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ポスト参院選の沖縄~安倍政権の反転攻勢と先鋭化する対立~

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7月10日の参院選沖縄選挙区における、自民党の現職沖縄担当大臣・島尻安伊子候補の惨敗を受けて、政府与党関係者からは「辺野古移設は難しくなった」との声が漏れた。だが、安倍政権は意外な粘り腰を見せて、反転攻勢を試みている。本土政府と沖縄県の対立は以前にもまして先鋭化しつつある

<安倍政権の描いた戦略>


2016年1月の宜野湾市長選挙は、普天間基地を抱える市民の意思を問う重要な選挙であった。自民党系現職の勝利によって、安倍政権は、沖縄の政治情勢を一気に好転できると読んだ。6月の県議会選と7月の参院選で連勝すれば、辺野古移設反対派の翁長陣営「オール沖縄」を一挙に弱体化させることができるからだ。

安倍政権中枢の判断では、翁長知事の明らかな弱点は三つ。一つは、辺野古を阻止すれば、普天間基地は行き場を失って固定化されかねないが、知事はこの論理を覆すようなアイディアを持ち合わせていない

つまり、「辺野古を止めたいなら代替案を示せ」と詰め寄り、翁長陣営が答えに窮する場面を作り出せれば良い。事実、「オール沖縄」の候補は、宜野湾市長選で辺野古阻止を声高に叫んだが、宜野湾市民の冷ややかな反応を浴びて大敗した。この選挙結果は同陣営の弱点をさらけ出した。

二つ目には、沖縄県内の民意のバラツキが挙げられる。翁長知事は、沖縄県民の辺野古移設反対の民意を強調してきた。しかし、「民意」の実態は錯綜している。沖縄県民の圧倒的多数は辺野古移設に反対である。

ところが、宜野湾市民の多くは辺野古移設を支持はしないが、普天間基地の固定も困ると考える。また、辺野古工事の現場を抱える久辺3区という集落の住民は、辺野古容認に傾きつつある。つまり、普天間基地と辺野古の地元の「民意」を、政府側が押さえつつあるとの確信が安倍政権、特に首相官邸にあった

三つ目の弱点は、翁長陣営の支持基盤が保守から左翼系にまたがり、全く主張の異なるグループの寄せ集めであることである。多様な県民の意思を代表しているとも言えるが、具体的な政策が問われると陣営は分裂しかねない。

近年の沖縄では、反基地感情が一時的に燃え上がっても、時間とともに雰囲気は沈静化し、公共事業や雇用についてより現実的な政策を打ち出す保守系の支持が高まるというパターンを繰り返してきた。反基地感情の盛り上がりに頼る「オール沖縄」は、持久戦には弱い。沖縄県民の間に「辺野古疲れ」が見え始めた2016年冬、安倍政権が自信を深めたのも無理はない。

<安倍政権の誤算と粘り>


ところが、突然逆風が吹き、政権内の楽観論は吹き飛んだ

まず、辺野古崎の埋め立て承認取り消しをめぐる裁判では、今年3月に想定外の和解勧告が出た。同勧告では国の手続きの不備が批判され、埋め立て問題は振り出しに戻る。

さらに、5月中旬には、女性殺人事件の容疑者として元海兵隊員の米軍属が逮捕され、基地への反発は一挙に激化した。その時点で、県議選と参院選での自民党系の勝利から「オール沖縄」の空中分解へ、というシナリオは崩れた。

しかし、参院選沖縄選挙区で、事前の予想通り、反自民の伊波洋一氏が大勝し、「オール沖縄」が勝利の美酒に酔う間もなく、安倍政権は矢継ぎ早に反転攻勢に出ている

まず、7月21日に、政府は辺野古陸上部分については関連工事を開始すると宣言した。あくまで辺野古は「唯一の選択肢」という方針を貫く姿勢である。

翌日(22日)には、国は、埋め立て承認取り消しをめぐって県を提訴した。この裁判は高裁那覇支部を経て、来年2月には最高裁で判決が出ると予想され、国が勝利するのではないかとの見方が有力である。

今年3月に成立した和解の「条項8」では、判決が出た場合、両者ともそれに従うことが定められ、国と県両者とも、その条項を受け入れている。最高裁判決は重い意味を持つ。この裁判に負けると翁長知事は難しい立場に置かれる。

7月23日には、沖縄防衛局内で、辺野古区を含む久辺3区と政府の関係者の懇談会が開催された。この会合のテーマは名護市を通さずに国が直接地域に交付する補助金「再編関連特別地域支援事業」であった。この補助金は、同3区からの要請に基づき、2015年度3区合計3900万円、16年度7800万円が計上されてきた。

かつて同地域では、1世帯当たり1億円の個人補償が支給されるとの噂が流れ、当初辺野古移設反対であった住民が浮足立ち、容認に転換したと言われる。現在も、同地域は個人補償を求めている。密かに、補償金と引き換えに、公式に辺野古を容認するための調整が進んでいるのではないかと勘ぐる声もある。

一方、沖縄本島北部に位置する東村高江で、7月22日、海兵隊ヘリパッド建設に反対する市民と機動隊が衝突した。このヘリパッド建設は、北部訓練場7800haのうち、4000haが返還される計画に沿って、現在のヘリパッドを今後も使用される訓練場内に移設するものである。

沖縄県内の基地の整理統合縮小の一環として行われる工事であるため、翁長知事は正面から反対しにくい。建設工事を止めるために、基地ゲート前の県道に座り込み、多数の車両を置いて抵抗する市民に対し、国からの強い要請に基づき、知事は県道管理者として車両等の撤去を求めた。

ところが、機動隊が動員され、市民と車両を撤去し始めると、翁長氏は国を強く批判している。市民の車両撤去を求めつつ、実際に車両が撤去されると国を批判する翁長知事の立場は矛盾に満ちている。

高江ヘリパッド問題における翁長氏のジレンマは、事故が目立つとされた新型輸送機オスプレイの配備反対を唱えたことから始まる。基地返還のための工事であっても、オスプレイがヘリパッドを使用する以上反発せざるを得ない。だが、オスプレイは老朽化した輸送ヘリに替わって配備されるため、海兵隊には必須の装備とされる。

翁長氏はその事情を承知しているが、陣営の主力は今や共産党を中心とする革新系であるため、オスプレイが配備されるヘリパッド建設には反発を表明せざるを得なくなっている

<アメとムチの経済支援>


本土政府による沖縄に対する経済支援は「沖縄振興計画」と呼ばれ、防衛省が管轄する直接の基地関連予算とは別枠の、内閣府が所管するものである。巨額の「振興予算」に加え、酒税、ガソリン税などの各種優遇税制や、公共事業における破格の優遇措置などが含まれる。

1972年の沖縄の本土復帰以来、40数年にわたって実施されてきた経済支援によって沖縄は急成長した。一方で、本土政府からの支援は、沖縄経済の本土依存の体質を強めた。支援の増減は、国の沖縄県に対するアメとムチとして機能する。

振興予算は10年計画で、この数年間は、毎年3000億円を超す額が組まれている。2013年12月末に、仲井眞知事(当時)が辺野古埋め立てを承認すると同時に、政府から巨額の振興予算が提供され、「これで良い正月が迎えられる」と語ったことは、記憶に新しい。この発言は、振興予算や優遇措置が基地負担の見返りであることを如実に示すものであった。

今年度(2016年度)は第5次振興計画の前半5年分の最終年度に当たり、この8月末には来年度から始まる後半期への見直しのための基本方針が決まる。見直し対象として俎上に上っているのは、まず酒税である。

この優遇措置が廃止されると、泡盛業界はたちまち窮地に追い込まれる。安倍政権は振興予算や優遇措置に依存する沖縄経済の実態を熟知しており、政治判断によって振興予算を大幅に増減できる。

安倍政権は、このように翁長県政を揺さぶるカードを数多く用意してきた。一般の沖縄県民や本土の人間には見えにくいものもある。今後もしたたかな安倍政権との対決路線を進むか、協議による解決へと転換するのか。今年の夏から来年前半にかけて、振興予算と裁判の行方を見ながら、翁長知事は大きな決断を迫られることになるだろう。