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都市から離れた小さな町で何でもこなす総合看護師"General nurse"

2015年09月19日 23時45分 JST | 更新 2016年09月17日 18時12分 JST

オーストラリアのへき地医療を見学した。この町の看護師たちは何でもこなし、どんな手術にも対応する。日本でこのような総合看護師"General nurse"を育成できるのだろうか?

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オーストラリアのダーウィンで開催されたへき地医療学会に参加した際に、エメラルドという田舎町の医療を見学した。エメラルドは、オーストラリア北東部に位置するクイーンズランド州の州都ブリスベンから1000キロ離れた人口1万4千人の小さな町で、一番近い総合病院までは300キロもある。産業は牧畜や農業、石炭、綿花などだが、ラジオなどを介した学校教育もあり、医療や行政の中心地となっている。小さいながらも、若く活気にあふれた町である。

一般論として、このようなへき地には、常に産科問題が存在するのだが、この町では、年間400人の赤ちゃんが産まれるというのだから驚きだ。緊急帝王切開もするし、新生児の対応もする。お産に対応できる開業医と病院の医師、看護師とが協力して、ここの産科医療を支えている。

エメラルド病院の手術室は小さいながらも、様々な手術に対応している。看護師はわずか4人だが、虫垂炎から骨折、帝王切開、顔にできた皮膚がんなど、手術のレパートリーは広い。ここで働く看護師さんたちは、まさに"General nurse"である。なんともいえない落着きがあるし、常に患者さんが安心するような雰囲気を醸し出している。この空気はなんなのだろう? Dr.コトーのモデルとなった甑島のベテラン看護師さん(通称:肝っ玉母ちゃん)たちを思い出す。

人口1万4千人となると、様々な患者さんが運ばれてくる。近隣の総合病院に紹介するとなると、九州の北と南ほどの距離がある。できるだけこの土地で医療をするのが、患者さんのみならず、医療者の願いだ。看護師は交代で当番をし、お産や緊急手術に24時間対応している。そして、その看護師たちは皆この地で生まれ育った人たちなのだから、住民は安心である。

さて、日本でこのような"General nurse"を育成するにはどうしたらよいのだろうか?ここエメラルドの看護師さんのキャリアを伺うと、やはり若いうちはいろんな経験をしている。都会の救急病院や脳外科病棟、中には助産師を経験したという方もいた。オーストラリアで有名なフライングドクターサービスに対応する看護師も、救急・集中治療・助産師の3本柱がしっかりしていないと、フライトナースにはなれない。しかしながら、いくら都会の有名な病院で様々な経験をしたとしても、後ろに専門家がたくさんいるので、冷や汗をかくことは少ないだろう。若いうちはいろいろと経験を積み、基礎をしっかりさせ、へき地や離島に勤務しているようだ。

医師不足で悩むへき地や離島には、そこで生まれ育った看護師の存在は非常に大きい。しかし、田舎だと最新の知識から遠ざかってしまうのではと不安になることは多い。ここオーストラリアでは、テレビ電話での診療が非常に発達している。テレビ電話を使って、都会の病院からの教育が受けられたり、実際の患者さんへのアドバイスがもらえる遠隔医療(Telehealth)が整っている。田舎にいても、都会となんら遜色のない医療ができる環境には驚いた。

日本でも"General nurse"の養成は可能だろうか? 顔見知りの患者さんと和気藹々おしゃべりをし、都会の看護師や医師からテレビ電話でアドバイスを受ける。こんな仕組みがあれば、患者さんは都会の病院に行かなくてすむし、看護師さんたちも、都会と同じレベルの医療を学ぶことができる。この地域を自分たちで守るという責任感、そして遠隔医療の両方が揃えば、総合看護師"General nurse"は日本でも養成できると思っている。

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医師プロフィール|齋藤 学 救急医

1974年千葉県生まれ。2000年順天堂大学卒業。救急専門医、プライマリケア連合学会指導医。救急医として沖 縄県浦添総合病院で勤務した後、真の総合診療である離島医療に従事。生半可な技術では離島には通用しないと、再修業の後、2015年ゲネプロを起業。世界 トップレベルのへき地医療を展開するオーストラリアとタッグを組み、日本初の試みである『へき地医療専門医育成プログラム』の構築に向けて、国内外の離島 やへき地を東奔西走している