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ポートランドに見る「子どもの虐待通告システム」

福祉系にも「人間中心の街づくり」の考え方が脈打っているように感じました。

2018年01月30日 20時56分 JST | 更新 2018年01月30日 21時01分 JST

2017年4月。アメリカ・オレゴン州ポートランド州立大学(PSU)での講演を終えた翌日の朝、私は、「児童福祉ホットライン」(Child Welfare Hotline)の事務所に向かいました。世田谷区では、これまで東京都が運営してきた児童相談所を2020年を目処にして、区に移管しようとしています。 ポートランド州立大学(PSU)の講演準備をしながら、私は児童福祉分野で児童相談所を含めた社会的養護の仕組みに詳しい専門家に世田谷区役所に集まってもらって、夜遅くまで意見を聞き続けていました。

「せっかく、世田谷区が児童相談所を新たにつくるなら、『通告窓口の一元化』は課題ですよ。世界には、先進的な方式を取っている事例があるから、現在のシステムにとらわれずに『世田谷方式』でスタートすることも一案じゃないでしょうか」と、小児科医の奥山眞紀子さん(国立成育医療研究センター副院長)が言いました。

奥山さんとは、2000年に児童虐待防止法を議員立法で作った当時から専門家として意見を聞いてきた旧知の間柄です。会議が終わってから「世界の先進事例」という言葉が気になったので思い切って質問してみました。「奥山さん、『世界の先進事例』ってどこの話ですか?」

「私が言っているのは、アメリカのオレゴンですよ」との回答には驚かされました。なんと、奥山さんの紹介してくれた窓口一元化を実践している「児童福祉ホットライン」がポートランドにあったからです。「2週間後にポートランドに行くんですが」と言うと、「ぜひ見てきた方がいいですよ」と勧めてくれました。

2016年9月6日から9日まで日本の児童相談所・医療関係者・弁護士等の児童福祉の現場にいる人たちが、「オレゴン州マルトノマー郡ポートランド視察」を行っていました。中心となった山田不二子医師(認定NPO法人チャイルドファーストジャパン理事長・一般社団法人日本子ども虐待医学会事務局長) を紹介してもらい、資料を送ってもらうと共に、現地と連絡を取っていただくようお願いをしました。山田さんたちの報告書によると、オレゴン州の「窓口一元化」システムは、日本の児童相談所にあたるオレゴン州福祉局(Department of Human Services・DHS)の一部門にあります。DHSの中に「児童福祉ホットライン」(Child Walfare Hotline)が置かれているとのこと。そこで、訪問取材をお願いしました。

当日は、風が強くポートランドのあちこちで街路樹が倒れたり、家屋に被害が出るほどの悪天候でしたが、何とか静かな住宅街の中にあるMDTセンターに到着しました。このMDTセンターこそが、「子どもの虐待防止」で組織の相違を超えて関係機関が同一の建物の中に入り、情報共有して、互いに連携しながら活動しています。私たちを迎えてくれたのは、虐待通告の窓口となっている福祉局の児童福祉ホットラインの責任者と、スタッフ、そして地方検事でした。私は、訪問目的を次のように話しました。

「広域自治体の東京都、その中に世田谷区があります。世田谷区には、東京都が運営する児童相談所がある一方、児童虐待や児童福祉の相談窓口として世田谷区の運営する5カ所の子ども家庭支援センターがあります。措置権限と言って、都の児童相談所の方は強い法的権限を持っています。虐待の通告があった時に、子どもを親から分離したり、また子どもを親のもとに戻す権限も児童相談所長にあります。

世田谷区には、区民からも学校・幼稚園・保育園からも情報が入ってきます。世田谷区は身近な地域コミュニティと密接につながっているので相談しやすく、また区の子ども家庭支援センターも子どもと家庭のバックグラウンド等を把握し、理解しているという特徴があります。児童虐待について、都の児童相談所と区の子ども家庭支援センターが別々にある欠点もあります。児童相談所に来た重要な情報が、区に共有されないこともあります。

これから、都の児童相談所は区に移管され、子ども家庭支援センターとつないで、区がコントロールすることになります。近い将来、たくさんの窓口を同時に持つのではなくて、一元化するやり方もあるのではないかという議論をしてきました。児童相談所移管にあたってのアドバイサーである奥山眞紀子先生から『オレゴン州の児童虐待に対しての取り組みがいい。窓口一元化に特徴がある』と聞いて、詳しく知りたいと思いやってきました」

私たちの置かれている状況を説明した上で、学校での暴力事件やいじめ、児童虐待の問題に取り組んできた私自身の自己紹介を添えました。

「私は90年代半ばに、ジャーナリストとして学校事件を取材する中で、『いじめ』や『暴力』に苦しんでいる子どもが直接相談できる仕組みが必要だと感じていました。90年代半ばに、イギリスで子どものための相談電話機関『チャイルドライン』が始まっていることを知って、何度かロンドンに取材に行きました。 当時の取材・訪問がきっかけとなって、今や日本のチャイルドラインは全国に広がっています。1996年から国会議員として、児童虐待問題に取り組み、2000年の児童虐待防止法制定を手がけました。2011年からは、世田谷区長として、法が決めたことを執行する立場として子どもの安全や虐待防止に取り組んでいます」

こうした経歴を語った上で、「私の興味は、専門的な教育を受け子どもケアの経験のある人たちが、『スクリーナー』と呼ばれる子どもたちに関する電話にどのように向き合っているかにあります」と話しました。

さっそく、プログラムマネージャーのカーリー・クロフォードさんが説明してくれました。

「子どもの虐待に関する電話は、『児童福祉ホットライン』に入ってきます。ホットラインに入ってくる電話の本数は年間5万件で、そのうち2万1000件が『子どもの虐待』関連に分類されます。

1日あたりだと、100件から200件の電話を取っています。昼は18人、夜は2人のシフトを組んでおり、夜は、午後11時から午前8時までの24時間対応となっています。 電話の最前線に位置するのがスクリーナーですが、 ソーシャルサービスを大学で習得し、児童心理や家庭問題を専門的に勉強した人たちで、ほとんどの人たちは、相談現場でソーシャルサービスの経験を持つ人たちで、全員がオレゴン州の公務員です」(カーリー・クロフォードさん)

Nobuto Hosaka

カーリー・クロフォードさんは、ソーシャルサービスの学士を持っていて、19年間ここで働いています。69人が働いている「児童福祉ホットライン」の中では、9人はスーパーパイザーで、60人はその下で働いています。スクリーナーは34人、そのうち24人はフルタイムで働いていて、他の人はパートタイムです。 カーリー・クロフォードさんに聞きました。「私はここで働いている人たちの管理・マネージメントをしています。ホットラインは3つのユニットで出来ています。ひとつは『スクリーナーのユニット』、そして、『家庭の中で指導をするグループ』もうひとつは『性的虐待を受けた人たちのユニット』です。私はこの人たち全体の管理・監督をしています」

通告受理ワーカー(スクリーナー)ひとりあたりの面積は20㎡あまりとゆったりしていて、日本の相談機関の狭いブースと比べると大変に広いものでした。スクリーナーは電話を取ることに専念して、現場に出ていくことはありません。日本の相談機関のように、自ら電話を取り、調査し、訪問し、方針を決めて関わるというやり方とは違います。オレゴン州福祉局(DHS)は、スクリーナー部門、調査部門、在宅支援部門、里親担当部門と4つに分かれています。スクリーナーが調査の必要ありとセレクトしたケースは、子どもの虐待防止チームのソーシャルワーカーが動き出します。緊急を要するケースの場合は、警察官も同行する場合もあります。

スクリーナーの仕事場を見せてもらうと、大きな画面のディスプレイが並んでいて、電話がかかってくると、オレゴン州の子どもたちのデータベースを呼び出して、名前や住所、家族環境等の基本情報を確認しながら、スクリーナー段階での対応に止めるか、虐待防止対応の必要な通報として扱うかをマニュアルに従って仕分けをしていきます。

Nobuto Hosaka

児童福祉ホットラインのスクリーナーの現場で働くアイーダ・サンダース(Ida Sanders)さんにも聞きました。

「私はスクリーナーの監督(スーパーバイズ)をしています。心理学の学士で、ソーシャルサービスを大学院で専攻しました。児童福祉関係の仕事は、25年間しています。ここでは13年働いていますが、10年間はスクリーナーの監督をしています」

彼女は、半年前に日本を訪問し、小児科医や児童福祉関係の集まる会議で、ここでの活動を報告したといいます。「児童福祉ホットライン」の特徴は、同じ建物の中に、子どもの虐待を専門とする警察官や検察官が組織は違っても、同一の建物の中にいるという点にあります。私の前には、ジョン・カサリーノ検察官が登場しました。

「20年間この仕事をしている検察官です。弁護士の資格もあります。

11年間、裁判所で「児童虐待」に対する案件を扱ってきました。子どもと児童虐待を専門に扱う検察官をしています。この地域、マルトノマー郡(ポートランドを含む人口74万人)には検察官が85人いますが、この建物の中に子どもの虐待のみを扱う専門の検察官が4人います

カサリーノは、 若いうちから実務で「子どもの虐待」専門で経験を積んできた。 このシステムが出来る前は、通告の窓口と警察や検察は別々の窓口にあった。こうして同じ建物に入り、瞬時に情報共有することで虐待の被害リスクにさらされる子どもたちを早く助けることができるようになった。子どもの虐待にチームで取り組んでいます。

ここには、児童虐待を専門とする14人の警察官もいます。ふたつのチーム『子どもの虐待対策班』と、『DV対策班』に分かれています。ここでは、相談から介入まで、約100人の人たちが働いていますが、理想的には医療機関も入っていると、すぐに事件にまきこまれた子どもの診断や治療ができて完結するのですが、これはまだ出来ていません」と、カサリーノさんは話してくれました。

Nobuto Hosaka

私は、世田谷区で直面している「相談窓口の一元化」について聞きました。「日本では『虐待ではないか』と疑いを持った時に、区の場合は、保健所や子ども家庭支援センターに連絡したり、警察や児童相談所に電話したり、窓口がいくつもあります。機関と機関との情報共有や連携がうまくいかない場合があります。その点は、こちらではどうしていますか?」

「子どもの虐待に関しての情報共有(クロス・レポート)は、アメリカ合衆国の法律でも義務化されています。通告を受理した人は、『子どもの虐待通告』『子どもの虐待のリスクあり』と判断した場合は、警察にクロス・レポートするように法律で決められています。そして、警察に虐待と疑わしき情報が入ると、ただちに情報共有がなされるし、『児童福祉ホットライン』に同じように電話が入っても同時に警察と情報共有するシステムになっています」(クロフォードさん)

電話に出て話を聞いたスクリーナーが、相談内容によって緊急対応が迫られているものや、事件性のあるものや、そう急ぐことのない日常的な相談等、いくつかに分類しているはずですが、分類の仕方をたずねてみました。

「そうですね。たとえば重大なものは、『子どもが殺されてしまった』というもので、かれは必ずスーパーバイザーに連絡しなくてはなりません。ハードなケースは性的虐待や、長期間にわたって放置(ネグレクト)されているもので、緊急の対応が求められます。また、子どもの安全が確認されているものの5日以内に対応するべき通報と、リスクは認められる当面の対応も必要がないケースに分けられます」(クロフォードさん)

彼女の話をまとめると、緊急度が高い順に3段階のカテゴリーに分けて対応している、ということです。

①現在、リスクがある。24時間以内の対応が必要。即座に逮捕や介入が必要となるケース

②子どもは安全な環境にいるが、5日以内に対応するケース。

③子どもの安全についてのリスクはない。

「ここの特徴は、ホットラインと検察官、警察官も、ひとつの建物の中で同居し、連絡を取りながら、チームで対応しているところでしょうか。10年前に、この建物が出来て、現在の試みが始まりました。 以前はそれぞれバラバラなところにいました。統合してマッチングしたことで、効果は出てきていると思います。いいモデルとして、それぞれの分野の関係者が見にくることも多い。このシステムは家族にとっても使いやすい。それぞれの機関で情報共有されていることで、子どもの状況を正確につかんでいるからです」(クロフォードさん)

オレゴン州は人口397万人ですが、2014年に児童虐待によって13名の子どもが生命を奪われています。オレゴン州の児童虐待による被害児童は約1万人。アメリカ合衆国全体では、1640人の子どもが児童虐待によって亡くなっています。被害児童は、全米で68万6000人という規模となっています。カサリーノさんが、子どもの殺人事件について話してくれました。

「子どもが殺された時に僕の腰につけているポケベルが鳴ります。四六時中、このポケベルは離せません。子どもの殺人事件が起きた時には、こうして情報共有することになります。虐待ということであれば、私は現場に出かけていきます。

性的な暴行があれば、同時並行でソーシャルサービスが動きます。必要なら、刑事が現場に急行します。子どものケアのために警察との情報共有が必要です子どもが死んだケースは、細かい調査がなされます。その際、関係機関が連携することになっています」(カサリーノさん)

切羽詰まった電話がかかってきた時、スクリーナーが今すぐに緊急の介入をするかどうかの判断が難しいと思いますが、どうしているのでしょうか」と、たずねてみました。

「私たちの持っている関連情報で、子どもの家庭の様子や、隣人からの証言、親戚の声等の情報が記録されています。電話で入ってきた情報と、これまでのバックグラウンドの情報を総合して、判断することになります。スクリーナーが電話を受けながら、ディスプレイに子どものデータベースを呼び出して、参照しながら話を聞くこともあります

そして、緊急性を認めた時には、現場に向けて出発します。『24時間以内』というカテゴリーにあたるのです。現場には、ソーシャルワーカーが出かけます。子どもの置かれている状況で必要と判断すれば、警察官が同行する場合もあります。電話を受けているスクリーナーが外に出ていくことはありません。子どもの一時保護が必要で里親のもとに預けることになった時に、裁判所の関与が必要となります」(クロフォードさん)

インタビューしている現場に現れたのは、ポートランドに20年在住している日本人女性で、青少年を専門としている裁判所に勤めているアキコ・ヨシダさんでした。裁判所は同一の建物にあるわけではないのですが、コミュニケーションは良好で、頻繁に連絡は取り合っているといいます。

「子どもの一時保護は、フォスターホーム(里親)で養育することになります。子どもが里親のもとで過ごすことになる場合には、裁判所が関わります」(ヨシダさん)

子どもの虐待を専門とする警察官の仕事場にも案内を受けました。通告を受けたけれども親が施錠したまま介入を拒否する時には、ドアを破壊して強制的に住居に入る権限も与えられているそうです。警察官が現場に持ち込む道具箱も見せてもらいました。通告内容によって、警察官も現場に制服で向かう場合と、私服で向かう場合を使い分けているといいます。

Nobuto Hosaka

オレゴン州でもっとも人口の多いポートランドを含むマルトノマー郡で、10年前から子どもの虐待に関係機関が通告窓口を一元化し、児童福祉ホットライン、警察や検察と組織は違っても同一の建物にいて相互に連絡を取りながら子どもを虐待から守るという取り組みを続けていることは、児童相談所の移管を受けて準備にあたっている私たちにとっても、大きな刺激になりました。

日本とアメリカでは、子どもの虐待に対する児童福祉法・児童虐待防止法等の法制度は相当異なります。福祉部門と捜査部門が同一の建物に同居するオレゴン州のシステムを、そのまま導入することはできません。ただ、「子どもの生命」「子どもの尊厳」を徹底的に守るためには、たとえ、前例のないことでも切りひらいていこうというスピリッツには、大いに学ばせてもらいたいと思っています。当面は、世田谷区の児童相談所と子ども家庭支援センターをつなぐにあたって、たくさんのヒントがありました。

これまでポートランドで見聞きしたのは、都市計画や再開発等の「街づくり」系でしたが、福祉系にも「人間中心の街づくり」の考え方が脈打っているように感じました。街は人を支えるだけではなく、人と人の関係を変え、また社会を変容させる...そのメカニズムの一端を見ました。

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