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女性が輝く国 フランスから-「企業の経営能力には、性別はない」

2016年04月03日 23時30分 JST | 更新 2017年04月04日 18時12分 JST

男女労働者の間の完全な給与・年金額の実施を政府が監視し、女性が企業内で昇進するのを妨げる慣行-「ガラスの天井 」を防止して企業社会の意識、女性観を変えていくために、取締役会の男女同数制を法律で義務づけたフランス。

しかし多くの大企業のトップレベルではかなり以前から、性別や年齢を全く考慮しない能力主義・成果主義による役員の登用が行われている。

20歳代後半からフランスメディア業界で要職を歴任して数多くの企業の再建を成功させた後、現在ボルドー副市長として右派のアラン・ジュペ元首相と共に活躍している"フランスのマーガレット・サッチャー"、ヴィルジニー・カルメルスさんに、経営者として成功した理由と、フランス経済、公共管理について抱くビジョンを伺った。

Virginie Calmels

ヴィルジニー・カルメルス

(ボルドー市副市長、EURO DISNEY社監査役会長、元ENDEMOL FRANCE社社長、CANAL+ 社副社長)

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1971年ボルドー生まれ。トゥールーズビジネススクール卒業後、監査法人Salustro Reidelに入所、公認会計士、会計監査人の国家資格を取得する。会計監査を担当していたケーブル事業者ニュメリカブル (Numericable) から1998年最高財務責任者として引き抜かれ、のちカナル・プリュステレビ局 (Canal+) の最高財務責任者に就任。2000年には次長、2年後には31歳の若さで副社長に任命され、同社がヴィヴェンディ(Vivendi) 社と合併した後の企業再編、大規模リストラを主導する。

2003年仏最大手のテレビ番組制作会社、エンデモルフランス (Endemol France)の副社長に抜擢され、メディア業界のトップの一人に。2007年からは同社社長として、ミス・フランスコンテストやスター・アカデミといったTF1テレビ局の人気番組制作を司る。

Iliadテレコム社 (Free社親会社) 取締役、テクニカラー社取締役、ユーロ・ディズニー社監査役会長も兼任。

2012年エンデモル本社 (Endemol N.V.) から本社の副社長に昇格されるが、翌年退社、出身地ボルドーに移転して会社 (SHOWer Comapny) を設立し、同時に2014年3月の地方選挙に出馬、当選。経済・雇用問題担当の副市長となり、ボルドー市長アラン・ジュペの片腕として活躍、2015年12月の統一地方選挙ではアキテーヌ=リムザン=ポワトゥー=シャラント地域圏で右派及び中道右派政党の候補者名簿トップとして選挙運動を率い、ボルドー・メトロポールの副市長、統一地方議会議員に当選した。右派及び中道右派政党のリーダを務める。

2008年にフランス史上最年少で国家功労勲章騎士号受勲。9歳の娘、7歳の息子の母。

永澤:2013年にエンデモルグループを退社して政界に進出されたのは、社会党政権の政策に反対されたからですか。

カルメルス:当時エンデモルグループを退社したのは何よりも、それまで10年会社を経営してキャリアを転換する必要があると感じていたからです。

私企業でも公共機関でも上層部が長年同じだと、経営が磨耗し質が向上しなくなります。ですから一定の期間を置いて社長が交代することは、企業とその社員、そして引退する社長本人にとって有益です。

退社後ボルドーで会社を設立して、英米系の投資家とメディア関連企業のレバレッジド・バイアウトを準備していました。

そのような中、アラン・ジュペから2014年の地方選挙に出馬しないかと打診されました。それまで公共利益に役立つ仕事がしたいとは感じていましたが、ジュペ市長の提案を受けて選挙に出馬した理由は確かに、社会党政権が打ち出す経済政策の酷さに呆れてそれを何とかしなければと思ったからです。自分の企業経営者としての経験を活かして、政治に新しい視点を与えられると考えました。

永澤:世論調査ではアラン・ジュペが今年の予備選挙で勝利するとされています。来年5月同氏が大統領に選出されたら大臣としてどの職を希望されますか。

カルメルス:選挙戦は始まったばかりで、世論調査での勝利は選挙での勝利ではありませんので、そのような質問は早すぎます(笑)。今はボルドーで、アラン・ジュペから委ねられた任務を遂行することに全力を注いでいます。

また私は個人的に、長期的なキャリアプランを立てない方です。人生はそれぞれの時点で委ねられた任務を最善を尽くして果たし、その中で出会った人々や仕事を通じてキャリアを高めるチャンスを掴むのが一番。将来を完全に予測することは誰もできないのですから。

永澤:フランスの経済成長を妨げている要因は何ですか。

カルメルス:税金が重いことに加えて、特に労働法が複雑なため企業が新しい雇用に消極的なこと、そして職業教育訓練制度の効率が悪いことがフランスの失業率を構造的に高めている原因となっています。

またフランスには資本集約型産業が少ないため、設備投資に欠け、特に産業用ロボットの分野で非常に遅れています。

経済成長とイノベーションの担い手である中小企業が競争力を高めることができるように、雇用コストを下げ、労働法制を柔軟にすることが不可欠です。

こうした問題は致命的なものではなく、改善することが可能なもの。ただ改革にはかなりの勇気を必要とするため、これまで政府が手をつけてこなかっただけです。

永澤:現社会党政権の経済・雇用政策にどのような問題があるとお考えですか。

カルメルス:廃れた経済ビジョンに基づいた、権威的な経済・雇用政策を打ち出していることです。

おそらく自分達がアクションを起こしているという印象を国民に与えるためだと思いますが、政府は数多くの法律や新しい制度を制定しました。そうした制度の累積が、企業の経営をさらに複雑化する要因となっています。

消費者法の改正や「重労働予防個人勘定制度」(注:長年重労働に従事した労働者に対して職業訓練や短時間労働、公的年金の受給開始の繰り上げが可能なポイントを付与する措置)の創設などは、生産性を妨げる時代遅れの改革のいい例です。新しい雇用を生み出すのは政府でなく企業、政府はもっと謙虚になって、企業が経営しやすい環境を作るべきだと思います。

永澤:フランスの財政赤字が減らないのはどうしてですか。

カルメルス:公職は無限にある公的資金を自由に使える特権だと勘違いしている役人や政治家が沢山います。企業の経営では出費をできるだけ少なく抑えることが重要とされているのと逆に、政治の世界では公的資金を多く使うことがむしろ権力の行使だと考えられがちです。

そのような意識を持った政治家達が率いる国の財政が赤字になるのは当然 。 本来、政治の指導者は赤字を増加させないために無駄な出費をカットする決定を勇気を持って下すべきですが、そのような政治家はあいにくいません。国民とフランス内にある企業が負担する税金が高くなるばかりです。

永澤:企業経営者として培われた能力を公共部門でどのように役立てることができるとお考えですか。

カルメルス:私が公共管理の分野に持ち込みたいのは、余計な出費を抑えながら価値を高めるという企業経営の意識です。

例えば公共調達では国や都道府県が発注者として業者と契約を結びますが、「最低価格自動落札」などの原則の適用で、契約条件の交渉がないがしろにされています。しかしこの分野で質を落とさずに出費を大幅に節減することは可能です。

また行政には一般に管理手法が欠けています。役所の部署に常に公務員を置くのではなく、推進すべき事業がある時に必要なスタッフを雇い、限られた予算と期限内で事業を効率的に実施する手法を取り入れれば、公務員の仕事の意欲を高めると同時に、財政赤字を減らすことができるはずです。

ボルドーでは2013年以降、ボルドー市を単なるワインの街から国際ビジネスの都市に変えるための事業を推進しています。ボルドーは2014年に「フレンチテック」(注:French Tech、新興企業や革新的な企業の数が多い都市に対して政府から与えられる呼称)となりましたが、新技術やベンチャー企業にとってビジネスフレンドリーな都市として、生まれ変わりつつあります。

永澤:若くして成功された理由、また経営者として女性に必要な資質を教えて下さい。

カルメルス:自分の能力を信頼してくれる人々に出会い、そのつどチャンスを掴んだことです。20代で大企業のリストラを3件委ねられましたが、責任の大きな任務でしたので、まだ若かった私を信頼してくれた人々の期待に答えるべく、持っていた能力を限界以上に使い、猛烈に仕事をしました。

そうした努力の成果と、また忠実で誠実な気質であることも、上司の信頼を高めたのではないかと思います。

それ以外には運が良かったこと、当時カナル・プリュス社では指導部の大編成を行っていましたが、その中で私は毎年次々に昇格され、他の人より早く出世の階段を上り詰めました。

女性経営者に必要な資質は男性に必要な資質と全く変わりません。剛胆さ、厳格さ、ビジネス感覚、信認義務の遵守、組織を指導し管理する能力、そして勇気です。

永澤:企業、また政界で女性差別的な待遇を受けたことはありますか。

カルメルス:企業で女性差別的な待遇を受けたことは一度もありません。企業ではしっかり組織を率い、顧客の期待に答えて株主に儲けさせるために利益を最大限上げている限り、経営能力を認められます。

一方、政界に進出してから、女性であることを理由に何度か個人的な攻撃を受けたことがあります。政治家の男性の中には自己愛が強すぎて、自分達と同じ能力、またはそれ以上の能力を持った女性を認められず、自分を脅かす存在と感じる男性がいるようです。昨年の統一地方選挙戦でも、ライバルの統一地方議会議長候補者が、私がアラン・ジュペの愛人だなどという下劣な言葉を使いましたが、能力のある女性に対して劣等感を捨てられない男性は、公開討論に参加すべきではありません。

その点フランスで2000年から実施されている選挙における男女同数制(注:2000年6月6日の「公職就任における男女平等に関する法律」で、比例代表制が適用される選挙で候補者名簿に男女を交互に載せることが義務づけられている)は、旧世代の政治家達の意識を変えて議会の構成を新しくしていくために、非常に重要です。

永澤:女性が社会に進出すると家庭が崩壊するという考え方についてどう思われますか。

カルメルス:確かに正しいですね、40年前の家族観に照らしていえば(笑)。しかしそのような家族観は現在存在しません。それと全く逆に、母親が充実した社会生活を送ることは、子供達を視野の広い人間に育てるために必要です。子供と一緒に過ごす時間は、量よりも質が重要。私自身の経験から、女性がキャリアを成功させながら家族が強い絆を築くことが、十分可能だとはっきり言えます。

永澤:最後に、週末はどう過ごされていますか。

カルメルス:子供達とウィー(Wii) やレゴで遊んだり、ピアノを弾いたり。またボルドーでシャルトロンのマルシェや、サン=スランの界隈で買い物をするのが好きです。