サイボウズ式:大事な商談の日なのに、保育園に預けられない──両親の代わりに営業チームで子守をした話

これを機に保育が得意な人を社内で育成していくとか、制度にしていくのもおもしろいかもしれない。

営業のスタイルは会社によって異なれど、より多くの売上を上げ、個々の売上目標の達成を目指すというのが一般的な営業の姿です。営業はスケジュールや業務がお客様や取引先が最優先となることも多く、小さい子どもがいる共働き家庭では苦労することも多いのではないでしょうか。

こうした中、サイボウズの営業部で両親が仕事をしている間、「同じチームメンバーの男性が子守をする」というおもしろい取り組みが報告されました。その2件の詳細を追ってみました。また、その取り組みについて、営業部の部長・本部長と社長の青野にも感想を聞きました。

登場人物の相関図

息子が病気で保育園に預けられず、夫も仕事の調整ができない。どうしよう......。

きっかけはサイボウズのパートナー営業部で大手パートナー企業(販売代理店)を担当する働くママ、才田さんのお子さんが今年1月19日に熱を出してしまったことから始まりました。

お子さんの突然の発熱、翌日(1月20日)も熱が下がらなかったため、20日は同じチームの後輩である深澤さんに代わりに商談に行ってもらうことになりました。才田さんは自宅で、お子さんを看病しながら在宅勤務をしました。

しかし、一向に下がらない熱に夕方には病院へ......。すると、お子さんが溶連菌(ようれんきん)に感染したことが判明。

溶連菌は感染症であるため、熱が下がってもその後1日は保育園に預けることができません。その翌日(21日)の商談は、他のメンバーでは代わることができず、どうしても才田さんでなければならない大切な商談でした。

同じ販売パートナー企業を担当する才田さんと後輩の酒本さんのチャットツールでの1月20日のやりとり。翌日の21日の商談はどうしても才田さんが行かなければならず、どうしようかと相談中

まず他の会社で営業として働いている旦那さんに、予定の調整をお願いしました。昼間はなんとか調整することができましたが、18時からの打ち合わせはどうしてもはずせない予定で調整することができませんでした。

才田:溶連菌感染症で保育園に息子を預けられず、夫も夕方から外せない仕事があって。その商談は私が絶対お客様のもとに行かないといけなかったので、どうしようと困っていました......。

絶対に行かなければならない商談、息子の熱が下がらない時にママが取った行動とは!?

才田さんが後輩の酒本さんにお子さんの子守を依頼したやりとり画面

そこで才田さんは、同じ販売パートナー企業を担当する後輩の酒本さんに自宅に来てもらい、在宅勤務で仕事をしながらお子さんの面倒を見てもらうことを提案したのでした。

酒本さんはすぐに快諾。なんと、ものの2~3分で問題が解決しました。

小原:2~3分とはすごい早さですね! 病児保育など他にも選択肢はあったと思うのですが、どうして酒本さんに才田さんの家で在宅勤務してもらうことを提案したんですか?

才田:サイボウズの同じチームのメンバーなら息子とも面識もあったし、「大丈夫」という信頼感があったからです。

病児保育やベビーシッターは利用したことがなかったので、なんとなく不安もあって。それと新しい形にチャレンジしてみたかったというのもあります(笑)。

小原:酒本さん、当日は才田さんの息子さんとどのように過ごしたんですか?

坂本:14時くらいに才田さんの家に行って旦那さんと交代して、14~17時くらいまでの約3時間、才田さんの家で在宅勤務をしました。

息子さんには塗り絵を隣で描いてもらいながら過ごしました。もうだいぶ熱が下がっていたこともあって、思ったより元気で頻繁に話しかけてきてくれたりして。

子どもの世話をしながら在宅勤務するのは、1人でする時と違ってけっこう難しいんだなぁと身をもって体験しましたね。

才田家で息子さんの面倒を見ながら在宅勤務をする酒本さん。息子さんは塗り絵をしています。とっても楽しそう!

小原:わかってはいても、自分で体験すると全然違いますよね。

坂本:才田さんが息子さんと在宅勤務をすることもあるので理解はしていましたが、実際体験すると全然違うなと。

僕は独身なので、1人で子どもの世話をするのは初めてでした。おかげでありがたい経験ができました(笑)。

小原:才田さんは営業のお仕事ですよね。ほかの職種と比べるとなかなか自分で予定や業務の調整をするのが難しいと思います。

お子さんが小さい頃は特に体調を崩すこともたびたびある中で、営業の仕事をするのは大変な部分も多いのではないですか?

才田:最初は私も子どもの世話をしながらの在宅勤務は苦労しましたが、やっているうちにだんだんとコツがつかめるようになってきました。

サイボウズは柔軟な働き方ができるので、他の会社で働くママたちの話を聞くと、調整しやすい点もあるなと感じます。

ただ、お客様や取引先の方からのメールや電話にすぐに返信したくても、子どもを寝かしつけた後や帰りの電車の中という限られた時間でしかできなかったり。商談の時間も保育園のお迎えの時間から逆算して調整しなければいけない、会食に行きたくてもなかなか行けないというもどかしさもあるんですよね。

小原:時短のママならではの苦労やジレンマがあるんですね。

個人の売上目標がインセンティブにつながるという営業スタイルだと、なかなか今回のようなことをチームメンバーに依頼するのは難しいなと思いますが?

才田:そうだと思います。サイボウズは売上目標をみんなで達成してこその評価なので、今回は子どものことでしたが、それだけではなくて、チームで日々都合が悪い時はお互いの商談に代わりに行ってもらったりと助け合っていけるのは心強いです。

ママは海外出張、パパははずせない大型商談対応、その時上司が動いた!?

そして、もうひとつが、ソリューション営業部で官公庁への製品導入を担当している勝沢さんの例です。

以前から準備していた大事な商談の日、その日は同じ会社で働く奥さんの海外出張の日と重なっていました。お互い早朝に家を出発しなくてはなりません。

勝沢:出張と商談の日が重なっているのは前から認識していたんですが、なんだかうっかりしてしまっていたんですよね......。

前日の夜の妻からの連絡で、朝娘を保育園に送っていってからでは、商談の時間に間に合わないということに気がついて、まずい! と本当に焦りました。

小原:わーそれは焦りますね! そこから、どうしたんですか?

勝沢:上司である部長の弘田さんにすぐに電話で相談しました。そして、いくつか考えられる対応策からどれがベストであるか話し合いました。

小原:商談を誰か別のメンバーに変わってもらう、というのがまず考えられる選択肢のように思うのですが......?

勝沢:確かにそうですよね。今回は大きな商談で長い時間をかけて僕が提案の準備をしてきたこと、そしてお客様や販売パートナー様にご迷惑をかけてしまうこともあり、他のメンバーが対応することはしないということを前提としました。

小原:なるほど。

勝沢:話し合った結果、商談先の最寄り駅まで、弘田さんと同じグループの部下である権くんに一緒に来てもらって、商談中の約2時間、2人で娘の子守をしてもらうことになったんです。

娘はすごく人見知りで、祖父母をはじめ自分たち夫婦以外に面倒を見てもらうという経験もなかったので、極力僕と離れる時間を最小限にしようと思いました。

小原:斬新ですよね! 当日の朝、弘田さんに家に来てもらって、商談先まで一緒に行ったとか?

勝沢:そうなんです。弘田さんに家まで来てもらって、商談先に行く電車の中で娘と遊んでもらいました。触れ合いながら慣れさせると、すっかりなついて、駅で僕と別れる時もまったくぐずらなかったのには驚きました。

小原:今回のようなことが起こった場合、一般的には夫婦で解決する問題という気もするのですが、すぐに上司に相談したのはなぜですか?

勝沢:今回はたまたま子どもの件でしたが、それに限らず仕事に対して常に最大限のサポートをしてくれるという上司やチームへの信頼があったからだと思います。

小原:信頼ですか。いい話ですね。

勝沢:チームメンバーと娘は何回か一緒に食事をして面識もありました。保育園のお迎えのために週に2日は18時半に帰るようにしていたり、日頃から家族のことをメンバーに共有して理解してもらっていたことも大きいです。

子守をすぐに全社に報告、いいね!がたくさんついた

小原:後日社内ソーシャル機能も備えた「kintone」で、全社に勝沢さんがこの件を報告したのもびっくりしました。いいね!も80人近くからついてましたし(笑)。

なかなかこういうことを全社にオープンにしてしまう会社って少ないんじゃないでしょうか。

勝沢:上司と部下の業務時間を自分のミスで使ってしまったので、報告の義務があると思ったんです。

kintoneに投稿された勝沢さんの報告

小原:そうだったんですね。報告に対して、反対意見や批判のようなものはなかったんですか?

勝沢:「kintone」でのコメントも対面でも好意的なものばかりでした。今回子守を2人にお願いしようと決めた時も、上司の判断でもありましたし、会社としても受け入れてもらえるだろうという安心感はありましたね。

小原:日頃から営業のチームで働くということは意識してますか?

勝沢:そうですね。サイボウズは売上目標を全社員で達成するという形をとっているので、「チームで仕事をする」という意識が強いですし、営業部全体が大きなチームだと思っています。

子育てに限らず日々直面する課題に対しては、チームの協力なくしては成り立たたないです。

「こういう対応の形もありますよね」と言ってもらえて、安心しました

今回の2つの取り組みについて、実際に自身が子守をしたソリューション営業部の部長の弘田さんと、執行役員で営業本部長の栗山さん、社長の青野さんの3人に話を聞いてみました。

小原:弘田さんは今回、勝沢さんの娘さんの子守をされたんですよね。様々な選択肢の中で、なぜこのような決断をされたんですか?

弘田:前日に勝沢さんから電話がかかってきて相談を受けました。正解だったかどうかはわかりませんが、夜も遅かったし、この選択肢がその時取れる最善だと思って判断しました。

小原:なるほど。勝沢さんにはパーフェクトな子守だったと伺いましたが(笑)、それまでも子守をされた経験はあったんですか?

弘田:両親がいない中で子守をするのは初めてのことだったのでかなり不安でしたが、やるしかないなと(笑)。

事前に娘さんが「アンパンマンが大好き」という情報を仕入れたので、現地に向かうまでの間ひたすらスマートフォンでアンパンマンの動画を見せて、大好きなアンパンマンを見せてくれるおじさんという風にして......(笑)。警戒心を無くしてもらい、距離を縮めるように頑張りました。

小原:色々と工夫されたんですね。娘さんは泣いたりはしませんでしたか?

弘田:すごくその心配をしていて父である勝沢くんと別れる時が山場だなと覚悟していましたが泣かず、その後もアンパンマンのおかげで泣くこともなく過ごせました。

今までで一番気を遣う難しい営業でしたが、おかげで営業力に自信を持ちましたね(笑)。

小原:すごいですね!

弘田:商談の後、取引先の方が子守をしている現場を見て、「こういう対応の形もありますよね」と言っていただけたので、判断は間違っていなかったかなと少し安心しました。

ただ、勝沢さんには今後スケジュールの確認をきちんとして欲しいですね(笑)。

チームメンバーのサポートがあるから、ママでも最前線で営業ができる

小原:栗山さん、今回の2つのお話を聞いて、どんな感想を持ちましたか?

栗山:どちらのケースも事後報告で聞きました。チームで協力して、今回のようなやり方が一番パフォーマンスがでるであろうとその場で判断したのは、良い判断だったと思います。

特に才田さんは出産後、営業の最前線から退いていました。でも、才田さんの高い営業力が欲しかったので、16時半までの時短で営業にチャレンジしてもらっています。

小原:時短で営業をするのはなかなか大変なことも多いでしょうね。

栗山:そうですね。前例のないことでもあるので、チームのメンバーにもできる限りサポートするように日頃からお願いしていますし、才田さんとも困っていることを共有したり、時短でどこまでできるのか一緒に考えながら作り上げていこうと話しています。

小原:今後も今回のようなケースがあるかもしれませんね。

栗山:ただ、社員が子どもの面倒を見るというのは、やっぱりリスクが気になりますね。何かあった時の責任のことなどを考えると、今後も同じようなケースがある場合は、違う選択肢を視野に入れてきちんと対応を考えていくべきかなと思っています。

育児能力が高い人は社内で評価されるし、信頼される

青野:今回の取り組み、すごく面白いですね! これを記事にしようと思ったのがまずすごい(笑)。

小原:今まで聞いたことがない取り組みですよね。青野さんの感想はいかがですか?

青野:社会的な観点から見ると、「産み育てやすい環境」を社会全体で作っていかないと、日本の少子化は食い止められないですよね。そのためには、産める人が産んで、育てられる人が育てることが大切。

育児をお母さんだけに任せるのではなくて、家族や会社の人も協力するし、公的なサービスやキッズライン(カラーズが提供するベビーシッターサービス)やフローレンスのような民間のサービスも利用したりと、何層ものセーフティネットを用意していくことが大事だと思うんです。(※)

※2016年7月からサイボウズでは社員のベビーシッター利用に補助がでる制度が始まりました。

小原:いくつもの選択肢があると、育児をする側にも心理的な余裕が生まれますよね。

青野:そうなんですよね。そして、社長としての観点から見ると、今回のメンバーの判断はナイス判断でしたね! 子育てしているメンバーだけに大きな負担がかからないようにしていきたいので。

これを機に保育が得意な人を社内で育成していくとか、制度にしていくのもおもしろいかもしれない。

保育能力の高い男性社員を育成することは、いいことがたくさんあると思いませんか?

小原:確かにそうかもしれないですね。

青野:イクメンを増やすことにもなりますし、奥さんにも喜ばれる。独身でも合コンでポイントあがるかも(笑)

小原:結婚してから育児に協力してくれそう! と感じますよね。社員が子守をすることのリスクについて栗山さんがお話されてましたが、その点はいかがですか?

青野:もちろんリスクは下げられるといいなと思いますが、事故や怪我は保育園やベビーシッターであってもゼロにすることはできないですよね。だから、ある程度そこについては寛容になることも大事かなと思いますね。

小原:なるほど。今後もこのような取り組みを続けていってほしいと思いますか?

青野:今回、子守をしてくれたメンバーは「多様な働き方に柔軟にこたえられる人」ということで信頼度が上がりましたし、評価したいです。

今後も選択肢のひとつとして、必要な時はぜひ行っていってほしいですね!

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文:小原 弓佳

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本記事は、2016年8月2日のサイボウズ式掲載記事大事な商談の日なのに、保育園に預けられない──両親の代わりに営業チームで子守をした話より転載しました。