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中国共産党第18期中央委員会第3回全体会議(第18期3中全会)は歴史の転換点となるのか?

2013年11月04日 18時01分 JST | 更新 2014年01月03日 19時12分 JST

北京で、今月9~11日の4日間、中国共産党第18期中央委員会第3回全体会議(第18期3中全会)が開催される。昨年11月に開催された第18期全国代表大会で中央委員が選出され、その後2回に渡る全体会議で新しい指導体制が固まった。そして、今回の第3回目の全体会議では、習近平氏を頂点とする新指導体制で中国に関わる重要な問題を検討することになる。当然の事であるが、その決定内容は全世界と日本に大きな影響を与える事となるはずだ。

■歴史の転換点としての第14期3中全会

中国の近代史を振り返ると1993年11月に開催された第14期3中全会が転換点になっていると思う。1989年にベルリンの壁が崩壊し、次いで1991年にソ連が消滅した。社会主義の将来が視界不良となった瞬間である。中国が極めて深刻な危機に直面した事は想像に難くない。この状況下、当時の中国最高権力者鄧小平は深圳他主要都市を訪れ「改革開放」と「市場重視」を力説した。私は1990年に三年半に渡る中東駐在から帰国し、中国市場を担当し、二カ月に一度のペースで出張を繰り返した。商談のために訪問した国営企業は「改革開放」に強い刺激を受け、豊かになる事を目指して熱気に溢れていた。中国が近代化を目指し坂道を駆け上がる事になる、第8次五カ年計画(1991~1995年)時の情景であったと思う。そういった背景から、第14期3中全会では「社会主義市場経済体制の基本的な枠組み」の制定、「近代的企業制度の確立」、「農村経済体制改革」の深化、「対外開放の拡大」などの方向性が示され、その後中国経済は急成長を遂げるのである。

■「先豊論」の取り違え

第14期3中全会はその後の中国の経済発展を加速させるという輝かしい実績を残した。しかしながら、その一方で国民の富の格差や都市と農村の地域間格差といった「格差社会」、「汚職の蔓延」、そして「環境破壊」などの負の遺産とでもいうべき中国独自の痼疾を残したのも、今一方の事実である。その結果、政府に対する不満や怒りに起因する民衆の蜂起と地方の反乱は頻発している。そして、何と近代中国の歴史の舞台となる事の多い北京、天安門で遂にウイグル系中国人による自爆テロが起こってしまった。第18期3中全会を控えた習近平政権に強い衝撃を与えた事は当然である。

私はこういった中国の直面する問題の背景には「先豊論」の取り違えがあると思っている。鄧小平が「先豊論」を提唱した時の意味は、「工業化の比較的容易な沿海部から先ず豊かになり、豊かさが徐々に内陸部に広まって行けば良い」といった意味であったはずである。私自身、当時取引先の中国国営企業幹部からそういう説明を受けたし、中国人の友人達もその様に理解していたと記憶している。成程、経済発展が沿海部から内陸部に広まっていったのは事実である。問題は、共産党幹部や国営企業経営者といった所謂特権階級が急速に豊かさを手に入れた反面、農民戸籍によって差別された農民工などには所得移転が行われていない点である。中国の特権階級は鄧小平の教訓「先豊論」を解釈するに際し、ちゃっかり「沿海部」を「特権階級」に読み替えてしまった訳である。そして、この事が現在中国に重篤な禍根を残している。

利益を積み増す手段として最も有効なのは人件費を抑制する事である。その結果、大部分の利益は特権階級の所有となり、一般労働者は貧困に放置される、これが、「格差社会」の背景である。排ガス、廃液処理といった環境対策を放置すれば、当然利益は膨らむ。これが「環境破壊」の原因である。こういう反社会的な行為が許認可権を持つ行政に黙認されるためには一種の対策が必要になる。これが「汚職の蔓延」の理由である。一見したところバラバラに見える「格差社会」、「環境破壊」、「汚職の蔓延」は根っこの部分では繋がっているのである。

■反日政策を徹底した江沢民

江沢民は第14期3中全会開催と同じ年の1993年3月に国家主席に就任し総書記・国家主席・党中央軍事委員会主席を兼任して権力を一元化する事に成功した。更には、鄧小平の衣鉢を継ぎ改革開放路線を継承し、経済発展を推進する事にも大きく成功した。その一方で、国民に対して中国共産党による統治の正統性を再確認させるとともに、政治への不満から目を逸らせるために徹底した反日教育を推進した。この点については、「靖国」関連中国の不当な干渉に対し日本はどう対応すべきか?で詳しく説明しているのでこれを参照願いたい。要点については下記の通りである。対日政策に限っていえば、中国政府は自縄自縛の状態を脱する事は不可能であり、共産党政権が存続する限り徹底して厳しい対日政策を継続するしか選択肢がないという事である。

■中国共産党の正当性

今更いうまでもないが、中国は「権力は銃口から生まれる」を党是とする「共産党」が一党支配する独裁国家であり、民主主義国家などではない。私は中国市場担当の5年間に、日本留学の経験がある上海の若手起業家達と交流した。上海は北京から遠く離れているが、それにしても天安門事件が上海などの先進的な若者に与えた傷は大きかったと思う。「共産党」について良くいう人はいなかった。天安門事件を直接批判する事は避けながらも、「共産党」は随分酷い事をしたと批判する人が殆どであったと記憶している。「中国共産党」が国民の支持を失ったのは、決して昨日や今日ではなく、少なくとも20年前には国民は不満を募らせていた。

それでは、中国共産党が権力の座に座り続ける正当性とは一体何か? という基本的な疑問に行き着く。それに対する説明が中国らしくて分り易い。第一は、兎に角13億人の国民を飢え死にさせない。腹一杯食べさすというものである。これについては中国共産党を評価して良いと思う。今一つの理由は、抗日戦線を戦い抜き、勝利し、最終的には戦勝国の一員となったというものである。中華民国の手柄をちゃっかり横取りしている訳であるが。こういう歴史的背景があるから、江沢民時代の徹底した反日教育や、それを是正しなかった(出来なかった)胡錦濤時代がある訳だ。中国共産党は国民に対する威厳を維持するためには日本に対し厳しく当たり続けなければならない。それが、彼らが存在する数少ない正当性であるし、何より、そうしなければ彼らによって反日教育を受けさせられた現役世代が、日本に対し手緩いと不満をもってしまう。これでは、共産党政権の正当性を揺さぶる一大事となってしまう。

■中国政府は「不良債権」という時限爆弾を処理出来るのか?

最近読んだ中国関連の記事では、ForbesのWhat Investors Really Think About China's 'Ghost Cities'が際立って印象深い。トップページにEmbedされているCBSのドキュメンタリー番組も衝撃的である。いうまでもないが、ストップウオッチがカチカチ忙しく時を刻むのはバブル破裂までの時間が迫っている事を暗示しているのであろう。Forbesの記事を読み、ドキュメンタリー番組を視聴する限りバブルの破裂は「すぐ近い将来」という気がする。

一方、経済に関する政府系シンクタンクである【中国】国務院発展研究センターは中国:地方都市で不動産バブル崩壊始まるという衝撃的な見出しのレポートを公表している。ForbesやCBS同様、「不動産バブルが崩壊し始めるなかで、一部都市では今後、"ゴーストタウン"が相次ぎ出現する」というのである。内容に真新しさはないものの、中国の政府系シンクタンクがこの深刻な状況を公表に踏み切ったというところに事態の切迫さを痛感する。

鄧小平が指導した「改革開放」は日本など西側諸国から「資本」と「技術」を導入し、立地条件の良い沿海部に工場を建設し、現在三億人超ともいわれる人件費の廉価な内陸部からの出稼ぎ労働者である農民工を活用し、兎に角安く製造して全世界に輸出するという分り易い経済モデルであった。しかしながら、内陸部においては元々この経済モデルの実現は無理があった様に思う。そして、リーマンショック以降は不況から脱出するための景気刺激策、内需拡大などで、無理をしながら何とか成長を維持してきた訳である。そして、無理の副作用が「不動産バブルが崩壊し始めるなかで、一部都市では今後、"ゴーストタウン"が相次ぎ出現する」といった悲惨な現象として現れ、今後地方財政を直撃する事になる。

■中国政府が直面する前門の虎、後門の狼

中国は「中国四千年の歴史」といわれる様に長い歴史を有する国である。そして、中身はといえば(1)統一王朝の誕生。(2)官僚腐敗の蔓延。(3)民衆の蜂起と地方の反乱。(4)分裂。の繰り返しである。現在は「(2)官僚腐敗の蔓延が最終段階にさしかかり、(3)民衆の蜂起と地方の反乱が始まろうとしている段階」というのが私の見立てである。従って、中国政府が直面する前門の虎とは官僚腐敗の蔓延に起因する民衆の蜂起と地方の反乱と考えても良いのではないだろうか?

一方、後門の狼は正に破裂寸前のバブルとバブルの破裂によって生じる不良債権という事になる。バブルは瞬間的には巨万の富を創出する。中国では共産党幹部や彼らに連なる既得権益者がこの恩恵に浴しており、彼らの不正蓄財の温床になっている。こう考えてみると、虎も狼も実態は中国共産党そのものという皮肉な結果になる。従って、問題の抜本解決は「政治を民主化した上での市場経済への移行」という結論になるはずである。こういう理論武装をした上で今月9日より北京で始まる「第18期3中全会」の推移を注視してはどうだろうか?