サイボウズ式:「誰からも嫌われないけど強烈なファンもいない」ヤフーはいかにチャレンジする組織に変わったか?

2014年11月08日 17時38分 JST | 更新 2015年01月06日 19時12分 JST

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左からサイボウズ株式会社 執行役員・事業支援部長 中根弓佳氏、ヤフー株式会社 ピープル・デベロップメント戦略本部長 湯川高康氏

2012年4月の経営陣刷新以来、「爆速」を旗印にさまざまな改革に挑んでいるヤフー。その一環として、人事制度についても、これまでに類を見ない、独特の制度を導入しました。社員の行動規範である4つの「ヤフーバリュー」をどのように制度に落とし込んでいったのか? そして実際に、社員をどのような尺度で評価することになったのか? 新人事制度構築のキーパーソンである同社の湯川高康ピープル・デベロップメント戦略本部長に、サイボウズ執行役員・事業支援部長の中根弓佳が迫ります。

「最大公約数」的な企業文化から脱却する

中根:大変興味深い人事制度を作られましたよね。

湯川:いやいや、手作り感満載なんで、外部の人にお話しするほどのものかなと思うんですが(笑)

中根:逆に、教科書に載っているような人事制度はつまらないですよ。

人事制度って、企業の理想の姿を明確にし、バリューを発揮するために、どういう価値観をチームで共有するかのベースになるもので、とても重要だと思うんです。同じような人事制度を導入してもうまくいかないケースもありますし。

湯川:おっしゃるとおりですね。

中根:ではまず、今回の人事制度改革の背景から伺っていきたいと思います。「爆速経営」の実現にフォーカスし、人事制度を大きく変えたと聞いていますが、きっかけは何だったのでしょう?

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湯川:2年半前の2012年4月に社長が交代して経営体制が変わり、それに合わせて企業文化を変えなくてはならないと考えたのがそもそものきっかけです。

ヤフーはそれまで、どちらかというと最大公約数的というか、誰からも嫌われないけど強烈なファンもいないという会社だったと思うんです。そうしているうちに、個性や特徴が失われつつあったんじゃないかと。

中根:なるほど。

湯川:Webの世界が成熟し、様々な分野でとんがったサービスが出てきている。そんな中で、我々はいつまでも従来のままのPC依存のサービスにかじりついていていいのか? スマートデバイスへのシフトが必須となるとともに、社員の意識改革もしなくてはならないと考え始めたのです。

そのためにまず、「ヤフーバリュー」というものを前面に打ち出しました。これは対外的にというよりも、私としてはむしろ社員に対して打ち出したものだと理解しています。

中根:ヤフーバリューについて改めてご説明いただけますか?

湯川:「課題解決」「爆速」「フォーカス」「ワイルド」の4つからなります。

このうち「課題解決」は4つの最上位概念です。「爆速」は、会社が大きくなるにつれ、スピード感が失われてきたのではないか? 意思決定のスピードをもっと上げようということ。「フォーカス」は、なんとなく今まで最大公約数的にやってきた面があるけれども、それでは競合に勝てない。より強みにフォーカスして、いいものを作っていこうということ。「ワイルド」は、失敗を恐れず未知のものに果敢にチャレンジしていこうということ。もともと「ヤフー」とは「ならず者」という意味なのですが、そうしたマインドを失いつつあったのではと思ったのです。

中根:社員の方々にも「変わらないといけない」という危機感はあったのですか?

湯川:そうですね。設立以来ずっと増収増益で、会社の業績が悪くなったわけではありませんでした。ただ、この2年間を見ても、スマートデバイスが急速に伸びている。もしあそこで舵を切っていなければ、会社が衰退していたかもしれないですね。

中根:大企業病になるのか、そこで意識転換するのかの瀬戸際にあったという感じでしょうか?

湯川:当時、優秀な社員が辞めていたのは事実としてあったと思います。「このままヤフーにいちゃいけない」みたいな感じで。これはマズいなという思いはありましたね。経営陣が刷新されるだけでは、企業の文化や体質はなかなか変わらない。そこでバリューをしっかり浸透させていこうとなりました。

中根:ヤフーバリューはどのように作ったんですか?

湯川:基本的には執行役員を含めた経営陣のほうで考えました。我々人事の役割は、それをどのように制度や仕組みに落とし込んで、社内に浸透させていくか。最初の半年で人事制度を変えたので、時間的には結構タイトでしたね。

バリューは評価にリンクさせないとお飾りになる

中根:具体的に、人事制度にどのようにバリューを落とし込んでいったのでしょう?

湯川:ヤフーバリューのようなものはどんな会社にもあると思うんです。ただし、結局それは多くの場合、お飾りになってしまう。なので、4つのバリューそのものを評価に使う「バリュー評価」に改めました。昇給はその評価で決まります。

中根:バリューを発揮できているかが評価軸になるわけですね。

湯川:そのとおりです。評価にあたっては、4つのバリューにそれぞれについて設問を2問ずつ。さらに役職に応じた2つの設問を加え、合計10問というシンプルな設問にしました。従来は設問が30以上あったのですが、数が多すぎるとわけがわからなくなるんですよ。逆に、さすがに4問だと差がつかなさすぎるだろうことで10問に落ち着きました。

中根:バリューをきちんと評価に組み込まないとお飾りになってしまうというのはよくわかります。サイボウズにも以前、「五精神」というのがあって、会議室に貼ってあったりしたんですが、そらで全部言える人は少なかったとおもいます(笑)

湯川:そうなりますよね(笑)

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中根:サイボウズでは、今は「Action5+1」というものを定め、それを評価軸のひとつにしています。「あくなき探究」(問題を深く探求し、課題を設定する)、「知識を増やす」(役割を果たすために知識を身につける)、「心を動かす」(周囲の協力を得るためにコミュニケーションを行い、相手の行動を引き起こす)、「不屈の身体」(任された役割をやめずに取り組み続ける)、「理想への共感」(サイボウズの理想に共感し、それに対して自分のリソースをコミットする)の5つが「Action5」。さらに、嘘をつかない、隠しごとをしないといった「公明正大であること」が「+1」。

これらが相対的に高い人はチームの中での信頼が高く評価も上がるという考え方です。そのように評価の軸とすることで、ようやく社内に浸透しました。チームでの信頼を高くするためには個人の成長として何が必要かということが明確になります。

湯川:やはりバリューや理念は、評価にリンクして、個人の成長に繋げるために可視化する必要がありますよね。

バリューの浸透で社員の才能と情熱が解き放たれた

中根:一方で、バリューの定義があいまいな場合も、社内に浸透させるのは難しいですよね。

湯川:まさにそのとおりで、例えばただ「爆速」といっても、人によって解釈はまちまちなわけです。「メールを爆速で返信しています」といってもそれはちょっと違うわけで。

中根:ははは。

湯川:「爆速」というのは、課題があると気づいたら、周りにちゃんと言いましょう。そして言ったら自分でアクションを起こしましょう。そのサイクルを爆速で回していきましょう、という意味です。そういうことをきちんと定義して、社内に示してあげなくてはならない。

中根:そうですよね。

湯川:そのためマネジメント層に「爆速とは何か」「ワイルドとは何か」といったことについてヒアリングを行ったんです。それに基づいて人事制度を構築するとともに、社内報やイントラネットに記事として掲載し、社員に周知していきました。「バリューバトン」として、バリューを発揮している人に順番に記事に登場してもらったりもしていますね。そうした記事の中に、バリューの評価項目のキーワードが散りばめられているんです。

中根:面白い取り組みですね。参考になります。

湯川:社員全員に4つのバリューを記した「バリューカード」を配ったりもしました。今は社員全員がバリューを暗唱できると思います。

一方で、バリューが浸透したとはいっても、全員がバリューを発揮できているかどうかはまた別の問題です。人間が変わるには時間がかかりますから。とはいえ、バリューを意識することによる効果は見えてきていますね。ヤフーでは「社員の才能と情熱を解き放つ」こともテーマにしていますが、まさにそれができてきているという手応えがあります。

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中根:具体的にはどのようなことですか?

湯川:例えば、これまでだと会議の時も、議論をかき乱すのがイヤだからと黙っていたり、イニシアチブを取って失敗したらバツをつけられるからやめておこうとなっていたりした人がいたわけです。しかし、課題を感じたら周りにちゃんと言おう、それが評価につながる、となることで、積極的に発言するようになりました。

打席に立って、バットを振らないとヒットやホームランは出ない。だったら三振してもいいから振ってみよう、と考える社員が増えた気がします。

中根:それはすごくいいですね。メンバーの意識が変化しているんですね。

アドバイスを必須にすることでフィードバックが明確に

中根:上司からだけでなく、同僚からも評価される、多面評価の仕組みも取り入れてらっしゃいますよね?

湯川:多面評価自体は以前からあったんです。ただし、評価する人の数を増やしました。従来は上司2人プラス同僚4人の計6人。それを上司2人プラス同僚8人の計10人で評価するようにしています。

フィードバックって鏡なんですよね。鏡の枚数が多いほどきちんとしたフィードバックが得られ、成長につながると考えたのが、人数を増やした理由です。

しかも、上司以外の評価者は、評価される本人が自分で選ぶんですよ。私はAさんとBさんに評価してほしい、というように。

中根:ええっ! そうなんですか!

湯川:上司には変更権限があり、仲が良すぎる人ばかり選んでいる場合は差し替えたりもしますが。また、評価は点数だけでなく全てアドバイスのコメントを書いてもらいます。そのアドバイスも、誰が書いたかまではわからないようにしているものの、全て評価される本人に渡します。

中根:うわっ! ひとによっては上司から言われるより、チームのメンバーから言われるほうがグサッときたりするかもしれませんね(笑)

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湯川:コメントを開示するかどうかは議論がありましたが、してよかったと思っています。以前は評価が悪かった時は、よく人事に直接クレームが来ていたんですよ。「なんでこの評価なんだ! 納得がいかない。上司はろくに見ていないで適当に点数をつけているだけじゃないのか?」みたいに。しかし今は、アドバイスとして成長課題が書かれていて理由がはっきりわかるので、直接人事に問い合わせしてくる人はほとんどいなくなりました。

中根:評価対象がたくさんいて、しかもアドバイスも必須となると、評価する側の人も大変ですよね?

湯川:なので、新しい期が始まるとすぐにに、その人が誰の評価をすることになるか通知しているんですよ。一応、自分が評価をすることは相手に言ってはいけないとなっていますが。

中根:「便宜をはかってくれたらいい点をつけるよ」みたいにはならないんですか?(笑)

湯川:危惧はしたんですが、そうはなっていないですね(笑)。相対評価なので、人に不当にいい点をつけると自分の点が落ちますから。また、評価の締め切り間近になって慌ててアドバイスを書き込むことにならないように、システムは3ヶ月前からオープンしてアドバイスを入力できるようにしています。

中根:サイボウズでもこれに近い評価をやったことがあったんです。60%を上司、30%を他部署の責任者、10%を任意の同僚5人に評価されるというものです。でも、うまくいかなかったんですよ。今は多面評価は行っていません。

湯川:うまくいかなかったというのは?

中根:チームワークが崩れちゃったんです。自分がいったい誰に評価されているのかわからない、誰を信じて成長を目指せばいいかわからない、となって。

ただ、それは方法やタイミングの問題があったのかもしれないですね。当時は自分とはあまり関係ない部署の人のことを、評価するケースもありました。そもそもよく知らないから、なんとなく点数をつけるしかない。その評価に対する納得感もありませんでした。人数もヤフーさんに比べて圧倒的に少なかったですしね。まだ会社が200人弱の時でしたから。

湯川:やはり納得感が大事ですよね。昇給・降給がかかっているだ