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高畑容疑者関連の報道、マスコミのセカンドレイプ助長がひどすぎる

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俳優の高畑裕太容疑者が強姦事件を起こしたことがニュースでも大々的に取り上げられていますが、この事件に関するマスコミの報道が非常に問題だと感じています。

■プライベート侵害を助長する報道


まず、報道各社が被害者の年齢や勤務地に関する情報など、個人情報を安易に公表していることは大変由々しき問題です。

8月18日に放送されたNHKニュースの貧困特集に出演した女子高校生が、「貧困ではない!」とインターネット上で誹謗中傷に遭うという被害が発生しましたが、NHKが安易に個人情報を出してしまったことで、悪質なインターネットユーザーがその情報を頼りに彼女のTwitterを突き止め、私生活を晒されるという事態になってしまいました。

このようなことが起こって1週間も経っていないにもかかわらず、今回の高畑容疑者の件でも同様に、マスコミが安易に被害者に関する情報を流してしまったのには本当に義憤を覚えます。キー局も被害者の年代や、勤務地のある市区町村とその業種を公表。スポーツ新聞に至っては、誰に似ているか等の容姿や体型の特徴や、勤務先の細かい特徴まで報じるという始末です。

これにより、本人特定を始めた一部の悪質なインターネットユーザーによって、被害者の勤務先が特定されるという事態が発生しています。これでは被害者の周りにいる人が、誰が被害に遭ったのか知ってしまうのも時間の問題です。また、性犯罪者は再犯率が高いと言われていますが、情報がネット上に転がっていれば、加害者が刑期を終えた後に復讐をしようと企んだ際に、被害者の居場所を突き止めやすくなってしまいます。

一部の悪質なインターネットユーザーが好む分野において、このようにマスコミが個人を特定できる情報を出すということがどれほど危険なことかをしっかりと理解して、極力被害者に関わる情報は出さないということを心掛けるべきではないのでしょうか? 

■セカンドレイプを助長する報道


また、個人の特定という面だけではなく、セカンドレイプ的な面においても個人情報は絶対に控えるべきです。

実際、今回もセカンドレイプをする人が巷でも本当に数多くいるようですが、特に被害者の年齢が40歳台ということで、年齢に関連することは激しいように感じています。男性だけではなく女性も平気で「女性側が誘ったのではないか?」「ハニートラップでしょう」のように言う人がいるのですから、この国はセカンドレイプ大国かと疑わざるを得ません。

おそらく彼ら彼女らの中に「男性は若い女性に性欲を抱くもの」という間違った偏見があるため、今回の加害者と被害者の年齢差を知った瞬間に『認知的不協和』を起こし、自分の偏見は変えず事実のほうを捻じ曲げた解釈を導き出して納得しようとしたのでしょう。自分がセカンドレイプをしているという自覚すら無いと考えられます。

また、性暴力の被害者に対して、容姿に関するセカンドレイプもありがちです。今回も同様に容姿をネタにするという卑劣なことも起きていますが、あろうことかマスコミがそれに加担してしまっています。被害者の容姿について「美人だった」等の言及をして、被害者にスポットを当てているのです。

たとえば、東スポは被害者女性を知る人のインタビューを掲載して『「すごい美人(中略)男が見たら"ちょっといいな"と思うタイプ。(中略)(高畑容疑者は)こういう人が好きなのか!と思った」と話している』と被害者像を詳細に語らせています。(※一部個人情報になるため中略とした)

もう本当に憤りしか覚えません。これが犯罪に対する報道でしょうか? ここまで来るともはやセカンドレイプの共犯でしょう。

セカンドレイプというのは本人をひどく傷付けるばかりでなく、同様の被害に遭った人も傷付ける行為です。日本中にセカンドレイプが溢れる中、今回の件で再び昔の傷をえぐられている人は少なくないでしょう。中にはそれで自殺してしまう人もいます。セカンドレイプ発言をしている人たちには、自分がいかに無神経で卑劣なことを言っているのか、本当に自覚して頂きたいものです。

■差別を助長する報道


さらに、差別を助長するような報道も目立ちます。たとえば、デイリースポーツは、「高畑淳子 裕太容疑者ら子供を祖母に「預けてた」と明かす……逮捕前収録TVで」と題する記事を8月24日に公開しましたが、子供を祖母に預けることくらいは子育てをしていればごく普通のことで、性犯罪とは全く関係無いはずです。

いかにも「母親は常に子供の近くにいるべき」という考えを押し付けるような文章であり、この記事を書いた記者は「それをしていなかったから犯罪に走る人間になった」とでも言いたいのでしょうか? シングルマザー批判とも解釈できます。ただでさえ日本で母親叩きが多い中、マスコミがそのようなバッシングを助長するのは絶対にやってはいけないことです。

また、Business Journalは「高畑裕太容疑者、発達障害との見方も……問題発言や不可解行動、以前より社会生活困難か」と題する記事を8月24日に公開しましたが、これでは「発達障害だから性暴力加害に走った」とも取れるようなタイトルです。このような偏見の助長が発達障害者差別につながるということが分からないのでしょうか?

曖昧な記憶なのですが、発達障害者がそれ以外の人々よりも犯罪率が高いという統計はどこかで見たことがあります。ただし、その差は本当に僅差でしかないですし、そもそも発達障害者が犯罪に走るケースは、発達障害に対する理解が社会に欠けているばかりか偏見や差別が激しく、発達障害者を精神的および社会的に追い込んでいるからだと思うのです。

性暴力は個人特有の問題です。シングルマザーで祖母に預けたからとか、発達障害だからとか、そのような属性は一切関係ありません。差別記事を掲載してしまった各社は一刻も早く取り下げるべきでしょう。

■偏見を助長する報道


芸能人が述べていたコメントについても、世間に対して偏見を与えかねないようなものが多く、大変問題があるものばかりでした。あくまで確認できた範囲ですが、どのような偏見があったのか、ここで見て行こうと思います。
 
 
「いろんな人に迷惑がかかるのが分からないのか」

>迷惑がかかるから性暴力はやってはいけないのでしょうか? いえ、被害者の人権を著しく侵害する暴力行為だからやってはいけないのです。性暴力は「被害者を傷付ける暴力だからダメ」ではなく、「周りに迷惑をかけるからダメ」という主張は犯罪を糾弾していることには一切ならないだけでなく、性暴力を軽く扱うことを助長する発言ではないでしょうか?
 
 
「共演者の顔に泥を塗る蛮行」「今後番組への影響は避けられないでしょうね」

>被害者はどこに行ったのでしょうか? 被害者視点が一切ありません。被害者がとてつもないダメージを追っているのに、どうしてそのような悠長なことを言っていられるのでしょうか? 世間がこの程度の認識だから性暴力もセカンドレイプも無くならないし、セカンドレイプが起きないよう配慮する報道もできないのではと思ってしまいます。
 
 
「母親(女優の高畑淳子氏)がかわいそう」

>なぜ、被害者ではなく母親なのでしょうか? 芸人による犯罪のケースでも、被害者女性ではなく「相方がかわいそう」という、同情する相手を完全にはき違えている人が散見されますが、今回も被害者女性の立場に立つ人が、男女ともにほとんどいないことに大変驚愕しています。
 
 
「もう20歳も過ぎてますし……」

>強姦加害者の年齢は20歳代が最も多く、30代、40代、10代と続きます。つまり大人になれば他者への迷惑を気にして衝動を抑制できるようになるという発想は完全に誤解です。「迷惑をかけてはいけない」という日本的道徳論で性暴力が抑制できるのであれば、年齢とともに犯罪件数は下がっていくはずでしょうが、事実はそうではないのです。
 
 
「そんなこと(犯罪)をする人には見えなかった」

>そんなことをするんですよ。事件が起こるたびにそのような回答をする人はかなり多いですが、これだけ頻繁にあるのだから、「犯罪者の像がどういうものかについての認知自体が間違っている」ということに気が付いて欲しいものです。特に性暴力に関しては、「良い人」も「母親思い」も「人あたりの良さ」も何も相関関係はありません。
 
 
「復帰は厳しいでしょうか?」

>復帰の"ふ"の字も無い案件だということがどうして分からないのでしょう? 更生をした後に加害者が社会復帰することは必要ですが、それはあくまで「被害者の目に触れない空間」でのみ行われるべきであり、否応無しに目に入るメディアでの仕事で復帰するということは絶対にありえません。なお、たとえファンであっても「戻ってきて欲しい」と言うのはセカンドレイプに該当します。
 
 
「高畑容疑者は以前から性欲が強いことを訴えていた」

>性暴力は暴力欲との合併的な欲求ですので、性欲の強さだけでは決まりません。高畑容疑者は「欲求を抑えられなかった」と言っているようですが、これは「性的な欲求を抑えられなかった」という意味ではなく、「性暴力的な欲求を抑えられなかった」という意味であり、両者は全く違います。「嫌がっていたら萎える」のが性欲であって、「嫌がっているのにしたい」のは性暴力欲です。

この2つを混同すると、「性欲は本能→本能だから襲いたくなるのは仕方ない」と解釈して、性暴力を容赦することに繋がってしまいます。「男はオオカミだから」という表現もそうですが、暴力を正当化する卑劣な考えであるだけでなく、暴力欲の無い健全な性欲を持ち合わせた男性をも貶めているものです。このことを大手メディアも意識し、しっかりと二つが違うものだということを明示した報道をして欲しいと思います。

■国もマスコミも変えないといけない


是非マスコミ各社は安易に芸能界の同僚にコメントを求めるのではなく、セカンドレイプを日ごろから問題提起している人物および、性犯罪を専門にする精神科医や学者等をもっと起用して頂きたいと思います。

とにかく被害者の方がセカンドレイプをする人があちこちにいるようなこの国で、被害の声をあげることは本当に辛く大変なことだったと思います。警察、検察、事情を知っている親族や親しい友人の方々には、彼女が今後良い生活が送れるようしっかりとサポートして欲しいものです。被害者の女性がこれから安全にそして心穏やかに生きていけることをただ願うばかりです。

また、このような惨劇を繰り返さないためにも、国も様々な対策を実行するべきでしょう。(1)厳罰化と非親告罪化、(2)セカンドレイプや個人情報特定行動に対する規制と罰則規定、(3)実際の犯行に及ぶ前に加害者がカウンセリングに行けるような仕組みの構築、(4)性暴力欲求を肯定しない正しい性教育、等にしっかりと取り組み、今回ここで書いたような悲惨な状況を全て改善しなくてはなりません。

こうしている間にも被害に遭って泣き寝入りを強いられている人がいることでしょう。一刻の猶予もありません。是非とも早急に対処を実施して頂きたいものです。

※なお、今回は個人情報保護のために記事のリンクは張らないという判断をさせて頂きました。ご了承ください。

(2016年8月25日「勝部元気のラブフェミ論」より転載)