もいれば、99や40の人もいます。75%の人、つまり4人中3人が51以上を入れました。つまり、(生産性が)上がったと。

竹下:なるほど。

一方、49以下を入れた人が5%いました。理由は2つあって、1つは「ウェブ会議のシステムが繋がらない」とか、ITツールの通信速度や使い勝手に不満を持っている。もう1つは、これが肝なんですが、「コミュニケーションが取りづらくなった」というものでした。

コミュニケーションという言葉ほど捉えられにくいものはない。コミュニケーション......何のことを言ってるんだろ? とヒヤリングしてみたんです。すると「ちょっと聞きたいことがあったのに、今日はWAAでいない」と。

一同:ああ。

島田:わかります? それはコミュニケーションじゃなくて、自分の都合で聞きたかった時に聞けなかったということです。それとコミュニケーションが取りづらいっていうのは違いますよね。

今までマネジメントをしていなかった管理職

島田:WAAではいくつかの基本のガイドラインがありますが、細かなルールは一切設けていません。例えば、どうやって上司に申請するか、どうやってチームメンバー同士がうまく連携して働けるようにしていくのかといったことは、全部マネージャーにまかせているんです。だから、マネージャーの力量の差が見えてきました。

白河:働き方改革は、本当はマネジメント改革といわれるぐらいマネジメントが重要なんですよね。マネージャーが今までマネジメントをちゃんとしていなかった。みんな一律の働き方で24時間会社にいて、いつでも「やります!」と言ってくれたから楽だったんですよ。

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だけども今は、育児がある介護がある。正社員もいれば派遣社員もいるしパートの人もいる。本当に、これからマネジメントをどうするかというのが一番大変になると思います。

働き方改革実現会議の時に、「日本はこんなに長時間労働をしているのに、生産性が22位」という資料が何度も持ち出されたんですよ。いつの間にかメインの議題は、「どうやったら生産性を向上させられるか」になっちゃった。なんでかというと、法律を変えるために経営者を説得しなければいけなかったから。

だけど、みんな生産性に踊らされちゃって、「じゃあ、生産性って何ですか?」というと本当に難しい。業務効率改善だと思っている人もいるし、イノベーションが起きて儲かる仕組みができることだと思っている人もいる。人によって全然違うんです。

「生産性上げて」といわれても全然ワクワクしない

島田:生産性に関しては自分の中にひとつ仮説があります。生産性というと、インプットに対してアウトプットがどれだけあるかという話になりがちです。労働時間や投入する人員・予算は少ないほど良く、成果は質・量ともに上がるほど良いとが上ったらいいわけじゃないですか。でもそれって、すごく会社の視点なんですよ。

白河:ケチくさいですよね。

島田:私、生産性って言葉が実は大嫌いなんです。で、「生産性上げてください」って言われても、全然ワクワクしないじゃないですか。

竹下:ワクワクしないですね。

島田: 1年間のデータを分析してみて、生産性はもちろん高いに越したことはないけれど、社員の視点で考えることが大切だと思ったんです。インプットは社員がするものだから、その社員がどんな状態なのかが、アウトプットを左右する。

社員がそれぞれどんなマインドセットを持ち、何を感じているのか。健康かどうかも、明らかにアウトプットを変えますよね。今の生産性の議論には、こういった視点が欠けていると思うんです。社員が自分で自分の状態を整えていく、会社も整えていく。両方のアプローチが必要です。そのときに一番大事なのは、幸せかどうかなんです。

竹下:なるほど。

島田:私は生産性という言葉を2回言い換えました。一般的に言われている生産性は、会社の視点から見た「生産性」。これを社員の視点から定義し直すと「生産性="生"き生きと"産"み出したくなる状態」。今はまたそれを言い換えて、「生産性=幸性(しあわせ〜)」と言っています。

白河:「生産性」が、「幸性」になったんですね。すごく良い言葉ですね。

島田:会社では生産性の話をしますが、社員の「幸性」が高いかどうかという視点も入れて、「あなたの幸性どう?」と。本人たちも考えられるようにしています。

白河:(ドラッカービジネススクール准教授)ジェレミー・ハンタ―さんという、エクゼクティブにセルフマネジメントを教える方がいて、人間は感情がカッとなることもあれば、すごい落ち込むこともあるんだけど、この間がレジリエンス(心の回復力)ゾーンなんだって。

Kaori Sasagawa

人間、上がるときも落ちるときもあるけど、なるべく早くレジリエンスゾーンに戻るようにしなきゃいけない。そのためにセルフマネジメントの仕方を覚えなくちゃいけない、と。さらにレジリエンスゾーンを広げる努力も必要といわれて、本当に重要だなと思いました。人を管理する人ほど、自分を管理できないといけないと教えられました。

竹下:すごくわかります。

"デソ"って何? 少し離れて見ることの大切さ

島田:少し離れて見ることが大事だということですよね。ここでマインドフルネスの重要性が出てきます。私はNLP(脳神経言語)を取り入れたコーチングをしていますが、これを一言でいうと、自分の脳のパターンを知って、それを書き換えることなんです。例えば、やりたいのにブレーキとアクセルを一緒に踏んでしまっているような状態。よくあることですが、脳のパターンだから、書き変えることができるんです。

NLPには、アソシエーション(自分に一体化している状態)とデソシエーション(自分を離れたところから客観視する状態)という表現があります。

このインタビューの間にも、今・ここで話すことを楽しむアソシエーションと、これくらい時間が経った、この質問がまだカバーできてない、とちょっと離れて考えるデソシエーションの状態が起きているはずです。これがアソとデソなんです。

一同:わかりやすい(笑)。

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島田:このデソの力がすごく大切で、セルフマネジメントにつながるんですよ。本当にラッキーなことに誰でもできます。

竹下:どうしたらいいんですか?

島田:簡単な方法を2つご紹介しますね。1つは、(斜め上の)ここら辺にもう1人自分を置いて、自分のことを見てみること。「今日はこんな服を着てて、こういう風にしてる」みたいなイメージを持つのが一番早いですね。

もう1つは、誰かと話をしているときのデソです。たとえば部署間でものすごく衝突しているときには、アソしてるから自分も相手もカッとなっているんです。だから、その状況を離れたところからもう1人の自分が「どっちに向かっているんだろう?」と見る視点を持ってみるんです。

その視点を持ったほうが、トークの主導権をとれます。口論に意識が向くんじゃなくて、「何のためにやってたんだっけ?」という問いができるようになる。結果として仕事が効果的になっていく。誰でもできるようになります。

働き方改革、一気にやればいい

島田:「WAA」に関しては、まずはユニリーバ・ジャパンから広げていきたいと思っていましたが、今はみんなやりたいなら一気にやればいいじゃんと思っています。誰でも「Team WAA!」と言っていいよと。共感して下さる人たちと一緒にやろうとしてるんです。

働き方改革は「この生き方でいいんだっけ?」「どういう人生にしたいんだっけ?」と全員が考えられるチャンスでもあります。だから、本当にワクワクしています。

白河:私も働き方改革に興味を持つようになったのは、働き方改革をした経営者が集まって話す場で見たときの経営者のおじさんたちの少年のような笑顔です。もう本当に夢中になって話していて、「こんないいことがあった」と。それを見て、「すごいな、これがイノベーションなんだ」と思ったんです。

島田:人間には3つのニーズがあるんですよね。これは、経営者だろうが一般社員であろうが、男性だろうが女性だろうが、どの人間にもあるんです。

1つが「つながっていたい」。2つ目が「承認されたい」。日本人はこれが結構強いから、頑張って結果を出すとか、頑張っている姿を見せることで、自己承認を満たしているところがあります。もう1つが「貢献したい」なんですね。どの人もやっぱりいいことをして役に立ちたいんです。

経営者の皆さんがニコニコしていたのは、3つのどれかが満たされているから。この3つを見つめ直せば、みんなのマインドセットはすぐ変わります。

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