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アートの人材育成プログラム考

2015年09月07日 01時11分 JST | 更新 2016年09月03日 18時12分 JST

アーツカウンシル東京が展開する様々なプログラムの現場やそこに関わる人々の様子を見て・聞いて・考えて...ライターの若林朋子さんが特派員となりレポート形式でお送りするブログ「見聞日常」。第2回となる今回は人材育成をテーマに、ストリートアーティストとワークショップ・リーダーを育成する2つのプログラムを取材しました。

(以下、2015年8月28日アーツカウンシル東京ブログ「見聞日常」より転載)

取材をベースに綴る本ブログ。思った以上に体当たり取材なのである。

前回はオールナイト。そして今回は、東京芸術劇場前の広場で、見物客にまじって「ストリートアーティスト・アカデミー2015夏期」受講生の実演を取材していたら、招き寄せられて、フェイスペインティングを施されることに。まさかのストッキングマスクに一瞬動揺したが、意を決して目を閉じ、されるがままにしていると、肌をなぞる絵筆は意外にも気持ちよくて、絵具もほんのり甘くいい香り。リラックスしてくると、このパフォーマーさんはどうやってこの芸に行き着き、なぜアカデミーを受講しているのか知りたくなってきた。

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ストリートアーティスト・アカデミー2015夏期(東京芸術劇場)

「ストリートアーティスト・アカデミー」(SAA)とは、東京芸術劇場が、世界を舞台に活躍できる大道芸人の育成と、レベルアップに励むパフォーマーを支援する目的で実施している連続講座である。第一線で活躍する講師陣の技術・演技指導と劇場前広場での実演で研鑽する「ワークショップ」と、芸術的な感性を磨く「座学」の2本立てのプログラムで、2012年から年に2期(夏期、冬期)開催している。

受講生の実演の後、ワークショップと座学を見学に行くと、15名ほどの受講生がウォームアップをしていた。まさに実践的な稽古場といった雰囲気。まずは、アカデミーの監修者の橋本隆雄さん(大道芸プロデューサー)のレクチャーから始まった。今日のテーマは、グローバルスタンダード化されてしまった昨今の芸術について。脳みそも一気にウォームアップされていく。橋本さんは受講生を見渡して、話を締めくくった。

「社会が期待する通りに、合理的に教育された"生産第一主義"のアーティストではなくて、自分に内在する魂を表現して生きるアーティストこそ、真に際立つアーティスト。依って立つところは自分。安心して自信を持ってやってほしい。」

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激励に続いて、ワークショップ講師の村松卓矢さん(大駱駝艦)による表現の指導。村松さんが出すお題に従ってさまざまに体を動かし、人、モノ、コトとの「適正な距離」を体感しながら、パフォーマンスの構造を捉えていく。受講生が自分のパフォーマンスを披露すると、村松さんが繰り返し助言を加えて、別の展開も試してみる。

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同プログラムの担当者によると、SAAは、池袋にストリートパフォーマンスを浸透させたい、その一つの方法として、劇場自らがストリートパフォーマーに研鑽の場を提供し、人材を育て上げようという東京芸術劇場の思いから始まったという。受講の条件として、ある程度の技量を持っていることが前提となっているため、2002年に東京都が創設した大道芸のライセンス制度「ヘブンアーティスト」(※1)の登録者の受講も多い。SAAは、結果的に、ヘブンアーティストの底上げにもつながっているともいえる。2020年の東京オリンピック・パラリンピック大会に向けた東京都の「東京のブランディング戦略」も、念頭に置かれている。人が行き交う野外で活動するストリートアーティストは、街なかにアートのある景色を生み出す。来訪者をアートで楽しませることのできる最も身近な存在で、ブランディングにも寄与できるとの考えだ。

※1:現在、パフォーマンス部門335組、音楽部門83組が登録し、54施設71か所で活動している。

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パフォーマーにとっても、大道芸人を育成する専門機関は、一部のサーカス学校をのぞいて日本にはほとんどないため、広く門戸が開かれたアカデミーは貴重な場である。東京芸術劇場が位置する池袋駅西口は交流人口も多いので、劇場前広場は実習の場所としても、もってこいだ。長期にわたって専門家の指導を仰ぎ、同じ道を歩む仲間とネットワーキングできるのは、得難い場だ。実演を終えたフェイスペインターのミホウさんに話を聞くと、アカデミーには3年前から参加しているとのこと。芸の方向性について迷っていた時に、アカデミーで講師や仲間から助言を受けて、現在のパフォーマンスの形に挑戦したのだそうだ。

大道芸パフォーマーを生業にしている/しようとしている受講生たちの、「ここで何かをつかむ」という真剣な様子が伝わってくる3時間だった。

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ワークショップ・リーダー育成プログラム(東京文化会館)

ある日の夕刻、文京シビックセンター(東京・文京区)の多目的室に行ってみると、大きな円陣が組まれてボディ・パーカッションが始まった。

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「トゥンチッタ、トゥトゥウンチッタ、タタ、トゥンチッタ──自分をドラムセットだと思って!」

「リズムを感じながら、その違いに耳をすませて叩く。」

「歩きながら続けますよ。隣を通り過ぎて、すれ違う人と目があった瞬間にヘイ!もっと大きな声で!」

16名の受講生と講師3名が、両手、両足、指、胸、膝、口、隣の人の体も使って、9つのリズムを次々に刻んでいく。全員が次々に交代で指揮をとり、リズムの掛け合いをリードする。

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これは、東京文化会館が2013年から実施している「ミュージック・エデュケーション・プログラム ワークショップ・リーダー育成プログラム」のひとコマ。「ワークショップ・リーダー」の育成ということで、音楽そのものの技術指導ではなく、音楽を使った自己表現やコミュニケーション力、ワークショップ参加者をリードする力を養うことを目的としている。さらには、社会のさまざまな課題に音楽で寄り添い、課題解決の糸口となるようなワークショップを創作できる人材の育成も目指す。

講師陣は、この分野ではヨーロッパ随一、世界的にも最先端のミュージック・エデュケーション・プログラムを展開するポルトガルの公共音楽施設「カーザ・ダ・ムジカ」のワークショップ・リーダー5名。東京文化会館担当の福井千鶴さんによると、カーザ・ダ・ムジカは、コンサートシーズンと並行して、教育プログラムをほぼ毎日展開し、学校の生徒や幼稚園児たちがワークショップを受けに日常的にやってくるという。これほど密度の濃い取り組みは、世界をリサーチしてもカーザ・ダ・ムジカをおいて他に類を見ないそうだ。その彼らに、ワークショップ・リーダーとしての姿勢や、音楽ワークショップに必要なファシリテーション、ワークショップ創作のノウハウを5日間かけて学び、10月には受講生が創作したワークショップを公開する。選抜されたメンバーは、ポルトガルのカーザ・ダ・ムジカへの派遣研修に行くこともできる。

講師からは次々にお題が出される。次は、ボリビアの民族音楽のメロディが提示され、琴、太鼓、バイオリン、フルートなど各々の楽器で演奏していく。「長く」「短く」「跳ねるように」「一斉にストップ!」、など、講師の手の合図をきっかけに、即興で絡みあいながら合奏する。

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ところどころで、ワークショップをリードするヒントもしっかり伝授されていく。

「リーダーは、自分の合図を全員が見える位置にちゃんと立つことです。」

「こうしなきゃいけないという決まりはありません。あなたがいざ始めれば、みんながうまくあわせようとしてくれる。それこそが即興です。」

「高齢者、子供たちなど、コミュニティによって使う音を変えます。そのコミュニティに馴染みある音にアレンジを加えていくんです。」

こうして受講生は、ワークショップを直接体験しながら、自分がファシリテーションする際に現場で起こりうる状況への対応を学んでいく。場をつくり、参加者をある設定にひき込んで、盛り上げていくワークショップ・リーダー。育成する側も、育成される側も、座ったままではいない。その場で起きる一つひとつの反応すべてが、受講生の経験になっていくことを目の当たりにした。

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アートの人材育成プログラムにみる「切実感」

今回2つのプログラムを取材し、昨今各地で百花繚乱するアート関連の人材育成講座について、あらためて考えてみた。

振り返ってみると、"芸術家ではないけれども、アートに携わる人のための講座"は、1990年代以降急速に広まっていった。先駆けたのは慶應義塾大学で、1991年に開催された初の公開講座「芸術とメセナ」には300名以上がつめかけ、その多くは企業の文化支援担当になったビジネスマンだった。同大学は、アートプロデュースおよびアートマネジメント講座も同年開講し、60人の社会人枠に700名以上が殺到、講座熱は一気に高まった。1994年には、創設間もない財団法人地域創造(現・一般財団法人)が、公立文化施設等の職員を対象に「ステージラボ」を開始。1996年には、トヨタ自動車株式会社が、全国各地に地域に根差したアートマネージャーを育てることを目的に、「トヨタ・アートマネジメント講座」をスタートした。当時は理論構築に軸足が置かれていて、関連する言語も盛んに生み出されていった。また、"アートと社会を結ぶつなぎ手"が盛んに重視されるようになった時代でもあった(アートが社会の内なるものではなく、社会と別個に存在して、それらを「結ぶ」という前提は、アートの立場を難しくしてしまったようにも感じるが...)。

90年代後半から2000年に入ると、その内容は、次第に座学から現場での実践研修へ、短期の学びから長期的なトレーニングへと変化。「アウトリーチ(芸術に接する機会が少ない人々に対する訪問型の教育・普及)」や「ワークショップ(参加体験型学習)」が盛んになり、また、現場でのインターンシップも普及してきた。さらには、人材育成を行う団体も、大学や文化機関だけにとどまらず、アートNPOや財団、自治体、文化施設などさまざまに広がっていった。公益財団法人福岡市文化芸術振興財団が、地域で活動するアートマネージャーの人材育成と発掘、ネットワーク化を目的に2003年に開始した「アートマネジメントセミナー」のように、継続するなかで、かつての受講生が講座を提供する側の人材となっている好例も生まれてきた。また、最近では、青山学院大学の「ワークショップデザイナー育成プログラム」や、NPO法人ジャパン・コンテンポラリーダンス・ネットワーク(JCDN)の「コミュニティダンス・ファシリテーター養成スクール」など、講座をファシリテートする人材のためのプログラムも生まれている。

一方で、人材育成の裾野の広がりとともに、数多くの単発講座が生み出されるようになった感も否めない。たとえば「アートマネジメント人材の育成」が重点施策となって助成金等がつくと、各地で一気に講座が開講され、施策(助成金)が終了すれば講座も終了する現象も起きている。

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人材育成プログラムは、何かしらの切実な動機(政策、ミッション)と結びついているか、あるいは、中長期にわたって継続的に展開されているかどうかで、育成にかける本気度はすぐにわかる。受講生が修了後にも関わり、連なりあうことのできる仕組みを設けているかも、講座の骨太具合がわかるポイントだ。そして、受講生のなかから当該分野の現場を担う次世代の人材が輩出されることも、本気度の高いプログラムの証である。

今回取材した2つのプログラムは「切実」な動機が背景に存在する。腰を据えた育成の仕組みも整っている。文化施設である「ハード」が運営する「ソフト」の取り組みであることも意義深い。

東京芸術劇場の「ストリートアーティスト・アカデミー」は、ヘブンアーティストという政策と結果的にうまく結びついていることが大きい。また、1期のプログラムが15回の連続講座で構成されていて、その間に受講生が考え、試行錯誤し、仲間とかかわりあって伸びていく場が用意されている。大道芸プロデュースの第一人者で?