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日本代表の事前準備は、5回連続出場だけあって合格。メディアもだいぶ理解は進んできたようではあるが......

2014年06月06日 19時29分 JST | 更新 2014年06月06日 19時29分 JST

ブラジル・ワールドカップに出場する日本代表が日本を出発。フロリダ州のタンパに到着したというニュースをやっていた。日本代表のワールドカップ出場も、今回で、5大会連続5回目。大会前の準備も手慣れたものになってきた。1998年のフランス・ワールドカップに初出場した時などは、やはり舞い上がっていた感が強かった。スイスのニヨンで合宿があり、メキシコ、ユーゴスラビアとの試合が組まれ、例の「はずれるのはカズ」事件があり、そして、フランスに入った日本を追った報道陣でエクスレバンの町が熱くなった。

2002年はもちろん地元開催ということで日本中が熱くなっていたが、日本代表は密閉された施設に隔離されて静かに過ごすことができた。だが、大失敗だったのが2006年。出発前にJヴィレッジで合宿を行ったものの、トレーニングを全面公開。トレーニングには万を超える人々が押しかけ、選手は落ち着いてトレーニングができなくなってしまった。現地入りしてからも、ボン市内のホテルに入った代表選手たちは外出もできず、しかも市内のスタジアムでの練習はまたもや公開。しかも、開催国のドイツと練習試合が組まれていたため、選手たちは必要以上に張り切ってしまい、ドイツ戦がピークとなってしまった。

ドイツと2-2で引き分けたのはいいが、その後はコンディションは下降。本来、暑さは日本にとって味方のはずなのに、逆に足が止まった日本はオーストラリアに逆転負け。明らかにコンディショニングの失敗だった。そして、初戦で敗れた日本は精神的にもバラバラになって、チームは解体してしまった。ジーコ監督は「気持ちがあれば、体は動く」と言ったが、体調が万全でなければ、人間は強い気持ちを持ち続けられないというのも真実だろう。

そんな、ドイツ・ワールドカップの教訓は、幸い、その後のワールドカップに活かされた。2010年のワールドカップでは、事前合宿もスイスの山中のザースフェー。現地でもジョージという町の郊外の広いリゾートホテルが選択され、静かな環境で準備ができたのだ。その2010年の大会で教訓として今回生かされたのが、直前の親善試合の相手の選び方だったのではないか。4年前、日本代表が本大会直前に戦ったのは韓国、イングランド、コートジボワールという強豪揃いだった。国内最後の試合となったのが宿敵、韓国戦。その韓国に完敗を喫したことで、日本代表には非難が浴びせられ、当時の岡田武史監督が「進退伺を出した」とブラックジョークを言ったところ、それがすっかり真に受けるメディアが続出。さらに、スイス合宿中にも強豪相手に連敗して、代表不信が蔓延してしまう。

もっとも、この連敗によって岡田監督は主力選手の交代やシステム変更を決断できたわけだ。もちろん、そうした変更は岡田監督の頭の中にはずっと前からあったはずだが、もし事前の親善試合で勝ち続けていたら、決断が難しかったかもしれないし、監督自身が決断しても、それを選手に納得させられなかったかもしれない。だから、あの時の敗戦は結果としてその後の成功に結びついたと言えるだろうが、やはり直前にあまり強い相手と試合をすることは得策ではない。選手が本気になりすぎ、好試合をしてしまったら、ドイツ大会の時のようにコンディショニング(ピーキング)の失敗につながりかねないし、逆に惨敗を繰り返したら世間の風当たりも厳しくなるし、選手が自信を失うことになりかねない。

その点、今回はキプロス、コスタリカ、ザンビアと相手は手ごろだった。フロリダでの時差調整と暑熱対策。そして、現地ブラジルでは涼しいイトゥーの静かな環境での調整と、キャンプ地の選定もさすがに手慣れたものだと僕は感心したのである。そして、そういう事について周囲の理解も深まっているようではある。先日のキプロス戦の後の報道ぶりを見ても、そのことは感じられた。格下キプロス相手に1-0だったので、僕は「その後の報道がどうなるのかな?」と思っていたが、新聞やテレビの扱いは非常に冷静なものだったからである。

キプロス戦は、試合としては明らかに拙戦である。守備のミスも何度かあり、相手がルイス・スアレスであったり、ドログバであったりしたら、いつものように簡単に失点してしまっただろうし、攻撃にしたって本田圭佑がミランでの不調をそのまま引きずったような出来で、あまり変化が付けられず、選手によって意識もコンディションもバラバラ。通常時の試合だったら、非難されるべきだっただろう。

だが、「拙戦」をなじる声はあまり聞かれなかった。これが、ワールドカップに向けての準備試合であり、強度なトレーニングを行った後で選手のコンディションが悪いのも当然ということが理解されていたからだろう(ザッケローニ監督も、前日会見からしきりにその点について予防線を張ってはいたが……)。

そう、これは試合というよりはトレーニングの一角なのだ。ただ、まだ、いろいろ世間の誤解は残っている。このところ、僕のところにも取材の電話がかかってきたり、原稿の依頼が来たりすることが多くなってきているが、「弱い相手ばかりで大丈夫なのか?」という質問もよく聞く。

答えは、先ほども書いたように、手ごろな相手とやることが重要なのだ。とくに明確な目的がないのであれば、強豪との対戦は避けた方がいい。今さら強い相手と試合をしても、もう「何かを学ぶ」という時期ではないのである。

そういえば、キプロス戦以来の3試合のことをメディアは「強化試合」と呼んでいるが、実際のところ「強化試合」というのは、昨年11月のオランダ、ベルギー戦までだろう。ニュージーランド戦からザンビア戦までの試合は、「強化試合」ではなく、本当は「準備試合」あるいは「調整試合」と呼ぶべきだろう。また、「イトゥーのような涼しい場所で合宿していいのか?」という質問もよく受ける。これも、暑熱対策の基本がまだ理解されていないからだろう。暑熱対策というのは、事前に気温の高い条件の中でトレーニングを行って汗腺を開かせ、汗をかける体を作っておけばいいのだ。

そうすれば、その後、涼しいところに移っても、体は暑さに順応できるようになるのだ。1か月もの長期にわたって暑いところで合宿し、暑いところで試合をしていたのでは選手は疲れ切ってしまう。フロリダで暑熱対策をして、現地では涼しい場所に滞在するというのは、極めて合理的な選択なのだ。コンディショニングや準備といった面では、日本はおそらく出場32か国のうちでも上位に入ることだろう。たとえば、アフリカ諸国などは、そういう事前準備をしたくても資金的に無理なのだろうし……

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後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

(2014年6月2日「後藤健生コラム」より転載)

日本代表親善試合 コスタリカ戦(2014.6.3)