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ASEAN元国費留学生から見た日本留学

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私は、国費外国人留学生制度を利用した学生が卒業後に「いま、どこで、何をしているのか」が気になり、昨年1年間を通して、 ASEAN10か国を訪問し360名程度の元国費外国人留学生からインタビューとアンケート調査をしてきた。

ASEANを選んだ理由は聞き取り調査をしているケースが少ない印象を受けたことと、非漢字圏のASEAN諸国から今後留学生が増える印象があり、増加する前にこれまで日本留学した方々が「何を求めて日本留学をしたのか」「何を学ぼうと日本留学するのか」「留学の経験は帰国後にいかされているのか」「日本留学は米国、英国、オーストラリア留学と比べて母国でどのような評価されているのか」「母国から日本留学する人数は増加するか」を聞きたいという好奇心から調査を実施した。

そして、元国費留学生を通して日本留学がどういうものかをより深く知ることができたため、元国費留学生に限らず日本留学に焦点を当てていきたい。

国費留学生制度の詳細は文部科学省のサイトにある。

独立行政法人 日本学生支援機構のグラフを見ると、国費外国人留学生数は少なくアジアからの私費留学生が日本留学の大半を占めていることが分かる。

調査を通して5つ印象に残っていることがある。

①元国費留学生は中所得以上の家庭出身者が多く、高い教育レベルを受けてきた。
②どの国も米国が最も人気が高い留学先であり、圧倒的に米国留学する人数が多い。
③日本に留学する人数が少ないから母国での社会的な影響力は限られている。
④元国費留学生は教授や研究所で勤務されている割合が多い印象を受けた。
⑤日本留学はとても役に立った。

ASEANには、日本留学生協会が各国ずつ存在し卒業生らが運営しており今回の調査では大変お世話になった。それぞれ活躍していることを知ることができ調査をしていて大変楽しかった。

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PERSADA
インドネシア元日本留学生協会。1963年7月5日に設立。

JAGAM
マレーシア元日本留学生協会。1970年に発足。

PHILFEJA
フィリピン元日本留学生協会。1976年7月19日に設立。

JUGAS
シンガポール留日大学卒業生協会。1970年12月19日に設立。

OJSAT
タイ王国元日本留学生協会1951年2月28日に設立。

MAJA
ミャンマー元日本留学生協会
2001年12月20日に1943年〜1945年に留学していた方々によって設立。

JAC
カンボジア元日本留学生協会。2002年8月31日に正式に設立。

JAVベトナム元日本留学生協会。2001年5月19日に設立。

JAOL
ラオス元日本留学生協会。2001年11月5日に設立。

BAJA
ブルネイ元日本留学生協会。1986年に設立。

ASCOJA(ASEAN元日本留学生評議会)
年に一度、ASEANの日本留学生が集うASCOJA カンファレンスがある。1974年当時の大蔵大臣の呼びかけで始まった外務省の招聘事業「東南アジア元日本留学者の集い」(TSUDOI)で交流を深めた参加者たちが中心となり1977年6月に設立した。

日本側のカウンターパートナー。ASJA(Asia Japan Alumni) International
2000年4月にASCOJAのカウンターパートナーとして設立。当初は、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイの5カ国が加盟。その後、ミャンマー、カンボジア、ベトナム、ラオス、ブルネイが加盟した。

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それぞれの元日本留学生協会は、東日本大震災や熊本地震の際に率先してチャリティー活動をしたり義援金など手を差し伸べてくれていた。

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-元国費留学生は帰国後何をしているのか?


卒業後は母国で、大学教授、大学の学長・副学長、医師、研究者、大臣、長官、衆議院議長、政治家、官僚、中央銀行副総裁、中央銀行員、医師、社会起業家、キャスター、アナウンサー、女優、日本企業の従業員あるいは役員クラス、日本で働くことが決まっている人など、各分野で活躍されていた。

現在のキャリアを歩めているのは元国費留学生自身の努力によるものではあるが、日本で学位を取得したことによって現在のキャリアを歩めていることも事実としてあること確認できた。

聞き取り調査では母国で日本留学をする人数を増えると肯定的に捉えている傾向はあるものの、欧米の大学と比べると現在でも現役の外国人留学生が日本企業に就職できる数が少ないこと、日本の大学の質と経営を向上させる努力が足りないことを指摘する声が目立った。

留学を考えている者は、米国>英国>日本(オーストラリア)という順番に留学先を選ぶ傾向があった。米国や英国で学位をとれば将来のキャリアに有利になることを念頭に選んでおり実際に多く留学を受け入れている背景がある。

一方、日本に留学する目的は学位を取得するというよりは「地理的な近さ」「技術力」「文化的の近さや親和性」で選んでいた。

また母国での日本留学の評価は、ビジネスマンと教授職に就いている人で意見が分かれた。ビジネスをしている人は米国留学生や英国留学生の人数の規模から生まれるネットワークの強さを日本留学にはないものだと教えてくれた。

一方の教授に就いている人は、日本留学は米国や英国留学と比べ評価が劣ることはなくむしろ日本留学組が大学内で増加していることを教えてくれた。この背景には、米国、英国に留学する者はキャリアアップを目指し母国に帰国しない傾向があるのに対し、日本留学組みは母国に帰国するケースが多いからであろう。

元国費外国人留学生からの聞き取り調査で以下の課題が浮かび上がった。
①「日本語の習得」②「日本での就職」③「元国費外国人留学生ネットワーク化の課題」である。

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①日本語学習の課題

日本語が壁だったと言う者もいれば、壁ではなかったと言う両方の元国費留学生がいた。これはプログラムの違いからだと考えられる。

国費留学生制度の「学部留学生」で学んだものは、東京外国語大学あるいは大阪大学で1年間日本語予備教育を修得した後に日本国内にある大学に進学する。このプログラムを修了した学生は日本語を問題なく扱えているが、修士号以上から日本に留学した者は、日本語の習得は自己努力となっている。特に理系の学生は大学の英語コースに進学するため日本語の習得は文系の学生と比べて必要性が高くないことから日本語が壁になるケースが多い印象を受けた。

元国費留学生の中には、英語圏を選択しなかった理由として日本語を修得することによって言語の幅が広がり、英語・日本語・母国語を話せる人材になることで、将来、働く際にいかせると述べる人も多かった。

ただし、私費留学で日本に留学していた者は現実として日本の高等教育機関に進学するということは、ある程度の日本語能力を習得するために時間や金銭面でのコストが英語圏の高等教育機関に進学するより1年〜2年程度余分にかかることから、奨学金が無ければ日本を選ぶことはなかったと言う声もあった。

国費留学生は日本政府から奨学金を得て日本語を勉強する機会に恵まれているが、私費で日本留学をしようと思うと、1〜2年間の日本語学校+大学入学準備+大学4年間の金銭的・時間的コストがかかる。

今後、日本留学の9割が私費留学生で今後はより多くの私費留学生を受け入れていくことを考えるとコストを補填あるいはコストに見合った卒業後のメリットが必要となってくるだろう。

就職の課題にも関連することではあるが日本で就職するには日本語能力検定1級がないと採用しない企業が圧倒的に多い。

英語でのコースを高等教育機関が整備していくことそれ自体は間違ってはいないが、結局卒業後に受け入れる企業、あるいは、日本社会が「高い日本語能力」を求めていることが当分続くことが考えられ、日本語を習得させた方が外国人留学生のためになり、日本語を習得させてくれる高等教育機関の存在が評価されれば更なる外国人留学生を受け入れることに繋がるように受け入れ体制を整備すればコストは回収できる可能性はあるだろう。

肌感覚ではあるがASEANに進出する日本企業は毎年増加しており、よく日本語人材が足りないという話を聞くことがあった。日本語は国際的に見れば確かに日本でしか使われていないが、海外でビジネスをしている日本企業は多く、日本語を十分に操ることができれば母国で日本企業に現地企業より高い給料で働くことはできるというメリットがある。この面から考えても留学生が日本語を習得メリットは存在する。

(ただし、日本語学校の質の問題や教員の不足等を抱えている現状がある。今回はこの話には立ち入らない。)


②日本での就職の課題

元国費外国人留学生からは、日本は好きなので日本での生活を続けられるのであれば、生活したかったという意見が多かった。しかし現実の課題として好きで生活をしたくても、日本企業での仕事は、外国人に裁量権を渡さない、自分が成果を出し続けたとしても年功序列のため出世することができない、残業が多く家族との時間が取れないなど、企業の体質と自分のキャリアを天秤にかけた結果日本を離れるというケースをある程度存在することを確認することができた。

そして、日本政府が外国人留学生を「高度外国人材」として取り込もうとしているが、建前は受け入れるというが本音では受け入れたくないのでは?どれくらい本気なのか?という質問を多く受けたので、日本の現状を調べて従来と変わらない日本企業の姿が見えた。

「企業における高度外国人材の受け入れと活用に関する調査」(独立行政法人 労働政策研究所・研修機構の2013年5月)この調査結果から、日本の9割を占める中小企業では外国人留学生が卒業後に雇うことに積極的ではないことや受け入れ体制が整備されていないことが分かる。

一方で「グローバル人材の育成・活用に向けて求められる取り組みに関するアンケート調査」(一般社団法人 日本経済団体連合会2013年3月)によると、経団連に所属する大企業はグローバル経営にあたり外国人留学生を卒業後に採用する意欲があることが分かる。

「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」独立行政法人 日本貿易振興機構も似たような結果が出ている。

現状では、中小企業は受け入れに必要性を感じておらず、一部の大手企業が受け入れに意欲を示すにとどまり、日本政府の政策と日本企業の間に意識の乖離がある。つまり、今後増えていく外国人留学生にも卒業後の出口が限定されていく状況は続き、過去と同じ結果を出し続けてしまう可能性が高い。

日本政府の方針により卒業後も日本で就職できるような取り組みをしていることもあり、元国費外国人留学生が日本で勉強していた頃より日本企業が外国人を雇うケースが増えている。ただし、現状では企業が外国人を雇うメリットが乏しく、受け入れ体制が整備されているとは言い難い。

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-元日本留学生のネットワーク化の課題


規模は限定されているものの、元国費留学生だけではなく元日本留学生らは自主的に交流し互いにネットワーク化はされている。全ての卒業生をネットワークできていないが、ある一定程度日本政府機関、大学、企業がネットワークに組み込まれている。元日本留学生間のネットワーク、及び、元日本留学生と日本人の間のネットワークをより充実したものにするには元日本留学生が母国で活躍できるようサポートを通して、人と人との信頼関係を構築していくことが必要性がある。

それは大学であれば、元日本留学生と出身大学間の共同研究、共同シンポジウム、日本人学生を短期間派遣する等、できることから実績を積み重ねていくことから始めていけば確実にネットワーク化していくだろう。


①卒業後を把握する役割を担う人材の不足

帰国した元日本留学生と定期的にコンタクト取れる人材が不足している。政府関連機関の海外事務所の数はそれなりにあり、大学の海外事務所も留学促進のため近年増えてきており数で卒業生が把握できないことはない。むしろ、卒業後を把握するという意識を持った人材が不足している。

卒業後を把握されている大学に共通していたことは、20〜40年間かけて卒業生の名前と顔を完全に覚え、現地に行けば必ず会い、ざっくばらんに何でも話せる人間関係を構築してきた教職員がいた。そのような活動を通じて、卒業生が卒業生を呼び、卒業生間でネットワークの存在が知られ、結果的にネットワークができていた。

これまで大学が輩出した外国人留学生を把握できていないのであれば、何が何でも把握する努力をすべきだろう。なぜなら、大学が輩出した人材は、留学希望者にとって大学を選択するときの重要な指標であり、それを把握しないということは大学の質と経営に疑問を抱かれる。

ASEANの元日本留学生による同窓会組織に対し在外公館による支援はあるものの積極的に卒業後を把握する働きかけはされていない。これには人材を各地に派遣するだけの財政・時間的コストが問題となっている印象を受けた。

例えば、 海外事務所を持つ大学の若手職員の研修として日本の大学を卒業後に何をしているのかを把握させレポートとして大学内及び留学促進のパンフレット等に掲載することで、大学・卒業生・日本留学希望者にとってメリットになるのではないだろうか。

また、ASCOJAのように卒業した外国人留学生を招待し数名に現在されていることを発表してもらう機会やイベントを設けるなど出来ることから着実に積み上げていくべきだろう。


②オンライン・コミュニティによる元日本留学生の取り込み

SNSを利用したオンライン・コミュニティは、それぞれの国ごとに幾つかのコミュニティが既に存在している。そこは母国の者同士の互助的なコミュニティで外国人留学生ではない日本人が入ることはコミュニティの目的と異なるので難しい。

そのため、日本人にあまり存在が知られていないのかもしれない。オンライン・コミュニティができるのは実際に会って信頼関係があるから発達するのであり、オンラインが先行すると行き詰まるだろう。

日本国内にはMSN(MEXT Scholars Network)という、日本に在住する元国費生及び現役の国費留学生をネットワーク化している団体や各国の留学生が所属しているコミュニティもあるので、留学生間にはそれなりのネットワークは存在する。

また、日本人が元日本留学生を取り込もうと思うのであれば、そのコミュニティの目的が明確で互いにメリットがあるものでなければ活性化しない。ただ単に、元日本留学生のその後を知りたいからという目的ではコミュニティを作ることはできないだろう。

個人的には、日本留学を経験していない日本人が主導するケースでは上手に行かないことが多いので自主的にコミュニティ形成している団体をサポートしていく方が上手にいくだろう。

そのことから、オンライン・コミュニティ前提のネットワークをしていくのではなく、実際にネットワーキングしていくことを目的とする元日本留学生の団体が、一人一人の元日本留学生らと信頼関係を構築し、可能であればコミュニティに参加している人たちが年に何度か会う機会を作りコミュニティを構築していくことがベストであろう。イベント時に大学関係者や政府関係者がゲストとして参加すれば元日本留学生とゆるく繋がり続けられるだろう。


③データベースについて

各国の元日本留学生協会は、全員分ではないが名簿は作成されている。ただ、全ての卒業生を把握できていない。把握するために、例えば、国費留学制度に申請の段階から同窓会への加入及び同窓会の活動への参加 データベース登録が必要になるよう改善していくべきだろう。

ただ、個人情報の取り扱いに関する法整備に縛り付けられ利用されないデータベースを作るのではなく同窓会組織が活性化するようなデータベースを作っていく必要がある。つまり、個人情報の取り扱いに関する法整備が進む中で、元日本留学生(同窓会)や日本留学希望者にとってメリットになるような柔軟なデータベースを構築できたら、ネットワークが継続的に運営されるだろう。

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-元日本留学生の将来


留学生を増やしていく政府の方針があるということは、元日本留学生が増えていくことである。彼らが活躍できる「場」を整備していく必要性がある。

私は、日本に何を期待しているのだろうか調査をしていてずっと気になっていた。

多くの元国費外国人留学生の出身国であるアジア諸国は、経済発展に伴い、格差問題、都市計画の問題、環境問題、感染症の問題、気候変動、薬物、テロの問題が蔓延し、このような問題に対応するために日本のノウハウ、科学技術、経済発展に伴う負の経験をシェアしてくれることを望んでいる声を多く聞いた。

それだけ日本に対する期待は大きく、日本と母国の架け橋になりたいと思う元国費留学生は多かった。実際に日本で生活し母国とは異なる日本の交通システム、生活インフラ、災害を経験として実感できているので帰国した時にシェアできる「場」が提供でれば留学生にとって大きなメリットになるだろう。

そのためには、まず卒業生が「いま、どこで、何をしているのか」把握するチームを作り、元日本留学生と信頼関係をより強くし、データベースを改善し、彼らの母国の発展に貢献していくことが必要がある。

労働人口が減少していく日本は少しずつだが確実に海外との依存度を深めていくことが予想される。留学生が卒業後に自然と就職でき日本の社会に定着し、日本の社会を支える一員として貢献することができる「場」が整備されれば大きなメリットになる。二つの場が連動し継続的な人間関係を構築をできる場にしてもらいたい。

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