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待機児童ゼロに向けて ~横浜方式の横展開をやってはならない

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最近、横浜市の保育行政への取り組みがクローズアップされています。きっかけは、4月19日の安倍総理による「成長戦略」についての会見でした。その中で待機児童ゼロ対策を打ち出し、「横浜方式を全国に横展開」し、保育ニーズのピークを迎える平成29年度までに待機児童ゼロを目指すと表明しました。その1ヶ月後、横浜市は、今年4月1日現在の保育所待機児童数がゼロになったと正式に発表しました。

悲願の待機児童ゼロを達成し、総理から持ち上げられた横浜市ですが、この問題は長く市政上の大きな課題でした。私が市長に就任した平成14年の待機児童数は全国最多の1,140人。その後、3年間、集中的に取り組んで18年には353人まで減らすことができました。ところが、保育園に入りやすくなると、別の地域から引っ越してきたり、新たに「私も預けて働こうかしら」という人が増えます。結果、22年には1,552人にまで増えて、再び全国ワーストになってしまうというイタチごっこでした。それでも、私の後任の林文子・現市長が需給のミスマッチ解消に様々な具体策を講じた結果ゼロになったわけで、その熱心な取り組みに深く敬意を表します。

実は、横浜市の待機児童ゼロは、従来の対策をねばり強くやってきたから達成できたというものではありません。その取り組みには、いくつかのポイントがあります。

まず、私の前任の高秀秀信市長が導入した横浜型保育(横浜保育室)です。園児1人当たりの床面積の厚生労働省基準は、「はいはい」を始める前が1.65平米、生後8ヶ月前後で「はいはい」後~1歳児は3.3平米以上となっています。これに対し横浜市の独自基準は、0~1歳時では2.475平米と設定したり、保育士の配置人数も厚労省基準が園児0歳児「3人に対し1人」であるのに対して3歳児未満おおむね「4人に1人」に緩和するなどしました。現在では、こうした独自基準の横浜型の施設が2割弱を占めています。

私の市長時代には、日本で初めて株式会社の参入を認めました。従来は、原則として社会福祉法人と公立(横浜市立)のみでした。当時、「株式会社では安全な保育にならない」など、散々な批判を受けました。また、公務員労働組合が強固で、定員増や延長保育を受け入れない公立保育園の民営化にも踏み切ったところ、横浜市は訴えられて法廷論争にもなりました(横浜市勝訴)。現在では、安全かつ多様な保育サービス提供も評価されるようになり、実際、今年4月の新規開所保育所69ヶ所のうち、株式会社・有限会社によるものが6割近い39ヶ所に達しました。既存の認可保育所全体では、580ヶ所のうち152ヶ所、26%が企業経営の保育所となっています。

現在の林文子市長になってからは、入園希望者と保育園のミスマッチを解消するために様々な努力がなされました。保育事業の担当部局と地域の最前線にある区役所が連携し、物件や土地などの施設候補地、保育サービスの提供事業者、そして保育希望者の情報収集と事業化をコーディネートしたわけです。また、保育コンシェルジュという窓口を設置し、個々のニーズに合った保育園や保育サービスの情報を提供したり、親の相談を受けるなど、きめ細かい対応を丁寧に積み重ねてきたのです。横浜市の待機児童ゼロは、こうした長い年月をかけた独自の取り組みによって実現されました。

さて、ここからが今回の結論です。以上見てきたように、横浜市の待機児童ゼロへの取り組みは、「国が定義する保育ではない保育」の充実に長年力を注いできた結果です。ゆえに横浜方式なのです。園児1人あたりの面積3.3平米、保育時間1日8時間などの厚労省基準を一律に当てはめていたら、待機児童問題は一向に解決しなかったでしょう。都市部なので、ビルの中が保育室、近くの公園を「園庭」として遊ぶなどの工夫も横浜方式です。横浜方式を他の地域に当てはめるのではなく、各地域が自らの資源(空いている土地や人手など)を活用し、それぞれの工夫で保育環境を整備していくことが必要なのです。

横浜独自のやり方を、全国一律に展開するという中央集権的な発想ではまったくダメで、まさに地方分権が必要です。

私は地方分権を語る時、集権的政策の失敗事例の典型例として、しばしば保育行政を例示してきました。国と地方との関係で言えば、分権化することが待機児童問題の解決につながります。別の角度で見れば、規制緩和によるビジネスチャンスの創造です。従来は、既得権益を持つ限られた事業者(社会福祉法人か公立)しか存在せず、サービスの向上には後ろ向きでした。ニーズがあるのに供給が追い付いていなかったのは、既得権者が新規参入を妨害してきたからで、新規参入(株式会社など)が認められれば、待機児童のニーズを満たすサービスが提供されます。

今後も横浜市の試練は続くと思います。待機児童がゼロと聞けば、さらに子育て世代が流入して入所希望者が増えるイタチごっこになることは、市長経験者として容易に想像できます。林市長が取り組んだこの3年間だけでも、保育所の予算は580億円から760億円に大幅に増加しました。発生するニーズを後追いして予算を増やし続けることは困難です。お金での解決には限界があるわけですから、上述したように、地方分権と規制緩和を進めることで、それぞれの地方自らの創意と工夫で問題解決をはかることが重要なのです。

(この記事は「中田宏のオピニオン」に掲載された5月31日付記事の転載です)