サイボウズ式:就職活動の時点で「自分の人生は浅い」と卑下する必要はない

焦る必要はありません。
サイボウズ式
サイボウズ式編集部より:チームワークや働き方に関するコラム「ブロガーズ・コラム」。日野瑛太郎さんのコラムです。

就職活動の面接でよくある質問のひとつに、「学生時代にもっとも深く打ち込んだことはなんですか?」というものがあります。この質問に、あなたは自信を持って答えられますか? 強い自信を持って答えられる人も当然いるとは思いますが、答えに窮してしまう人も結構多いのではないでしょうか。

アルバイトやサークル活動などと答えてお茶を濁したとしても、「自分は学生時代、特に何も深く打ち込んではこなかった」という事実を突きつけられたような気持ちになって、あとで不安になる人もいるかもしれません。この質問が就職活動の面接で定番だということは、企業はやはり学生時代に何かに深く打ち込んだ経験のある人を求めているようにも思えます。

はたして、学生時代に何かに深く打ち込んだことがないということは、よくないことなのでしょうか?

今まで何かに思い切り打ち込んだ経験がないのは、まだその対象に出会っていないだけ

個人的には、たとえ学生時代に何かに深く打ち込んだという経験がなかったとしても、そんなに深刻になる必要はないと思います。

思うに、今までの人生の中でまだ何かに深く打ち込んだ経験がないという人は、本人がやる気がないということでは決してなく、実はまだ打ち込むべき対象に出会っていないだけなのではないでしょうか。

大学や大学院を卒業しても多くの人はまだ二十代で、人生はまだそこから何十年もあります。大切なのは、就職活動の時点で「自分の人生は浅い」などと卑下しないことです。何かに深く打ち込むのは、就職してからだって遅くはありません。

基本的に、「何かに深く打ち込む」ためには、前提としてその対象に「強い興味を抱く」ことが必要不可欠です。特に興味が持てないことに深く打ち込もうと思っても、つらいだけで続くわけがありません。そして、何に対してなら強い興味を抱けるかは個人の感性の問題なので、意志の力でこれをコントロールすることは不可能です。

つまり、何かに深く打ち込めるかどうかは、そういった強い興味を抱ける対象に出会えるかどうかという、運の問題だとも言えるわけです。

学生時代の早い段階で、そういった深く打ち込める対象に出会えた人は幸運です。でも、その確率は決して高いとは言えません。それならいっそのこと学生時代はまだ模索の期間と位置づけて、とりあえずいろいろ試してみることに時間を使ってもよいのではないでしょうか。このような「モラトリアム」的な学生生活の送り方をよく思わない人もいますが、僕はむしろこういった模索の期間は多くの人にとって必要だと思います。

何かに深く打ち込むことの価値

もっとも、僕は決して「何かに深く打ち込むことの価値」を低く見ているわけではありません。それどころか、非常に重要なことだと考えています。何らかの分野で成果を上げたいのであれば、やはり人生のどこかの段階で何かに深く打ち込む経験は必要です。

まず、何かに深く打ち込むことで、人間は自分の能力を磨くことができます。対象がなんであっても、何かに深く打ち込むと必ず困難に突き当たりますが、これを解決しようと努力する中で広義の問題解決能力が醸成されます。ビジネス書を読むなどの方法でも問題解決の理屈は知ることはできますが、本当に使えるレベルの問題解決能力を養うためには、実際にそれが必要な局面に立って使ってみる以外の方法はありません。そういう経験を積むためには、何かに深く打ち込むことが不可欠です。

また、何かに深く打ち込むことを通して、人間は自分自身を知ることができます。自分では得意だと思っていたことが実はそんなに得意でなかったとか、自分が好きだと思っていたものが実はそこまで好きではなかったとか、そういった自己認識の変化が何かに深く打ち込むことで起こることがしばしばあります。「実際にやってみることではじめてわかることがある」と言い換えてもいいかもしれません。何かに深く打ち込んだ結果、最終的に挫折したのであれば、それもある意味では自分自身の能力の限界について知ったことになります。

僕自身の体験を少し書くと、僕は大学院時代に友人と小さな会社を作って、ソーシャルゲームの開発をしていたことがあります。思い返すと、これが僕の人生で最初の「何かに深く打ち込んだ」時期でした。朝から晩までずっとゲームの開発をしていたのですが、この時に培った能力は、後に会社に就職した後や、フリーランスとして働いている今でもとても役に立っています。また、自分自身を知るという意味では、自分が人に雇われて働くよりも、自分で主体的に何かをするほうが好きだということがよくわかりました。

このように、人は何かに深く打ち込むことを通じて自分の能力を伸ばし、自分について知ることができます。何かに深く打ち込むことで成長できる、と言い換えてもいいかもしれません。浅い関わり方しかしていないと、やはり成長の幅も小さくなります。焦って何かを始める必要はまったくないものの、「これなら思い切り打ち込める!」と思える対象が見つかっら、その時はぜひ思い切り打ち込んでみて欲しいと思います。

将来、「自分が本当に打ち込めること」に出会うためにできること

今はまだ自分が深く打ち込めるものがないという人の場合、今後もそういう対象がずっと見つからないかもしれないと不安になるかもしれません。そういう対象に出会えるかはやはり最終的には運ですが、日頃の心がけによって確率を高めることはできます。

まず、つねに好奇心のアンテナを張り、いろんなことに首を突っ込んで見る癖をつけてみるとよいと思います。ちょっとでも「気になるな」と思ったら、何でもとりあえずやってみましょう。別に、それに深くハマる必要はまったくありません。合わないな、面白くないな、と思ったらすぐにやめてしまってもよいと思います。ただし、やる前から判断してしまうのはダメです。少しでも興味があったら実際にやってみて、その時の自分の心の動きをよく観察してみる──そういう習慣をつけることで、「これだ!」と思えるものに出会える確率はぐっと上がります。

また、実際に何かに深く打ち込んでいる人の話を聞いてみるというものおすすめです。何がそんなにその人をその対象に惹きつけているのか、実際に深くハマっている人から説明してもらうことで、自分では思いつかなかった新たなものの見方が発見できることがあります。時には、その人がすごくかっこよく見えたり、自分もこういうふうになりたい、と思えることもあるかもしれません。そういう気持ちになったとしたら、それはあと一歩で自分が深く打ち込める対象が見つかるところまで来ていると言えそうです。

もちろん、焦る必要はありません。自分が深く打ち込めるものを、ぜひゆっくりと探してみてください。

イラスト:マツナガエイコ

」は、サイボウズ株式会社が運営する「新しい価値を生み出すチーム」のための、コラボレーションとITの情報サイトです。本記事は、2017年6月29日のサイボウズ式掲載記事
より転載しました。

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