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サイボウズ式:女たちは知らない、男の「働く以外の選択肢がない」苦しさ──小島慶子×主夫・堀込泰三

2016年04月08日 14時32分 JST | 更新 2017年04月08日 18時12分 JST

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旦那さんが会社を辞め、一家の大黒柱となり、養う立場となったタレント&エッセイストの小島慶子さんと、妻の海外勤務などを機に会社を辞め、主夫となる選択をした堀込泰三さん(「秘密結社・主夫の友」CEO)。 「主夫家庭」という共通項を持つおふたりに、サイボウズワークスタイルドラマ「声」(全6話)を見ながら、子育て家庭を取り巻く状況や、夫婦でそれを乗り越えるためのコツを語っていただきました。今回はその第1回目です(全3回)。

男女は関係ない、夫婦の「孤独」と「忙しさ」の悲しいすれ違い

小島:ドラマで印象に残っているのは、このお母さんが仕事のあと保育園に子どもを迎えに行って、やっとおうちに帰ったら、床一面にブロックが転がっているシーン。既視感でいっぱいでしたね。

夜中に洗濯物を干すところも。私も子どもを寝かしつけながら寝落ちしちゃって、夜中に起きて片付けの続きとかやって、「あーやっと寝られる」と思ったとき、洗濯機の中にまだ濡れた洗濯物を見つけて、泣いたことがある(笑)。干すのなんて、すぐ終わることなのにね。

ちょっとしたことでも、積み重なると限界が来るんですよ。このドラマを見ると、それがすごくよく分かるな、と思いました。堀込さん、そういうのあります?

堀込:私は料理がメインの担当で、掃除洗濯は妻がやるので、その経験はないんですけれど、気持ちはすごく分かります。

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「働くパパ」に焦点をあてたワークスタイルドラマ「声」(全6話)。主人公は、東京の会社でエンジニアとして働く片岡(田中圭さん)。妻・亜紀子(山田キヌヲさん)との気持ちのすれ違いや、親の看病のために会社を辞めて帰郷した先輩・森嶋(オダギリジョーさん)とのやりとりを通し、いま、共働きで子育てする夫婦を取り巻く環境や困難をリアルに描く

小島:もしかしたら女の人がこのドラマを見ると、「男って本当に子育ての現実が見えてないんだから!」みたいに言いたくなるかもしれない。でも、そこじゃないと思うんですよ。

男だろうと女だろうと、働くことも家のことをやるのも、どちらも生きていく上で必要不可欠なことなのに、なんでこんなに大変なの? っていう。そこに怒りを感じるんです。

「家庭のすべてを犠牲にして滅私奉公しろなんて、おかしいじゃん!」「働いて、家族と生きるっていうごくシンプルなことがこんなに苦しい世の中なんて、間違ってる!」って腹が立ってきて。

堀込:そう、男女は関係ないですよね。

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タレント&エッセイストの小島慶子さん。夫が会社を辞めたのを機に2014年に一家でオーストラリア・パースに移住。いまは仕事のため出稼ぎ状態で、1か月くらいずつ日本とパースを行き来している。『大黒柱マザー』(双葉社)、『解縛』(新潮社)ほか著書多数

小島:私はこの奥さんの側の立場も経験しているし、いまは大黒柱で夫の側の立場も経験している。だからこれはジェンダーの話というより、「家事を中心に労働している人の孤独」と、「組織などで働いている人の忙しさ」との、悲しいすれ違いだと思うんです。お互いにどうしても共感できるポイントが少なくなっていってしまう、そういうしんどさかな、と。

堀込:そうですね。僕も、両方の経験をしているので、どっちの言い分も、ものすごく分かります。第4話「(夫の言い分」)と第5話(「(妻の言い分」)は同じシーンを双方の言い分で切り取っているのが、すごくおもしろい。

夫が気づかない、妻の「もう無理」の裏にある文脈

小島:さっきの洗濯物の話もそうですけれど、「もう無理です」って限界がくるまでには、積み重ねがあるじゃないですか。流れの中で、その文脈上、「もう無理」っていう瞬間がくる。 ドラマのなかで、旦那さんが「今度の土曜日、どっか行こう」って言うのに、奥さんが「じゃあ誰が掃除するの」って冷たく返すシーンがありますけど、私も同じように言ったことあります(笑)。

あれって言われたほうは「なんで、いきなり?」って思うかもしれないけれど、実はそこに至るまでの文脈があるわけですよね。

家のことをしている人は、外で働いている人の文脈を見失いがちだし、逆に外で働いている人は、家にいる人の子どもとの関係とか、そういう文脈が分からない。「お互いに文脈を追えない不幸」みたいなのがありますよね。

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堀込:お互いに一度、両方の立場を経験して知っておいて欲しいって思いますね。両方の気持ちが分かれば、それぞれに脈々と流れる文脈があるのが分かると思うので。

このドラマを見ると、そこが分かりますね。旦那さんがおもちゃを買ってきたのに、奥さんから「どこにしまおう」って言われちゃうのはなぜか? それが分かるように描かれている。これを見て、「いつも妻が怒っているのはこういうことだったのか」と分かる人も多いでしょうね(笑)。

選択肢があったがために、「あっちの選択の方が幸せだったんじゃないか?」と思ってしまう不幸

小島:私は1995年に働き始めたんですけど、この世代って、「女の人は、どう生きてもいいですよ」って言われていたんです。働いても働かなくてもいい、子どもを産んでも産まなくてもいい、結婚してもしなくてもいいんですよって。だったらその中でいちばん素敵に生きたいと思うじゃないですか。

それまでって女性は腰掛けでお勤めして寿退社するのが主流だったんですけれど、私ぐらいの世代では「男性と同じ待遇でずっと働きながら、結婚も子どもも全て手に入れる」っていうのが最先端だったんですね。だからもちろん、私もそれになろうと思ったわけですよ。

堀込:僕は小島さんの5つ下なんですけれど、なんとなく空気は分かります。

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「秘密結社・主夫の友」CEOの堀込泰三さん。2人の息子(9歳・4歳)を育てる兼業主夫。東大大学院を卒業後、大手自動車メーカーでエンジン開発に携わる。2年間の育児休業を経て、2009年に退社。当時妻と子どもたちが生活していたアメリカへ渡り主夫となる。現在は翻訳業等。著書は『子育て主夫青春物語 ~「東大卒」より家族が大事』(言視舎)

小島:この世代の女の苦しさって「どんな生き方も選べた」っていうところにあるんですよね。「専業主婦を選んだ私と、選ばなくて働いている彼女と、どっちが正しかったの?」っていう問いが生まれたりする。

どっちの人生にも苦しい瞬間はあるんですけれど、選択肢があったがために「私が今こんなに苦しいのは間違った選択をしたからで、あっちの選択の方が幸せだったんじゃないか?」と思ってしまう。

でもそう思うと辛いから、働いてる女の人は「働いている女の方が偉いのよ」って言いたくなったり、逆に専業主婦を選んだ人は「働いている女はちゃんと子育てしてないのよ、専業主婦は立派よ」って言いたくなったりする。

それはすごく不幸なことですよね。本当はどの生き方にも、しんどさも喜びもあるわけで。

男の人が見てきた苦しさは「選べない苦しさ」なんだと気付いた

小島:ところがですね、私は働き始めて20年ぐらい経ったときに、「大黒柱」になったんです。夫が会社を辞めたので。そこで初めて、「一家を支える男の人のしんどさ」というものが分かった。新橋の赤ちょうちんでクダを巻いているオヤジに、初めて共感したわけです(笑)。それは共働きのときには決して経験できなかったことでした。

そこで私はようやく、男の人が見てきた苦しさっていうのは「選べない苦しさ」なんだと気付いたんです。私たち女性は「選べる苦しさ」を生きてきた。でも、男の人たちは最初から選択肢がなかった。選びようがないんだったら「仕事ってなんだろう」とか「家庭ってなんだろう」とか考える必要がない。考えてたところで、選びようもないんだから。

そりゃ、話がかみ合わないはずですよね。「男に生まれるっちゅうのも、しんどいな」と思いました。

堀込さんは、どうでした?

堀込:僕もやっぱり、ずっと働くと思っていましたね。自動車会社でエンジニアをしていたので、そのまま生きていくつもりでいました。働くかどうか、というふうには考えたことがなく。

小島:それってどういう気持ちなの? 私は育ってくるなかで、「将来絶対に働いて、誰かを養わなくちゃいけない」って思っていなかったでしょ。だから「私ったら、やる気があって心意気がある女だから、働き続けるほうを選んだわ」ぐらいに思っていた(笑)。でも働き続けることが最初から決まっているって、どんなふう?

堀込:ラクと言えばラクですよね、考えなくていいから。考えるとしたら、「就職先どこにするか」ってことくらいです。

仕事をやめると"負け犬"扱いされる男の現実

小島:女の人が仕事を辞めるのって、いろいろ素敵な理由を付けられますけど、男の人が働かなくなるのって、どう素敵な理由を考えてみたところで"負け犬"扱いされたりするので、ハートが強くないとつらいですよね。

堀込:そうですね。私は長男が生まれたとき、育児休業をとったんですけれど、そのときに他の部署の上司から、「君には期待していたのに」って、過去形で言われたんです(笑)。育休だから2年後には戻るのに、なんで過去形なんだろう?ってすごく思いました。直属の上司は何度も話し合って、すごく理解してくれたんですけれど。 そういうことは、いっぱいありますよ。

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小島:あと男の人って、どんなふうに「父親」の気持ちになるんですか? 妊娠していないのに、いきなり赤ちゃんを「はい、どうぞ」みたいに差し出されるんですよね(笑)。女のほうは、お腹のなかでだんだん大きくなっていったりするから、感覚がありますけど。

堀込:僕は妻の妊娠中に、「なんでこっちには何の変化もないんだろう?」って不思議に思ってました(一同笑)。

育児休業を取ることは決まっていたので、「この子を育てるんだよな」っていう気持ちはあったんですけど、でもやっぱりある程度は他人事です。それはしょうがないですよね、自分の身体には変化がないので。

最初の2か月は妻が産後休暇で家にいたので、私は普通に働いて夜遅く帰っていました。それを3か月目からバトンタッチして、妻が復帰して僕が育休に入った。最初は本当に大変でした。

でも、ちょうどそのくらいのときに、長男が少し笑うようになったんです。それで「あっ、この笑顔のために、ちょっと頑張ろう」と思って、パパスイッチが入りました(笑)。

小島:「家事育児は女の仕事」という偏見はなかったんですか?「俺、何やってんだろ」みたいなのはなかった?

堀込:育休に入ったときは、もう覚悟は据わっていたので大丈夫でした。よく青野さん(サイボウズ社長)が「離乳食をあげるとき、子どもが口を開いてパクッてするのを待つあいだ、この時間は何なんだろうと思ってしまう」とおっしゃってますけど、そういうのはなかったですね。

「これ、楽しい」って思ってからは、ずっと楽しいです。大変さも右肩上がりに上がっていくんですけれど、楽しさが常に、ちょっと上を行っている。

小島:育休期間で、戻れる場所があったから楽しめたんじゃない?

堀込:それは、確実にそうですね。育休の2年が終わったら、保育園に入れて共働きになるつもりだったので。結局は、いろいろ考えて僕が会社を辞めたんですけれど。

第2回 日本で子育てしにくいのは、子どもが「誰かの私物」だから に続く

文:大塚玲子/写真:橋本直己/編集:小原弓佳

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本記事は、2016年3月11日のサイボウズ式掲載記事女たちは知らない、男の「働く以外の選択肢がない」苦しさ──小島慶子×主夫・堀込泰三より転載しました。