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米国で2人目の死者「エボラ終息」に向けた発生地での取り組み

2014年12月01日 23時39分 JST | 更新 2015年01月30日 19時12分 JST

 2014年11月15日土曜日午後3時45分。西アフリカのシエラレオネで医療活動をしていたマーティン・サリア医師(44)が、現地でエボラウイルスに感染し、治療のために米国ネブラスカ州にあるネブラスカ医療センターに搬送されました。

 病院に到着時、サリア医師は極度に重篤な状態であることが全米のニュースで流れました。多くの米国民は、サリア氏の状態は、これまで米国でエボラウイルス病を克服した8人の感染者とは違うのだと受け止めました。

 ネブラスカ医療センターは、米国最大規模の「生物学的封じ込め施設(Biocontainment Unit)」を備えています。現在、米国には4つの生物学的封じ込め施設があり、バイオテロや自然発生した非常に強い感染力がある病気の影響を受けた人に対して、最前線の治療を行っています。また、治療に携わる医師、看護師やスタッフは、特定のプロトコールと患者さんのケアの手順に準じて、特別な訓練を受けています。

 これまで、このネブラスカ医療センターでは、エボラ感染者であるリチャード・サクラ医師、フリーカメラマンのアショカ・ムクボ氏ら2人の治療に成功しています。サクラ医師は、実験薬である『TKM-Ebola』の投与とエボラ生存者からの輸血を受け、ムクボ氏は、別の実験薬である『Brincidofovir(ブリンシドフォヴィル)』の投与とエボラ生存者からの輸血を受けました。両実験薬とも、ウイルスが複製して増殖することを抑えるための薬です。輸血は、エボラ生存者の血液中にはエボラウイルスに対する抗体が含まれていて、エボラ感染患者の免疫システムを助ける効果が期待されています。さらに、エボラ感染には激しい下痢や嘔吐が伴うことがありますので、ミネラルや栄養が失われるため、2人は厳重なモニタリングの上、重篤な疾患のある患者に対するケアである「支持療法」を受けていました。

 サリア医師に対しても、医師団は直ちに実験薬とエボラ生存者の血漿輸血を試しました。ネブラスカ医療センター救命救急専門医ダニエル・ジョンソン医師は、後に、サリア医師が15時間のフライトの後に病院に到着したときはすでに腎臓の機能が停止し、呼吸困難があったと語っています。そのため医師団は、エボラウイルス病の治療に加え、 腎臓機能を置き換えるための継続的な人工透析や、呼吸不全に対する人工呼吸器を開始しましたが、血圧が急に低下し、心停止となり、結局、状態は回復することはありませんでした。

 そして誰もが回復を祈る中、治療開始から2日目の月曜日早朝に、サリア医師死亡のニュースが報じられました。米国では、エボラ感染による2人目の死者でした。

「それが私の情熱です」

 サリア医師は、米国人の妻と結婚し、米国の永住権をもつシエラレオネ出身の外科医です。

 米紙『ワシントン・ポスト』によると、彼は2008年にカメルーンの「パン・アフリカ・キリスト教外科アカデミー(The Pan-African Academy of Christian Surgeons :PAACS)」の外科レジデントプログラムを卒業し、2012年からシエラレオネの首都フリータウン市で最も貧しい地域の1つにあるメソジスト病院(Kissy United Methodist Hospital)に勤務し、その年の2月に同病院の最高責任者となって現在に至っていました。

 このPAACSは、アフリカでの深刻な外科医の必要性に応じて開設された、アフリカで活動することを望む一般外科医を養成するためのプログラムです。現在、アフリカでは人口25万人に対して外科医が1人しかおらず、特に農村部になると、250万人に対して1人の外科医しかいないのです。

 サリア医師は生前、インタビューでこう語っていました。

「私はこの任務は簡単ではないこと知っています。でも、フリータウンの人々を助けるために私がここにくることを神が導いています。神を信じています。なにが起こっても、私には確信があります。それが私の情熱です」

 同病院はサリア医師のエボラ感染が確認された後、11月11日に閉鎖されました。そして病院のスタッフは、21日間隔離されています。

大きな差がある死亡率

 米紙『ニューヨーク・タイムズ(NYT)』によると、サリア医師はエボラ感染の兆候があったため、11月7日に勤務先の病院でエボラの検査を受けていますが、結果は陰性でした。ところが、3日後の再検査で、結果が陽性となりました。ネブラスカ医療センター生物学的封じ込め施設のフィリップ・スミス部長は、

「こうした病気の初期のケースで、偽陰性(本当は陽性なのに検査によっては陰性と判定されること)という結果は珍しいことではない」と前置きしつつ、

「サリア医師がどのようにエボラウイルスに感染したのかは不明である。ただし、サリア医師はエボラ感染者の多い地域で働いており、おそらく認識されていない感染者が多く、感染の機会が多かったのだろう」と語っています。

 また、同紙によると、今回のアウトブレイク(爆発的感染)で、西アフリカの500人以上の医療従事者がエボラウイルスに感染しています。そのうち310人は、11月5日の時点で死亡が確認されています。WHO(世界保健機関)は、医療従事者におけるこうした感染率の高さは、保護器具の不足や不適切な使用、医療従事者の不足、隔離病棟における長時間勤務などに起因すると指摘しています。

 しかし、その一方で「国境なき医師団」は、2014年3月より、エボラ被災国に世界中から約700人の医師や援助活動家を送っており、現在でも約270人が働いていますが、これまでの感染者はわずか3人(ノルウェー、フランス、アメリカ)です。

 さらに、11月25日までに、約20人が、西アフリカで感染して、米国やヨーロッパで治療されています。多くは医療従事者や援助活動者で、エボラ感染のため母国に搬送されました。うち10人が米国に搬送され、8人が回復し、2人が死亡しています。なぜアフリカと欧米では、エボラウイルス病による死亡率がこれほど大きく違うのでしょうか。

医療環境の違い

 もちろん、アフリカと米国でエボラウイルスが違うわけではありません。哀しいかな、貧しい国の農村部や遠隔地で治療される場合と先進国で治療される場合では、全く医療の環境が違うのです。

 エボラウイルスに感染すると、同時に他の感染症や合併症を伴うことがあります。嘔吐や下痢による脱水のため、生命を脅かすほどの低血圧、栄養失調に陥ります。また、腎臓の機能が悪化し、体内の毒素が排泄できません。先進国では、こうした症状に対して迅速に人工透析や点滴による水分と栄養の補給、抗生物質の投与などの対応ができますが、西アフリカではできません。迅速な診断、感染後のモニタリングなども重要ですが、その点でも先進国とでは大きな違いがあります。

 実際、すでにナイジェリア、セネガルでは感染が終息したと発表されましたが(両国合わせて感染者が21人、死者が8人)、 2014年3月以降、ギニア、リベリア、マリ、ナイジェリア、セネガル、シエラレオネで1万5000人以上がエボラに感染するという記録的な最大の流行が続いており、そのうち5400人以上が死亡しているのです。

スタッフの感染者はなし

 それだけに、いままさに「エボラ治療センター」の必要性が高まっています。

 11月9日、米『CBCテレビ』の人気ドキュメンタリー番組『60Minutes』で放映された『The Ebola Hot Zone』と題した特集で、リベリアでエボラとの戦いに取り組んでいるエボラ治療センターからの報告がありました。それによると、治療センターの設置や維持に従事する米軍人や患者を治療する医師、看護師など、これまで2000人以上の米国人が現地に赴き、エボラ危機に対する国際的対応を主導しています。

 番組では、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(University of California, Los Angeles:UCLA)で救急医療の訓練を受けたプラネイブ•シェティー医師が指揮する治療センターが紹介されました。ベッド数50床、約200人のスタッフが勤務するこのセンターは、エボラウイルス病のみを扱っています。9月中旬のオープン以来、彼らは200人以上の患者を治療してきましたが、これまで、スタッフは誰1人感染していません。

 看護師のケリー・スーターさんはこう語っています。

「エボラは管理可能だから、怖くはありません。自分を守るプロトコール、手順がちゃんとあるのです。私たちは自分が何をするべきで何をしているか、しっかりと理解しています」

 この治療センターでは、病気の進行段階によって、患者さんを隔離しています。

 たとえば、エボラ感染の疑いがある人の病棟は、オレンジ色のフェンスによって隔離されています。隔離された人は、検査の結果を待たなければなりません。保護具なしには誰もこの領域に入ることができません。

 また、感染が確認された病棟では、患者は死を待っています。つねに15人から20人がいますが、生き残る人はほとんどいません。医師は、鎮痛剤や鎮静剤で苦痛を緩和します。

希望は叶わず......

 さらに高リスクの隔離病棟にカメラが向けられると、エボラと診断された小さな子供を懸命に看護する父の姿が映りました。番組のレポーターは彼らと話をしたくても、近づくことすらできません。その5歳の子供の名前はウィリアム、父の名前はジョージです。イスに座っている可愛らしい小さなウィリアムの目は、悲しみに満ちていました。ジョージは、このセンターでの治療によってエボラウイルス病が治癒したためエボラの免疫があるので、5歳の息子が隔離されるこの高リスク治療センターに入ることができます。

 看護師のスーターさんは、「仕事がきつくて、疲れて故郷に帰りたくなると、私は、ジョージと小さなウィリアムの姿を思い出します」と言います。

 同センターで働くスタンフォード大学救急医のコリン・バックス博士は、「人々はこのエボラ危機を深刻に捉えるべきです。私には、地球に住む市民としての責務があります」と語ります。さらに、分子ウイルス学者であるジョセフ・フェア医師は、米国人をエボラウイルスから守るために米国と感染地との遮断や感染者の隔離の必要性だけを主張する人々に対し、「エボラウイルスが発生した場所でのアウトブレイクに何とかして対処しなければ、私たちは決して安全にはなりません」と訴えます。

 この番組の終わりに、小さなお墓が映っていました。お墓には、ウィリアムという名前が刻まれていました。エボラから生き延びた父親ジョージの必死の看病、そして希望は、叶いませんでした。

国際的な協力が不可欠

 先に紹介したNYTの記事によれば、エボラの広がりを阻止するために、WHOはリベリア、シエラレオネとギニアにエボラ治療センターを建設すべく、人材の派遣を調整しています。今年10月の時点で15の治療センター(計1047床)ができていますが、これはWHOが計画している41の新しい治療センターのごく一部です。社会的基盤や医療従事者の不足のため、新しいセンターの建設と人材配置が困難な状況なのです。

 英紙『ザ・テレグラフ』によると、これまで米国は2億ドル以上、すべての資金の3分の1を拠出していますが、世界第2の経済大国である中国は830万ドル、つまり2%未満です。そして日本は1100万ドル。国連機関は、日本や中国をはじめ先進国からの資金援助を強く求めています。

 アフリカでのエボラウイルス病を終息させない限り、グローバル化の現代では、世界中の市民の感染リスクは続くと思います。

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大西睦子

内科医師、米国ボストン在住、医学博士。1970年、愛知県生まれ。東京女子医科大学卒業後、同血液内科入局。国立がんセンター、東京大学医学部附属病院血液・腫瘍内科にて造血幹細胞移植の臨床研究に従事。2007年4月からボストンのダナ・ファーバー癌研究所に留学し、2008年4月からハーバード大学にて食事や遺伝子と病気に関する基礎研究に従事。

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(2014年12月1日フォーサイトより転載)