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「成人力」報道は記者の怠慢

2013年10月14日 23時34分 JST | 更新 2013年12月14日 19時12分 JST

10月8日から数日間、国際成人力調査が各紙で報道された。国際成人力調査はOECDが世界24か国・地域で実施した大規模調査で、日本は読解力と数的思考力で1位、ITを活用した問題解決力で10位だった、というのが記事の概要である。わが国の教育制度や就職後の社内教育が優れていることの証明である、と多くの記事に書かれていたが、僕は大きな疑問を持った。

第一は「成人力」という奇妙な用語を用いている点。文部科学省が10月8日に「OECD国際成人力調査(PIAAC:ピアック)日本版報告書の公表について」という報道発表を行っており、その用語をそのまま用いたのが原因である。報道発表には、ITを活用した問題解決能力が低く評価されたのは、わが国で比率が高かったコンピュータ調査を受けなかったものも母数に含めたのが原因で、コンピュータ調査を受けた者だけなら我が国は1位である、という負け惜しみのような記述もあったが、それをそのまま報道した記事もあった。

調査報告はOECDのサイトに掲載されている。タイトルは「Survey of Adult Skills」で、これを文部科学省が成人力と翻訳したのである。しかし、「老人力」をもじった「成人力」よりも、OECDの説明を読むと「成人生活能力」のほうが正しく感じる。なぜ、記事を執筆する際に、だれも元情報にあたらなかったのだろうか。

元情報には、もっと深刻な記載がある。それが、すべての記事で無視されていたことが、第二の問題である。たとえば、職場における読解力の活用度と労働時間当たりのGDPの関係を調べると日本の評価は低いのだが、それに関する報道はなかった。能力の割に稼ぎが高いのはノルウェー、アイルランド、イタリアなどであり、日本は成人の持つ高い能力が職場で上手に活用されていないわけだ。どう改善するかは、大きな社会的問題であるはずだ。

ITを活用した問題解決力でも賃金でも、日本は男女格差がもっとも大きな国の一つであるという指摘もあった。現政権は6月に「日本再興戦略-JAPAN is BACK-」を閣議決定し、「女性の力」を最大限発揮できるようにするとしているが、他国から大きく遅れていることが如実にわかる調査結果であった。

OECDの元情報(一次情報)を読まずに、文部科学省の思惑で書かれた報道発表(二次情報)だけで記事を書いた記者は怠慢である。10月10日の朝日新聞教育面は3分の2が国際調査に関する記事だったが、内容のほとんどは報道発表をリライトしただけ。それなのに堂々と署名記事となっていることに、新聞の衰退を感じた。