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「トランプ登場」で変転する「米中露三国志」--名越健郎

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中国が1月中旬、新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)「東風41」を東北部の黒竜江省に配備したことが、米中露の3国関係に微妙な影響を与えている。

中国としては、挑発を続けるトランプ大統領をけん制する狙いがあるが、ロシアは配備が極東に近いことに不快感を抱いている。トランプ政権がロシアと手を結んで中国を封じ込めるとの見方もあり、中国の焦りも読み取れる。

中国ICBM配備の衝撃

東風41は多弾頭型で、最大10個の核弾頭を搭載。射程は推定1万2000キロで全米を射程に収める。まだ実験中の段階だが、配備を急ぎ、核戦力を誇示する狙いがあったようだ。黒竜江省への配備は、中国紙「環球時報」などが写真付きで報じた。

国粋主義をしばしば煽る同紙は「中国の核戦力は米国を抑止する必要がある」と核戦力強化を訴えた。中国当局は確認していないが、配備されたのは、ロシア国境に近い黒竜江省大慶市とされる。

ロシアのペスコフ大統領報道官は「この報道が正しいとしても、ロシアにとって脅威とはみなさない。中国はロシアの戦略的パートナーであり、両国の協力は政治、経済、貿易などあらゆる分野に踏み込んでいる」とコメントした。

ロシアの軍事専門家、ビクトル・ムラホフスキー氏は「ロシアNOW」に対し、「中露は互いに核兵器を標的にしておらず、脅威ではない」としながら、東風41は1年前、中国北西部の新疆ウイグル自治区にも移動したと語った。モスクワ国際関係大学のミハイル・アレクサンドロフ教授も「両国の核戦力には大きな差がある。ロシアの核兵器は中国より完成されている」と述べた。

技術的には、ICBMは中・近距離を標的にできず、ロシア極東への直接の脅威とはならない。

核戦力では中国がロシアを凌駕

しかし、ロシアでは中露国境沿いへの配備に不信感も出ている。上院国防委員会のクリンチェビッチ第1副委員長は「ロシア軍は何らかの対応を取るべきだ」と述べた。

軍事専門家のワシリー・カシン氏はネットメディアのRBTHで、「中国は米東海岸への核攻撃のミサイル飛行時間を短縮するため、北東部に配備したようだ」とし、米軍が黒竜江省のミサイル基地を先制攻撃するなら、ロシアのミサイル警報システムがロシアへの攻撃と誤解して反撃し、予測不能な結果を招きかねないとし、中露国境への配備は危険と指摘した。

同氏はまた、ロシアの主要都市は中国の中距離ミサイル、「東風21」と「東風26」の射程に完全に入っており、これらの中距離ミサイルは東風41よりも数が多く、命中精度も正確だとし、中国軍の中距離核戦力がロシアにとって脅威だと強調した。

この点では、軍事専門家のアレクサンドル・フラムチヒン氏も「独立新聞」(1月25日)で、中国は中距離ミサイル、東風21を300基保有し、最新鋭の東風26も配備を開始しており、これらのミサイルがロシア欧州部を射程に収めていると指摘。

これに対し、ロシア軍は1987年調印の米ソ中距離核戦力(INF)全廃条約で中距離核ミサイルを一切保有していないとし、「ロシアのICBMは米国向けであり、中国向けとしては飛行距離が不適切だ」と分析した。

同氏は、「核戦力ではロシアが中国を凌駕していると信じられているが、実際は逆だ」と主張、「中国が保有する核ミサイルの90%以上は米国向けではなく、ロシアに向けられている。この事実を認識しておくべきだ」と強調した。

フラムチヒン氏は中国脅威論を煽ることで知られるが(2013年7月27日「中国軍がロシア極東に電撃侵攻する日」参照)、ロシアの専門家の間では、増強を続ける中国核戦力への脅威論が浮上している。

INF条約脱退も

核戦略をめぐるトランプ大統領の方針はよく分からない。昨年12月にツイッターで、「世界が核に関して良識を取り戻すまで、アメリカは核戦力を大幅に強化、拡大する必要がある」と投稿したかと思えば、英紙「タイムズ」(1月16日)との会見では、ロシアへの制裁解除と引き換えに核兵器の削減で合意できる可能性があると述べ、「核兵器は大規模に減らすべきだ」と語った。

選挙戦中の討論会で、「戦略核3本柱」を知らなかったことも判明しており、核のボタンを握る最高司令官として不安な船出だ(2016年3月17日「『トランプ・カード』に期待するプーチン大統領」参照)。

フラムチヒン氏は制裁解除と核軍縮の取引について、「どう見てもロシアにとって悪い取引だ。対露経済制裁は安全保障にさほどの脅威ではない」とし、中国や英仏がINF全廃条約に参加することが「良い取引」になると主張した。

プーチン大統領は12月22日、国防省で演説し、米国のミサイル防衛(MD)に対抗して戦略核戦力を強化するよう力説。核戦力に一段と依存する姿勢を示した。ロシアは通常戦力の弱体化を補うため、核戦力への依存を強めており、将来的にINF条約から脱退する可能性も考えられる。

中露同盟はあり得るか

トランプ政権誕生後の米中露の3国関係では、ロシアが相対的に優位な立場にあるようだ。トランプ大統領はロシアとの関係改善に意欲的で、中国に対しては、台湾接近を強めたり、保護貿易主義を糾弾する。

春名幹男氏の記事「『外交指南役』はキッシンジャー氏:トランプ氏の『親ロシア』への転換を実現へ」が指摘するように、トランプ政権は今後、ロシアと組んで中国の孤立化を図る可能性がある。

ロシア紙「独立新聞」(1月23日付)は、「中国人は今も『三国志』の世界を信じている。2大国が連携する時、置き去りにされたもう1つの大国が打撃を被る」とし、中国が今後、この図式から脱却するため、ロシアとの連携を強化する可能性があると指摘した。

同紙は、習近平国家主席が1月17日、スイスのダボス会議の演説で、「ロシアとの包括的な戦略パートナーと連携」を訴えたことを取り上げ、2001年調印の中露善隣友好協力条約は「戦略的相互関係」を規定しているが、中国はロシアとの協力関係を格上げしたいようだとし、今年も数回行われる中露首脳会談で関係格上げ策が討議されると報じた。

この点で、ロシア筋は筆者に対し、「中国はロシアに軍事同盟関係を持ち掛けているが、ロシアは今のところ無視している」と述べていた。ただし、中露が軍事同盟を結ぶなら、中国はロシアが戦うシリアやウクライナ戦線で協力を余儀なくされる。

バルト3国が恐れるロシアの軍事介入が仮に起これば、中国は自動的に北大西洋条約機構(NATO)と戦うことになる。中露同盟はあり得ないにしても、中国は中露条約を修正し、ロシアとの政治、外交的連携強化を求める可能性がある。その場合、日本外交が最も打撃を受けることになる。

このように、米中露3国関係ではトランプ政権発足を経て、核戦力もにらんだ微妙なバランスの変化が進行中だ。経済力では米国の7%、中国の12%にすぎないロシアがキャスティングボートを握るかもしれない。

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名越健郎
1953年岡山県生れ。東京外国語大学ロシア語科卒業。時事通信社に入社、外信部、バンコク支局、モスクワ支局、ワシントン支局、外信部長を歴任。2011年、同社退社。現在、拓殖大学海外事情研究所教授。国際教養大学東アジア調査研究センター特任教授。著書に『クレムリン秘密文書は語る―闇の日ソ関係史』(中公新書)、『独裁者たちへ!!―ひと口レジスタンス459』(講談社)、『ジョークで読む国際政治』(新潮新書)、『独裁者プーチン』(文春新書)など。

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(2017年2月7日フォーサイトより転載)